天空の妖界

水乃谷 アゲハ

雪撫の調べ事(参)

「コホン……改めて、他には何が気になっているの?」
 赤い額をした三人をそのままに、本に目を移しながら文はそう話を続けてくれました。……結構痛いです。
「そういえばさ、文が相手の記憶を見るってどんな感じなの?」
「……は?」
「記憶を読めない私たちには想像できないんだけど……記憶を読むってどんな感じなの?」
「……あなたがどんな答えを期待しているのか分からないけれど……普通にその相手が今まで見てきたものを映像として見れるだけだけど?」
 二人の会話を聞いていたどうもこうもが、あごに手を当てて文の言葉に聞き返します。
「んー……って事はテレビみたいな感じ?」
「というかほとんど意識せずやっているから改めて聞かれるとちょっと困るわね。記憶を読むときは映像で、思考を読むときは文章で……かしらね?」
 その文章を読みながら戦うって凄い事なんじゃないですかね……?
「で、それから何を聞きたいの?」
 文は、若干私の質問に興味を持ったのか本から目を離してこっちに目を向けます。
「うん、聞きたいんだけどさ。真君の記憶で抜けてる所があるって言ってたじゃん?」
「えぇ。というか彼、自分で言っていたように学校に来る以前の記憶はほとんどないわよ?」
「それは知ってるんだけど、文は毎回『ノイズ』って言い方をするじゃん? って事は分からない訳じゃないって事なんだよね?」
「……待って頂戴。あなたが何を言っているのかよく分からないのだけど……?」
「雪撫さん、昔のテレビでよく見られる砂嵐って呼ばれる現象は知ってるかな?」
 こめかみに手を当てる文を見かねたどうもこうもが私にそう聞いてきました。……砂嵐?
「砂嵐っていうのは、音も映像も見れない状態なの。映像は白黒で、ザザーってすごい音がなるんだよ」
「あぁ、そうなっちゃうんだ……」
「雪撫ちゃんは~それで何を期待してたの~?」
 キララちゃんも首を傾げて私に聞いてきます。……何を期待……。
 言われて少し考えます。私は真君の過去を聞いて何をしたかったんでしょう……?
「彼の事をもっと詳しく知りたくなった。それだけだと思うわよ」
「なのかなぁ……? ってまた思考を読んだでしょ?」
 本当に全く油断も隙もない文です。
「えぇ。とりあえず私が分かる学校に来る前の彼は、小さい頃にとある女の子に会っている事と、その子の事で深い後悔をしている事よ」
「小さい女の子? 後悔?」
 そんな話真君から聞いたこともないけど……それに深い後悔をする素振りも見た事がない気がしますが……?
「えぇ、彼女に関する記憶は結構残っているわね。彼女の名前は神無月 雫っていう名前ね。あなたがキララさんの腕に親友の証を残した様に、神無月 雫と彼も親友の証として石に文字を彫っているようね。様々な言語で彫っていたみたいだから、かなり時間がかかった様ね。そこの記憶ははっきりしているわよ。でも、石を彫り終わった後からの記憶がないわ」
 真君がキララちゃんの腕を見た時すぐに姿をばらしていいって言ったのはそういう事だったんですね……。真君もイタリア語って分かったんだ……。
「ん~なら行ってみる~?」
「は?」
「え?」
「ん?」
 キララちゃんが言った言葉に、三人が固まりました。……行ってみる?
「だって~雪撫ちゃんは真君が気になるんでしょ~? そこに行ってみたら分かるかもよ~?」
「あ、た、確かに……?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい? 記憶が読めるとは言っても、その場所なんか私は知らないわよ?」
 文は慌てたようにキララと私を止めます。
「ん~ここは学校だし、生徒情報っていうのはあるかもしれないけど、それを盗むのは難しいんじゃないかなぁ?」
 どうもこうもが正論を言いました。そうか、学校にあるかもしれない……?
「え~保健室に無いの~?」
「流石に無いねぇ……」
 ちょっと期待しましたが、やはり無いんですね……。四人で肩をがっくり落とします。
 その時、また図書室の扉が開きました。
「彼は、潮ヶ江しおがすみという島出身だよ。この学校から電車と船を使って約一日かかるところにある」
 黒く短い髪に眼鏡で、変わった花柄の薄い服を着た言っちゃ悪いのかもしれないですが、おじさん風の男が入ってきました。
 先ほどのどうもこうもの時は身構えましたが、今度は慌てずにその男を見つめます。 
 しかし、文とどうもこうもだけは椅子をけって立ち上がりました。……ん?
「な、なんであなたがここにいるのかしら?」
「おいおいおい、僕がここにいちゃいけないみたいな言い方じゃぁないかい?」
「そ、そりゃあここには来てはいけないでしょ……敵が」
 敵? どうもこうもが焦りを押さえるような声でつぶやいた言葉に、私も椅子を引き、いつでも逃げられるようにします。
「いやいや、敵とは失礼じゃないかな? 影弥君の情報を言ってあげたんだから信用してくれてもいいんじゃないかい?」
「えぇ、人が人だったら信用できたんでしょうけど……あなたじゃ信用無いわ」
「おやおや、この学校で一番信用があると自負しているんだけどおかしいな?」
「それはここの生徒にはって事でしょう? ……学園長」

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