このゲームのススメ方
メアリー2
最後の一匹にとどめを刺すと、蛇は無数の粒子となって消えていった。
まるで悪夢から目覚めたことを祝福するようにキラキラと輝きながら空に舞い上がる。
儚くて、とても綺麗な光景だった。
それを目にしながら私は、
「よ、よっしゃァァァァ!」
床に膝をついたまま両手を上げて盛大に叫んだ。
それはもう女子中学生とは思えないぐらいの大声で、何時も馬鹿にしてた男子さながらの姿であった。
その事は十分分かっていたが、心の底から込み上げるこの感情を抑えきれなかった。
私はこうして再び自由を得たのだから。
リアルの私はこんな感じだけど、LOGの中の私、"メアリー"はちゃんと女の子らしく可愛い仕草で喜んでいた。サポートAIに教えた通り、私から読み取った感情に合わせて適切なモーションを選んでくれたのだろう。
胸の前で両手で拳を握って、満面の笑みを作るメアリーの様子は某アイドルぽくて、とても可愛い。
感情が少しばかり過激な気がしなくもないけど。
可愛いといえば、と、私は視線を前に戻した。
そこには落ち着いた様子のまま自然体で立っているリルゥちゃんの姿があった。
私とは対照的に何のモーションも付けていない。
相変わらず、その天使のような愛らしい笑みを浮かべたままだ。
ても、心なしか、その笑みは何処か満足気に見えた。
今更だけど、やっぱり可愛い。
この娘、可愛い過ぎる。
この世の者とは思えない程に。
ふわふわする金髪の髪型に、それに似合う黄色いドレス。
あれは確か初心者街オーギュストの近くのフィールドに出る芋虫型モンスターから取れる素材を使った服だ。
素材集めも簡単だし、制作費用も安くて、生産系クラスの初心者がレベル上げに沢山作るような品だ。
防御も殆ど無いし、とてもありふれた普通のドレスなのに、リルゥちゃんが着ただけで外国の有名な児童モデルみたいに着こなしている。
一体、何処が違うのだろう?
その宝石みたいな青い瞳?
素朴だけど、肘まで覆うシルクの手袋?
それとも、あのフリル付きの白い靴下に赤くて愛らしい靴?
本当、何もかもが信じられないぐらい、
「可愛い……あ」
つい声に出してしまった。
まだ音声入力を点けたままなのに。
リルゥちゃんは顎を上げて私の頭の上に浮かんだフキダシに視線を向けた。
『ん、リルゥは可愛い』
「プハっ」
吹いてしまった。
幸い、今度はちゃんと音声入力を切っていたからフキダシは出なかった。
でも、自分のことを名前で呼ぶなんて。
しかも何故かドヤ顔。
あ、ちょっと違う。
表情には何の変化もないのに、不思議なことに、まるでドヤ顔をしたように感じ取れた。
本当、不思議。
でも、今は先ずこれだよね。
「助けてくれてありがとうございます!」
心を込めて、お礼を言った。
「本っ当に助かりました。もしリルゥさんが来なかったらどうなったのか」
もしリルゥちゃんが近くを通っていなかったら、私は今もあの蛇達に囲まれて居たんだろう。
あの状態で既に何時間も過ぎていたから、心も折れかけていて、精神的に死んじゃう所だった。
そんな私の窮地をリルゥちゃんが颯爽と現れて助けてくれた。今はもう本物の天使さんとでも思っている。それだけ可愛いし。
『大袈裟だよ。俺は別に大した事はしてない』
少しのタイムラグの後、そう返事を返すリルゥちゃん。
でも、
「俺……?」
さっきみたいに一人称が名前じゃないのはちょっと残念だけど、何で"俺"?
あ、そういえば、コウちゃんが以前教わったのがあった。
確か……。
「男の娘?」
『それは違う』
ラグ無しで即答で返ってきた。
何だろう?
リルゥちゃんから言葉に出来ない迫力を感じる。
何にかあったのかな?
