このゲームのススメ方
ココノハ1
「グヘヘ」
口元が綻びるのを止められない。その隙間から漏れる笑い声も。
薄気味悪いという自覚はあるが、そんなのどうでも良いぐらい、俺は愉悦に溢れていた。
俺はついに、ついに成功したんだ……。
精巧に包装されたパッケージを解いて中身を持ち出す。
眼鏡とヘッドフォンが融合したような品だ。
ただ、硝子の部分がサンバイザーのように広くなっていて暗色であった。
かけてみたら目を完全に覆った。視線を何処に向いても、まるでサングラス越しで見てるような暗がった風景しか見えなかった。
テンプルの先端はそのままヘッドフォンになっている。ヘッドバンドは少し斜めに傾いていて、頭に被るよりもその重さでバランスを取るような感じだ。
サイズ調整も出来て、実際の着用感はとても楽。
軽くて、かけ易い。
なのに、これ一つに内包されている機能はとんでもない最先端技術だ。
最新VRヘッドギア《バイザーMX2080》。
ゲーマーなら必ずしも持たなきゃならない最新機器。
それがついにこの手に。
これを手にする為に俺はこの一年間、ひたすらお金を蓄えてきた。
お袋から貰えるお小遣いに家事の手伝いから貰ったお金。親父と交渉して成績を上げる代わりに貰った補償金。そして友達に"宝"の中古販売。
長かった。
本当に長かった。
今日までの事を思い返すと、それはもう涙なしで語れない話だ。
社会人であるクソ姉は俺に比べて金に余裕があった。その分、早めにヘッドギアを買って、この一年間ずっとあの大ヒット作、《ランド・オブ・ガーディアンズ》を楽しんでいた。
俺がどれだけあのゲームを楽しみにしているのかを分かっていたくせに。
何時もネット放送で他の人のプレイを見る事しか出来なかった事を知っているはずなのに。
何時も音声入力でぎゃあぎゃあと楽しげにチャットしやがって。
それだけか。
俺が悔しがってるのを知っているのに毎日毎日ゲームの話をかけて来やがるし。
更に煽るようにからかって来るし。
ヤケクソになって襲い掛かっても返り討ちにされて、お袋が止めに来るまで痛めつけるし。
何で姉という存在はあんなに弟を苛めるのかや。
クッ!
考えるだけでまた眼から汗が……。
話が逸れた。
そんな事はもうどうでも良い。
何故なら俺にはもうこのヘッドギアがある。
それもあのクソ姉が持っているような古臭い奴じゃなくて最新の物が。
え?
ゲームを楽しめるのにヘッドギアは必須じゃないって?
そんなもん知ってるわい!
だけど、あのゲームは、《ランド・オブ・ガーディアンズ》は完璧なVRMMOに成功した歴史的な大作品なんだ。
それをヘッドギア無しでモニターでプレイするなんて、邪道にも程がある。
それにマウスとキーボードまで使う奴なんかいたら爆笑するレベルだ。
せめてゲームパッドでも使えっつーの!
って、何で俺は居るはずもない人間の事でムキになってんだ?
まぁ、俺はこのヘッドギアを買った時にゲームパッドをオマケに貰ったんだから大丈夫だけど。
しかも高性能激安で昔から多くのゲーマー達に愛されたあのパッドだ。
もう、負ける気がしないぜ、フフ。
俺は早速パソコンの設定を終えてヘッドギアと繋げた。
そしてクッションの上で楽になってヘッドギアを点ける。
目の前が暗くなって、代わりにヘッドギアの説明映像みたいな物が流れる。
「チッ」
即座にスキップ。
ただでこの日を待ち望んだ訳じゃねぇんだ。
説明書なんて暗記する程読んだってんだ。
早く始めやがれ、クソ!
おっと、いけないいけない。
テンション上がり過ぎだ。
平常心平常心。
スキップした後、何時もモニターで見る画面が視野を埋め尽くす。
視線を回すとマウスポインタもそれに従ってちゃんと動いた。
それをLOGのアイコンの上に載せてボタンを押した。
また目の前が暗くなって、いよいよゲームが始まった。
ログイン画面に変わったが、自動設定仕様なので、すぐ虹彩認識でログイン出来た。
そして出てきたキャラクター選択。
俺はニヤリと微笑した。
アバターは既に出来ていたから。
モニターでプレイするのは邪道だけど、アバターを創るのはノーカウント。
そう。
ゲームもあるしアップデートもやったけど、キャラメイクとモーション作成しかやって居なかったのだ。
この一年間!
