喪女はヒモを飼うことは出来るのか
喪女、変身する
新井シェフが去り静まり返ると思った場は、オカマ幽霊に乗っ取られた。
意気揚々と私を囲み、どこから改変すべきか髪を持ち上げ、頬を引っ張り、あーだこーだと話始める。
「だからー、あっちゃんは卵形の顔だから、髪はボブがいいのよー」
「でもさぁ? 私としては、もっと女の子らしくフワッと、ほわわんとさせたいわけよぉ」
「いっそのことベリーショートで『出来る女』演出とかは?」
言ってる内容は女性の会話だが、見上げれば厚塗りのおっさん。
さっきまでの自分を痛めつけられる会話とのギャップもあって軽い目眩がしてきてならない。
「あのぉ……。盛り上がってるところ申し訳ないんですけど、今日はお開きにしません? いろいろと精神的にも疲れてしまったんで」
「はぁ!? 何言ってるのよ! 美は一日にして成らず、時間は待ってくれないのよ! そんなんじゃあっという間にお婆さんになってしまうわよ!」
いやいや、お婆さんになる前に呪われて死ぬ。
こんな事をしている間にも、死へのカウントダウンはされているのだから。
そうよ、こんな事してる場合じゃない!
ヒモを集めなきゃいけないのに、何を勘違い恋愛だの喪女説明会などしてるのよ!
「ヒモ集めないと!」
思ったままを大声で口に出すと、オカマ幽霊はキャっと声を上げて上空へ逃げた。
「やだぁ、驚くじゃないの。何よ突然」
「そうよぉー。オカマはデリケェトなのよ」
「あんたみたいなガサツな女には分からないでしょうけど!」
むさいおっさんの姿で『デリケェト』と言われたところで何の説得力もない。
さっさと引き上げて休んで、明日からの鋭気を養いたい……。
「ガサツで結構。とにかく私には時間がないんです。みんなを養うのに気力も体力も回復させなきゃいけないし、なによりヒモ集めなきゃ死んじゃうし」
それじゃ、と一向に解散してくれないメンバーから逃れるために自分の部屋から出て行こうとした。
「あっちゃん、頭悪いでしょー」
がしっと力強い手が私の身体を押さえつけた。
いや、正確にいえば、がっちり怨念で金縛りされて動けなくなった。
「ちょ! オカマ! 何すんのよ」
「あんた私達の話、理解してないでしょ。ばかねぇ」
「理解出来ないから時間の無駄だって言ってるんでしょ。さっきから何なのよ!」
動けない身体でオカマ幽霊を見上げながら文句をつけると、大きく溜息をついてオカマ幽霊同士で顔を見合わせた。
「あんた、今まで逆ナンして成功したのって実質二人でしょ」
「そ、そうだけど……。それが何よ」
「あっちゃんさ、ナンパされた事ないでしょ」
「ないけど……。それ、今関係ある?」
「大ありよぉ。ねぇー」
またもオカマ幽霊同士で『ねー』を繰り広げる。
めっちゃ馬鹿にされてる気がして(いや、実際してるんだろうが)、かなりムカついてくる。
「だ・か・ら! はっきり言いなさいよ! 遠回しにネチネチと。オカマが拗れると腐った女のような性格になるのかしら」
ムカつき過ぎてキレた。
辛抱が足りなくなってきてるのは、カルシウムでも足りないのかもしれない。
今度サプリでも買っておこう。
「もぉー。はっきり言うわよ。逆ナンが成功しないのはその見た目。ぜんっぜん華やかじゃないし、陰気臭い。そんな女に声掛けられても、一緒にホテルに行きたいとか思わないし」
「そうそう。自分でも『綺麗じゃないし』とか言ってるから分かってるとは思うけど、自分から喪女アピールしまくってる感じが拭えないわ」
「『喪女でいいもん』とか言いながら、処女捨てたいとか逆ナンしてヒモ集めるとかって。矛盾でしかないのよ」
金縛りを解かれないままの状態で、オカマ幽霊三人に囲まれて言いたい放題文句を付けられた。
