救世主になんてなりたくなかった……
第34主:豚肉の生姜焼き
シュウたちが話していると「お待たせしました」という声が聞こえてきた。そちらを向くと店員が四人が頼んだ料理をワゴンで持ってきてくれたのだ。
「こちらは豚肉のしょうが焼きになります」
シュウが手を上げて、お皿を受け取り、お礼を述べた。
「こちらはラズベリーとリルベリーのパフェになります」
ビルルが手を上げて、お皿を受け取り、シュウと同じようにお礼を述べる。
「こちらはプリンシューアラモードになります」
サルファが二人のマネをして手を上げ、お礼を述べる。
「こちらはリオーネ特製鶏卵のアイスクリームになります」
ヒカミーヤは三人のマネをして手を上げたのはいいが、お礼を述べる部分でお辞儀をした。
「以上でご注文の品はお揃いでしょうか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ」
店員が去っていった。
「さ、さて、食べましょうか」
シュウはそう言ったのはいいが、全員が食べている品物が気になって仕方がない。ヒカミーヤ以外は聞いたこともない単語が混ざっている。
「どうしたの? 何か気になることでも」
「い、いえ! 別にないです」
「そう。ちなみにリルベリーとはリンゴとブルーベリーが混ざったものよ。リンゴの蜜の甘みとブルーベリーの酸味がいい感じにマッチして美味しいよ」
「ほうほう。なるほど。でしたら、ラズベリーと混ぜたら酸味が強くなるのでは?」
「そこなのよ。実はラズベリーとリルベリーのパフェはどこの店にもあるの。その調和が下手な店だと、二度と行きたくない。逆に上手な店だと何度も行きたくなるね。これが料理が上手か下手かがわかりやすいからね」
「へえー。そんなにも定番なんですね」
「気になることはなくなった」
「はい。一つはなくなりました」
「そう。それ以外はどうなの?」
「そうですね……あっ」
彼は今更ながらビルルの術中にハマっていることを理解した。
「わかりました。降参です。降参。確かに俺は気になっていることがあります」
「ほうほう。続けて」
「プリンシューアラモードって何ですか?」
「書いて字の通りプリンアラモードとシュークリームが合わさったデザートだ」
そう言って、サルファにプリンシューアラモードを見せられる。プリンアラモードでプリンがある場所にプリンがあるが、真横にシュークリームが乗っている。彼からすると無理矢理感が否めない。
「鶏卵は普通にニワトリの卵ですよね?」
「は、はい。普通に火鳥の卵です」
「ん? もう一度」
「火鳥の卵です」
「普通にニワトリって字がおかしい気がするのですけど!?」
「えっ? 普通に『火』の『鳥』と書いてニワトリと読むのですよ」
「絶対普通じゃねぇよっ! その読み方、初耳だよっ!」
「そうよ! 虹の鳥って書いてニワトリよっ!」
「いや、水の鳥って書いてニワトリだっ!」
「どうして全部違ぇのっ!? 場所によって読み方違うのっ!?」
「ま、まぁ、そうですね。で、ですが、飛べない鳥は全てニワトリですよね?」
「ダチョウに謝れっ!」
四人は騒いでいるように見えて、実は全てコソコソと話している。
「それでは、いただきます」
話を強制的に切って、シュウは豚肉の生姜焼きを食べ始めた。そんな彼を見て、三人も食べ始めた。
しかし、シュウは豚肉の生姜焼きに少し違和感を覚えた。でも、異世界だからと思い込ませて食べると特に何も思わない。その程度の違和感だったのだ。
三十分が経つと、四人はカフェ・リオーネを出た。もちろん、払ったのは全てシュウだ。
外に出ると、夜が先ほどよりも深まっており、茜色に染まっているのもごく一部だけだ。今の空を支配しているのは、ほとんどが紺色。今、彼らがいる場所が明るいせいかわからない。
空の星がほとんど見えない。見えたとしても、ごく一部。月もそれほど明るくない。