ずっと!
それだけを!
コンチクショー!
でも、お陰で俺のアバターは最強に可愛いくなった。
ピンク色に輝く髪は長くてサラサラなリボン付きツインテールに、二次性徴直前の少女と言える可憐な体。遠慮気味の大きさの胸とヒップがポイントだ。
吊り目とちょっと開けたままの小さな唇がロリキャラにしか出せない妖艶さを醸し出している。
それに、何よりも目立つのは、その大きな狐耳と狐尻尾。
とてもふわふわそうで、このアバターの魅力を二三倍は増してくれる。
見ての通りケモミミ。
種族名も製作社の悪巫山戯か、そのままケモミミ族。
最初に見た時から俺の中にはこの種族一択だったのだ。
キャラ名はココノハ。
如何にも狐っ娘っぽい名前だ、フフ。
え?
何でこんな萌えキャラ使うのかって?
オタクキモって?
んな訳あるか!
俺は普通の中学生なんだよ!
まぁ、確かに、こんな可愛い萌え系のアバターを使うのはちょっと引くけど、俺がこのゲームを楽しむ為にはこの方法が一番だから仕方がない。
この日の為に立ててきた最高の計画の為だからな。
可愛いんけど。
仕方ないのだ。
一年間ずっと作ってきたモーション作成も全部確認したし。
そろそろやろうか。
俺はプレイボタンを押した。
画面が変わり、一人の美しい女性が目の前に現れた。
【ようこそ、守護者よ。お待ちしていました。私は世界樹様を支え、始まりの大陸を担うメリシ……】
スキップ連打!
いや、オープニング映像はネット放送の時に何度も見ましたから結構です、はい。
そして再び画面が変わると、そこは初心者の街、オーギュストだった。
「おおお」
余りの感動に、自然と声が出てしまった。
このオブジェクトの細かさ、圧倒的なマップの広さ、そして美人揃いのキャラクター達とその自然な動き。
グラボも変えて正解だった、本当。
暫く感想に立ち止まっていた後。
気を引き締めて自分なりのこのゲームの進め方を始めた。
「こ〜んに〜ちは〜!」
音声入力を使って大きく挨拶。
勿論、実際に叫んだ訳じゃなく、マイクの拡声機能で。
わざと伸ばせて言った所も問題なく表現されてフキダシに載っている。
その後の可愛いモーションを付けるのも忘れていない。
『なんだなんだ?』『狐っ娘キタwww』『カワイイ!』『声でっけー』『ケモミミ萌えェェェ!』『ノ』『ハロー』『ニュービーだぜヒャッハー』『こんちは』『ケモミミペロペロクンカクンカ』
声はちゃんと大きかったらしく、遠くにあるプレイヤー達もこちらに向いている。
いい感じだ。
「アタシ、このゲーム始めたばかりなんです〜助けてくれるカッコいい人、いませんか〜?」
必殺!
カワイイポーズ、キラッ☆!
説明しよう!
カワイイポーズ、キラッ☆!はどの方向から見ても上目遣いになる、女の子のおねだりを極めた者しか使えない究極の可愛いポーズだ。
この一年間、ずっと人気アイドルや萌えアニメを見ながら研究し続けて漸く生み出した俺の渾身のモーションである。
その破壊力は同じクラスのキモオタが「萌えェェェ〜!」って叫びながら鼻血を出し過ぎて病院送りになってしまった程の物である。
周りは一瞬の定積に包まれた。
そして、
『『『『『ここにいます!!!』』』』』
チョロイな。
ニヤリ。
◆ ◆ ◆
「キャッ」
『危ないッ!』
プシュッ!
致命的な一撃を食らったオークはHPが全部削られ、そのまま前のめりに倒れた。
その目先にはオークを倒した剣士と、後ろで尻餅をついたままの俺のアバター、ココノハがいた。
勿論、尻餅をつくなんて、普通は出来ない。
モーション作成で創った代物だ。
『大丈夫ですか、ココノハ?』
優しく尋ねる剣士のプレイヤー。
ゲームだから大丈夫もクソもねぇのに、ぷぷぷ。
でも、心の言葉とは裏返しに、
「こ、こわかった〜」
と、棒読みで返しておく。
棒読みでもチャットにはそのニュアンスが適切に伝わるから凄く便利。
言葉に合わせて涙ぐんだ顔&しゃがみ込む。
『もう心配ないです。モンスターは倒しましたから』
「助けてくれてありがとう、剣士さん」
そこでコンボ発動!