『リルゥは確かにこんな可愛い女の子だけど、俺は男だから。二十代のおじさんだから』
あ、なるほど。
そういうことか。
私はすぐ理解した。
さっき自分のことを名前で呼んだのは一人称じゃなくて、あくまで自分のアバターのことを言っただけだったんだ。
それで、プレイヤー本人は男。
やっぱりちょっと残念に思ってしまう。
可愛いと思ったのにね。
でも、二十代の男だからっておじさんだなんて、普通はお兄さんじゃないかな?
コウちゃんちのシズ姉も二十代だけどまだお姉ちゃんだし。
「いえ、助けてくれたのは本当ですし」
『いやいや、俺の攻撃、全く通じなかっただろう?俺が無くても自力で何とかなったよ』
「いえいえいえ、そんなことないです!実際こうして脱出できましたから、リルゥさんのお陰です!」
『いやいやいやいや、俺、まだノビスだし。スキルも殆ど無いし』
「いえいえいえいえいえ」
『いやいやいやいやいやいや』
暫くこんな調子が続いた。
本当にそう思っているのか、ただ往生際が悪いのか、お互い全く引く気はなく、長い間、只々いやいやといえいえの言い合いっ子であった。
このままでは埒が明かないと思って、次のいえが出たら素直に認めようと決めた。
なのに、
『……』
「……」
何でそこでダブるのよ、リルゥちゃん!?
どうやらリルゥちゃんの方も同じ考えだったらしく、私達は立ち止まったままお互いの反応を待つだけだった。
そして、その事実を同時に気づき、とても気まずそうな気になってしまった。
『あ、そういえば……』
結局、リルゥちゃんの方から先に口火を切った。
おぉ、流石二十代の大人。
この状況が続いたところで何の意味も無いし。
正直、何か言わなきゃあまりの気まずさに耐えられなくなっちゃうから、本当助かった。
『さっきの蛇達、めちゃくちゃ多かったけど、よく死なずに済んだね。もしかして、レベル高い?』
「あ、いえ。私のクラスが防御特化なので持ち堪えただけです。その代わり攻撃力が低くて、さっきみたいな事態に陥っちゃって……」
思い出したらまた酷い気持ちになっちまった。
体も震えてきて、どうやらトラウマにでもなったみたいだ。
『そうなんだ……でも、そうだよな。折角創ったアバターを死なせるのは気が引くよな。俺ももしリルゥが死んだら絶対落ち込んじゃうよ』
「そ、そうですよね!」
リルゥちゃんから出たフキダシを見た瞬間、私は飛び跳ねるように食い付いた。
「このアバターを創るの、本っ当大変でしたから!出来るだけ可愛くて綺麗にする為にすっごく努力したんですから。それはもう愛着も抱きますよ。そんなアバターを死なせたら、イヤですよね?だから私はずっと防御力を中心に育てたんです。お陰で私、今まで一度も死んたこと無いですよ。凄いでしょう?」
私はまるでダムが崩れたように話し出した。
だって、仕方ないじゃない!
私のこんな考え方、理解されたのは初めてだから。コウちゃんすら理解してくれなかったんだから。
つい熱くなってしまってもしょうがないじゃない!
リルゥちゃんは私の突然の態度にまたビクッとする。
声も大きくなったせいか、フキダシもデカくなって気圧されたみたい。
そんな可愛い反応を魅せたリルゥちゃんともっと話したかったが、もう時間が無いそうだ。
「美奈?もう遅いからそろそろ寝なさい〜」
一階にいる母さんからの呼び声だ。
今日は蛇に襲われて結構時間を使ったせいか、かなり遅くまでインしていたようだ。
私は一時的に音声入力を切って部屋の外を向けて「は〜い」と返事をした。
「ごめんなさい。そろそろ落ちないといけないみたいです」
『あ、そっか。もうこんな時間』
「うぅ、まだリルゥさんとお話がしたかったのに……」
『いや、俺なんかと話してもあんまり面白くないと思うんだけど』
「そんな事ないですよ。あ、そうだ!フレンド登録しましょう、リルゥさん!」
私はパッドを操作し、ソーシャルメニューからフレンド登録を選択した。
〔フレンド申請を送りました〕
でも、何時まで待ってもリルゥちゃんは申請を受諾する様子はなかった。
「……あの…?リルゥさん?」
リルゥちゃんは全く動きもせず、立ち止まったままだった。
もしかして、またラグってるかな?