シュウがいた世界。いた国の都会の風景と何も変わらない。ただ、街並みが違うだけ。郷愁の念に駆られるが、彼の中では妹がいない世界に自分は存在する意味がないと思っている。
決して、異性としての愛からきているものではない。彼の人生は、ほとんど妹に尽くしてきたのだ。少なくとも半分は尽くしている。だからこそ、妹がいない世界に自分の価値を見出せないのだ。
「ねぇ、シュウくん」
歩き出そうとすると、突然ビルルに呼び止められたので、振り返る。
「どうしたのですか?」
「二人を連れて離れるけど、ここで待っていてくれる?」
「はい。わかりました。ここで待っています」
「そう。ありがとう。さぁ、二人とも行くよ」
二人は無言で彼女に連れて行かれる。全然嫌がっていないので、彼は気にしないことにした。
三人の姿が彼からは見えなくなった。
「ふぅぅ。あっ、そういえば俺があのクラウダー学園の敷地内に入ってからは、一人になったの初めてだな。まぁ、警戒もされてるのが、当たり前か」
シュウは自分にそう言い聞かせた。一応はこの場所もクラウダー学園の敷地内だ。
「ウッ!」
彼が近くの風にもたれかかろうとした瞬間に胃の中のものが突然、逆流してくる。こんな目立つ場所で吐くわけにはいかないので、近くの路地裏に入り、壁に手を当てながら思いっきり吐く。
「オエッ……ゲホゲホッ!」
吐こうとしたらむせ返ってしまうが、地面に吐いた。
豚肉の生姜焼きが出てきたのかと思いながらも、地面をかすれる視界で見た。しかし、明らかに豚肉の生姜焼きの色ではない。出てきたのは茶色や透明ではなく赤。血の赤。
彼には見えなくて幸運だったが、くねくねと動いているムシが血の中にいた。つまり、彼の体内から出てきたということだ。彼が吐くときに一応確認したが、そこには何もなかったのだ。そのムシはかなり大きい。
一体何があったのか彼にはわからない。わからないが、考える気力も湧いてこない。何も考えれなくなる。そして、とうとう彼は地面に倒れた。
かすれる視界のなかで、彼が最後に見たのはカフェ・リオーネの服装が目に入った。そのまま意識を失った。
「こちらは豚肉のしょうが焼きになります」
シュウが手を上げて、お皿を受け取り、お礼を述べた。
「こちらはラズベリーとリルベリーのパフェになります」
ビルルが手を上げて、お皿を受け取り、シュウと同じようにお礼を述べる。
「こちらはプリンシューアラモードになります」
サルファが二人のマネをして手を上げ、お礼を述べる。
「こちらはリオーネ特製鶏卵のアイスクリームになります」
ヒカミーヤは三人のマネをして手を上げたのはいいが、お礼を述べる部分でお辞儀をした。
「以上でご注文の品はお揃いでしょうか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ」
店員が去っていった。
「さ、さて、食べましょうか」
シュウはそう言ったのはいいが、全員が食べている品物が気になって仕方がない。ヒカミーヤ以外は聞いたこともない単語が混ざっている。
「どうしたの? 何か気になることでも」
「い、いえ! 別にないです」
「そう。ちなみにリルベリーとはリンゴとブルーベリーが混ざったものよ。リンゴの蜜の甘みとブルーベリーの酸味がいい感じにマッチして美味しいよ」
「ほうほう。なるほど。でしたら、ラズベリーと混ぜたら酸味が強くなるのでは?」
「そこなのよ。実はラズベリーとリルベリーのパフェはどこの店にもあるの。その調和が下手な店だと、二度と行きたくない。逆に上手な店だと何度も行きたくなるね。これが料理が上手か下手かがわかりやすいからね」
「へえー。そんなにも定番なんですね」
「気になることはなくなった」
「はい。一つはなくなりました」
「そう。それ以外はどうなの?」
「そうですね……あっ」
彼は今更ながらビルルの術中にハマっていることを理解した。
「わかりました。降参です。降参。確かに俺は気になっていることがあります」
「ほうほう。続けて」
「プリンシューアラモードって何ですか?」
