幼女闘拳伝『マッチ売りの武神』(冬童話2018・マッチ売りの少女IFストーリー)
マッチ売りの少女は無限ループしている
1年の終わり、大晦日。
街を吹き抜ける風は、冬の女神の吐息のように全てを凍りつかせます。人々は外套をギュッと掴みながら足早に街を駆け抜け、道端に立っている少女には目もくれません。
「マッチを買ってくれませんか……」
7歳ほどでしょうか。
金髪の痩せた少女が、寒そうなみすぼらしい服を身にまとい、裸足でトボトボと街を歩いていきます。
彼女の名はハジィといいました。
日はだんだんと落ちてきて、人もまばらになってきました。身を切るような寒さです。でも、このまま銅貨1枚すら得られずに家に帰ることはできません。
お父さんに殺されてしまうでしょうから。
あたりが真っ暗になる頃。
ハジィはある家の軒先を借りました。
持っていたマッチを擦って暖を取ります。
1本。2本。3本……。
街を襲う、10年に一度の大寒波。
彼女はそのまま亡くなってしまいました。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
そうです。
実は、彼女は死ぬたびに時間を遡行し、大晦日の一日を繰り返しているのです。
「これで10回目……」
ハジィはマッチ箱を手に取ります。
この10日間、一つだって売れないマッチ箱。彼女はそれをグシャリと握りしめると、地面に叩きつけてダンダンと踏み始めました。
「もういい。もうやだ。限界。死ね。死ね。死ね。父ちゃん死ね。売れるか、こんなもん。あたしは帰る。殺されたってマッチは売らん」
彼女は切れました。
ブチ切れました。
ハジィは7歳にしては辛抱強い子ですが、それにしても限度というものがあります。マフィアの小太り親分からは「俺らの下で体売るってんならマッチを買ってやってもいいんだぜ、へへへ」などとも言われていますが、それこそ死んでも嫌です。
彼女は家に帰ると、戸を叩きました。
トントントン。ガチャリ。
酒臭い父親が面倒臭そうに戸を開けます。
「早かったな。金は?」
「……そんなものはない!」
「ほぅ……」
父親は目を細め、ハジィを睨みました。
彼女と同じ金髪。だらしない無精髭。細身に見えて実は極限まで鍛え上げられている肉体。安服を着ていても隠しきれない戦闘力。
彼女は手足の震えをかき消すかのように、拳を握って地面を踏み鳴らしました。
右足を一歩引いた半身の構え。
両手を顎の下あたりに置く、彼女の基本スタイルです。
「くはははは……勝てると思うのか、この俺に──」
父親は酒瓶を置き、だらんと両手を下げます。
一見すると隙だらけ。でも、その構えの恐ろしさを彼女はよく知っていました。何人もの武芸者が父親の前に倒れるのを、幼い頃からずっと見て育ってきたのです。
父親と彼女の視線が交わります。
刹那。
真っ直ぐ飛び出した彼女。
背を向ける父親。
ハジィは危険を感じて一歩左へ。その側頭部に、父親の踵が吸い込まれていきます。
回し蹴り。
こんな大技を何気なく仕掛けてくるあたりから、彼女の父親が「無形の狂拳」と呼ばれる所以が見え隠れします。
ギリギリのところで父親の足を弾き、彼女は2歩下がりました。
「ハッ、てめぇは俺には勝てねぇ」
「うるさい!」
ハジィが再度構えた瞬間。
父親の姿がブレました。そして、いつの間にか彼女の腹に拳が突き刺さっていました。
「──っかは」
「遅えんだよ」
父親の全体重が乗っているかのようなその拳。
読めない、見えない。父親の無慈悲な一撃は、彼女の背骨を粉砕していました。彼女は血を吐いて倒れると、土の味を噛み締めながら父親を見上げます。
「父ちゃん……殺す……」
「バカ野郎。俺はマッチを売れと言ったんだ」
父親はハジィに近づくと、右足を振り上げました。
「父──」
グシャリ。
そんな音を聞きながら、彼女の視界は真っ暗になっていきました。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
