このゲームのススメ方

ノベルバユーザー174145

ココノハ2

 俺は沢山集まってきたプレイヤー達の中で適当に誰かを選び、そのパーティターゲットに加わった。

『ギャアァァ!』

 大柄な盾戦士がゴミのように蹴飛ばされて、HPがゼロになる。

『タンクが殺られた!』
『そんなバナナ』
『クソ!ヒーラーはどうしたんだよ!』

 盾役の戦士は最前線で常にモンスターと戦っているので、ヒーラーとの連携が最重要である。
 少しでもヒールが遅れたら戦況はすぐ傾いて、どれだけ体力を持っていても容易く倒れる。敵が強ければ強い程プレイヤーの実力問題になるから常時緊張を保たなきゃならない。
 それが失敗になったらしいこのパーティの現状は良いとはとても言えない。

 まぁ、ぶっちゃけ俺がミスだけどね。
 低レベルモブなのにパーティもほぼ全滅だし。

 しかし、

「うぅ、ごめんなさい」

 破滅の泣き顔ポーズ!

『『『大丈夫!!!』』』

 簡単に許されたようだ。

 こんな初歩的なミスでも可愛いなら平気。
 それが世の中のルールだ。

 本当チョロイなこいつら、ククク。

 次行こう、次!

『キシャァァァ』

 最後に断末魔を上げて、小魔女タイプのモンスターが流子になって消えていった。
 すぐ後ドロップアイテムが表示されるが、突然、アイテムが一個消えてしまう。

『あれ?さっきのドロップ、どこ行った?』
『マジかよ~あのリボンアイテム、結構高いぞ?』
『誰だよ。早く言えよ』

 イラッときたらしいパーティが互いを睨みつき始める。
 そこに俺が割り込んで、

「ねぇねぇ、これ、どう?似合う?」

 さっきドロップされたリボンを早速装備して見せた。
 勿論、その値段は知っている。

 続いて、

 魅惑の見せつけポーズ!

『『『カワイイ!!!』』』

 はい、高価アイテムゲット。

 マジチョロイわ、ククク。

 次ぎ!

『よし!もうちょっとだ!押し付けろ!』

 ディーラーの戦士による怒涛の連撃にウルフ形モンスターのHPがどんどん削られて行く。
 このまま行けば後数秒で倒されるだろう。

 ならないけどね、ククク。

「あ、戦士さん。その前に一度回復しますね。ヒール!」

『なっ!』

 俺が飛ばしたヒールスキルが少しズレて、戦士の代わりにモンスターの方に当たった。
 死にかけていたモンスターはヒールの光を浴びるとHPが回復した。

『ぬおぉぉぉ!やられるやられるやられるやられる!』
『ちょ!何やってるんだよ、ココノハちゃん!』
『とにかく抑えろ!DPS上げるんだ!』

 正に大混乱状態。
 これは叩かれるなぁ。
 絶対叩かれるシチュだ。
 皆に囲まれて暗い所に連れて行かれて散々罵られるパターンだ。

 だかしかし、

『やっちゃった、テヘペロ☆』

 必勝のテヘペロポーズ!

『『『問題ない!!!』』』

 マジチョロ。

 まぁ、そんな感じで俺は沢山のプレイヤー達とパーティを組んで、とにかく名前を売る事に集中した。時には失敗して、時にはアイテムをパクリして、たま〜にナイスプレイして。

 それにしても、わざとミスするのって意外と大変だな。
 中々疲れてきた。

 そして、百八個いるモーションの中で約六十個使い果たした所で、

『あ、ココノハちゃん』『これあげようか?』『カワイイ!』『楽しかったわ!』『モフモフしたい!』『お持ち帰りたい!』『このアイテム要る?』『俺要る?俺、アイテムになろうか?』『ドジっ娘萌えェェ!』『また一緒にやろうぜ』『またご褒美欲しい!』『私も!』『俺も』

 俺はオーギュストの街の中ではかなり顔が知れ渡れていた。

 それに対して俺は、

「ぎャハハハハハ!スゴ〜イ!たっのし〜い!お金がこんなにいっぱい!ちょうだい!もっとも〜っとちょうだい!はい、ご褒美Lv3、アハハハハハ!」

 調子に乗っていた。

 いや、別にガチのネカマになった訳じゃないよ?俺の目的はまだ覚えているから。
 他のプレイヤー達に寄生して早くレベル上げて貰ったり、お金とアイテム貰ったりして、とにかく上を目指し、ゲームのありとあらゆるコンテンツを隈無く楽しむと言う俺の崇高な目的を。

 ただ、あれだ。
 あれだよ、あれ。

 こう皆にチヤホヤされたり、拝められたりしていると、何だかウズウズしてゾクゾク来るんだ。
 自然とhighな気分になって、テンションが上がるのが止まらないのだ。
 そしてその感覚は気持ちいいどころか寧ろ快感すら感じる程だ。

 悪くない。
 全く悪くないぜ!

