ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか
6-17 「今告白されたら、私」
「臆病なの、私って」
頬杖をついた愛川さんが話し始める。
「自分で言うのはおかしいけど昔は「優しい子だね」って親戚とか近所の人によく褒められてたの。皆からチヤホヤされて、羨ましがられて……悪い気はしなかったわ」
過去の栄光を懐かしむように遠くを見つめながら微笑む。昔は良かった、でも今は違うとでも言いたげな表情で……。
「でもね、月日が経つにつれて思ったの。もし私が悪い子になったらどうなる? 褒められなくなったらどうなるって。……想像したら怖くなった。全身が寒くなるような感じがして泣き出しそうになった。全員が私を良いように見ていないって分かってたから、きっと陰で恨んでる人にイジメられるんだろうなぁって思ったのよ」
愛川さんを問いただすため俺は険しい顔で彼女を見ていたが、苦しい胸中を聞いて思わず同情しそうになった。
素直さが故に周囲からのプレッシャーを強く感じてしまい、転落した時の恐怖も他人に打ち明けることができずに苦しんでいたのだろう。
辛い過去の話を愛川さんは打ち明けてくれた。しかし、彼女の話に不満を持つ者が約一名……。
「……分かってたのね。なのに……何であたしを突き落とそうとしたのよ! ロリコンがバレたらあたしがどうなるかって、あんた分かりきってたでしょう!」
痺れを切らしたように堂庭が叫ぶ。こいつも学校の生徒からの評価は高く、信頼を失った時の悲劇も経験している。状況としては愛川さんと同じなのだ。
「ええ、百も承知よ。貴方と私は似た者同士。だから排除しようとしただけじゃない。それのどこがいけないの?」
「あんたねぇ!」
「私は悪い子なの。優しくて純粋で可愛い私を守るために悪い私を作った。私が一番でいるために目立つ子はこっそりと息の根を止める。でも今回は失敗したみたいね。残念だわ。……だけどね」
目線をテーブルに落とした愛川さんが続ける。
「何故か安心する気持ちもあるんだよね。なんだろう、昔を思い出すというか……。正直、もうこんな生活はしたくない。学園のアイドルじゃなくてもいい。だから私をイジメないで……」
彼女の目には涙が溜まっていた。本当は愛川さんも嫌だったんだ。表に出ている自分を守るために他人を消す――もし俺がそんな事をしていたら本当の自分は誰なのか見失ってしまうだろう。疑心暗鬼になって他人どころか自分ですら信じる事ができなくなってしまうだろう。
「堂庭さん、ごめんね。もう私、訳わかんなくて。許してもらおうなんて思わないけど謝らせてくれないかな。本当に私って……馬鹿……」
愛川さんは嗚咽混じりに泣き出してしまった。大粒の涙が目からぼろぼろと零れていく。俺と堂庭は喚き泣く彼女をただただ見つめることしかできなかった。
「お姉ちゃんだいじょうぶ? どこか痛いの?」
「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとね」
堂庭の膝に座る結愛ちゃんが心底不安そうな表情を浮かべる。
事実を証明するためやむを得ない手段だったが、幼い女の子をこの場に呼び出してしまったことに俺は少し後悔した。
「もっと早く止めてれば良かったのに……。今まで数え切れないくらいの人を傷付けてしまったわ。もう取り返しがつかないし、いっそ私なんか消えてしまえば――」
「…………はぁ?」
プツンと頭の中で何かが切れるような音がした。俺は再び怒りの感情が芽生える。
「消えてしまえばってお前……」
「……っ!?」
「罪を償わないで逃げるのか? そういう所が臆病なんだよ。反省する気があるなら努力で自分を高めろよ! 死ぬ気でもがいて、自分だけの力で一番になってみろよ!」
なりふり構わず怒鳴りつけてしまった。辺りは静まり返り、近くにいた客が何事かとこちらを覗いてくる。恥ずかしい。今すぐこの場から逃げだしたい。でも俺は言いたい事を言えたのだから……後悔はしていない。
やがて周囲に元の賑やかさが戻ってきた頃、愛川さんが最初に口を開けた。
「宮ヶ谷君……貴方からそんな言葉を貰えるとは思わなかったわ。今告白されたら、私OKしちゃうかも」
「え、えぇ!?」
予想外の発言に俺は間抜けな声を出してしまった。すると隣から堂庭のグーパンチが俺の脇腹に炸裂した。
「なーに鼻の下伸ばしちゃってるのよ。馬鹿じゃないの!?」
「うるせぇな。お前には関係ないだろ」
「ふーん。そんな事言っちゃっていいんだ」
ジト目で睨まれる。堂庭が何故怒っているのか分からないが素直に言うことを聞かないとマズい気がする。長年の幼馴染みとしての勘がそう伝えていた。早く何か言わないと……!