無理笑顔に目を拭くモーション!
『か、カワイイ……』
効いてる、効いてる。
ククク。
「でも、"エルフの破れ衣"中々出ませんねぇ」
『レアアイテムですから。見つかるまで手伝いしますから、頑張りましょう』
「剣士さん優しい、フフ」
今はこの彼にに寄生してパワーレベリングして貰っているんたが、同時にレアドロップも狙っていた。
レアアイテムは性能高いし、使わなくなったら金にもなる。
しかし、流石というか、ドロップ率は最悪だ。彼とパーティを組んでもう一時間弱なのに、まだ一個も出ていない。
まぁ、レベリングだけならこのくらいでいいし、そろそろ次のステップに移ろう。
『いえ、当然な事です。それよりも、私の名前は剣士じゃなく』
「あ、すみません。この後、他の人達にも誘われたので、そちらに向かいますね〜。では!」
俺はすぐパーティから落ちた。
まだ何か言おうとする剣士のプレイヤーを置去りにその場から離れる。
条件もクリアしたので、俺は街に戻って早速クラスチェンジした。
クラスはアコライト。
MMOでは絶対欠けない最重要なヒーラークラスだ。
これで計画は更に捗るだろう、フフ。
でも、その前に、
「あの、そこの素敵なプリストさん」
『アァン?俺に何の用だ?』
クラスチェンジを終えた俺は、街中で立ち止まったままアイテム製作をしていたプリスト風のプレイヤーに声をかけた。
「アタシ、このアイテムがどうしても必要なのに、買えなくて……助けてくれませんか?」
喰らえっ!
魔性の上目遣いポーズ!
『任せろ!』
製作を途中で投げ出したプリストは俺の要請を快く受け取った後、間髪入れず買いに行ってくれた。
颯爽と走っていく姿が滑稽過ぎる。
そして戻って来た彼の手には超高値のレジェンド級杖があった。
『持ってきたぞ!』
「ワーイ!ありがとう!」
〔"ご褒美Lv2"モーションの申請を送りました〕
『ご褒美?Lv2?何だこれ?』
首を傾げながらも、すかさずアクセプトされた相互モーション申請。俺はそれに応じて相手に飛び掛かった。
腕を大きく広げて宙に舞い上がり、そのプレイヤーの胸に飛び込む。
ぶっちゃけ、ただの抱っこだ。
だけど、
『ウッヒョォォォォー!』
効果は抜群だった!
この杖はめちゃくちゃ高いし、今の俺だと多分得るのに数ヶ月は掛かったのだろう。
そんな俺を助けてくれたお礼に、だ。
故に"ご褒美"。
この"ご褒美"モーションシリーズは誰かが俺の為に何かをしてくれた時の為に使う、言わばサービスって奴だ。
因みにLv10まである。
こんな広場で見せるのも勿論、計画である。
俺が抱きつくのを見た周りが一瞬ざわめく。
そして男女問わず、周りに集まって来た。
『ねぇねぇ、何か手伝おうか?』『パワーレベリングしない?』『ココノハちゃんマジ天使』『欲しいアイテムとかある?買ってくるよ?』『ねぇ、私にも!私にもしてェェ!』『退け!俺はレアクラスカンストしたぞ!』『レアハント行かない?いいスポーンポイント知ってるわよー』『うちのパーティに来て!ルート権全部譲るから!』『ハァハァ、今どんなパンツ履いてる?』『←御巡りさん、こっちです〜』『尻尾モフモフしたい』
来てる来てる、ククク。
すべては計画通り。
俺は事の順調さに密かに微笑した。
世の中には"姫"と言う存在がある。
リアルでの一国のお姫様じゃなく、ネットで人達が集まる女性キャラの事だ。
実際の所、その殆どが俺みたいにネカマだけど。
その可愛さと活発さのお陰で、姫は周りから物凄くチヤホヤされる。
そして、一番重要なのは、そんな中で姫は他のプレイヤー達に沢山のアイテムを貰ったり、レベリングを助けて貰ったりする事だ。
俺は一年遅れた分早めにレベル、装備、お金を全部揃えて、最速でこのゲームの全てを楽しむつもりだ。
その為なら何だってやる。
何だって犠牲する。
その中には俺のちっぽけなプライドさえあるのだ。
これこそが俺の遊戯。
俺の計画。
俺の進め方だ。
だから俺はこのゲームの姫になるのだ!
