天空の妖界

水乃谷 アゲハ

親友と雪女

「あれはキララちゃんと会う前の、えっと……八百年くらい前かな? その時の話」
 と、雪撫は話を始めた。……八百年……。
「私たち妖怪って、頭脳の成長はその妖怪ごとに違うんだよ。ほら、ぬらりひょんって妖怪は、あんなに頭が大きくなるほど頭がいいから人間に紛れる知識があるけど、うわんって妖怪は体のわりに頭が小さいから……」
「ちょ、ちょいストップ」
 脱線しそうになっている雪撫を止める。たぶんうわんは喋る事ができないとか言おうとしたのだろう。
「あ、ごめん。つまり私達は頭脳の成長はバラバラだけど、体の方は決まっていて、人間の百分の一なんだよ。だから人間の感覚で言えば、八年前」
 ……ん? ちょっと待てよ……?
「雪撫、もしかして出会った時に言ってた十六歳って百分の一の数?」
「そうだよ? 本当は千六百歳ってことになるかな」
「マジかよ……めっちゃ年寄りじゃねぇか……」
「こらそこ、失礼な事言わないように。女性に年の事はいっちゃダメだよ」
「すいませんでした」
 これは普通に申し訳ない。
「分かればよろしい。ってことで戻るけど、今から話すのは七、八歳の頃のこと」
 七百~八百……。
「……真君、ヒドいよ?」
 いや、だからなんで考えてることが通じてるんだよ……。
「まぁいいや。その当時私は妖界で色々な妖と戦うのが好きでずっと戦ってたんだよね」
 だからあそこまでバトルセンスがあったのか。と、俺は納得する。
「それでしばらく戦っていたら、いつの間にか妖界で十番の実力に入るって言われてたの」
「……まじ!?」
 さすがにこれには驚いた。どこまで強いんだよ……。
「あはは、ま、まぁね?」
 照れている姿はとてもかわいく、そんな風には見えなかった。
「まぁ、それでうかれちゃった私は、妖界で一番といわれている、夢現ゆめうつつって妖怪に会いに行くことにしたんだよね」
「それは、やっぱり戦うために?」
「いやいや、勝てないって思ってたから、ただ一目見たいと思って行くことにしたの」
 そして、失敗したけど……と雪撫は続けた。
「失敗? っていうのはどういう?」
「失敗っていうよりは、意外な方向に話が進んだっていうべきかな? 私が行ったとき、夢現って妖怪は言われた場所にいなかったんだよ。たぶん、気配が分かって隠れたんだと思う」
「え、じゃあ結局はあってない?」
 その言葉に雪撫は首を振る。
「違うんだよね。そのあと、探したけどいなかったから、私は帰ることにしたんだよ。で、帰ろうとしたら帰る道がなかったんだ。元々、夢現って妖怪は山に住んでたんだけど、頂上で突然、本当にいつのまにか周りを全部木が覆ってて、帰る道がなかった。来た道も見えないほど生えてたんだよ」
「なにそれ、幻術?」
 じゃなければ一瞬で木が生えることなどありえない。そう思ったから聞いたが、雪撫はまた首を横に振った。
「現実だった。すべてが、すべての木が現実だったよ」
「それって……」
 言いかけて気が付く。一人だけ可能性があることに。
「うん、わかったと思うけど、夢現の能力だよ。閉じ込められたんだ。それで途方に暮れた私の背後に、いつの間にか立ってた」
「夢現が?」
「うん。夢と現実を扱う妖怪、夢現の凪君」

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