幼女闘拳伝『マッチ売りの武神』(冬童話2018・マッチ売りの少女IFストーリー)
マッチ売りの少女はリア充にイラついている
ハジィは頭を抱えました。
マッチを売らないと帰れない。だけど、街の人はマッチを買ってくれない。家に帰ると父親に殺されてしまうけれど、外にいると100%凍死してしまう。
そして、また同じ朝に戻って来てしまうのです。
「詰んだ……」
ハジィはマッチを地面に叩きつけようとして、その手を止めました。
気付いたのです。
そうだ、死ななければ良いのだ、と。
何も無理に家に帰ることはないのです。
家ではない場所で、どうにかしてこの寒波をやり過ごせば、明日の朝を迎えられるのではないか。
ハジィはそう考えました。
「持つべきものは友達よね」
彼女は意気揚々と街の一角へ向かいました。
トントントン。扉を叩きます。
幼馴染の少年ペータ。
彼はハジィより5つほど年上で、今はこの小屋に一人暮らしをしています。明るい茶髪にそばかす顔。その気さくな性格から、街の皆に好かれています。ハジィとは友達以上恋人未満といった関係でした。
ガチャリ。扉が開きました。
「どなたですか……うわ寒っ……」
寒いのもそのはず。
現れたペータは、なぜか上半身裸でした。
ハジィは恥ずかしそうに顔を背けます。思いを寄せる男の子の裸というものは、彼女には少々刺激が強かったようです。
その様子にペータは首を傾げました。
「なんだ、ハジィか。朝っぱらからどうした」
「うん、あのねペータ──」
話しだそうしたその時。
小屋の中から女の子の声が聞こえてきました。ハジィはペータの横から小屋を覗き込み、彼に問いかけます。
「奥に誰かいるの?」
ペータは少し照れたように笑います。そして、小屋の奥からハジィのよく知った女の子が現れました。
長い髪を儚げに揺らす綺麗な少女。ハジィより4歳ほど年上の幼馴染。名前をクラーラといいました。
クラーラはシーツ1枚だけを羽織っていて、その下には何も着ていない様子でした。寒そうな恰好なのに、なぜかその顔はほんのり上気しています。
完全に事後じゃねーか、とハジィは思いました。
「あら、ハジィ、どうしたの?」
「そうだよハジィ。どうしたんだこんな早朝に」
お前らこそ早朝からナニしてたんだ、というセリフをハジィは飲み込みます。そんな中、少年ペータはハジィに話しかけながらも、クラーラのはだけた胸元にチラチラと視線をやりました。
やはり胸か。胸なのか。
ハジィはやりきれない思いでいっぱいになりました。
「二人はいつから付き合ってるの?」
「あぁ、この前のクリスマスの夜にな」
照れたように笑う二人。
あぁ、父親と鍛錬などしている場合ではなかった。ハジィは後悔しましたが、もう後の祭りです。気持ちを切り替えて、二人を祝福することにしました。
「クラーラはその日のうちにお泊りしたの?」
「そ、そうよ」
「じゃあ、ペータはクラーラに立ったのね!」
「うえっ!?」
立った! クラーラに立った!