早く落ちないと母さんに何か言われるのに……。
『いいのか?』
そんな焦っている私にリルゥちゃんはぽつり呟いた。
「何がですか?」
『いや、俺と友達とかさ』
何だかオドオドしてるようなリルゥちゃん。
実際にそんなモーションを取った訳じゃないが、そんな気弱そうな台詞がリルゥちゃんの外見と相まっていて、自然とそう感じた。
でも、これ以上は本当にヤバそうだった。
これ以上時間をかけたら、母さんに怒られるかも知れない。
また焦れったい気分になってしまう。
「そんな事ないですってば!時間も無いですから、取り敢えず早く受諾して下さい!」
私が声を上げてそう言い出し直後、フレンド登録が無事に出来た。
フキダシから私の気持ちを読み取ってくれたみたいだ。
「それじゃ、先に落ちますね、リルゥさん」
私はそのままログアウトボタンを押した。
直前にリルゥちゃんが何か言ったように見えたけど、読む前にスクリーンが閉じちゃってしまった。
まぁ、いいか。
フレンド申請した時はちょっと強引だった気がするけど、これでまたリルゥちゃんとお話が出来る。
また明日にでもメッセージを送ろう。
今度はパーティーでも組んでクエストをするのも良いかも知れない。
お互い、攻撃力低いから苦労するかも知れないしけど、それもリルゥちゃんとなら大丈夫な気がする。
蛇に向かって一生懸命魔法を放つリルゥちゃん、とても可愛かったし。
そして何よりも私を理解してくれたしね!
「ウフフ」
私は母さんに怒られるまで、今後について考えながら静かに笑った。
◆◇◆◇◆◇
「でな訳で、新しいフレンドが出来たけど、コウちゃんも一緒に遊ばない?きっと楽しいよ?」
そんな出来事があった二日後、私は夕食を食べた後すぐLOGにインした。
一昨日は結局お母さんに怒られて、罰として昨日は一日中ゲーム禁止にされてしまった。
それで今日になって解禁となったが、残念な事にリルゥちゃんはまだログインしていないみたいだった。
しょんぼりしていながら今日は何をしようかと悩んでいると、幼馴染のコウちゃんもログインして来たので、リルゥちゃんの代わりに話し相手にしてみた。
「何が、でな訳で、だ、このアホ。それとコウちゃん言うな」
当のコウちゃんは何だか不機嫌そうに返した。
ボイスチャットで話しているので、何時ものような強がり口調の意地悪なコウちゃんだ。
「アホじゃないもん」
「いーや、アホだな。そんな状況、普通に強制ログアウトすればいいじゃないか?」
「言わないで!お願いだからそれは言わないでくれよ!後になって漸くその事が考えついたんだから!」
私は頭を抱えて藻掻いた。
あの時は蛇達に襲われて、そんな事考える暇なんってなかっただけだった。それだけ焦っていて、心的にも詰まっていたんだから。
「それに、だ。二十代のオッサンネカマ野郎が接近して来たのに、それを喜んでフレンド登録までしやかって」
「でもでも!シズ姉も同じ二十代だし。あんまり変わらないんじゃ……」
「はぁ……お前なぁ」
コウちゃんは本当に呆れたように溜息をついた。
「相手は男だぞ?それもロリ系のアバターなんか創ってネカマしやがるようなガチのキモオタだぞ?」
私はジィーとコウちゃんのアバターを見つめた。
お前だけには言われたくない!
そう言いたかったけど、またキツく言い返されるかもと思って口にはしなかった。
したかったけど。
したかったけど!
