ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

【スピンオフ・修善寺の過去】高校生編「確信」

今回は2章6話の修善寺視点です。
本編との違いをお楽しみいただければと思います。
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 強制デート当日。

 私は普段より二時間程早く起きて仕度を始めていた。
 不良(という設定)の晴流と私を二人きりにすることで私への罰になるだろうという瑛美の作戦だが、残念ながら晴流が平凡な男であるのは既に見破っているので今日のデートは全くもって効果がないのである。

 とはいえ同世代の異性と二人で出掛けるなんて初めての体験。しかも相手は瑛美の想い人だ。緊張しないはずがない。
 昼ドラだったらこのまま禁断の恋に落ちてしまいそうだな、と思いつつ私は洗面台の鏡の前に立つ。

「これで……ばっちりかのう」

 前髪良し。ネクタイ良し。スカートの丈も良し。着るのはもちろん制服だ。

 朝食を済ませて持ち物のチェックを終えた後、夜勤明けで眠りについている母を起こさないように静かに玄関へ向かう。

 さて、人生初のデートを始めますか。


 ◆


『間もなく元町・中華街、終点です。落とし物、お忘れ物の無いよう……』

 待ち合わせ場所の元町・中華街駅に到着したのは午前九時五十分。集合は十時だから丁度良い時間だろう。
 地下の奥深くにあるホームに到着し、列車のドアが開く。ここからはいつ晴流と遭遇するか分からないから気を抜かないようにしないとね。
 凛とした態度で列車から降りる。すると直後、背後から声を掛けられた。

「修善寺さんこんにちは。あ、今日はその、よろしく」
「お、おわぁ! 宮ヶ谷殿、先におられたのか!」

 いくらなんでも早すぎるぞ。軽い悲鳴まで上げてしまったではないか。

「修善寺さん……今日も制服なんだね」
「あぁ。何分、まともな服がこれしか無いからのう」

 自分で言っておいて難だが虚しくなってくるな。まあ、この貧乏生活にも慣れたけど。

「そう言うお主の服は如何にも庶民的な色をしているのう」

 服も買えない貧乏人に言われたくねぇとツッコまれそうだが、セレブという設定を演じるため仕方がない。

「つかぬことを聞くが、その服はいくらで買ったのじゃ? ついでにどこで買ったのかも聞きたいのう」
「え……? この服?」
「あぁそうじゃ」

 金銭的余裕が無いため洋服が買えないことは分かっていたが、晴流のような一般市民の情報は一切知らなかったので単なる興味だけで聞いてみた。

「えっと……。このシャツは近所のスーパーで確か七百九十八円で」
「ナナキュッパじゃと!?」

 衝撃。
 今までの私の常識では洋服は一着一万円が最低価格だと思っていたので、彼の言葉を聞いて驚いた。世の中にはこんなにもリーズナブルな服があるのかと。これなら私にも買えそうだ。

「おっとこんな所で取り乱して申し訳ない」
「いや、別に俺は構わないけど……」
「そうか。いやぁやはり宮ヶ谷殿は良い奴じゃのう。それに随分と話しやすい」
「はは、それはどうも」

 晴流が不良ではないことは分かっているが、それでも不思議なくらいに自然な会話が成立している。しかも彼はまったく不良らしさを演じていない。これではもはや唯のお見合いデートである。

「じゃあとりあえず駅から出るとしようかのう」
「あの、ちょっと待って修善寺さん!」

 一歩踏み出したところで呼び止められた。

「宮ヶ谷殿、どうしたのじゃ」
「いや、その……。俺のこと、怖くないの?」

 あれ? まさか晴流は今でも私がビビっていると思っていたのかな? 怖さのの字も見受けられなかったから、てっきり状況を理解していたのかと思ったが……。

「左様。全然怖くなんかないのじゃ」
「そ、そっか……」

 私の答えを聞いた晴流は少しだけ落ち込んでいるような様子。男の思考回路には疎い私だが、彼は今ショックを受けているということは分かった。

「やっぱ気付いてたんだね……」
「あぁ。じゃがそんな暗い顔をすることはなかろう。先程も申したがお主は良い奴じゃ」
「そうか……?」

 悪い奴だったらきっと私と会話することすら間々ならないだろう。それに瑛美が選んだ男なのだから間違いない。

「わしは不良という言葉を聞くと、つい暴走してしまう癖があるのじゃ」

 少しの間を置いた後、私は言い訳を始めた。

「ということは昨日のあれも……?」
「左様。唐突に殿方が現れて瑛美殿に言われたのだから、つい信じてしまったんじゃ」
「暴走、ねぇ……」
「童の醜い姿を晒してしまって申し訳なかった。すまないのう」
「いや俺は全然大丈夫だから……」

 晴流は特段驚く表情を見せずに真剣に私の話を聞いているようだった。普通ならドン引きされてもおかしくないような内容だと思うのだが……。

「……やはり宮ヶ谷殿は何でも受け止めてくれる。聞いてた通りじゃ」
「え? 聞いてるって……?」
「昨日、我に返ってから桜に聞き出したんじゃよ」
「桜ちゃんに?」
「そうじゃ。宮ヶ谷殿は不良なんかではないとわしもすぐ気付いたのじゃが、一応素性を確かめたくての」
「素性……か」

 いくら晴流が問題ないとはいえ私だけの判断では心許ない。百パーセント事実だと言い切れないのは私はあまり好きではないのだ。

「桜に聞いたらあの子、得意気に話しておったぞ」
「変な事とか……言ってなかった?」
「いやいや、逆に童が驚く位褒めちぎってたぞ」
「はは、なら良かったかな」

 桜は晴流を好いているのだからべた褒めするのは想定内だったが、まさかあれ程とは……。だが私の推測は確信へと導くことができた。

「お主が瑛美殿の側にいれば、きっと大丈夫じゃな」
「え? ……今なんて」
「ふふ、何でもないのじゃ。こっちの都合だからの」

 笑顔で誤魔化す。
 私情を彼に聞かせてはならない。だって最終的に決断するのは晴流なのだから。



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※次回は2/14(木)にバレンタインの番外編を投稿する予定です。

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