口元が綻びるのを止められない。その隙間から漏れる笑い声も。
薄気味悪いという自覚はあるが、そんなのどうでも良いぐらい、俺は愉悦に溢れていた。
俺はついに、ついに成功したんだ……。
精巧に包装されたパッケージを解いて中身を持ち出す。
眼鏡とヘッドフォンが融合したような品だ。
ただ、硝子の部分がサンバイザーのように広くなっていて暗色であった。
かけてみたら目を完全に覆った。視線を何処に向いても、まるでサングラス越しで見てるような暗がった風景しか見えなかった。
テンプルの先端はそのままヘッドフォンになっている。ヘッドバンドは少し斜めに傾いていて、頭に被るよりもその重さでバランスを取るような感じだ。
サイズ調整も出来て、実際の着用感はとても楽。
軽くて、かけ易い。
なのに、これ一つに内包されている機能はとんでもない最先端技術だ。
最新VRヘッドギア《バイザーMX2080》。
ゲーマーなら必ずしも持たなきゃならない最新機器。
それがついにこの手に。
これを手にする為に俺はこの一年間、ひたすらお金を蓄えてきた。
お袋から貰えるお小遣いに家事の手伝いから貰ったお金。親父と交渉して成績を上げる代わりに貰った補償金。そして友達に"宝"の中古販売。
長かった。
本当に長かった。
今日までの事を思い返すと、それはもう涙なしで語れない話だ。
社会人であるクソ姉は俺に比べて金に余裕があった。その分、早めにヘッドギアを買って、この一年間ずっとあの大ヒット作、《ランド・オブ・ガーディアンズ》を楽しんでいた。
俺がどれだけあのゲームを楽しみにしているのかを分かっていたくせに。
何時もネット放送で他の人のプレイを見る事しか出来なかった事を知っているはずなのに。
何時も音声入力でぎゃあぎゃあと楽しげにチャットしやがって。
それだけか。
俺が悔しがってるのを知っているのに毎日毎日ゲームの話をかけて来やがるし。
更に煽るようにからかって来るし。
ヤケクソになって襲い掛かっても返り討ちにされて、お袋が止めに来るまで痛めつけるし。
何で姉という存在はあんなに弟を苛めるのかや。
クッ!
考えるだけでまた眼から汗が……。
話が逸れた。
そんな事はもうどうでも良い。
何故なら俺にはもうこのヘッドギアがある。
それもあのクソ姉が持っているような古臭い奴じゃなくて最新の物が。
え?
ゲームを楽しめるのにヘッドギアは必須じゃないって?
そんなもん知ってるわい!
だけど、あのゲームは、《ランド・オブ・ガーディアンズ》は完璧なVRMMOに成功した歴史的な大作品なんだ。
それをヘッドギア無しでモニターでプレイするなんて、邪道にも程がある。
それにマウスとキーボードまで使う奴なんかいたら爆笑するレベルだ。
せめてゲームパッドでも使えっつーの!
って、何で俺は居るはずもない人間の事でムキになってんだ?
まぁ、俺はこのヘッドギアを買った時にゲームパッドをオマケに貰ったんだから大丈夫だけど。
しかも高性能激安で昔から多くのゲーマー達に愛されたあのパッドだ。
もう、負ける気がしないぜ、フフ。
俺は早速パソコンの設定を終えてヘッドギアと繋げた。
そしてクッションの上で楽になってヘッドギアを点ける。
目の前が暗くなって、代わりにヘッドギアの説明映像みたいな物が流れる。
「チッ」
即座にスキップ。
ただでこの日を待ち望んだ訳じゃねぇんだ。
説明書なんて暗記する程読んだってんだ。
早く始めやがれ、クソ!
おっと、いけないいけない。
テンション上がり過ぎだ。
平常心平常心。
スキップした後、何時もモニターで見る画面が視野を埋め尽くす。
視線を回すとマウスポインタもそれに従ってちゃんと動いた。
それをLOGのアイコンの上に載せてボタンを押した。
また目の前が暗くなって、いよいよゲームが始まった。
ログイン画面に変わったが、自動設定仕様なので、すぐ虹彩認識でログイン出来た。
そして出てきたキャラクター選択。
俺はニヤリと微笑した。
アバターは既に出来ていたから。
モニターでプレイするのは邪道だけど、アバターを創るのはノーカウント。
そう。
ゲームもあるしアップデートもやったけど、キャラメイクとモーション作成しかやって居なかったのだ。
この一年間!