「わ、悪い。別に愛川さんが好きとかそういう風に思ってる訳じゃないから。俺はお前だけを見ているから――」
なーに言ってんだよ俺!?
今の発言、堂庭へ愛の告白をした風に聞こえちゃうじゃねぇか。馬鹿なのか俺は!?
「な、何言ってるのよっ!」
堂庭から平手打ちを食らう。まあ当然の報いだろう。俺、玉砕ナリ……。
だが力は拍子抜けする位弱く、痛みも全く感じなかった。珍しく手加減したのか? それともミスヒットか?
しかしながら、堂庭の顔は熟した林檎のように真っ赤に染め上げていた。もう怒ってるのか恥ずかしがっているのか分かんねぇな。
「あら、堂庭さんも大変なのね」
「ふんっ。あんたに同情される筋合いは無いわよ」
「ん? 大変って……何の事だ?」
素朴な疑問を投げたら堂庭に睨まれた。うん、もう俺は余計な事を一切言わないようにしよう。そうしよう。
「ふふ、でもありがとう。私頑張ってみるよ。嫌われ者って分かってるけど私は私として生きてみる。偽りの顔を持った人生なんて絶対に楽しくないもんね」
愛川さんはニコリと笑った。優しくて、柔らかな笑顔だった。
「ま、まぁその、なんだ。自分を変えようと頑張るなら俺達もサポートしてやるからさ。……素直に生きようぜ」
「ちょっと待ちなさい晴流! なんでこの馬鹿女に手を差し出そうとしているのよ! そ、その……あ、あたしだけを見てくれるんじゃ……ないの?」
顔を真っ赤にした堂庭に上目遣いで見つめられる。なんでこいつは俺の重大な過ちを毟り返そうとしているんだよ。恥ずかしいだろうが!