そりゃさっき、よし子に喪女の説明されてグサっとはきたけど、改善しようとは思ってもいた。
ただ本当に面倒臭くて、腰が重くてやるまでの気力が追い付かないだけ。
逆ナンだって、自分がこんな見た目だから成功しないのも分かっている。
でもよし子が言うように、残念な見た目にお洒落な服やアクセサリーを付けたところで、急にパッと変わる訳ではない。
むしろ借り物の服を着たように浮いてしまって、変にしかならないのは目に見えている。
「私は私なりに努力はしたわよ。それでも喪女は喪女でしかないし、今さらどうしようもないから諦めてそのままでいるっていうのに! それをどうしろっていうのよ!」
心に溜まっていた何かが爆発して、今まで言わずにいた本音が零れ落ちてしまった。
あー、また退かれるだろうなぁ。
本日二回目の退かれる発言で、ここにいるヒモのみなさんは去って行ってしまうのかしら……。
振り出しに戻るのかぁ、とがっくりうな垂れて、いつの間にか身体が動くようになっていた事に気が付いた。
「あっちゃん、やっぱり純情乙女なのねぇ」
「これ、純情乙女じゃなくて、頑固者っていうんじゃない?」
「違うわよぉ。意固地っていうのよぉ。まぁ、やっと本音を吐いてもらえたってことで、改めて話すわ」
オカマ幽霊は急に真面目な顔をして話始めた。
「ここにあっちゃんが来て、毎日あれやんなきゃ、これしなきゃって頑張ってるの見て、私達『何か手伝えないかな』って思ったのよ」
「だけど私達、所詮幽霊でしょ。集めてるヒモになってあげたいけど条件に合わないし、どうしようかって話してたのよ」
「で、気付いたのよね。あっちゃんが逆ナンに成功しないのは、あっちゃんが自分の殻を打ち破ってないからだって」
オカマ幽霊、地縛霊だと思っていたが浮遊霊だったとは。
どうりで会社にいても逆ナンしに夜の街に出ていても、何か誰かの気配が感じるなってなってたのか。
「オカマ幽霊達……」
しんみりと心が温かくなるようなオカマ幽霊の心遣いに感動して、思わず涙がでるかと思った。
そんなにまで私のことを、と感謝を述べようとした。
が、人生の先輩であってもオカマ幽霊は所詮オカマ幽霊。心を許してはいけなかったと、後悔先に立たず。
「「「だからね、私達があっちゃんをビューティフォーでプリチーな女に作り替えてあげる事にしたの! 感謝してよね」」」
しんみりはどこへ行ったのやら、油断した隙に再び金縛りにかけられ、無理やりそのまま椅子に座らさせられた。
「さぁやるわよぉ。髪をふんわりさせるのよ! ちょっとコテ持ってきて、コテ!」
「やだぁ。今の時代コテなんて言わないわよぉ。ヘアアイロン、だっけ? そんな名前のに変わったのよ」
「どうでもいいからコテ持ってきてよぉ。あら? もう一人どこ行ったの?」
「ここよー。あっちゃんのゲジ眉、絶対ダメでしょ。ジョリっとしちゃおうと思ってぇ」
髪切りハサミにヘアアイロン、顔用カミソリ、誰のか分からないメイク道具と、オカマ幽霊達はあれこれ持ってきては人をオモチャにして楽しみ始めた。
おっさんの顔にいくら可愛いピンクのチークを入れたところで気持ち悪いものは気持ち悪い。
これがアラサーでも女の顔だったら、少しは色も映えれば見栄えもするってもんだ。
生きた人間ならばなおさら、あれこれと弄りがいがあるらしく『これ試したかったのよぉ。肌の色がないじゃない? どうしてもおかしな感じにしかならなくて』と、塗っては落としてと繰り返された。
「やーん、出来たわぁ。最高の作品になったわ」
「ホント、私達の過去最高作品ね!」
作品って……。人の事なんだと思ってるんだ。
しかも過去って、他にも誰か遊ばれた人がいるって事!?
