ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

3-6 「いいから掴むの!」

 一学期の期末試験を乗り越え、気が収まった頃にやってきた七月七日。七夕祭りの当日。
 そして時刻は午後五時を過ぎた頃。当日の待ち合わせ場所として決めたJR平塚駅は、予想通り人がごった返していた。

「さて…………」

 メンバーは全員揃った。俺と堂庭と桜ちゃん、それに修善寺さん。
 結局男子は俺一人になってしまったが、この際仕方ない。両手に華ということで良しとしておこう。
 そしてそんな『華』の彼女たちは、気合が入っているのか全員浴衣姿だった。

 桜ちゃんは紺色ベースに水玉模様の年相応で可愛らしい雰囲気に。
 堂庭はピンク色に向日葵が散りばめられた柄という安定の幼さをごり押すスタイル。
 修善寺さんの浴衣は白地に青い金魚模様……。これは桜ちゃんが以前着ていた浴衣だ。恐らく今日の為に桜ちゃんから借りたのだろう。

「はぁ…………」

 俺は溜め息をこぼす。
 悪くない。人選は悪くないんだ。
 だがな……。

「……最悪だ」

 頭を抱える程の事態が今ここで発生している。

 まずは……。

「お、おおお兄さん。ちょ、ちょっと男の人、多すぎじゃ、な、ないですか?」

 桜ちゃんが俺の右腕に絡めるようにしがみついている。口はガクガク震えており、緊張感が直に伝わってくる。ついでに胸の柔らかさも直に伝わってくる。
 ……確かに混み具合は凄く男性も多い。でもこんな調子じゃまともに外へ出られないだろ。

 そして左腕。こちらは修善寺さんがしがみついている。

「さ、さっき怒鳴り声が聞こえたんじゃが、ふ、ふ、不良じゃ、ないじゃろうな?」

 喧騒な周囲に過敏に反応し、半泣き状態ですがりつく修善寺さん。
 祭りだし騒がしいのは仕方ない……が、不良がいないとも限らないから下手に慰めることもできない。

 さあ残るは一人。堂庭だ。

「キャー、あの子カワイー! あたしの妹になってー!」

 手当たり次第、幼女を見つけてはキャーキャー叫ぶ堂庭。


 もう俺帰っていいかな?

 両腕掴まれてるせいで動きづらいし、堂庭の暴走は止められなくなるし……。
 くそっ。こんな展開になるとは思わなかった。

「ひぃぃぃぃ!!」
「ちょっ、痛い、痛いって!」

 右腕の圧迫が強くなる。先ほどから俺達は周囲からの視線を多く集めており、男性がこちらをジロジロ見る度に桜ちゃんが悲鳴を上げる。
 ……見られたくなかったらまず俺から離れてほしいのだが。

「桜ちゃんに修善寺さん。とりあえず腕を掴むのはやめてくれないかな。……色々と恥ずかしいし」
「でも……。こうしないと心許ないのじゃ……」
「万が一の時に困っちゃいますからね」

 いやいや困んないって!
 というか今の状況に俺が困っているんですけど!
 心の中でツッコミを入れるも、周囲から向けられる視線は冷たいままだ。特に独り身らしき男性からの視線は強烈である。「爆ぜろリア充!」とか思っているんだろうな、きっと。

 桜ちゃんは相変わらず怖がっていたが、やがて状況を察したらしく俺に妥協案を提示した。

「これが駄目なら……手、繋ぐのは、い、いけませんか?」
「え、手……?」

 密着した身体に上目遣いでまじまじと見つめてくる桜ちゃん。
 な、なんだこの首を横に振りたくても振れない感覚は。
 脳の神経回路がプチプチと切れているような気がするぞ……。

 困惑する俺だが、左側からも同様に

「手を繋いでくれるのなら、わしは構わんぞ」

 頬を赤らめた修善寺さんが呟いた。

「くぅ……。ここは俺が折れるしかないのか……」

 とにかくこの破廉恥な事態から抜け出したかった俺は素直に桜ちゃんの妥協案を受け入れるしかなかった。

「よ、よし。手なら……我慢してやる」

 仕方なく呟くと桜ちゃんと修善寺さんはニッコリと微笑み、俺の腕から身体を離した。
 そして何の躊躇いもなく手を握る二人。

「ふふ、これでも結構安心しますね!」
「意外といけるが……。なんか恥ずかしいのう」
「……これはこれでヤバいな」

 今、俺の両手に包まれているのは少し冷たくて柔らかい女の子の手。
 腕にしがみつかれた時も緊張したが、何故だか今の方がドキドキしている。
 手汗が出てきそうで心配だ。彼女達に変な顔をされないように気をつけないと。

「さて……堂庭。あれ、堂庭は?」

 一息ついて堂庭の影を探すが見つからない。さっきまで近くに居たのに一体どこへ行ったのだろうか。
 心配になった俺は辺りをキョロキョロと見回す。すると背後から聞き慣れた高い声が聞こえた。

「なにやってんのよアンタ達!」

 驚いて振り向くとそこには腕を組んで随分とご立腹そうな堂庭の姿があった。

「いやこれはその、事の成り行きというか……」
「晴流には聞いてないわ!」

 俺の発言を一蹴した堂庭は修善寺さんに向かってズカズカと歩いていく。
 そして正面に向き合うように回り込んだ堂庭は彼女にこう強く言い放った。

「修善寺! そこどきなさい!」
「え、瑛美殿? どういう事じゃ?」
「だからその手を離しなさいって事!」

 そう言って俺と修善寺さんを繋ぐ手を無理矢理離す堂庭。
 呆気にとられる俺達をよそに、堂庭は離れた手の間に割り込んだ。

「不良が嫌いならあたしの手を掴みなさい!」
「いや、でも……」
「いいから掴むの!」

 言いながら堂庭は強引に修善寺の手を取る。

「それでこうすれば……。うん、問題ないね!」
「いや大有りだろ!」

 なんと堂庭は空いているもう片方の手を俺に繋いできたのだ。
 これは一体どういう事なんだ……?

「瑛美殿……。お主が宮ヶ谷殿と手を繋ぐ理由はないじゃろ?」
「う、うるさいわね! あ、あたしだけ仲間外れなんておかしいでしょ!」

 強気で反論をした堂庭の顔は真っ赤だ。
 しかしそれが怒りのせいなのか、恥ずかしさなのかは分からない。
 でももしかして……。

「あ、あの……堂庭?」
「何!?」
「いや、えっとその……。ここに割り込んだ理由って……嫉妬だったり?」
「なっ……!」

 口を開けたまま硬直する堂庭。
 そして数秒後。

「は、晴流の馬鹿っ!」
「ぐひっ!?」

 すねのあたりに蹴りを入れられた。これ、地味に痛いヤツ。

「あたしがあんたにヤキモチ焼いたりする訳ないでしょ! 変な事言うんじゃないの!」
「うぃ……」

 堂庭は俺に一喝した後、フンッとそっぽを向いてしまった。でも繋いだ手を離そうとはしなかった。

「お兄さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、慣れてるから。全然平気」

 痛みをこらえて何とかの笑顔を桜ちゃんに向ける。
 すると彼女は安心したように柔らかく微笑んだ。

「まあ堂庭はこんな奴だし……ってイテッ!?」

 堂庭に強く握り締められ、思わず振り返る。

「何だよ急に」
「……うるさい」

 目も合わせずボソッと呟いた堂庭だが、その顔は蒸気を吹き出しそうな程に真っ赤だった。

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