「いや……協力してあげる位ならいいだろ。というかさっきのは嘘というか何というか……」
「ねぇ宮ヶ谷君、私の心配をするならまず自分の心配をしたらどう?」
「自分の心配……?」
俺は何か危ない事をしているのだろうか。残念ながらさっぱり分からん。
「ったく、頼もしいのかヘタレなのかよく分からないわね晴流は。……で、愛川。あんたとは今後距離を置くことにするから。お互いの為に干渉し合わないようにしましょ」
「うん、私も同じ考えだよ。堂庭さんも気をつけてね。『出る杭は打たれる』って言うから」
「あんたに言われなくても分かってるわよ。そっちこそ地の底に落ちる覚悟を決めておくことね」
両者、皮肉混じりの笑顔を浮かべる。恐らくこの二人が友情を結ぶことは無いだろう。だが不可侵条約を結ぶことはできた。それだけでも十分問題を解決できたと言えるのではないだろうか。
かくして堂庭のロリコンがバレる危険も回避できた訳だが、俺の頭にはうやむやとした気持ちが残り続けていた。
堂庭の過剰な赤面。他人よりも自分の心配……。
女子の考えている事はやはり理解し難いな。
頬杖をついた愛川さんが話し始める。
「自分で言うのはおかしいけど昔は「優しい子だね」って親戚とか近所の人によく褒められてたの。皆からチヤホヤされて、羨ましがられて……悪い気はしなかったわ」
過去の栄光を懐かしむように遠くを見つめながら微笑む。昔は良かった、でも今は違うとでも言いたげな表情で……。
「でもね、月日が経つにつれて思ったの。もし私が悪い子になったらどうなる? 褒められなくなったらどうなるって。……想像したら怖くなった。全身が寒くなるような感じがして泣き出しそうになった。全員が私を良いように見ていないって分かってたから、きっと陰で恨んでる人にイジメられるんだろうなぁって思ったのよ」
愛川さんを問いただすため俺は険しい顔で彼女を見ていたが、苦しい胸中を聞いて思わず同情しそうになった。
素直さが故に周囲からのプレッシャーを強く感じてしまい、転落した時の恐怖も他人に打ち明けることができずに苦しんでいたのだろう。
辛い過去の話を愛川さんは打ち明けてくれた。しかし、彼女の話に不満を持つ者が約一名……。
「……分かってたのね。なのに……何であたしを突き落とそうとしたのよ! ロリコンがバレたらあたしがどうなるかって、あんた分かりきってたでしょう!」
痺れを切らしたように堂庭が叫ぶ。こいつも学校の生徒からの評価は高く、信頼を失った時の悲劇も経験している。状況としては愛川さんと同じなのだ。
「ええ、百も承知よ。貴方と私は似た者同士。だから排除しようとしただけじゃない。それのどこがいけないの?」
「あんたねぇ!」
「私は悪い子なの。優しくて純粋で可愛い私を守るために悪い私を作った。私が一番でいるために目立つ子はこっそりと息の根を止める。でも今回は失敗したみたいね。残念だわ。……だけどね」
目線をテーブルに落とした愛川さんが続ける。
「何故か安心する気持ちもあるんだよね。なんだろう、昔を思い出すというか……。正直、もうこんな生活はしたくない。学園のアイドルじゃなくてもいい。だから私をイジメないで……」
彼女の目には涙が溜まっていた。本当は愛川さんも嫌だったんだ。表に出ている自分を守るために他人を消す――もし俺がそんな事をしていたら本当の自分は誰なのか見失ってしまうだろう。疑心暗鬼になって他人どころか自分ですら信じる事ができなくなってしまうだろう。
「堂庭さん、ごめんね。もう私、訳わかんなくて。許してもらおうなんて思わないけど謝らせてくれないかな。本当に私って……馬鹿……」
愛川さんは嗚咽混じりに泣き出してしまった。大粒の涙が目からぼろぼろと零れていく。俺と堂庭は喚き泣く彼女をただただ見つめることしかできなかった。
「お姉ちゃんだいじょうぶ? どこか痛いの?」
「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとね」
堂庭の膝に座る結愛ちゃんが心底不安そうな表情を浮かべる。
事実を証明するためやむを得ない手段だったが、幼い女の子をこの場に呼び出してしまったことに俺は少し後悔した。
「もっと早く止めてれば良かったのに……。今まで数え切れないくらいの人を傷付けてしまったわ。もう取り返しがつかないし、いっそ私なんか消えてしまえば――」
「…………はぁ?」
プツンと頭の中で何かが切れるような音がした。俺は再び怒りの感情が芽生える。
「消えてしまえばってお前……」
「……っ!?」
「罪を償わないで逃げるのか? そういう所が臆病なんだよ。反省する気があるなら努力で自分を高めろよ! 死ぬ気でもがいて、自分だけの力で一番になってみろよ!」
なりふり構わず怒鳴りつけてしまった。辺りは静まり返り、近くにいた客が何事かとこちらを覗いてくる。恥ずかしい。今すぐこの場から逃げだしたい。でも俺は言いたい事を言えたのだから……後悔はしていない。
やがて周囲に元の賑やかさが戻ってきた頃、愛川さんが最初に口を開けた。
「宮ヶ谷君……貴方からそんな言葉を貰えるとは思わなかったわ。今告白されたら、私OKしちゃうかも」
「え、えぇ!?」
予想外の発言に俺は間抜けな声を出してしまった。すると隣から堂庭のグーパンチが俺の脇腹に炸裂した。
「なーに鼻の下伸ばしちゃってるのよ。馬鹿じゃないの!?」
「うるせぇな。お前には関係ないだろ」
「ふーん。そんな事言っちゃっていいんだ」
ジト目で睨まれる。堂庭が何故怒っているのか分からないが素直に言うことを聞かないとマズい気がする。長年の幼馴染みとしての勘がそう伝えていた。早く何か言わないと……!
