ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

6-1 「だって私可愛いし」

 球技大会が終わり、堂庭と話すべく思案していると後ろから肩をトンと叩かれた。
 振り向いた先には笑顔でこちらを見つめる愛川さんがいた。

「宮ヶ原君、こんにちは」
「宮ヶ谷です」

 また間違えられた。そんな覚えにくい苗字でもないはずなのに……。

「あはは、冗談よ冗談。しっかり覚えてるわよ、宮ヶ浜君!」
「……冷やかしが目的ならやめてくれないか? 俺そういうの苦手なんで」
「あらごめんね。じゃあ早速なんだけど……」

 顔を至近距離まで寄せてくる愛川さん。
 近い……。心臓の鼓動が急激に速くなる。

「宮ヶ谷君、今日私と一緒に帰ってほしいの」
「え、お、俺と!?」

 急に何を言い出すんだこの人は。
 というか顔が近い! そんな物欲しそうな目で見つめられたらまともな判断ができなくなるじゃないか。

「私相鉄だから駅までしか一緒にいられないけど……駄目かなぁ?」

 愛川さんの甘い声で思考回路がパンクしそうになっていた。
 このままではマズいな。今日こそ堂庭と一緒に帰って仲直りするチャンスだというのに……。

「わ、悪いが今日は他の人と帰ろうと思っててな」
「ん? それって堂庭さんの事?」
「あ、あぁ。そうだけど……」
「ふぅーん」

 きらきらとした瞳を見せていた愛川さんが途端に無表情になる。
 突然の変化に俺は思わず身震いしてしまった。いつでも華やかな笑顔をしている愛川さんが氷のように凍てついた顔をしているのだ。驚かないはずがない。

「じゃあ俺はこれで……」
「待って宮ヶ谷君。話は終わってないわ」
「は、はい……」
「堂庭さんについて聞きたいことがあるの。だから一緒に帰りましょ?」
「いや待てって。それなら堂庭に直接聞けばいいだろ。なんなら三人で帰れば……」
「それじゃ駄目なのよ。宮ノ前君にお願いしたいの」
「誰だよそいつは。……俺はもう行くぞ。生憎だが暇じゃないんで」

 早くしないと堂庭が帰ってしまうかもしれない。そうなればせっかくの仲直りのチャンスが失われてしまう。
 俺は一歩前に踏み出し愛川さんから離れる。すると……

「堂庭さんってロリコンなんだよね……私知ってるんだけど」
「は!? 今なんて」

 すぐさま振り返る。愛川さんは「引っかかった」と言わんばかりの笑みを浮かべていた。

「ふふ、驚いた顔をするのね。でも、これで私と帰らざるを得なくなったんじゃないかしら」
「……汚いな。誘い方が」
「いやいやぁ。戦略的って言ってよねぇ」
「性格悪いな、あんた」

 ポツリと呟く。愛川さんに聞こえたかどうかは分からなかった。
 俺は仕方なく彼女と二人で横浜駅まで帰ることにした。一体どこで堂庭の裏の顔を知ったのだろうか。


 ◆


「さっきの試合、お見事だったね。流石にあのボールは避けられなかったわ」

 駅までの道のりを二人並んで歩く中、愛川さんが話し始めた。

「自ら危険を省みず突っ込んで守りを攻撃に転じる姿……私の仲間も見習ってほしいものね」
「仲間……?」
「あ、ごめんこっちの話。じゃあそろそろ本題の方に話を変えるね」

 コホンと咳払いをした愛川さんが続ける。

「先週くらいかな。とある用事でB組の教室に立ち寄ってた時、ある物が目に入ったの」
「ある物?」
「そう。それもでっかいマル秘マークが書いてあるノートだったわ。あれを見て、まさか私のプライベートが漏れた!? って思ってつい立ち止まってしまったの」

 でかいマル秘が書かれたノートって都筑の例のブツしか無いじゃないか。教室で出しっぱなしにしておいたのかよ。本村部長や先輩達に注意されていたのに……。

「なるほど……。というか最初は愛川さん自身の情報が書いてあるノートだと思ったんだね」
「そうそう。だって私みたいな子はいつ誰が盗み見してるか分からないからね。心配になっちゃうのよ」

 へぇーそういう考え方もあるのか。人気者は大変なんだね。俺にはよく分からないや。

「で、中身を勝手に見たと?」
「そりゃ持ち主には悪いと思ったわよ。でも勝手に他人のプライベートを覗いたのならこっちもその情報を見る権利があると思ったわけ」
「そしたら堂庭の情報だったってことか」
「ええ。でも驚いたわ。私以外にも裏情報を探られるような人間がいるなんて思わなかったから」

 愛川さんは視線を前に向けたまま、当然の如くさらりと言ってのけた。

「すげぇな。自分でそういう事普通に言っちゃうんだ」
「え、当たり前じゃない? だって私可愛いし」
「あぁ、うん。そっか……」

 否定はできない。事実、顔立ちはとても綺麗で校内の男子からの人気は高いし。
 でも俺は素直に愛川さんの言葉を受け入れられなかった。受け入れちゃいけない、と思った。

「まあ私の話は別にいいんだけどさ、問題は堂庭瑛美なのよ」
「あぁそうだったな」
「正直、堂庭瑛美がロリコンだろうが何だろうが私には関係無いし興味も無い。でもね……」

 笑顔が消え、真剣な表情になった愛川さんが答える。
 というか、いつの間にか堂庭を呼び捨てにしてるし。

「この私を差し置いて調子に乗ってるのは許せないわ。化けの皮を被っているのなら尚更よ」
「堂庭が調子に……? 待て待て、アイツは別にそんな」
「庇うつもりなのね。でもあの子にロリコンを吹き込んだのは宮ヶ谷君。あなたじゃないの?」
「は? …………はぁ!? そんな訳無いだろ!?」

 とんだ勘違いだ! 俺がわざわざ堂庭を変態にして面倒にさせる訳無いし、する必要性も全く無い。むしろ直すために試行錯誤している最中なのだ。

「でもさぁ、男って皆ロリコンなんでしょ? ちっちゃくて顔が可愛ければそれでいいんでしょ?」
「どんな偏見だよそれ……。大体アイツは勝手に幼女に目覚めて俺はただ振り回されてるだけなんだ」
「ふぅーん、そう」

 愛川さんは真っ直ぐ前を向いたまま、興味無さそうに呟いた。俺の言い分なんてどうでもいいようだ。

「……で、聞きたいことって結局なんだよ」
「そうそう! それなんだけどね」

 やっとこちらを見た愛川さんはきらきらとした笑顔になって俺に告げた。

「堂庭瑛美を潰したいんだけど、手伝ってもらえないかな?」

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