ハジィは狂ったように笑いながら舞い踊りました。ズンドコベロンチョと踊り狂います。
二人は引き攣った笑みを浮かべてハジィを見ました。もうドン引きを通り越してズンドコ引きでした。
しばらくして、ハジィは小屋の扉をそっと閉めました。ふぅ、と息を吐きます。
「リア充はおいといて、他をあたろう」
ハジィはその場をあとにしました。
いろんな人に頭を下げました。
罵倒され、嫌らしい視線を向けられ、ときに拳を握って闘いました。だいたい、家出少女を匿おうなんていう男たちの魂胆は、みんな似通ったものなのです。
ハジィはようやく馬小屋を一つ確保しました。
馬小屋の所有者である老婦人に縋りつき、馬糞掃除を買って出ることで、ようやく首を縦に振ってもらえたのでした。
隙間風は入ってくる。でも、外で凍死するよりは全然マシ。そんなことを呟きながら、ハジィは積み藁のベッドに腰掛けます。
「こうやって片隅で凍えていても、寒いだけね」
彼女は立ち上がります。そして、日課である武術鍛錬を始めました。これで少しは体が温まるでしょう。
日がすっかり沈んだ頃でした。
ハジィが積み藁の上でウトウトとしていると──。
ゴォォォン。
突然の轟音。
馬小屋の扉が破裂しました。
ハジィはさっと身構えると、入ってきた人影を見ました。
「ハジィィィィ……俺は、なんと言ったぁぁぁ? なぁ、マッチを売れ、と言ったよなぁぁぁ……」
父親。
血走った目がギラリと光ります。緩んだ口元からはダラダラとよだれが垂れており、髪をかきむしりながら狂ったような笑い声を上げています。
「そっか……今夜は満月──」
「言うことを聞かねえ悪ぃ子にはぁぁぁ……ヒャーハッハッハッハ……おしおおしおお仕置き……クククククク」
父親の使う武術は、形意狂拳。
その強力な攻撃力の代わりに、段々と理性による体の制御が効かなくなって行きます。それでも、父親は熟練者のため、普段は日常生活を送れるくらいに意識を保っていました。
ただ、満月の夜だけは別です。
満月が来ると毎回のように、父親は狼のような遠吠えを上げます。そして、自らの体へのダメージも省みないほど暴れまわるのです。
これまで、満月の夜に父親の拳を向けられて生き残った者など誰一人としていませんでした。
その拳が、今日はハジィに向けられています。
「マッチを売れぇぇぇぇぇぇ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
獣のような父親の拳。
暴風のように振るわれるそれを、ハジィは壁と天井を蹴りながら三次元の動きで避けます。今、彼女の武器はその身軽さだけでした。
しかし残念なことに、ハジィの幼い体では、体力もすぐ底をついてしまいます。
「──かはっ!」
動きの鈍ったハジィ。
その背中に父親の踵が落とされました。
バキッという嫌な音。彼女の体に激痛が走ります。
そして。
「悪い子にはお仕置きだぁぁぁ……」
その言葉を聞きながら、意識が落ちていき……。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
またもや時間を遡行し、この朝に戻ってきてしまったのでした。
「マジで……父ちゃん、逃げても追いかけてくるの?」
つまるところ、ハジィが生き残るための手段は、マッチを完売するか、父親を打倒するかの二択しかありませんでした。
マッチを売らないと帰れない。だけど、街の人はマッチを買ってくれない。家に帰ると父親に殺されてしまうけれど、外にいると100%凍死してしまう。
そして、また同じ朝に戻って来てしまうのです。
「詰んだ……」
ハジィはマッチを地面に叩きつけようとして、その手を止めました。
気付いたのです。
そうだ、死ななければ良いのだ、と。
何も無理に家に帰ることはないのです。
家ではない場所で、どうにかしてこの寒波をやり過ごせば、明日の朝を迎えられるのではないか。
ハジィはそう考えました。
「持つべきものは友達よね」
彼女は意気揚々と街の一角へ向かいました。
トントントン。扉を叩きます。
幼馴染の少年ペータ。
彼はハジィより5つほど年上で、今はこの小屋に一人暮らしをしています。明るい茶髪にそばかす顔。その気さくな性格から、街の皆に好かれています。ハジィとは友達以上恋人未満といった関係でした。
ガチャリ。扉が開きました。
「どなたですか……うわ寒っ……」
寒いのもそのはず。
現れたペータは、なぜか上半身裸でした。
ハジィは恥ずかしそうに顔を背けます。思いを寄せる男の子の裸というものは、彼女には少々刺激が強かったようです。
その様子にペータは首を傾げました。
「なんだ、ハジィか。朝っぱらからどうした」
「うん、あのねペータ──」
話しだそうしたその時。
小屋の中から女の子の声が聞こえてきました。ハジィはペータの横から小屋を覗き込み、彼に問いかけます。
「奥に誰かいるの?」
ペータは少し照れたように笑います。そして、小屋の奥からハジィのよく知った女の子が現れました。
長い髪を儚げに揺らす綺麗な少女。ハジィより4歳ほど年上の幼馴染。名前をクラーラといいました。
クラーラはシーツ1枚だけを羽織っていて、その下には何も着ていない様子でした。寒そうな恰好なのに、なぜかその顔はほんのり上気しています。
完全に事後じゃねーか、とハジィは思いました。
「あら、ハジィ、どうしたの?」
「そうだよハジィ。どうしたんだこんな早朝に」
お前らこそ早朝からナニしてたんだ、というセリフをハジィは飲み込みます。そんな中、少年ペータはハジィに話しかけながらも、クラーラのはだけた胸元にチラチラと視線をやりました。
やはり胸か。胸なのか。
ハジィはやりきれない思いでいっぱいになりました。
「二人はいつから付き合ってるの?」
「あぁ、この前のクリスマスの夜にな」
照れたように笑う二人。
あぁ、父親と鍛錬などしている場合ではなかった。ハジィは後悔しましたが、もう後の祭りです。気持ちを切り替えて、二人を祝福することにしました。
「クラーラはその日のうちにお泊りしたの?」
「そ、そうよ」
「じゃあ、ペータはクラーラに立ったのね!」
「うえっ!?」
立った! クラーラに立った!
