ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

【スピンオフ・修善寺の過去】中学生編「水面下の修羅場」

「いえいえそんな! 私に聞いても全然面白くないですよ」

 商品を注文した後、私は桜にとある質問をしていた。

「そんな事は無いじゃろう。お主にも想い人の一人や二人がいるのではないかえ?」

 ガールズトークといえばまず出てくる話題だろう。所謂恋バナって奴だ。

「まあ…………いないことはないです、けど」
「ほほう。なら其奴そやつはどんな奴なのじゃ?」
「そうですね……」

 不躾ながら突っ込んだ質問をしてみる。プライベートな内容なので桜が答える義務は無いのだが、可愛い後輩の動向はついつい気になってしまうのだ。

 ところが直後、私は少しだけ後悔してしまうことになる。

「晴流にぃ、と私が呼んでいる方です。実家の近所に住んでいて年齢は私より一つ上なんですが……」

 まさか……いや、間違いないだろう。桜が好きと答えたその人は瑛美の想い人である『ハル』と同一人物だ。名前、年齢、幼馴染みという私が知っている情報全てに一致している。これは大変な事になってきたぞ……。

「そうか……。それで、お主は晴流という殿方のどこに惹かれたのかえ?」

 私は冷静を装い、話を深く掘り下げていく。我ながらたちの悪い性格をしていると思うが、今は心を鬼にして聞いてみよう。

「優しいんです。一緒に遊んでいても細かい気配りができているというか……。本人はきっと意識していないと思うんですけど、そこがまた格好良くて……」

 桜は青空を眺めながらうっとりとした表情を浮かべている。これぞ恋する乙女といったところだろう。私も彼女のように純粋な気持ちに浸ってみたいものである。

「ふむ。想いは十分って事じゃな」
「はい。ただ……私はいつも見ているだけなんですよね。幼稚園の頃も晴流にぃはお姉ちゃんとよく遊んでいて、私はお姉ちゃんのおまけというか……。除け者にはされなかったですけど、二人との距離を比べると私は晴流にぃと離れていると思うんですよ」

 恐らく年の差も理由の一つになるのだろう。各学年という横割り組織の考えだと、どうしても同い年の子の方が親しみを感じてしまう。その点において桜は瑛美に大きな差をつけられているのだ。

「ならお主はどうする? このまま想いを募らせるだけで良いのかえ?」
「そんなの…………嫌です。嫌に決まっているじゃないですか!」

 桜はドンッと両手でテーブルを叩いて反論した。手元のグラスに入っている水が大きく揺れる。
 別に彼女を煽るつもりは無かったのだが……結果として桜のハートに火をつけることになってしまった。

「私は晴流にぃが好きなんです! でもお姉ちゃんも大好きですから、晴流にぃに想いを伝えた上で三人が仲良くなれるように頑張りますよ!」
「ほほう、そうか……」

 そうなると良いねと心から思うが、残念ながら桜の願いは果たされないだろう。何故なら瑛美もまた晴流が好きだからである。
 しかも桜はその点に気付いていない。恐らく瑛美もこの三角関係を把握していないだろう。そして第三者の私が高台から見下ろすように全てを理解している始末。

 こうなれば私にも責任が生まれてしまうような気がするが、一体どうすれば最適解に辿り着くのかは分からない。別に私は恋のスペシャリストという訳ではないからな。
 だから願うことしかできないのである。どうか三人の関係が破綻しないように、瑛美と桜の仲が破壊されないように、と。

「少しづつ、段階を踏みながら晴流にぃに近付こうと思ってますから! 誤解しないでくださいね!」
「ふむ……。まあ、少しづつ頑張るのじゃぞ。焦りは禁物じゃ」

 これ以上の関与は許されない。意気揚々と両手を前に構える桜に対し、私は愛想笑いを浮かべるのだった。


 ◆


「ケーキ美味しかったですね。お腹も大満足です!」
「うむ。大変美味だったのう」

 喫茶店を後にした私と桜は雑談を交えながら繁華街の歩道を二人並んで歩いていた。
 桜が注文してくれたフランボワーズというケーキは非常に美味しく、ナイフとフォークを使いながら食べている間はセレブだった幼少期に戻ったかのような優越感に浸ることもできた。
 庶民以下の人間には気軽に手の届く値段ではないが、機会があればまた食べてみたいと思う。時に贅沢は病みつきになるのだ。

「次なんですけど……。駅ナカにある洋服屋さんに行きましょう!」
「了解。それにしても忙しい奴じゃな」

 桜は心の底から楽しんでいるかのように笑顔を振り撒いていた。私と一緒に出掛けているだけなのに何故なのか。純粋に喜んでいるのなら別に構わないけど。

 まばらな人通りの中、私達は来た道を引き返すように歩いていく。
 すると前方に若い男性の二人組が見えてきて――

 ドンッ

 私の肩に彼等の体がぶつかった。

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