高校生である私が請け負うには重過ぎる
第63話 二ゲーム
「シャッフル完了です。それでは、山田さんからゲームを開始してください」
「ム……私からか」
「二ゲーム以降の先攻は前ゲームの敗者からだよ」
順当にゲーム開始前の手筈が組まれ、第二ゲームが始まった。
早くもこちら側が心身共に追い詰められている背水の陣も同然のこの状況。何がなんでも今回のゲームはものにしなければ陰山くんの身が危ぶまれてしまう。
そしてもう一つ気になるのは、嵌村さんが賭けている『財産』に関してだ。
言うなれば彼もある意味これは『命』を賭けていると言ってもいい。お金が無かったら生きていけないし。
その蓄えを嵌村さんがどれだけ有しているかだ。
常勝志向のギャンブラーの貯金残高って一体どれくらい? とんでもない額だったとしたら陰山くんの勝利は更に遠のいて……、
「さっきから何をブツブツ喋っている委員長? 喧しくて集中できぬだろう」
「へ?」
拳銃とにらめっこをしていた陰山くんから突然このように言われた。割と怒り気味で。
おかしいな……心の中で思っていただけの筈が声に出ていたのかな……。
「山田くん、海野さんは一言も喋ってなんていなかったけれど?」
「何? ムウ……確かに後ろから何やら聞こえていた気がしたのだがな……」
陰山くんが地獄耳である事は分かっている。けれど何も言葉を発していないのに鎌をかけて来るように問い詰める事は一度もなかった。
「何だ……妙に落ち着かぬ……。心做しか呼吸もしずらい……」
「まさか陰山くん、もう既にナツメグの中毒症状が……」
始まってしまっているらしい。その様子が顕著に現れているのが彼の状態で判断できる。
普段の彼なら絶対にしない貧乏ゆすり、頬から流れ落ちる汗、短く早い呼吸音。
そして何よりさっきの聞こえる筈のない私の声──幻聴を聞いてしまっているのだ。
六グラム摂取しただけでここまで陰山くんが追い詰められている。恐らくまとまな考えなど出来ない。そんな状態の人間がロシアンルーレットなどして大丈夫なのか。
「嵌村さん、これは不公平ではありませんか? 今の山田くんにどこに弾丸が入ってるかどうかの正常な判断が下せる筈がありません」
「おやおや海野さん、あなた、それはこのゲームのルールを理解した上での発言かね?」
「ルール……どちらかの『賭けたもの』が無くなるまでゲームは終わらない……ですか」
「そうだよ。山田くんの場合、ナツメグを摂取し続けその命を削っていき、最終的に山田くんが倒れ、死が確認されるその瞬間までゲームは続行されるんだよ」
つまり、陰山くんが死にそうな状態であろうが関係ないと。鬼畜だ。
「委員長……、案ずるな。水でも飲んでいれば少しは楽になる。アンタは指を咥えて見ていればいい」
ペットボトルの天然水を口に含む程度に飲み、一息ついて私を諭した。
気持ち悪そうにしている後ろ姿からはとても大丈夫そうには見えないけれど、今の陰山くんには目の前のことだけに集中させてあげたい。私の事まで気を回していたらそれこそ迷惑だろう。
「それだけ自信のある発言が出てくれば十分だよ。こんなところでへこたれる様では面白くないからね」
「面白く笑っていられるのは今だけかもしれぬぞ。必ずその顔を苦痛に歪ませると……ゴフ! 宣言しよう……」
このやり取りが行われるのも今だけかもしれないと感じているのは、私だけじゃないかも知れないけれどね。
陰山くん……辛いだろうけれどいつまでもその体勢だけは崩さないで。弱っているあなただけは見ていて既に辛い。
「それは中々良い挑発だね。是非ともそうして欲しいものだよ。でもそんな台詞を吐く割には結構判断に時間が掛かっていないかい? 行動の方は優柔不断のように見えるけどね」
陰山くんの正々堂々としたものとは一線を画す嫌味ったらしい挑発で嵌村さんは対抗する。傍から聞いていて気持ちよく感じる言葉選びではない。しかし当の陰山くんはその返答に対して何も言い返せない。
事実、陰山くんは自分の番が回ってくる度に引鉄を引くかどうかの判断に迷いが生じているようだ。
現時点で先程のゲームの経過時間はとっくに過ぎてしまっている。瞬きする間も惜しいと感じていた一ゲーム目の流れが嘘のようなスローペースなのだ。
「き、気持ちが悪くて集中できぬ……。ここは撃つべきか……いや、やはり……様子を見た方が……」
脂汗を頬に滴らせながら悶え苦しむような独り言を漏らす陰山くんに、一手目のような冷静さは完全に消え失せていた。
しかしながら、このような事態になる事は大方想定出来たはずだ。なんせ自分の命を賭ける事になっているのに、苦痛を伴わないなんて事がある筈がないのだ。
尚更三手目の陰山くんの行動が不可解だ。彼の発言からして三つ目の弾倉に銃弾があったのは予想出来ていたのだ。どんなトリックを使ったのかしらないけれど。
そして、自分が負けたらどうなるのかという興味本位が招いたのがこの結果だ。
誰が見てもこの判断は誤りだ。過ちだ。
罪だ……そうだ、罪だと……言ってもいい……。
たった一つの命を捨てるなんて──犯罪だ。
「よし……! 決めたぞ……私はこの一手に賭けよう……」
徐に陰山くんが覚悟を決めたような発言をした。そして、傍に置いてあったナツメグの粉末が乗っていた小皿を自分の目の前に置き、
──シャララ……!