「あんな奴、絶対何か企んでる。きっと何も分かってない奴に近づいてアイテムとかお金とか強請るに違いない。お前はー」
『おぉ、ココノハちゃんだ』『こんばんは~』『いつも可愛いのぅ〜』『またパーティー組もうぜ!』『アタシ、ご褒美もらいたい』『俺はあの尻尾にモフモフしたい』
『は〜い!皆、ありがとう!また今度ねぇ!』
コウちゃんは瞬間的に音声入力に入れ替わって、モーションを混ぜながらそう返事した。
そのモーションがまたやたら可愛い。
他のプレイヤー達が遠ざかると、またボイスチャットに替えて私に話しかけた。
「お前はチャットでも女子っぽいのが分かるから、そんな輩が気安く巻き付くんだよ。気をつけろよ、ったく。いい歳してロリアバターとか、マジヤバイ。あんな奴程、相手を油断させてよからん事をするんだ。俺達はもう子供じゃないんだ。もうちょっと危機感を覚えろ、クソ!」
だから、お前だけには言われたくない!
私が心の底から込み上げる叫び声を全力で抑えているその時、
ピン!
いつの間にかログインしていたリルゥちゃんからメッセージが届いた。
「おい、美奈、聞いてるのか?ボケっとしないでちゃんと聞けよ。俺はお前の為にー」
「あぁもう!分かったわよ!もう聞きたくないからそれ以上言うな!」
ずっと続くかも知れないしコウちゃんのお説教を遮って私は叫んだ。
いい加減うるさかったから、ちょっとキツく言い返してみた。
こうでもしないとコウちゃん、絶対やめないから。
そんな私の反応に興味を失ったコウちゃんは「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
あんなモーションまであるんだ……。
それは兎も角。
「そんなに気になるなら直接会えばいいんじゃない?この後、パーティー組んでダンジョンに行くみたいから、一緒に行こう」
そんな私の言葉にコウちゃんはまた「フン」した後、一緒に行くと了承してくれた。
まるで悪夢から目覚めたことを祝福するようにキラキラと輝きながら空に舞い上がる。
儚くて、とても綺麗な光景だった。
それを目にしながら私は、
「よ、よっしゃァァァァ!」
床に膝をついたまま両手を上げて盛大に叫んだ。
それはもう女子中学生とは思えないぐらいの大声で、何時も馬鹿にしてた男子さながらの姿であった。
その事は十分分かっていたが、心の底から込み上げるこの感情を抑えきれなかった。
私はこうして再び自由を得たのだから。
リアルの私はこんな感じだけど、LOGの中の私、"メアリー"はちゃんと女の子らしく可愛い仕草で喜んでいた。サポートAIに教えた通り、私から読み取った感情に合わせて適切なモーションを選んでくれたのだろう。
胸の前で両手で拳を握って、満面の笑みを作るメアリーの様子は某アイドルぽくて、とても可愛い。
感情が少しばかり過激な気がしなくもないけど。
可愛いといえば、と、私は視線を前に戻した。
そこには落ち着いた様子のまま自然体で立っているリルゥちゃんの姿があった。
私とは対照的に何のモーションも付けていない。
相変わらず、その天使のような愛らしい笑みを浮かべたままだ。
ても、心なしか、その笑みは何処か満足気に見えた。
今更だけど、やっぱり可愛い。
この娘、可愛い過ぎる。
この世の者とは思えない程に。
ふわふわする金髪の髪型に、それに似合う黄色いドレス。
あれは確か初心者街オーギュストの近くのフィールドに出る芋虫型モンスターから取れる素材を使った服だ。
素材集めも簡単だし、制作費用も安くて、生産系クラスの初心者がレベル上げに沢山作るような品だ。
防御も殆ど無いし、とてもありふれた普通のドレスなのに、リルゥちゃんが着ただけで外国の有名な児童モデルみたいに着こなしている。
一体、何処が違うのだろう?
