ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

3-15 「あたしは信じていたよ」

 再び訪れることになった街外れにある小さな神社。
 だが今度は一人じゃない。堂庭と一緒だ。

 境内は相変わらず人気ひとけが無く、ジリジリと鳴く虫の声が辺りを支配していた。
 まばらに並ぶ薄暗い電灯を頼りに奥へ進む。
 するとここまで押し黙っていた堂庭が「あのベンチに座ろう」と提案してきたので、俺は顔を縦に振って応じた。

「よっこらしょっと」

 座った瞬間、ベンチがギシッと鳴る。木で造られているが、所々ヒビが入っているし大丈夫かこれ……。
 続いて堂庭が隣にちょこんと座る。音は鳴らなかった。

「ふぅ。やっぱ落ち着くな、ここは」
「…………うん」

 この神社は高台にあるため夜景が綺麗な場所でもあるのだ。
 もし俺に恋人ができたら、この景色を見せてあげたいと思う。

 溜め息を一つついて空を見上げる。
 そこに雲は無く、無数の星が散りばめられていた。

「綺麗だ……」

 思わず言葉が漏れる。
 隣にいる奴が彼女だったらロマンチックだったのになぁ。
 そんな事を考えていると……。

 ぎゅっ。

 左半身に柔らかな温もりを感じる。

「……えっ!?」

 急いで隣へ振り向く。
 目の前には照れた顔をする堂庭。だがおかしい。近い。距離が近すぎる。
 密着した体からは浴衣越しであっても温かさやか弱さが伝わってくる。

 やっぱり我慢してたんじゃないのか?
 瞬時に思うのと同時に守ってあげたいという衝動に駆られた。
 それが単に幼馴染みという関係だからか、一人の女の子としてなのかは分からない。

「本当はね……。寂しかったの」

 消え入りそうな声で話し始める。こんな堂庭の姿は珍しい。

「スマホが使えなくて、公衆電話の場所もよく分からないし、今どこにいるのかも分からないし、戻れなかったらどうしようって思ってたの」
「…………」

 ゆっくりと言葉を重ねていく堂庭。顔は真っ赤で俯いていたが、必死に俺に伝えようとしていた。

「センターに預けられている時は、幼女とお話できて嬉しいなって思ってたけどやっぱり不安だった。このまま誰も来てくれないんじゃないかって」
「堂庭…………」
「でもね、あたしは信じていたよ。晴流なら必ず迎えに来てくれるって。……というかあたしの事ずっと探してたでしょ?」
「え……どうして分かった?」
「そんなの会った時にすぐ気付くわよ。あんなに汗だくになっちゃって。本当にいつもだらしないんだから」

 クスッと堂庭が笑う。
 そうか、街を歩き回った上に全速力で走ったから全身汗まみれだったのか。無我夢中だったから気付かなかったな。

「でもありがと。今、すごく安心してる」

 そう言った堂庭は俺に体重を預けてきた。
 ポコンと二の腕に彼女の頭が当たる。

「夜景……綺麗だね」
「あぁ……」
「端から見たら、あたし達カップルに見えてるのかな?」
「いや、疲れ果てた妹と年の離れた兄の方が似合うんじゃないのか」
「…………晴流の馬鹿」

 ふくらはぎの辺りを蹴られる。なんで怒るんだよそこで。

「でも……今日はごめんね。ライブ、行けなかったし」
「謝るなら桜ちゃんに言いな。俺は別に気にしてないから」
「え、なーに格好つけちゃってんの? たまにはあたしにも謝らせてよ」
「はいはい……」

 目を合わせず声だけで会話する。
 それが決して気まずくなく、心地良ささえ感じるのは、きっと相手が堂庭だからだろう。

「お返しはするから。皆に迷惑かけちゃったし」
「だから気にするなって。誰もお前を責めたりはしないよ」
「あの……いい加減キモいんだけど。素直にあたしの言う事聞きなさいよ」
「…………悪ぃ」

 腑に落ちねぇー!
 弱気な態度と見せかけて結局中身は変わらず強気なのかよ。

「今日の事は帳消しにしないと多分あんた調子に乗るし。本当は貸しができたと思って喜んでるんじゃないの?」
「げっ。何故バレたし……」
「あたしの目を誤魔化そうとしても無駄よ。晴流の考えてる事なんてぜーんぶお見通しなんだからっ」

 楽しそうな声で俺の思考を見破る堂庭。
 こいつは本当に鋭い。嘘や目論見がまるで通用しない。

「じゃ、これでお話は終わり! そろそろ戻るわよ。桜にも申し訳ないし」
「ちょっと待って。一つお前に聞きたい事があるんだが」
「ん? 何よ」

 ベンチから立ち上がった堂庭が振り返る。

「追いかけてた迷子の幼女についてなんだが、赤い浴衣を着てたって言ってたよな?」
「ええ、そうよ」
「その子、おさげ髪じゃなかったか?」
「そうそう。髪留めのリボンが可愛くて……って何で知ってるの?」

 赤い浴衣と聞いてもしかしてと思ったがやはり……。

「名前は……結愛ちゃんだろ? その子」
「うん正解! なーんだ。あの子、晴流の知り合いだったんだ! もう、あたしに紹介してよー。いっぱい遊んであげるのにぃ!」
「えっと、実はその……結愛ちゃんって愛川さんの妹なんだよ」
「ひょえ……?」

 機械のように硬直する堂庭。

「マジ……? と、隣のクラスの美人で有名なあの……」
「あぁ。その愛川さん」
「ぐぬあぁぁぁ!?」

 低い声で唸った堂庭は、手で顔を覆いながらその場にへたりこんでしまった。
 まるで取り返しのつかない過ちを犯したような感じだが、一体こいつは愛川さんの妹に何をしでかしたんだ?
 内容によっては非常に不味いぞ。

「どうしよ晴流……。結愛たそがチクッたらあたし学校に行けなくなる……」
「だからお前何やらかしたんだよ!」
「……お医者さんごっこしようって言って体を触りました」
「おま、馬鹿じゃねーのか!?」

 お巡りさん、こいつです。

 それにしてもこの事が愛川さんに伝わって学校内に話が広まれば、堂庭の地位がクラス委員長から声掛け事案のロリコンまで落ちてしまうのは容易に考えられるよな。
 それは何としてでも阻止しないと……。

「取り敢えず戻ろう……。最悪の事態にならないように祈ってるからさ」
「そうね。あたしも願ってるわ……」

 意気消沈の堂庭を連れて夜道を歩く。
 やれやれ、また厄介事が増えてしまったな。


 ぼんやりと照らす街灯はチカチカと切れかけており、少々不気味な雰囲気を醸し出している。
 時折吹き抜ける風がちょっぴり肌寒く感じた。

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