ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

5-5 「任意という名の強制だよ?」

「今日は皆に球技大会の役割決めをしてもらう。早くまとめないと教頭のゴッドブローを喰らう羽目になるからな。俺が」

 笑って良いのか分からないジョークを笑顔で織り交ぜる担任。
 昼休み直後のこの時間は眠気が最高潮に達する時である。うとうとしてないで早く目覚めないと担任のゴッドブローを喰らう羽目になるだろうな。俺が。

「じゃあ後は堂庭が司会進行をしてくれ。俺は少し煙草を吸ってくるから」

 ちょっと自由過ぎませんかね、ウチの担任は。もう教頭先生、本気出しちゃっていいですよ。
 クラスの冷たい視線が注ぐ中、教室から出ていく担任と入れ替わるように堂庭が教壇に立った。
 彼女の手には資料のようなプリント。それを教卓の上に並べるが、身丈に合わず机としての役割を失っている気がする。
 すると首から上を覗かせた堂庭と視線がぶつかった。しかしすぐに目を逸らされてしまった。それもわざとらしく。何とも分かりやすい奴である。

「えーっと、来月の球技大会の種目を決めます。今年はバスケとサッカーとドッジボールです」

 クラス委員長らしく、淡々とした口調で話す。まさかあれが重度のロリコンだとは誰しも思ってないだろう。

「堂庭ちゃんは何にするのー?」
「あ、それ俺も気になる!」
「堂庭ちゃんと一緒がいいなー」

 平沼を筆頭とした男性陣がざわつき始める。お前ら全員ロリコンかよ。

「う、うるさいわね! 後で殴るわよっ!」
「「喜んで!」」

 ドMかよ。つか堂庭のパンチはマジで痛いぞ。知らないのならいっそのこと全員叩きのめされて現実を見たが世のためかもしれないな。

「覚えてなさいよ……。じゃあまずバスケをやりたい人、手を挙げて!」

 その後は堂庭の慣れた指揮により、順調に時間は過ぎていった。
 因みに俺や都筑、堂庭はドッジボールになった。平沼はバスケに手を挙げていた。

 ――いつもと変わらない日常。
 でもこの日、堂庭と目が合う事はもう無かった。


 ◆


「宮ヶ谷君! ちょっと部室まで任意同行してくれない?」

 放課後。
 今日こそ一人で帰るのかと思いながら支度をしている最中に都筑が声を掛けてきた。

「……任意なら拒否する。俺は帰る」
「そっかぁ、瑛美りんと一緒だもんねぇー」

 今は違うんだよなぁ。でもこれは良い言い訳だ。都筑の言う部室とは恐らく新聞部。待ち受けるのは大量の雑務だろう。少なくともついて行ったら負けだ。
 堂庭と帰るフリをして逃げようと考えた。しかし都筑はどうしても俺を引き止めたいらしい。彼女は腕を組みながら

「でも任意という名の強制だよ? ほら、職質を断れないのと同じ」
「俺、悪い事してないんだけど」
「いやいや。見た目が凄く優しそうで決して犯罪者に見えない人でも声を掛けられたりするんだよ?」
「そうそう……ってそれ以上は止めとけ。優しい人が可哀想だろ」

 あれ一回されるとパトカーや警察官がトラウマになって余計怪しく見えちゃうんだぞ。……って誰の事言ってるんだ俺は。

「じゃあ部室に来てくれるんだね?」
「いや、行かない。帰る」
「しぶといねぇ。来てよ!」
「嫌だ。ほら、堂庭ももう待ってるかもしれないからな。また明日」

 バッグを肩に掛け、都筑との会話を断ち切る。対話で解決できなければ撤退である。追いかけられても逃げればいいだけ。俺は早く帰って寝たいのだ。
 都筑から離れて教室の出入口に目を向ける。だがそこに思わぬ人物が行く手を塞いでいた。
 凛とした顔立ちに大人の色気を感じさせる上級生と優しい笑みを浮かべ、ほわほわとしたオーラが全開な上級生。
 本村部長と大黒先輩――数ヶ月前、堂庭への手紙送付事件でお世話になった新聞部の二人だった。

「ご無沙汰だな、宮ヶ谷君」
「こんなところで奇遇やのぉ〜」
「あはは……そうですね本当に」

 後ろを振り向く。都筑がピースサインをして楽しそうに答えた。

「私から逃げられると思ったら大間違いよ、宮ヶ谷君!」

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