「書いて字の通りプリンアラモードとシュークリームが合わさったデザートだ」
そう言って、サルファにプリンシューアラモードを見せられる。プリンアラモードでプリンがある場所にプリンがあるが、真横にシュークリームが乗っている。彼からすると無理矢理感が否めない。
「鶏卵は普通にニワトリの卵ですよね?」
「は、はい。普通に火鳥の卵です」
「ん? もう一度」
「火鳥の卵です」
「普通にニワトリって字がおかしい気がするのですけど!?」
「えっ? 普通に『火』の『鳥』と書いてニワトリと読むのですよ」
「絶対普通じゃねぇよっ! その読み方、初耳だよっ!」
「そうよ! 虹の鳥って書いてニワトリよっ!」
「いや、水の鳥って書いてニワトリだっ!」
「どうして全部違ぇのっ!? 場所によって読み方違うのっ!?」
「ま、まぁ、そうですね。で、ですが、飛べない鳥は全てニワトリですよね?」
「ダチョウに謝れっ!」
四人は騒いでいるように見えて、実は全てコソコソと話している。
「それでは、いただきます」
話を強制的に切って、シュウは豚肉の生姜焼きを食べ始めた。そんな彼を見て、三人も食べ始めた。
しかし、シュウは豚肉の生姜焼きに少し違和感を覚えた。でも、異世界だからと思い込ませて食べると特に何も思わない。その程度の違和感だったのだ。
三十分が経つと、四人はカフェ・リオーネを出た。もちろん、払ったのは全てシュウだ。
外に出ると、夜が先ほどよりも深まっており、茜色に染まっているのもごく一部だけだ。今の空を支配しているのは、ほとんどが紺色。今、彼らがいる場所が明るいせいかわからない。
空の星がほとんど見えない。見えたとしても、ごく一部。月もそれほど明るくない。
シュウがいた世界。いた国の都会の風景と何も変わらない。ただ、街並みが違うだけ。郷愁の念に駆られるが、彼の中では妹がいない世界に自分は存在する意味がないと思っている。
決して、異性としての愛からきているものではない。彼の人生は、ほとんど妹に尽くしてきたのだ。少なくとも半分は尽くしている。だからこそ、妹がいない世界に自分の価値を見出せないのだ。
「ねぇ、シュウくん」
歩き出そうとすると、突然ビルルに呼び止められたので、振り返る。
「どうしたのですか?」
「二人を連れて離れるけど、ここで待っていてくれる?」
「はい。わかりました。ここで待っています」
「そう。ありがとう。さぁ、二人とも行くよ」
二人は無言で彼女に連れて行かれる。全然嫌がっていないので、彼は気にしないことにした。
三人の姿が彼からは見えなくなった。
「ふぅぅ。あっ、そういえば俺があのクラウダー学園の敷地内に入ってからは、一人になったの初めてだな。まぁ、警戒もされてるのが、当たり前か」
シュウは自分にそう言い聞かせた。一応はこの場所もクラウダー学園の敷地内だ。
「ウッ!」
彼が近くの風にもたれかかろうとした瞬間に胃の中のものが突然、逆流してくる。こんな目立つ場所で吐くわけにはいかないので、近くの路地裏に入り、壁に手を当てながら思いっきり吐く。
「オエッ……ゲホゲホッ!」
吐こうとしたらむせ返ってしまうが、地面に吐いた。
豚肉の生姜焼きが出てきたのかと思いながらも、地面をかすれる視界で見た。しかし、明らかに豚肉の生姜焼きの色ではない。出てきたのは茶色や透明ではなく赤。血の赤。
彼には見えなくて幸運だったが、くねくねと動いているムシが血の中にいた。つまり、彼の体内から出てきたということだ。彼が吐くときに一応確認したが、そこには何もなかったのだ。そのムシはかなり大きい。
一体何があったのか彼にはわからない。わからないが、考える気力も湧いてこない。何も考えれなくなる。そして、とうとう彼は地面に倒れた。
かすれる視界のなかで、彼が最後に見たのはカフェ・リオーネの服装が目に入った。そのまま意識を失った。
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