天空の妖界

水乃谷 アゲハ

雪女、ゾンビに会う

 「ま、真君! い、今の爆発は!?」
 「慧人だね」
 「何でそんなに落ち着いてるの!? 行かなくちゃ!」
 あ……。そういう意味じゃなくて。
 「いや、慧人が起こした爆発。あの人は、そんな簡単に負けないから大丈夫」
 「そんなに強いの?」
 「強い。雪撫も勝てないよたぶん」
 「もう一人の、メグさんは?」
 「メグは、面白い能力なの。花園って能力は、季節によって強さが変わるんだよ。能力的には、ジョウロとはさみを武器とする戦い方で、植物を一瞬で作ったり、操ったり、はさみで形を変えてその形にふさわしい行動を植物にさせたり、自分ではさみで攻撃したりってね」
 「季節によってっていうのは、どういう事?」
 「メグの能力は、春が一番強くて、冬が一番よわい。ほら、冬ってあんまり花咲かないでしょ?それで」
 「今は秋だけど……?」
 正確には夏と秋の中間なんだけどね。
 「負けないでしょ。あの眠そうなのがどんな人か分からないけど」
 不意に、ウィンドゥが出てきた。

 『テプテプさんが敗北しました。テプテプチームは残り1人です。』

 「あら?」
 「勝っちゃったね……。慧人君の能力、見たかったなぁ~」
 「慧人の能力は、あの方に乗っていたライオンを大きくして戦わせたり、体の中に入れて能力を上げたりするんだよ。一匹一匹上がる能力が違うから、状況に応じて変えられるんだって」
 「え? じゃあ全部取り込めばいいんじゃないの?」
 「それならいいけど、制限時間があるんだよ。一匹だと半日ぐらい戦えるらしいんだけど、取り込めば取り込むだけ時間が減って、全部取り込むと一分も持たないらしいよ?」
 「そっか……確かに一分はきついね」
 「そういうこと。それに見た目も面白くなる」
 「へ~? どんな風に?」
 「全部入れると、首から毛が生えたりする」
 「それは……気持ち悪いかも」
 なんて言って笑いあっていたが、次に出てきたコマンドに私たちは固まってしまった。……あ、いや、慧人が来たからじゃないよ?

 『マーガレットさんが投降しました。これで、慧人さんチームは残り二人です。』

 「あら?」
 「あれ!? メグさん、負けちゃってるよ!?」
 「眠そうに見えて激強って言う、よくあるタイプだったのかな……?」
 「行かなくちゃ!」
 そんなことを言っていると、右の草木の間から慧人が出てきた。
 「おい、今のウインドゥ、見たか?」
 「はい。見ました!」
 「秋状態とはいえ、メグに勝つとは……」
 ……あれ? もう今の季節は秋なの? 季節感が私にはないのかも……と一人で落ち込む。い、いや、店では氷の旗があったもんね!
 「行きます? 向こう」
 「いや、さっき俺が戦ったところに行こう。木とかないし」
 「OKです!」
 そういって二人で、先ほど、慧人がいた場所に戻った。そこには、本当に何もなく、地面の草が全てこげていた。
 「慧人……派手に、暴れたんだね……」
 「すごいね……」
 「すごいって……、お前は俺の能力知ってんだろ? あれ? 男と女って記憶違うっけ?」
 「いや……」
 思わず答えてしまったけど、私の声は聞こえていない。すると、
 「いえ、同じです」
 と、雪撫が答えてくれた。
 「だよな」
 「あれ? ライオンさんはいないんですか?」
 今頃になって、肩にライオンがいないことに雪撫は気がついた。
 「今は体の中」
 「でも、体の変化がない……?」
 「……体は何で変化していないんですか?」
 雪撫はとても残念そうな顔をしていた。……気持ち悪いって言っていたくせに……。
 「あ~、それは知らないんだっけ。俺、能力が増えてさ、体にまとわせるだけでなくて、撃つこともできるようになったんだよ」
 「ライオンを? かわいそうじゃない?」
 その考えは、慧人に通じないんだよねぇ……。
 「何でかわいそう? どうせ死なないよ? ほれ」
 そういうと、肩のところが少し動いた。そこには先ほどのライオンがちゃんと6匹いる。
 「かわいい……じゃなくて!そうだとしても……なんかかわいそう」
 「! ……この話は後でっぽいな。きた」
 「!!」
 そういって慧人は森のほうをにらんでいる。
 やがて、眠そうな顔をした少女が傷ひとつない姿で現れた。
 「ん? 傷ひとつない?」
 「この人……」
 「ん?」
 「多分だけど……」
 そこまで言ったところで、雪撫は言葉を止めた。
 「おい? どうした?」
 「ゾンビかも」
 「はぃ……?」
 確かにゾンビと言うスキルはある。確か、Sにもなると、死なないし傷の治りも早いという能力。そして……
 「捕食……」
 慧人がつぶやいた。
 「おい、何でお前からメグの匂いがするんだ?」
 「戦ってたから、ふつうじゃないですか~??」
 と、彼女は血だらけになった口で笑った。
 「息から・・・息からメグの匂いがするのは、なんだ?」
 まさか!私の思考が一瞬止まった。
 「え~? 気のせいじゃないですか~??」
 「雪撫、当たりだと思うよ。あの人はゾンビのS級かも」
 「ま~……隠してもばれますか~……。はい~。食べましたよ~? 彼女の腕~」
「っ!?」
 思わず慧人は言葉に詰まる。
「なんてことを……」
 雪撫も言葉に詰まる。
「だって彼女、弱かったんで~、ジョウロをまず食べて、逃げる彼女を木に押さえつけて食べちゃいました。あ、でも途中で投降したので腕は治りますよ~?」
 そういって首をかしげる。そして、笑った。なんて子だ……。
「ま、まさか……」
  雪撫は顔を青くして固まる。
「てめぇ!!」
 そういってキレる慧人に雪撫は言った。
「慧人君、下がってください!」
「は? なに言ってんだお前?」
「雪撫?」
  トンファーを捨てて、片手に氷の剣を出して、雪撫は言った。
「真君、今から言う事、驚かないでね?」
「え?……分かった」
「あの子、ゾンビじゃない」
「……そ……っか……?」
 何を言っているんだ?先ほどといっていることが違い、私は混乱する。
 もしかしてさっきのまさかは……?
「それで、あの子は妖怪。それで私の友達だった子」
 ……え?

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