ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか

きり抹茶

2-10 「またあの時のように……」

 時刻は午後三時を過ぎた頃。
 堂庭からのメールにもあったように、俺達は先程まで赤レンガ倉庫で海の強風を浴びていた。
 ここで修善寺さんはやたら髪の毛を気にして触ったり押さえたりしていたのだが、どうやら髪が傷むか心配だったらしい。人をからかって楽しんでいても、本質的にはお嬢様というか女の子なんだなと感じさせられた。

 そして俺と修善寺さんは本日最後の目的地『よこはまコスモワールド』に来ていた。

「宮ヶ谷殿、わしはあれに乗りたいのじゃ!」

 到着早々、修善寺さんはこの遊園地で一番目立つ巨大なアトラクションに指をさしながら話す。

「観覧車か……」

 デートの定番ともいえる乗り物だが、あの狭い密室に女の子と二人。何も起こらないはずもなく……もないのだが。

「ちょっと流石に恥ずかし」
「何をぐずぐずしているのじゃ。早よ行くぞ」

 俺の言葉を遮り、片手を掴まれ引っ張られる。
 やはり修善寺さんに男女間の羞恥心は無いようだ。

「ちょっと待って修善寺さん! 先に券売機で券を買わないと……」
「ほう、そうなのか? 券売機は……あっちの方なのじゃ?」
「いやそっち今来た道なんですけど……」

 しかも園外の道路に指を向けてるし……。もはや方向感覚以前の問題ではないか?
 またも失態を犯したと自覚した修善寺さんは恥ずかしそうに小さな声で答える。

「もう童は余計な事を言わん。お主についていくから早く観覧車に乗せておくれ」
「はいはい……」

 既に観覧車は乗らずして通れない道となったようだ。
 恥ずかしいが我慢だ。今日は修善寺さんとしているのだから。



「うひょおぉー! 高い! 高いのう!」

 お目当ての観覧車に乗った修善寺さんは無邪気にはしゃいでいた。
 俺はそんな彼女を横目に広がるビル群の方へ視線を動かす。
 綺麗に晴れた青空のお陰で景色は良好だ。遠くには富士山も見える。

「これなら学園も見えるかもしれないのう! えっと……あっちの方か?」
「そっちは東京だよ……」

 修善寺さん、あなたの学園の周りにあんな大量の高層ビルが立ち並んでいましたか?
 正反対の方角を指差しているし、もはやこれは故意なのではと疑いたくなってしまう。

 溜め息を一つこぼし、視線を窓の外へ戻す。
 すると修善寺さんが落ち着いた声で話し掛けてきた。

「突然じゃが、お主の学校へ書物を送った理由を知りたくないかの?」
「えっ……」

 慌てて視線を修善寺さんに向けると彼女は真剣な顔でこちらを見ていた。
 書物……数日前に新聞部宛に送られたあの封筒の事か。

「勘違いしてるかもしれんから、是非童の言い分を聞いてくれ……なのじゃ」
「うん、寧ろそれは聞きたいな」

 何の脈絡もなく突然送られた手紙と写真。……写真?
 そうだ! あの堂庭の抱きつき写真は一体どこで入手したんだ?

 俺は咄嗟に声が出そうになったが、その前に修善寺さんが話し始める。

「あれは瑛美殿に自覚してもらう為に行ったのじゃ。決して悪気があった訳ではない」
「……え、自覚?」
「ロリコンが差別されるという事実じゃ。仮にバレたらまたあの時のように……」

 修善寺さんの顔が曇る。
 またあの時……? 俺の知らない所で堂庭に何かあったのだろうか。
 疑問に思った俺は彼女に問うが、表情は暗いまま静かに答える。

「……瑛美殿の性癖は学園内では既に有名じゃ。それで彼奴の地位が滑落したのも……また有名な話じゃ。」
「は? マジかよ!?」

 それって要するにロリコンが原因でハブられてたって事じゃないか。
 堂庭の奴、そんな事一言も言ってなかったぞ。
 中学から俺と同じ公立学校に進学したのも、もしかしたらそういう背景があったからなのかもしれない。

 あいつ、何で言ってくれなかったんだよ……。

「それで瑛美殿が高校でも同じ過ちを犯さないように、わしの善意で送ったのじゃ」
「そんな意味があったのか……」

 しかし今回の手紙が原因で高校の連中にもバレたらどうするつもりだったんだ?
 いくら何でも危ない橋渡りな気がするが……。

 ってかそれよりも聞きたい事があるんだった!

「修善寺さん、写真! あの手紙と一緒に入れたあの写真はどうしたんだよ!」

 強く問いただす俺に、修善寺さんは一瞬だけニヤリと口角を上げる。

「それは……とあるルートから偶然入手したのじゃ」
「何それ怖っ!」

 堂庭には専属スパイでも付いているのかよ。

「というかさ、そもそも手紙で送る必要は無かったんじゃないの? 堂庭に直接言えば良かったじゃん」
「まあそれでも問題は無いのじゃが、そうするともう一つの目的が達成されなくなるのじゃ」

 もう一つの目的?
 理由は他にもあると言うのだろうか。

「これは童のエゴイズムなのじゃが……。お主と瑛美殿が通う東羽高校の質を確かめたかったのじゃ」
「え? それってどういう意味……?」

 すると修善寺さんは唇を噛みしめ、少しの間の後に淡々と話し始めた。

「仮にあの書物の内容が広まったとすれば、それは人を尊重する能力が欠如している鶴岡学園の連中と同じレベルという事じゃ」
「……つまり俺たちが堂庭の秘密を暴露するような程度の低い人間か見極める為だったと?」
「まあそういう意味じゃな」

 当然の如く答える修善寺さん。彼女は俺達東羽高校の生徒を実験台として扱ったというのか?
 だが結果としては新聞部員の理解があった為、堂庭のロリコン疑惑が広まらずに済んだ。
 しかしながら秘密が知れ渡る可能性も少なくはなかった。いくら堂庭に気付かせる為の行動とはいえ下手すれば状況は悪化していたのだ。

 堂庭の悲しむ顔なんて見たくない。それは幼馴染みとして当然の考えだろう。あいつは馬鹿みたいにはしゃいでる姿が一番似合うからな。
 そしてそれを妨害する奴は……俺が一言物申してやる必要があると思うのだ。

 拳を強く握る。俺はいつの間にか修善寺さんに少しの苛立ちを覚えていた。

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