うわぁ、どこで捕まえたんだろう。ここの住人だったのかなぁ。
それよりも鏡もない状態であれこれ弄られたから、自分が今どんな風になっているのか心配でしかならない。
今泉さんやシンヤ達の反応が『口ぽかーん』なだけに、どんなバケモノにされているか怖いんですけど。
「ちょ、ちょっとオカマ幽霊。鏡見せてよ」
「そんなに急かさなくても見せるわよぉ」
金縛りを解かれオカマ幽霊に背中を押されるまま、鏡台の前に立つ。
「え……。これ誰」
鏡に映ったのは、肩までのボブヘアーを内巻きにしてふんわりとさせた、色白でほんのりピンク色の頬をした女性だった。
細く弧を描いた眉は優しそうな印象を与えてくれる。
「やだぁ。あっちゃんに決まってるでしょ。その一重の目を見れば分かるでしょ」
失礼ながら確かに三白眼にも近い一重の目は、見慣れた私の目そのものだ。
「誰かアイプチ持ってないのぉ。やっぱりこの一重、感じ悪いー」
「悪かったですね、感じ悪くて」
しかしながらよくここまで化けたもんだ。
あのモッサイいかにも喪女な私ではなく、普通のOL的な可愛い系寄りの女になっている。
これで今来ているダッサイ服でなければ、大人しく可愛い女子と思う人間は多々いるだろう。
「ねぇねぇ! これ新井さんにも見せましょうよー。大変身ー」
オカマ幽霊達はぽかーん組を放置して、私を持ち上げる(?)と新井シェフの部屋まで運んでいった。
「新井さーん、見てみてー。あっちゃん大変身なのよぉ」
ノックもせずに新井シェフの部屋を開けると、そのまま私を新井シェフの寝転んでいるベッドの上に投げ下ろした。
「ぎゃっ!」
「痛っ!」
衝撃で起き上がった新井シェフは、衝撃物である私を見てこれまたぽかーんな顔になった。
「……どちら様で」
「言いたくないですが、和田亜樹子です」
私の顔を見たままフリーズした新井シェフは、解凍された直後顔を真っ赤にして布団を被った。
「ちょっと!? 何なのよ!」
「わ、わ、悪い! 早く降りてくれ! そのまま乗っかられていては、理性が……」
「理性が?」
「……このままではあっちゃんを襲ってしまう」
襲ってしまう、の意味を殴る蹴るの襲うと勘違いして、布団の上から殴ってやろうかと構えて思い返した。
『理性が』
つまりはムラムラと生理現象が起きてしまう、と。
「いいじゃないのぉ。そのまま新井シェフに捧げちゃいなさいよぉ」
オカマ幽霊の言葉でハッとし、慌ててベッドから飛び降りて部屋を脱出した。
(何!? 何!? どゆこと!? この万年喪女を『襲いたい』ですと!?)
混乱しながらも初めての経験に赤面し、そして確信した。
(これは、いける!)
今度こそ逆ナンが成功する。
見た目だけに騙されてヒモになるやつが、きっと現れる!
オカマ幽霊に遊ばれはしたものの、結果オーライになりそうな予感がしてならない。
「しかし、この服で逆ナンしたところでなぁ……」
よし子に頼むと高そうな服買って来られるし、かといって自分で買いにいってはまた残念なものになってしまうし。
一歩進んでまた一歩下がる。
喪女脱出は一日にして成らず。
意気揚々と私を囲み、どこから改変すべきか髪を持ち上げ、頬を引っ張り、あーだこーだと話始める。
「だからー、あっちゃんは卵形の顔だから、髪はボブがいいのよー」
「でもさぁ? 私としては、もっと女の子らしくフワッと、ほわわんとさせたいわけよぉ」
「いっそのことベリーショートで『出来る女』演出とかは?」
言ってる内容は女性の会話だが、見上げれば厚塗りのおっさん。
さっきまでの自分を痛めつけられる会話とのギャップもあって軽い目眩がしてきてならない。
「あのぉ……。盛り上がってるところ申し訳ないんですけど、今日はお開きにしません? いろいろと精神的にも疲れてしまったんで」
「はぁ!? 何言ってるのよ! 美は一日にして成らず、時間は待ってくれないのよ! そんなんじゃあっという間にお婆さんになってしまうわよ!」
いやいや、お婆さんになる前に呪われて死ぬ。
こんな事をしている間にも、死へのカウントダウンはされているのだから。
そうよ、こんな事してる場合じゃない!
ヒモを集めなきゃいけないのに、何を勘違い恋愛だの喪女説明会などしてるのよ!