その宝石みたいな青い瞳?
素朴だけど、肘まで覆うシルクの手袋?
それとも、あのフリル付きの白い靴下に赤くて愛らしい靴?
本当、何もかもが信じられないぐらい、
「可愛い……あ」
つい声に出してしまった。
まだ音声入力を点けたままなのに。
リルゥちゃんは顎を上げて私の頭の上に浮かんだフキダシに視線を向けた。
『ん、リルゥは可愛い』
「プハっ」
吹いてしまった。
幸い、今度はちゃんと音声入力を切っていたからフキダシは出なかった。
でも、自分のことを名前で呼ぶなんて。
しかも何故かドヤ顔。
あ、ちょっと違う。
表情には何の変化もないのに、不思議なことに、まるでドヤ顔をしたように感じ取れた。
本当、不思議。
でも、今は先ずこれだよね。
「助けてくれてありがとうございます!」
心を込めて、お礼を言った。
「本っ当に助かりました。もしリルゥさんが来なかったらどうなったのか」
もしリルゥちゃんが近くを通っていなかったら、私は今もあの蛇達に囲まれて居たんだろう。
あの状態で既に何時間も過ぎていたから、心も折れかけていて、精神的に死んじゃう所だった。
そんな私の窮地をリルゥちゃんが颯爽と現れて助けてくれた。今はもう本物の天使さんとでも思っている。それだけ可愛いし。
『大袈裟だよ。俺は別に大した事はしてない』
少しのタイムラグの後、そう返事を返すリルゥちゃん。
でも、
「俺……?」
さっきみたいに一人称が名前じゃないのはちょっと残念だけど、何で"俺"?
あ、そういえば、コウちゃんが以前教わったのがあった。
確か……。
「男の娘?」
『それは違う』
ラグ無しで即答で返ってきた。
何だろう?
リルゥちゃんから言葉に出来ない迫力を感じる。
何にかあったのかな?
『リルゥは確かにこんな可愛い女の子だけど、俺は男だから。二十代のおじさんだから』
あ、なるほど。
そういうことか。
私はすぐ理解した。
さっき自分のことを名前で呼んだのは一人称じゃなくて、あくまで自分のアバターのことを言っただけだったんだ。
それで、プレイヤー本人は男。
やっぱりちょっと残念に思ってしまう。
可愛いと思ったのにね。
でも、二十代の男だからっておじさんだなんて、普通はお兄さんじゃないかな?
コウちゃんちのシズ姉も二十代だけどまだお姉ちゃんだし。
「いえ、助けてくれたのは本当ですし」
『いやいや、俺の攻撃、全く通じなかっただろう?俺が無くても自力で何とかなったよ』
「いえいえいえ、そんなことないです!実際こうして脱出できましたから、リルゥさんのお陰です!」
『いやいやいやいや、俺、まだノビスだし。スキルも殆ど無いし』
「いえいえいえいえいえ」
『いやいやいやいやいやいや』
暫くこんな調子が続いた。
本当にそう思っているのか、ただ往生際が悪いのか、お互い全く引く気はなく、長い間、只々いやいやといえいえの言い合いっ子であった。
このままでは埒が明かないと思って、次のいえが出たら素直に認めようと決めた。
なのに、
『……』
「……」
何でそこでダブるのよ、リルゥちゃん!?
