天空の妖界

水乃谷 アゲハ

流した涙と雪女

「ち、ちょっと待った。え、何? 結局戦うの?」
 話の腰を折ることになると分かっていても聞かずにはいられなかった。
「うん。戦っちゃったね」
「試合はどうなった?」
「練習だけど……負けたよ。私がどれだけ早く武器を出しても凪君は夢に送って消しちゃうから勝てなかったよ」
 言葉とは逆に、満面の笑みを浮かべて雪撫は言った。
「そっか。それでそのあとは?」
 話の腰を折ってしまったが、先を促すことにした。
「へ? そのあとって?」
 雪撫は首を傾げる。
「キララの時みたいに仲良くなったとかは無いのか?」
「んー……そのあと凪君に送ってもらってからは会ってないはずなんだよね」
「はず?」
 煮えきらない答えに聞き返す。
「うん。会ってないはず。会ってないはずなんだけど……何故かそんなことない気がするんだよね……」
「へぇ、何で?」
「好きだったから」
「は?」
 雪撫が聞き取れないほど小さい声で何かを言ったのは分かった。
「好きだったんだよ。私は凪君の事が好きだった。いや、今も好きなの。でも、理由が分からない。少し、悔しいんだよね」
「……それは、悪い」
「いや、気にしないでいいよ。これは私の問題なんだもん。真君は気にしないでいいよ」
「……」
 少し疲れたかのような顔で雪撫は笑った。目元が少し光って見えた。涙なのか確かめる前に、雪撫は扉の方へ移動した。
「ほ、ほら真君。こんな話をしている間にキリアさんとの約束の時間が近付いてるよ!」
 そう言っているが、まだ時間に余裕があった。雪撫自身も恐らく分かっているのだろう。いつもの笑顔が少し固まっている。話を終わらせたいのがよくわかった。

「……いやだめだ」 
 このままでは終われない気がした。何よりその雪撫の状態に心当たりが少しあった。
「雪撫。もしその無くなっているかもしれない記憶を戻せるなら戻したいよな?」
 驚くような顔で雪撫は俺の顔を見る。
「その話、最初に聞いた時になぜか聞いたことあると思った。落ちも分かっていた」
「なっ……!? それは……」
「その話、前に聞いたことがあるんだ。先生から」
 「先生!?」
「そう。ここに入学してしばらくたった日の授業で夢現を学んだ時に教科書で、『夢現と女の子妖怪』とかいうページがあって、その時のその話がそっくりだ。今の雪撫の話とね。うちの教科書は先生が作ってるから、先生が知っていたことになる」
「え、あ、いや。おかしいよそれ! そんな訳がないじゃん!」
 雪撫は必死に俺に言った。確かにおかしいと今になれば思う。
「真君! キリアさんの件が終わったらその先生に会わせて!」
「あ、あぁ」
 勢いに流されて思わず返事をした。
 (でも、雪撫は会っても意味ないじゃん……ってか会えないし。滅せられるぞ)
 そんなことを思いながら自分の部屋を出て、学食のところへと向かった。

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