「ヒモ集めないと!」
思ったままを大声で口に出すと、オカマ幽霊はキャっと声を上げて上空へ逃げた。
「やだぁ、驚くじゃないの。何よ突然」
「そうよぉー。オカマはデリケェトなのよ」
「あんたみたいなガサツな女には分からないでしょうけど!」
むさいおっさんの姿で『デリケェト』と言われたところで何の説得力もない。
さっさと引き上げて休んで、明日からの鋭気を養いたい……。
「ガサツで結構。とにかく私には時間がないんです。みんなを養うのに気力も体力も回復させなきゃいけないし、なによりヒモ集めなきゃ死んじゃうし」
それじゃ、と一向に解散してくれないメンバーから逃れるために自分の部屋から出て行こうとした。
「あっちゃん、頭悪いでしょー」
がしっと力強い手が私の身体を押さえつけた。
いや、正確にいえば、がっちり怨念で金縛りされて動けなくなった。
「ちょ! オカマ! 何すんのよ」
「あんた私達の話、理解してないでしょ。ばかねぇ」
「理解出来ないから時間の無駄だって言ってるんでしょ。さっきから何なのよ!」
動けない身体でオカマ幽霊を見上げながら文句をつけると、大きく溜息をついてオカマ幽霊同士で顔を見合わせた。
「あんた、今まで逆ナンして成功したのって実質二人でしょ」
「そ、そうだけど……。それが何よ」
「あっちゃんさ、ナンパされた事ないでしょ」
「ないけど……。それ、今関係ある?」
「大ありよぉ。ねぇー」
またもオカマ幽霊同士で『ねー』を繰り広げる。
めっちゃ馬鹿にされてる気がして(いや、実際してるんだろうが)、かなりムカついてくる。
「だ・か・ら! はっきり言いなさいよ! 遠回しにネチネチと。オカマが拗れると腐った女のような性格になるのかしら」
ムカつき過ぎてキレた。
辛抱が足りなくなってきてるのは、カルシウムでも足りないのかもしれない。
今度サプリでも買っておこう。
「もぉー。はっきり言うわよ。逆ナンが成功しないのはその見た目。ぜんっぜん華やかじゃないし、陰気臭い。そんな女に声掛けられても、一緒にホテルに行きたいとか思わないし」
「そうそう。自分でも『綺麗じゃないし』とか言ってるから分かってるとは思うけど、自分から喪女アピールしまくってる感じが拭えないわ」
「『喪女でいいもん』とか言いながら、処女捨てたいとか逆ナンしてヒモ集めるとかって。矛盾でしかないのよ」
金縛りを解かれないままの状態で、オカマ幽霊三人に囲まれて言いたい放題文句を付けられた。
そりゃさっき、よし子に喪女の説明されてグサっとはきたけど、改善しようとは思ってもいた。
ただ本当に面倒臭くて、腰が重くてやるまでの気力が追い付かないだけ。
逆ナンだって、自分がこんな見た目だから成功しないのも分かっている。
でもよし子が言うように、残念な見た目にお洒落な服やアクセサリーを付けたところで、急にパッと変わる訳ではない。
むしろ借り物の服を着たように浮いてしまって、変にしかならないのは目に見えている。
「私は私なりに努力はしたわよ。それでも喪女は喪女でしかないし、今さらどうしようもないから諦めてそのままでいるっていうのに! それをどうしろっていうのよ!」
心に溜まっていた何かが爆発して、今まで言わずにいた本音が零れ落ちてしまった。
あー、また退かれるだろうなぁ。
本日二回目の退かれる発言で、ここにいるヒモのみなさんは去って行ってしまうのかしら……。
振り出しに戻るのかぁ、とがっくりうな垂れて、いつの間にか身体が動くようになっていた事に気が付いた。
「あっちゃん、やっぱり純情乙女なのねぇ」
「これ、純情乙女じゃなくて、頑固者っていうんじゃない?」
「違うわよぉ。意固地っていうのよぉ。まぁ、やっと本音を吐いてもらえたってことで、改めて話すわ」
オカマ幽霊は急に真面目な顔をして話始めた。
「ここにあっちゃんが来て、毎日あれやんなきゃ、これしなきゃって頑張ってるの見て、私達『何か手伝えないかな』って思ったのよ」
「だけど私達、所詮幽霊でしょ。集めてるヒモになってあげたいけど条件に合わないし、どうしようかって話してたのよ」
「で、気付いたのよね。あっちゃんが逆ナンに成功しないのは、あっちゃんが自分の殻を打ち破ってないからだって」
オカマ幽霊、地縛霊だと思っていたが浮遊霊だったとは。
どうりで会社にいても逆ナンしに夜の街に出ていても、何か誰かの気配が感じるなってなってたのか。
「オカマ幽霊達……」
しんみりと心が温かくなるようなオカマ幽霊の心遣いに感動して、思わず涙がでるかと思った。
そんなにまで私のことを、と感謝を述べようとした。
が、人生の先輩であってもオカマ幽霊は所詮オカマ幽霊。心を許してはいけなかったと、後悔先に立たず。
「「「だからね、私達があっちゃんをビューティフォーでプリチーな女に作り替えてあげる事にしたの! 感謝してよね」」」
しんみりはどこへ行ったのやら、油断した隙に再び金縛りにかけられ、無理やりそのまま椅子に座らさせられた。
「さぁやるわよぉ。髪をふんわりさせるのよ! ちょっとコテ持ってきて、コテ!」
「やだぁ。今の時代コテなんて言わないわよぉ。ヘアアイロン、だっけ? そんな名前のに変わったのよ」
「どうでもいいからコテ持ってきてよぉ。あら? もう一人どこ行ったの?」
「ここよー。あっちゃんのゲジ眉、絶対ダメでしょ。ジョリっとしちゃおうと思ってぇ」
髪切りハサミにヘアアイロン、顔用カミソリ、誰のか分からないメイク道具と、オカマ幽霊達はあれこれ持ってきては人をオモチャにして楽しみ始めた。
おっさんの顔にいくら可愛いピンクのチークを入れたところで気持ち悪いものは気持ち悪い。
これがアラサーでも女の顔だったら、少しは色も映えれば見栄えもするってもんだ。
生きた人間ならばなおさら、あれこれと弄りがいがあるらしく『これ試したかったのよぉ。肌の色がないじゃない? どうしてもおかしな感じにしかならなくて』と、塗っては落としてと繰り返された。
「やーん、出来たわぁ。最高の作品になったわ」
「ホント、私達の過去最高作品ね!」
作品って……。人の事なんだと思ってるんだ。
しかも過去って、他にも誰か遊ばれた人がいるって事!?