どうやらリルゥちゃんの方も同じ考えだったらしく、私達は立ち止まったままお互いの反応を待つだけだった。
そして、その事実を同時に気づき、とても気まずそうな気になってしまった。
『あ、そういえば……』
結局、リルゥちゃんの方から先に口火を切った。
おぉ、流石二十代の大人。
この状況が続いたところで何の意味も無いし。
正直、何か言わなきゃあまりの気まずさに耐えられなくなっちゃうから、本当助かった。
『さっきの蛇達、めちゃくちゃ多かったけど、よく死なずに済んだね。もしかして、レベル高い?』
「あ、いえ。私のクラスが防御特化なので持ち堪えただけです。その代わり攻撃力が低くて、さっきみたいな事態に陥っちゃって……」
思い出したらまた酷い気持ちになっちまった。
体も震えてきて、どうやらトラウマにでもなったみたいだ。
『そうなんだ……でも、そうだよな。折角創ったアバターを死なせるのは気が引くよな。俺ももしリルゥが死んだら絶対落ち込んじゃうよ』
「そ、そうですよね!」
リルゥちゃんから出たフキダシを見た瞬間、私は飛び跳ねるように食い付いた。
「このアバターを創るの、本っ当大変でしたから!出来るだけ可愛くて綺麗にする為にすっごく努力したんですから。それはもう愛着も抱きますよ。そんなアバターを死なせたら、イヤですよね?だから私はずっと防御力を中心に育てたんです。お陰で私、今まで一度も死んたこと無いですよ。凄いでしょう?」
私はまるでダムが崩れたように話し出した。
だって、仕方ないじゃない!
私のこんな考え方、理解されたのは初めてだから。コウちゃんすら理解してくれなかったんだから。
つい熱くなってしまってもしょうがないじゃない!
リルゥちゃんは私の突然の態度にまたビクッとする。
声も大きくなったせいか、フキダシもデカくなって気圧されたみたい。
そんな可愛い反応を魅せたリルゥちゃんともっと話したかったが、もう時間が無いそうだ。
「美奈?もう遅いからそろそろ寝なさい〜」
一階にいる母さんからの呼び声だ。
今日は蛇に襲われて結構時間を使ったせいか、かなり遅くまでインしていたようだ。
私は一時的に音声入力を切って部屋の外を向けて「は〜い」と返事をした。
「ごめんなさい。そろそろ落ちないといけないみたいです」
『あ、そっか。もうこんな時間』
「うぅ、まだリルゥさんとお話がしたかったのに……」
『いや、俺なんかと話してもあんまり面白くないと思うんだけど』
「そんな事ないですよ。あ、そうだ!フレンド登録しましょう、リルゥさん!」
私はパッドを操作し、ソーシャルメニューからフレンド登録を選択した。
〔フレンド申請を送りました〕
でも、何時まで待ってもリルゥちゃんは申請を受諾する様子はなかった。
「……あの…?リルゥさん?」
リルゥちゃんは全く動きもせず、立ち止まったままだった。
もしかして、またラグってるかな?
早く落ちないと母さんに何か言われるのに……。
『いいのか?』
そんな焦っている私にリルゥちゃんはぽつり呟いた。
「何がですか?」
『いや、俺と友達とかさ』
何だかオドオドしてるようなリルゥちゃん。
実際にそんなモーションを取った訳じゃないが、そんな気弱そうな台詞がリルゥちゃんの外見と相まっていて、自然とそう感じた。
でも、これ以上は本当にヤバそうだった。
これ以上時間をかけたら、母さんに怒られるかも知れない。
また焦れったい気分になってしまう。
「そんな事ないですってば!時間も無いですから、取り敢えず早く受諾して下さい!」
私が声を上げてそう言い出し直後、フレンド登録が無事に出来た。
フキダシから私の気持ちを読み取ってくれたみたいだ。
「それじゃ、先に落ちますね、リルゥさん」
私はそのままログアウトボタンを押した。
直前にリルゥちゃんが何か言ったように見えたけど、読む前にスクリーンが閉じちゃってしまった。
まぁ、いいか。
フレンド申請した時はちょっと強引だった気がするけど、これでまたリルゥちゃんとお話が出来る。
また明日にでもメッセージを送ろう。
今度はパーティーでも組んでクエストをするのも良いかも知れない。
お互い、攻撃力低いから苦労するかも知れないしけど、それもリルゥちゃんとなら大丈夫な気がする。
蛇に向かって一生懸命魔法を放つリルゥちゃん、とても可愛かったし。
そして何よりも私を理解してくれたしね!