またもや時間を遡行し、この朝に戻ってきてしまったのです。
街を吹き抜ける風は、冬の女神の吐息のように全てを凍りつかせます。人々は外套をギュッと掴みながら足早に街を駆け抜け、道端に立っている少女には目もくれません。
「マッチを買ってくれませんか……」
7歳ほどでしょうか。
金髪の痩せた少女が、寒そうなみすぼらしい服を身にまとい、裸足でトボトボと街を歩いていきます。
彼女の名はハジィといいました。
日はだんだんと落ちてきて、人もまばらになってきました。身を切るような寒さです。でも、このまま銅貨1枚すら得られずに家に帰ることはできません。
お父さんに殺されてしまうでしょうから。
あたりが真っ暗になる頃。
ハジィはある家の軒先を借りました。
持っていたマッチを擦って暖を取ります。
1本。2本。3本……。
街を襲う、10年に一度の大寒波。
彼女はそのまま亡くなってしまいました。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
そうです。
実は、彼女は死ぬたびに時間を遡行し、大晦日の一日を繰り返しているのです。
「これで10回目……」
ハジィはマッチ箱を手に取ります。
この10日間、一つだって売れないマッチ箱。彼女はそれをグシャリと握りしめると、地面に叩きつけてダンダンと踏み始めました。
「もういい。もうやだ。限界。死ね。死ね。死ね。父ちゃん死ね。売れるか、こんなもん。あたしは帰る。殺されたってマッチは売らん」
彼女は切れました。
ブチ切れました。
ハジィは7歳にしては辛抱強い子ですが、それにしても限度というものがあります。マフィアの小太り親分からは「俺らの下で体売るってんならマッチを買ってやってもいいんだぜ、へへへ」などとも言われていますが、それこそ死んでも嫌です。
彼女は家に帰ると、戸を叩きました。
トントントン。ガチャリ。
酒臭い父親が面倒臭そうに戸を開けます。
「早かったな。金は?」
「……そんなものはない!」
「ほぅ……」
父親は目を細め、ハジィを睨みました。
彼女と同じ金髪。だらしない無精髭。細身に見えて実は極限まで鍛え上げられている肉体。安服を着ていても隠しきれない戦闘力。
彼女は手足の震えをかき消すかのように、拳を握って地面を踏み鳴らしました。
右足を一歩引いた半身の構え。
両手を顎の下あたりに置く、彼女の基本スタイルです。
「くはははは……勝てると思うのか、この俺に──」
父親は酒瓶を置き、だらんと両手を下げます。
一見すると隙だらけ。でも、その構えの恐ろしさを彼女はよく知っていました。何人もの武芸者が父親の前に倒れるのを、幼い頃からずっと見て育ってきたのです。
父親と彼女の視線が交わります。
刹那。
真っ直ぐ飛び出した彼女。
背を向ける父親。
ハジィは危険を感じて一歩左へ。その側頭部に、父親の踵が吸い込まれていきます。
回し蹴り。
こんな大技を何気なく仕掛けてくるあたりから、彼女の父親が「無形の狂拳」と呼ばれる所以が見え隠れします。
ギリギリのところで父親の足を弾き、彼女は2歩下がりました。
「ハッ、てめぇは俺には勝てねぇ」
「うるさい!」
ハジィが再度構えた瞬間。
父親の姿がブレました。そして、いつの間にか彼女の腹に拳が突き刺さっていました。
「──っかは」
「遅えんだよ」
父親の全体重が乗っているかのようなその拳。
読めない、見えない。父親の無慈悲な一撃は、彼女の背骨を粉砕していました。彼女は血を吐いて倒れると、土の味を噛み締めながら父親を見上げます。
「父ちゃん……殺す……」
「バカ野郎。俺はマッチを売れと言ったんだ」
父親はハジィに近づくと、右足を振り上げました。
「父──」
グシャリ。
そんな音を聞きながら、彼女の視界は真っ暗になっていきました。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
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