うわぁ、どこで捕まえたんだろう。ここの住人だったのかなぁ。
それよりも鏡もない状態であれこれ弄られたから、自分が今どんな風になっているのか心配でしかならない。
今泉さんやシンヤ達の反応が『口ぽかーん』なだけに、どんなバケモノにされているか怖いんですけど。
「ちょ、ちょっとオカマ幽霊。鏡見せてよ」
「そんなに急かさなくても見せるわよぉ」
金縛りを解かれオカマ幽霊に背中を押されるまま、鏡台の前に立つ。
「え……。これ誰」
鏡に映ったのは、肩までのボブヘアーを内巻きにしてふんわりとさせた、色白でほんのりピンク色の頬をした女性だった。
細く弧を描いた眉は優しそうな印象を与えてくれる。
「やだぁ。あっちゃんに決まってるでしょ。その一重の目を見れば分かるでしょ」
失礼ながら確かに三白眼にも近い一重の目は、見慣れた私の目そのものだ。
「誰かアイプチ持ってないのぉ。やっぱりこの一重、感じ悪いー」
「悪かったですね、感じ悪くて」
しかしながらよくここまで化けたもんだ。
あのモッサイいかにも喪女な私ではなく、普通のOL的な可愛い系寄りの女になっている。
これで今来ているダッサイ服でなければ、大人しく可愛い女子と思う人間は多々いるだろう。
「ねぇねぇ! これ新井さんにも見せましょうよー。大変身ー」
オカマ幽霊達はぽかーん組を放置して、私を持ち上げる(?)と新井シェフの部屋まで運んでいった。
「新井さーん、見てみてー。あっちゃん大変身なのよぉ」
ノックもせずに新井シェフの部屋を開けると、そのまま私を新井シェフの寝転んでいるベッドの上に投げ下ろした。
「ぎゃっ!」
「痛っ!」
衝撃で起き上がった新井シェフは、衝撃物である私を見てこれまたぽかーんな顔になった。
「……どちら様で」
「言いたくないですが、和田亜樹子です」
私の顔を見たままフリーズした新井シェフは、解凍された直後顔を真っ赤にして布団を被った。
「ちょっと!? 何なのよ!」
「わ、わ、悪い! 早く降りてくれ! そのまま乗っかられていては、理性が……」
「理性が?」
「……このままではあっちゃんを襲ってしまう」
襲ってしまう、の意味を殴る蹴るの襲うと勘違いして、布団の上から殴ってやろうかと構えて思い返した。
『理性が』
つまりはムラムラと生理現象が起きてしまう、と。
「いいじゃないのぉ。そのまま新井シェフに捧げちゃいなさいよぉ」
オカマ幽霊の言葉でハッとし、慌ててベッドから飛び降りて部屋を脱出した。
(何!? 何!? どゆこと!? この万年喪女を『襲いたい』ですと!?)
混乱しながらも初めての経験に赤面し、そして確信した。
(これは、いける!)
今度こそ逆ナンが成功する。
見た目だけに騙されてヒモになるやつが、きっと現れる!
オカマ幽霊に遊ばれはしたものの、結果オーライになりそうな予感がしてならない。
「しかし、この服で逆ナンしたところでなぁ……」
よし子に頼むと高そうな服買って来られるし、かといって自分で買いにいってはまた残念なものになってしまうし。
一歩進んでまた一歩下がる。
喪女脱出は一日にして成らず。
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