ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

5-6 「いつもの光景だよ」

「宮ヶ谷君、ごめん!」

 新聞部の部室へ入るなり都筑が勢い良く頭を下げた。

「謝るくらいなら俺を拉致るなよ」
「いや、それは謝らないよ。そうじゃなくて……」

 嫌な言い方だなおい。

「瑛美りんの件なんだけど……部長達に教えちゃったの」
「…………はぁ!?」

 まさか堂庭がロリコンの変態である事をバラしたというのか!?
 誰にも言うなと口止めしてあったのに……。

「都筑、覚悟はできてるな?」
「はぃぃ……」
「まぁ待て宮ヶ谷君」

 力強い口調と共に本村部長が間に割って入る。

「実は私にも非があるんだ。少しばかり都筑の様子が怪しくてつい聞き出してしまったんだ」
「なるほど、怪しい……ですか?」

 堂庭や修善寺さんと違い、都筑のような一般人だとちょっとおかしな行動や仕草でも目についてしまうのだろう。
 しかしどんな行動だ? 奇声を上げたとか? ……いや、それは無いか。堂庭基準で考えると都筑も変質者になってしまうな。

「紗弥加はんが持ってはるノートに部長が気づいちまったんよ~」

 俺達と少し距離を置いた場所に座る大黒先輩がにこやかに答えた。
 なんというかこの人は……マイペースである。集団に溶け込もうとせず入りたい時だけ混じって後は自由行動みたいな感じだ。その心意気は正直羨ましい。

「ノートってなんだ?」

 気になった要素を都筑に問うと彼女は可笑しそうに笑いながら

「複数枚の紙を束ねた冊子の事で予定帳、日記帳など種類は沢山あるよ、宮ヶ谷君!」
「こっちは真面目に聞いてるんだ。覚悟はできてるな?」
「ひぃ……。今日の宮ヶ谷君は厳しいなぁ」

 都筑のテンションの方が色々と厳しい気がするが。
 ともあれ怪しい(?)ノートを是非とも拝見したい。
 内容によっては丁重に切り刻ませていただく必要もあるしな。

「都筑。冗談はいいから早く見せてやれ」
「むぅ、部長が言うなら仕方ないですね……」

 本村部長の鋭い眼差しに怖じ気づいた都筑はしぶしぶ自身のバッグに手を突っ込んだ。部長の威力すげぇ。

「宮ヶ谷君、これなんだけど……」
「なにぃ!?」

 都筑が取り出したそれは見るからに怪しいノートだった。
 ごく普通の大学ノートであるが、表紙にカラーマジックで大きくマル秘マークが書かれている。ついでにその下には『愛しの瑛美りん極秘記録』と銘打ってある。なにこれ、百合なの? それともストーカー?

「部室の机に置いてたら部長に聞かれたんだよ?」
「なんでお前が不思議そうな顔をするんだよ。そんなの堂々と広げてたら気になるに決まってるだろ」
「いやいや、だから極秘記録って書いてあるんじゃない。秘密なんだから見ないでしょ普通」
「それは都筑だけの常識だな」

 裏表が無い性格の都筑は言われた事を素直に受け止め、某トリオ芸人のようなフリは通用しない。故に他人も同じ考えだと捉えるのか。
 ……いつか詐欺師に騙されたりしないだろうか。かなり心配になってきたのだが。

「でも香凜ちゃんも悪いでぇ。秘密言うてんの分かっとるのに聞き出したんやからなぁ」

 大黒先輩が本村部長を諭すかのように優しく答えた。流石は保母さんという名が付くだけはある。もう母性本能がオーラとして滲み出ちゃってるし。

「そうは言うけどないずみ。私だって良くないと分かってたんだが……」
「それでも気になったんでしょ?」
「いや、あんな如何にも見てくれと言わんばかりのノートを見せられたら」
「もう、香凜ちゃんは頑固さんやねぇ」

 すると大黒先輩は椅子から立ち上がり、こちらに向けて歩いてくる。
 目を細めた笑顔を崩さないまま本村部長の隣まで来ると、先輩は部長の頭をよしよしと撫で始めた。

「香凜ちゃん、意地っ張りは駄目っていつも言うとるでしょ~。せやから皆に怖がられるんやでぇ」
「やめろいずみ! 恥ずかしいじゃないか」
「ほらほら、紗弥加はんにごめんなさいしようなぁ」
「…………ごめん」
「ふふふ、照れ屋さんやなぁ香凜ちゃんは」

 先程までキリッとした表情を崩さなかった本村部長が嘘のように顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。もうこれではどっちが部長なんだか分かったもんじゃないな。

「……俺は一体何を見せられているというんだ」
「いつもの光景だよ。記事にするにはスペースが勿体ないくらいね」

 都筑は平然とした顔で先輩達の戯れを見つめる。
 まったく……この部活には百合しかいないのか? 実にけしからん! これは毎日見張る必要があるかもしれないな。……ってのは冗談で。

「あの、部長達は堂庭の裏をどこまで知ったんですか?」
「あぁそうだったな。よし、話すとしよう。……いずみ、いい加減離せ」
「しょうがないなぁ。なら今からロスタイムやね」

 まだ終わりじゃないんですか!
 部屋の奥にある椅子へ帰っていく大黒先輩の表情は変わらず笑顔だったが、どこか物足りなさそうな感じだった。

「ふぅ、邪魔者は消えたな。じゃあ宮ヶ谷君の質問に答えるとしようか」

 普段のクールな顔に戻った本村部長はコホンと咳払いをした後、声をやや潜めながら淡々と話し始めた。

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