拳銃を──嵌村さんへと渡した。
「や、山田くん……!」
「山田さん……!」
「銃弾は……、一発目に装填っている……! パスだ……!」
「…………ほう」
その選択に、嵌村さんはただ一人──哂うのだった。
「ム……私からか」
「二ゲーム以降の先攻は前ゲームの敗者からだよ」
順当にゲーム開始前の手筈が組まれ、第二ゲームが始まった。
早くもこちら側が心身共に追い詰められている背水の陣も同然のこの状況。何がなんでも今回のゲームはものにしなければ陰山くんの身が危ぶまれてしまう。
そしてもう一つ気になるのは、嵌村さんが賭けている『財産』に関してだ。
言うなれば彼もある意味これは『命』を賭けていると言ってもいい。お金が無かったら生きていけないし。
その蓄えを嵌村さんがどれだけ有しているかだ。
常勝志向のギャンブラーの貯金残高って一体どれくらい? とんでもない額だったとしたら陰山くんの勝利は更に遠のいて……、
「さっきから何をブツブツ喋っている委員長? 喧しくて集中できぬだろう」
「へ?」
拳銃とにらめっこをしていた陰山くんから突然このように言われた。割と怒り気味で。
おかしいな……心の中で思っていただけの筈が声に出ていたのかな……。
「山田くん、海野さんは一言も喋ってなんていなかったけれど?」
「何? ムウ……確かに後ろから何やら聞こえていた気がしたのだがな……」
陰山くんが地獄耳である事は分かっている。けれど何も言葉を発していないのに鎌をかけて来るように問い詰める事は一度もなかった。
「何だ……妙に落ち着かぬ……。心做しか呼吸もしずらい……」
「まさか陰山くん、もう既にナツメグの中毒症状が……」
始まってしまっているらしい。その様子が顕著に現れているのが彼の状態で判断できる。
普段の彼なら絶対にしない貧乏ゆすり、頬から流れ落ちる汗、短く早い呼吸音。
そして何よりさっきの聞こえる筈のない私の声──幻聴を聞いてしまっているのだ。
六グラム摂取しただけでここまで陰山くんが追い詰められている。恐らくまとまな考えなど出来ない。そんな状態の人間がロシアンルーレットなどして大丈夫なのか。
「嵌村さん、これは不公平ではありませんか? 今の山田くんにどこに弾丸が入ってるかどうかの正常な判断が下せる筈がありません」
「おやおや海野さん、あなた、それはこのゲームのルールを理解した上での発言かね?」
「ルール……どちらかの『賭けたもの』が無くなるまでゲームは終わらない……ですか」
「そうだよ。山田くんの場合、ナツメグを摂取し続けその命を削っていき、最終的に山田くんが倒れ、死が確認されるその瞬間までゲームは続行されるんだよ」
つまり、陰山くんが死にそうな状態であろうが関係ないと。鬼畜だ。
「委員長……、案ずるな。水でも飲んでいれば少しは楽になる。アンタは指を咥えて見ていればいい」
ペットボトルの天然水を口に含む程度に飲み、一息ついて私を諭した。
気持ち悪そうにしている後ろ姿からはとても大丈夫そうには見えないけれど、今の陰山くんには目の前のことだけに集中させてあげたい。私の事まで気を回していたらそれこそ迷惑だろう。
「それだけ自信のある発言が出てくれば十分だよ。こんなところでへこたれる様では面白くないからね」
「面白く笑っていられるのは今だけかもしれぬぞ。必ずその顔を苦痛に歪ませると……ゴフ! 宣言しよう……」
このやり取りが行われるのも今だけかもしれないと感じているのは、私だけじゃないかも知れないけれどね。
陰山くん……辛いだろうけれどいつまでもその体勢だけは崩さないで。弱っているあなただけは見ていて既に辛い。
「それは中々良い挑発だね。是非ともそうして欲しいものだよ。でもそんな台詞を吐く割には結構判断に時間が掛かっていないかい? 行動の方は優柔不断のように見えるけどね」
陰山くんの正々堂々としたものとは一線を画す嫌味ったらしい挑発で嵌村さんは対抗する。傍から聞いていて気持ちよく感じる言葉選びではない。しかし当の陰山くんはその返答に対して何も言い返せない。
事実、陰山くんは自分の番が回ってくる度に引鉄を引くかどうかの判断に迷いが生じているようだ。
現時点で先程のゲームの経過時間はとっくに過ぎてしまっている。瞬きする間も惜しいと感じていた一ゲーム目の流れが嘘のようなスローペースなのだ。
「き、気持ちが悪くて集中できぬ……。ここは撃つべきか……いや、やはり……様子を見た方が……」
脂汗を頬に滴らせながら悶え苦しむような独り言を漏らす陰山くんに、一手目のような冷静さは完全に消え失せていた。
しかしながら、このような事態になる事は大方想定出来たはずだ。なんせ自分の命を賭ける事になっているのに、苦痛を伴わないなんて事がある筈がないのだ。
尚更三手目の陰山くんの行動が不可解だ。彼の発言からして三つ目の弾倉に銃弾があったのは予想出来ていたのだ。どんなトリックを使ったのかしらないけれど。
そして、自分が負けたらどうなるのかという興味本位が招いたのがこの結果だ。
誰が見てもこの判断は誤りだ。過ちだ。
罪だ……そうだ、罪だと……言ってもいい……。
たった一つの命を捨てるなんて──犯罪だ。
「よし……! 決めたぞ……私はこの一手に賭けよう……」
徐に陰山くんが覚悟を決めたような発言をした。そして、傍に置いてあったナツメグの粉末が乗っていた小皿を自分の目の前に置き、
──シャララ……!
拳銃を──嵌村さんへと渡した。
「や、山田くん……!」
「山田さん……!」
「銃弾は……、一発目に装填っている……! パスだ……!」
「…………ほう」
その選択に、嵌村さんはただ一人──哂うのだった。
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