ずっと!
それだけを!
コンチクショー!
でも、お陰で俺のアバターは最強に可愛いくなった。
ピンク色に輝く髪は長くてサラサラなリボン付きツインテールに、二次性徴直前の少女と言える可憐な体。遠慮気味の大きさの胸とヒップがポイントだ。
吊り目とちょっと開けたままの小さな唇がロリキャラにしか出せない妖艶さを醸し出している。
それに、何よりも目立つのは、その大きな狐耳と狐尻尾。
とてもふわふわそうで、このアバターの魅力を二三倍は増してくれる。
見ての通りケモミミ。
種族名も製作社の悪巫山戯か、そのままケモミミ族。
最初に見た時から俺の中にはこの種族一択だったのだ。
キャラ名はココノハ。
如何にも狐っ娘っぽい名前だ、フフ。
え?
何でこんな萌えキャラ使うのかって?
オタクキモって?
んな訳あるか!
俺は普通の中学生なんだよ!
まぁ、確かに、こんな可愛い萌え系のアバターを使うのはちょっと引くけど、俺がこのゲームを楽しむ為にはこの方法が一番だから仕方がない。
この日の為に立ててきた最高の計画の為だからな。
可愛いんけど。
仕方ないのだ。
一年間ずっと作ってきたモーション作成も全部確認したし。
そろそろやろうか。
俺はプレイボタンを押した。
画面が変わり、一人の美しい女性が目の前に現れた。
【ようこそ、守護者よ。お待ちしていました。私は世界樹様を支え、始まりの大陸を担うメリシ……】
スキップ連打!
いや、オープニング映像はネット放送の時に何度も見ましたから結構です、はい。
そして再び画面が変わると、そこは初心者の街、オーギュストだった。
「おおお」
余りの感動に、自然と声が出てしまった。
このオブジェクトの細かさ、圧倒的なマップの広さ、そして美人揃いのキャラクター達とその自然な動き。
グラボも変えて正解だった、本当。
暫く感想に立ち止まっていた後。
気を引き締めて自分なりのこのゲームの進め方を始めた。
「こ〜んに〜ちは〜!」
音声入力を使って大きく挨拶。
勿論、実際に叫んだ訳じゃなく、マイクの拡声機能で。
わざと伸ばせて言った所も問題なく表現されてフキダシに載っている。
その後の可愛いモーションを付けるのも忘れていない。
『なんだなんだ?』『狐っ娘キタwww』『カワイイ!』『声でっけー』『ケモミミ萌えェェェ!』『ノ』『ハロー』『ニュービーだぜヒャッハー』『こんちは』『ケモミミペロペロクンカクンカ』
声はちゃんと大きかったらしく、遠くにあるプレイヤー達もこちらに向いている。
いい感じだ。
「アタシ、このゲーム始めたばかりなんです〜助けてくれるカッコいい人、いませんか〜?」
必殺!
カワイイポーズ、キラッ☆!
説明しよう!
カワイイポーズ、キラッ☆!はどの方向から見ても上目遣いになる、女の子のおねだりを極めた者しか使えない究極の可愛いポーズだ。
この一年間、ずっと人気アイドルや萌えアニメを見ながら研究し続けて漸く生み出した俺の渾身のモーションである。
その破壊力は同じクラスのキモオタが「萌えェェェ〜!」って叫びながら鼻血を出し過ぎて病院送りになってしまった程の物である。
周りは一瞬の定積に包まれた。
そして、
『『『『『ここにいます!!!』』』』』
チョロイな。
ニヤリ。
◆ ◆ ◆
「キャッ」
『危ないッ!』
プシュッ!
致命的な一撃を食らったオークはHPが全部削られ、そのまま前のめりに倒れた。
その目先にはオークを倒した剣士と、後ろで尻餅をついたままの俺のアバター、ココノハがいた。
勿論、尻餅をつくなんて、普通は出来ない。
モーション作成で創った代物だ。
『大丈夫ですか、ココノハ?』
優しく尋ねる剣士のプレイヤー。
ゲームだから大丈夫もクソもねぇのに、ぷぷぷ。
でも、心の言葉とは裏返しに、
「こ、こわかった〜」
と、棒読みで返しておく。
棒読みでもチャットにはそのニュアンスが適切に伝わるから凄く便利。
言葉に合わせて涙ぐんだ顔&しゃがみ込む。
『もう心配ないです。モンスターは倒しましたから』
「助けてくれてありがとう、剣士さん」
そこでコンボ発動!