「わ、悪い。別に愛川さんが好きとかそういう風に思ってる訳じゃないから。俺はお前だけを見ているから――」
なーに言ってんだよ俺!?
今の発言、堂庭へ愛の告白をした風に聞こえちゃうじゃねぇか。馬鹿なのか俺は!?
「な、何言ってるのよっ!」
堂庭から平手打ちを食らう。まあ当然の報いだろう。俺、玉砕ナリ……。
だが力は拍子抜けする位弱く、痛みも全く感じなかった。珍しく手加減したのか? それともミスヒットか?
しかしながら、堂庭の顔は熟した林檎のように真っ赤に染め上げていた。もう怒ってるのか恥ずかしがっているのか分かんねぇな。
「あら、堂庭さんも大変なのね」
「ふんっ。あんたに同情される筋合いは無いわよ」
「ん? 大変って……何の事だ?」
素朴な疑問を投げたら堂庭に睨まれた。うん、もう俺は余計な事を一切言わないようにしよう。そうしよう。
「ふふ、でもありがとう。私頑張ってみるよ。嫌われ者って分かってるけど私は私として生きてみる。偽りの顔を持った人生なんて絶対に楽しくないもんね」
愛川さんはニコリと笑った。優しくて、柔らかな笑顔だった。
「ま、まぁその、なんだ。自分を変えようと頑張るなら俺達もサポートしてやるからさ。……素直に生きようぜ」
「ちょっと待ちなさい晴流! なんでこの馬鹿女に手を差し出そうとしているのよ! そ、その……あ、あたしだけを見てくれるんじゃ……ないの?」
顔を真っ赤にした堂庭に上目遣いで見つめられる。なんでこいつは俺の重大な過ちを毟り返そうとしているんだよ。恥ずかしいだろうが!
「いや……協力してあげる位ならいいだろ。というかさっきのは嘘というか何というか……」
「ねぇ宮ヶ谷君、私の心配をするならまず自分の心配をしたらどう?」
「自分の心配……?」
俺は何か危ない事をしているのだろうか。残念ながらさっぱり分からん。
「ったく、頼もしいのかヘタレなのかよく分からないわね晴流は。……で、愛川。あんたとは今後距離を置くことにするから。お互いの為に干渉し合わないようにしましょ」
「うん、私も同じ考えだよ。堂庭さんも気をつけてね。『出る杭は打たれる』って言うから」
「あんたに言われなくても分かってるわよ。そっちこそ地の底に落ちる覚悟を決めておくことね」
両者、皮肉混じりの笑顔を浮かべる。恐らくこの二人が友情を結ぶことは無いだろう。だが不可侵条約を結ぶことはできた。それだけでも十分問題を解決できたと言えるのではないだろうか。
かくして堂庭のロリコンがバレる危険も回避できた訳だが、俺の頭にはうやむやとした気持ちが残り続けていた。
堂庭の過剰な赤面。他人よりも自分の心配……。
女子の考えている事はやはり理解し難いな。
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