「ウフフ」
私は母さんに怒られるまで、今後について考えながら静かに笑った。
◆◇◆◇◆◇
「でな訳で、新しいフレンドが出来たけど、コウちゃんも一緒に遊ばない?きっと楽しいよ?」
そんな出来事があった二日後、私は夕食を食べた後すぐLOGにインした。
一昨日は結局お母さんに怒られて、罰として昨日は一日中ゲーム禁止にされてしまった。
それで今日になって解禁となったが、残念な事にリルゥちゃんはまだログインしていないみたいだった。
しょんぼりしていながら今日は何をしようかと悩んでいると、幼馴染のコウちゃんもログインして来たので、リルゥちゃんの代わりに話し相手にしてみた。
「何が、でな訳で、だ、このアホ。それとコウちゃん言うな」
当のコウちゃんは何だか不機嫌そうに返した。
ボイスチャットで話しているので、何時ものような強がり口調の意地悪なコウちゃんだ。
「アホじゃないもん」
「いーや、アホだな。そんな状況、普通に強制ログアウトすればいいじゃないか?」
「言わないで!お願いだからそれは言わないでくれよ!後になって漸くその事が考えついたんだから!」
私は頭を抱えて藻掻いた。
あの時は蛇達に襲われて、そんな事考える暇なんってなかっただけだった。それだけ焦っていて、心的にも詰まっていたんだから。
「それに、だ。二十代のオッサンネカマ野郎が接近して来たのに、それを喜んでフレンド登録までしやかって」
「でもでも!シズ姉も同じ二十代だし。あんまり変わらないんじゃ……」
「はぁ……お前なぁ」
コウちゃんは本当に呆れたように溜息をついた。
「相手は男だぞ?それもロリ系のアバターなんか創ってネカマしやがるようなガチのキモオタだぞ?」
私はジィーとコウちゃんのアバターを見つめた。
お前だけには言われたくない!
そう言いたかったけど、またキツく言い返されるかもと思って口にはしなかった。
したかったけど。
したかったけど!
「あんな奴、絶対何か企んでる。きっと何も分かってない奴に近づいてアイテムとかお金とか強請るに違いない。お前はー」
『おぉ、ココノハちゃんだ』『こんばんは~』『いつも可愛いのぅ〜』『またパーティー組もうぜ!』『アタシ、ご褒美もらいたい』『俺はあの尻尾にモフモフしたい』
『は〜い!皆、ありがとう!また今度ねぇ!』
コウちゃんは瞬間的に音声入力に入れ替わって、モーションを混ぜながらそう返事した。
そのモーションがまたやたら可愛い。
他のプレイヤー達が遠ざかると、またボイスチャットに替えて私に話しかけた。
「お前はチャットでも女子っぽいのが分かるから、そんな輩が気安く巻き付くんだよ。気をつけろよ、ったく。いい歳してロリアバターとか、マジヤバイ。あんな奴程、相手を油断させてよからん事をするんだ。俺達はもう子供じゃないんだ。もうちょっと危機感を覚えろ、クソ!」
だから、お前だけには言われたくない!
私が心の底から込み上げる叫び声を全力で抑えているその時、
ピン!
いつの間にかログインしていたリルゥちゃんからメッセージが届いた。
「おい、美奈、聞いてるのか?ボケっとしないでちゃんと聞けよ。俺はお前の為にー」
「あぁもう!分かったわよ!もう聞きたくないからそれ以上言うな!」
ずっと続くかも知れないしコウちゃんのお説教を遮って私は叫んだ。
いい加減うるさかったから、ちょっとキツく言い返してみた。
こうでもしないとコウちゃん、絶対やめないから。
そんな私の反応に興味を失ったコウちゃんは「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
あんなモーションまであるんだ……。
それは兎も角。
「そんなに気になるなら直接会えばいいんじゃない?この後、パーティー組んでダンジョンに行くみたいから、一緒に行こう」
そんな私の言葉にコウちゃんはまた「フン」した後、一緒に行くと了承してくれた。
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