無理笑顔に目を拭くモーション!
『か、カワイイ……』
効いてる、効いてる。
ククク。
「でも、"エルフの破れ衣"中々出ませんねぇ」
『レアアイテムですから。見つかるまで手伝いしますから、頑張りましょう』
「剣士さん優しい、フフ」
今はこの彼にに寄生してパワーレベリングして貰っているんたが、同時にレアドロップも狙っていた。
レアアイテムは性能高いし、使わなくなったら金にもなる。
しかし、流石というか、ドロップ率は最悪だ。彼とパーティを組んでもう一時間弱なのに、まだ一個も出ていない。
まぁ、レベリングだけならこのくらいでいいし、そろそろ次のステップに移ろう。
『いえ、当然な事です。それよりも、私の名前は剣士じゃなく』
「あ、すみません。この後、他の人達にも誘われたので、そちらに向かいますね〜。では!」
俺はすぐパーティから落ちた。
まだ何か言おうとする剣士のプレイヤーを置去りにその場から離れる。
条件もクリアしたので、俺は街に戻って早速クラスチェンジした。
クラスはアコライト。
MMOでは絶対欠けない最重要なヒーラークラスだ。
これで計画は更に捗るだろう、フフ。
でも、その前に、
「あの、そこの素敵なプリストさん」
『アァン?俺に何の用だ?』
クラスチェンジを終えた俺は、街中で立ち止まったままアイテム製作をしていたプリスト風のプレイヤーに声をかけた。
「アタシ、このアイテムがどうしても必要なのに、買えなくて……助けてくれませんか?」
喰らえっ!
魔性の上目遣いポーズ!
『任せろ!』
製作を途中で投げ出したプリストは俺の要請を快く受け取った後、間髪入れず買いに行ってくれた。
颯爽と走っていく姿が滑稽過ぎる。
そして戻って来た彼の手には超高値のレジェンド級杖があった。
『持ってきたぞ!』
「ワーイ!ありがとう!」
〔"ご褒美Lv2"モーションの申請を送りました〕
『ご褒美?Lv2?何だこれ?』
首を傾げながらも、すかさずアクセプトされた相互モーション申請。俺はそれに応じて相手に飛び掛かった。
腕を大きく広げて宙に舞い上がり、そのプレイヤーの胸に飛び込む。
ぶっちゃけ、ただの抱っこだ。
だけど、
『ウッヒョォォォォー!』
効果は抜群だった!
この杖はめちゃくちゃ高いし、今の俺だと多分得るのに数ヶ月は掛かったのだろう。
そんな俺を助けてくれたお礼に、だ。
故に"ご褒美"。
この"ご褒美"モーションシリーズは誰かが俺の為に何かをしてくれた時の為に使う、言わばサービスって奴だ。
因みにLv10まである。
こんな広場で見せるのも勿論、計画である。
俺が抱きつくのを見た周りが一瞬ざわめく。
そして男女問わず、周りに集まって来た。
『ねぇねぇ、何か手伝おうか?』『パワーレベリングしない?』『ココノハちゃんマジ天使』『欲しいアイテムとかある?買ってくるよ?』『ねぇ、私にも!私にもしてェェ!』『退け!俺はレアクラスカンストしたぞ!』『レアハント行かない?いいスポーンポイント知ってるわよー』『うちのパーティに来て!ルート権全部譲るから!』『ハァハァ、今どんなパンツ履いてる?』『←御巡りさん、こっちです〜』『尻尾モフモフしたい』
来てる来てる、ククク。
すべては計画通り。
俺は事の順調さに密かに微笑した。
世の中には"姫"と言う存在がある。
リアルでの一国のお姫様じゃなく、ネットで人達が集まる女性キャラの事だ。
実際の所、その殆どが俺みたいにネカマだけど。
その可愛さと活発さのお陰で、姫は周りから物凄くチヤホヤされる。
そして、一番重要なのは、そんな中で姫は他のプレイヤー達に沢山のアイテムを貰ったり、レベリングを助けて貰ったりする事だ。
俺は一年遅れた分早めにレベル、装備、お金を全部揃えて、最速でこのゲームの全てを楽しむつもりだ。
その為なら何だってやる。
何だって犠牲する。
その中には俺のちっぽけなプライドさえあるのだ。
これこそが俺の遊戯。
俺の計画。
俺の進め方だ。
だから俺はこのゲームの姫になるのだ!
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