ハジィは狂ったように笑いながら舞い踊りました。ズンドコベロンチョと踊り狂います。
二人は引き攣った笑みを浮かべてハジィを見ました。もうドン引きを通り越してズンドコ引きでした。
しばらくして、ハジィは小屋の扉をそっと閉めました。ふぅ、と息を吐きます。
「リア充はおいといて、他をあたろう」
ハジィはその場をあとにしました。
いろんな人に頭を下げました。
罵倒され、嫌らしい視線を向けられ、ときに拳を握って闘いました。だいたい、家出少女を匿おうなんていう男たちの魂胆は、みんな似通ったものなのです。
ハジィはようやく馬小屋を一つ確保しました。
馬小屋の所有者である老婦人に縋りつき、馬糞掃除を買って出ることで、ようやく首を縦に振ってもらえたのでした。
隙間風は入ってくる。でも、外で凍死するよりは全然マシ。そんなことを呟きながら、ハジィは積み藁のベッドに腰掛けます。
「こうやって片隅で凍えていても、寒いだけね」
彼女は立ち上がります。そして、日課である武術鍛錬を始めました。これで少しは体が温まるでしょう。
日がすっかり沈んだ頃でした。
ハジィが積み藁の上でウトウトとしていると──。
ゴォォォン。
突然の轟音。
馬小屋の扉が破裂しました。
ハジィはさっと身構えると、入ってきた人影を見ました。
「ハジィィィィ……俺は、なんと言ったぁぁぁ? なぁ、マッチを売れ、と言ったよなぁぁぁ……」
父親。
血走った目がギラリと光ります。緩んだ口元からはダラダラとよだれが垂れており、髪をかきむしりながら狂ったような笑い声を上げています。
「そっか……今夜は満月──」
「言うことを聞かねえ悪ぃ子にはぁぁぁ……ヒャーハッハッハッハ……おしおおしおお仕置き……クククククク」
父親の使う武術は、形意狂拳。
その強力な攻撃力の代わりに、段々と理性による体の制御が効かなくなって行きます。それでも、父親は熟練者のため、普段は日常生活を送れるくらいに意識を保っていました。
ただ、満月の夜だけは別です。
満月が来ると毎回のように、父親は狼のような遠吠えを上げます。そして、自らの体へのダメージも省みないほど暴れまわるのです。
これまで、満月の夜に父親の拳を向けられて生き残った者など誰一人としていませんでした。
その拳が、今日はハジィに向けられています。
「マッチを売れぇぇぇぇぇぇ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
獣のような父親の拳。
暴風のように振るわれるそれを、ハジィは壁と天井を蹴りながら三次元の動きで避けます。今、彼女の武器はその身軽さだけでした。
しかし残念なことに、ハジィの幼い体では、体力もすぐ底をついてしまいます。
「──かはっ!」
動きの鈍ったハジィ。
その背中に父親の踵が落とされました。
バキッという嫌な音。彼女の体に激痛が走ります。
そして。
「悪い子にはお仕置きだぁぁぁ……」
その言葉を聞きながら、意識が落ちていき……。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
またもや時間を遡行し、この朝に戻ってきてしまったのでした。
「マジで……父ちゃん、逃げても追いかけてくるの?」
つまるところ、ハジィが生き残るための手段は、マッチを完売するか、父親を打倒するかの二択しかありませんでした。
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