 あっち向いても、『カワイイ!』とか、こっち向いても『萌えェェェ!』とか。
 ワッショイワッショイ!と、皆が俺の周りに集まって盛り上がっていく。

 今までこんな経験あったっけ?

 リアルでの俺はどうかなと言うと凄く地味で、普通と言うのを極めていたとも言える程、普通オブ普通であった。
 ヘッドギアを買う為にちょ〜っとは勉強が出来るようにはなったけど、それもあくまで普通レベルの上位くらいだ。

 なのに今の俺はどうだ?
 これ程に注目されたり、人に好かれて、求められたりした事があったのか?

 無い!
 今までの人生の中でたっだ一度も無かった!

 でも、ここだと俺は普通じゃない。
 このゲームの中だと俺はもう地味な人間じゃないのだ。

 物凄く、特別な存在になってるんだ。

 俺の時代が漸く到来したのだ。

 だから、

 もっとお金を出せ!もっと良いアイテムを吐け!ご褒美が欲しければもっと働け!俺の前ではどうせ皆犬か豚に過ぎないのだ。
 こんな俺の為に働けて嬉しいよね?嬉しいに決まってんだろう!
 だからもっとだ!
 もっともっともっとも〜〜〜っと!

 もっとオォォォ!!!

 そんな時だった。

「私も女ですけど?」

 な、何だ、今の!?
 耳元に直に届いてる?

 まさか……。
 ボイスチャット!?

『何だwwww』『声優さん?』『声ツヤツヤwww』『リアル女キタァァァァ!』『結婚して下さい』『ktkr』『ヤバっ、興奮しちまったぜ』『俺も』『俺もだ』『声エッロいwww』『いったい誰だよwww』

 クソ!
 何処だ?
 何処にいやがる!?

「こっちよ」

 後ろを振り向くとそこには、

「腹筋!?」

 綺麗に割れた腹筋がいた。

 いや、そこじゃなくて!

 視線を上げると、上半身ほぼ全裸で筋肉隆々のハゲの戦士がそこにいた。

『『『『『『『wwwwwwwww』』』』』』』

 視野が笑い声のフキダシに埋め尽くされていく。

 って、バーサーカー!?

「全く、男ったら。ちょっと優しくされただけでこんなにもお馬鹿さんなるとは、本当呆れるわ。こんなインチキ臭い女、現実に居るはずもないのに」

 彼、いや、彼女?の前で俺は只々圧倒されて、立っている事しか出来なかった。

 バーサーカーって言えばLOGで結構名を馳せているプレイヤーで、その過激な戦闘方と無慈悲なプレイスタイルで有名な人だ。
 ネットでずっと見てきたから、俺も良くよく知っている。
 まさかそのバーサーカーが女だなんて。
 それにこんな……こんな透き通るような綺麗な声だなんて……。

「そこの貴方。男か女かは知りませんが、ちょっと調子に乗り過ぎじゃないですか?
 ゲームに関して他の人にあれこれ言うのはやりたくなかったのですが、やむを得なません。不本意ですが、貴方にはきちんと言って上げましょう。貴方のような迷惑極まりない方には少し説教が必要ですから。大体、ゲームとは言え、社会って言うのは……」

 それから約二十分後。
 漸く開放された俺の心はとても疲弊になっていた。
 社会の事から初めて人に迷惑かけるなとか、欲しい物は自分で探せとか。
 それに時々罵倒まで挟んできて。

 って言うか、いったい何だってんだ、あのアマ!
 女のくせに何であんな筋肉ダルマみたいなアバターなんだよ!
 もっとカワイイアバターにしろよ!
 エルフとかケモミミとか色々有るんだろうが!

 しかも説教までしやがって!
 何で俺があんな事言われなきゃならねぇんだ!
 あの上から目線、めちゃくちゃウザかったんだから!
 リアルだとどうせ何の声も出せないだろう?
 あんな奴、どうせ引きこもりの腐女子に違わねぇ!
 そんな奴に言いたい放題にされて、クソ!

 周りにいた豚共もあの女に引いてしまって、途中に逃げやがったし!
 何もかもムカつく!
 コンチクショー!

 はぁはぁはぁはぁ……。

 ふぅ……。

 何かを誤魔化すようにわざとテンションを上げてみたけど、やはり疲れ過ぎてテンションを維持出来なかった。

 ゲームの中の時間は夕暮れ。
 空と同じく黄昏れていた俺は頭が冷める事によって少し冷静さを取り戻した。

「…やり直すか……」

 別にあの女の言葉に従うって意味じゃない。
 さっきのやり取りは結構多くの奴らに見られてたし、その中では俺がネカマで、実は男だと勘付いた奴も居るかも知れない。
 こんな状態でまた同じ事をやらかしたら最悪の場合ネットで炎上される事も有り得る。
 まだ一日だけど、ここが潮時かも。

 とりあえず新しいアバターを創って、ココノハのアイテムとお金を全部そっちに回せば何とか端金にはなる。
 それを以て今度こそこのゲームを楽しみまくるんだ。

 じゃ早速ログアウトを……。

『あ、ここに居たんですね、ココノハ』

 その時、俺の前に誰かが近づいた。
 そいつは俺が最初にパーティを組んだ剣士のプレイヤーだった。

「あ、どうも」

 これ以上続ける気は最早無いので素で返した。しかし、剣士はそんな俺の態度に気付かなかったようだ。

『いやぁ、フレンド登録する前に行っちまって探すのに苦労しましたよ、あはは』

 本当何の用だ、こいつ?

 ハッ!?
 まさか、もう噂が広まって冷やかしに来たのか?

『はい、これ、受け取って下さい』

 来るかと思っていた言葉に構えていた俺は突然のトレード申請に戸惑ってしまった。
 疑問に思う中、トレードを受けると剣士からアイテムを一つ貰った。

「これは……"エルフの破れ衣"?」
『はい、まだゲット出来なかったかも思って、拾ってすぐココノハにあげようと思いまして』

 俺は呆然もしたまま何も言えなかった。
 まさか、本当にくれるとは思ってもしなかったからだ。
 もし俺の前で彼がこのアイテムをゲットしたならおねだりして貰えたかも知れないけど、それは面と向かって使わなきゃ効果無いし、あれから時間も経ったんだからわざわざ俺に届くのも結構面倒な事だった筈だ。
 それをこいつは……。

『ん?"エルフの破れ衣"?』『うわぁー、あいつ、女の子にあれをあげるんだ』『最低』『信じられない』『勇者だな』『痺れる〜』『憧れる〜』

『……あの…周りの皆さん、どうかしましたか?俺はただ服をあげただけなのに……』

『『『『ググレカス』』』』

『ウッ!そ、そんなに厳しく言わなくても……えぇと…え、る、ふ、の、……って、ウオッ!何ですか、これは!?ココノハ!こんな服、一体何のため……』

〔"ご褒美Lv6"モーションの申請を送りました〕

『え?何これ?ご褒美?』

 剣士は少し逡巡した後、申請を受け取った。

 その途端、俺のアバターは軽い動作でジャンプし彼の頬に顔を近づけた。

『『『『『エェェェェッ!?』』』』』

『えっ?』

 ニヤリ。
 俺は静かに微笑した。

「ありがとう、剣士さん!とっっっっっても嬉しかった!また今度一緒にパーティ組もう!約束だよ!」

 このバカは俺、いや、ココノハの為にわざわざこんな高価な物をくれた。
 つまりこいつはまだ俺が男だと言うのを知らないと言う事になる。

 しかも、さっきのこいつと周りの豚共の遣り取りから考えると、どうやら真相に近づいた奴は殆ど無いかも知れない。
 例えあったとしても、まだ何も起こって無いって事は黙認されてる可能性もあるって事だ。

 俺の時代はまだ終わっていなかった。

「皆も宜しくねぇ〜いい子には沢山ご褒美上げるよ〜!」

『『『『『『ウオォォォォ!』』』』』』


 ◆ ◆ ◆


「ふぅ……」

 ゲームからログアウトして、暫くその余韻に浸かっていた。

 貰った貰った。
 沢山貰ったぜ、ククク。

 結局あの後も続けて"姫"をやってしまい、気がつけば倉庫が満タンになって、丁度良かったのでこれで今日はお終いにした。

 落ちる前に確認したアイテムを思い返すと、本当、笑いが止まらなくて困った。

 おっと、よだれまで。

 俺はティッシュを取りに行こうとして立つと、

 部屋の扉に立ったまま、スマホで俺を撮っていた姉と目が合った。

「……」
「どうした?続けろ」
「続けるかよ!って、何勝手に撮ってんだよ!?」
「『いい子には沢山ご褒美上げるよ〜!』プフっ!」
「このクソアマがぁぁ!」

 そして姉弟喧嘩が始まった。

 結果?
 俺の方がボコボコにされたよ、コンチクショー!

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