Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)

ノベルバユーザー173744

zwölf(ツヴェルフ)

 アストリット……まどか……はため息をつく。
 いや、緊張から解放され、ぐったりとする。

「どうしたの?アスティ」
「いえ……大丈夫です……お兄様」
「大丈夫とは思えないよ。ちょっと待って」

 カシミールが額に手を当てると、

「熱がある。癒しの魔法を何度もかけたから疲れたんだね」
「だい、大丈夫ですよ……お兄様。ほとんど、ラウちゃんの力なんです」
「ラウ……アスティ。『Blauブラウ Dracheドラッヘ』はね。数が少ないんだよ。私はディと南に旅をした時、『Grünグリューン Drache』はよく見かけた。いくつか繁殖地と生息地域があると、ギルドが教えてくれた。『Drache』の生息域は決まっている。緑色は、私たちの住まう帝国に多い。それからもっと南部が暑い地域に住まうと言われる『Rotロート Drache』……は炎のドラゴン。後は、ここからずっと東に、蛇のような『Drache』がいるというんだ」
「『Chinesischerヒーナリッシャー Dracheドラッヘ』ですね」
「『Chinesischer Drache』……」

 お金を預け軽くなった鞄から本を出し、ペラペラめくると、

「これは、こちらの『Drache』のようにいるかどうかはわかりません。私の地域で信じられている龍神……主に水の神です。確か、今はそんなに人口はいませんが、最盛期になると、Japanヤーパンの首都江戸は、人口が世界で一番になります」
「ん?どれくらい?数千人?」
「今……1600年頃は15万人です。でも、100年後には100〜120万人いたそうです。今から約200年後のこの地域の大都市が80万人、ここの南のパリが55万人です。あ、これが想像上の『Chinesischer Drache』です」
「……バケモノ……」

顔をひきつらせる。

「『Chinesischer Drache』は竜と言います。神獣・霊獣とも言われていて神聖な生き物です。水中か地中、泉や淵に棲むとされることが多いのです。啼き声によって雷雲や嵐を呼び、また竜巻となって天空に昇り自在に飛翔すると言われています。それで、知識があって仕える主人の見つからない賢人を地に伏せる龍『臥龍がりゅう』『伏龍ふくりゅう』と言うのです」
「へぇ……賢人……知識のある人か……」
「そうなのです。そして、口辺に長髯をたくわえていて、手足が小さいですがあります。喉下には一尺四方の逆鱗があります。ここが龍の弱点でもあるので触られるのを嫌がります。で、人を本当に怒らせた時には、『逆鱗に触れる』とも言います。で、顎下、もしくは手に宝珠を持っていると言われていて、『如意宝珠』とも、龍が黒いと『驪龍の珠』というそうです。秋になると淵の中に潜み、春には天に昇るとも言われます」
「……神の使い……神そのもの……なのかな?」
「Japanではそうです。水神……水の神が龍神です。そして、こっちの生き物が、虎です。虎はお兄様も知っていると思います。ここの東に生息します。猫の大きなものです。Japanではいないので、神の使いと言われるのです。この絵は、Japanの画家が描いたものの写しです」

 まじまじと見つめ、感心する。

「黒いインク……」
「墨と言います。液体の墨だけではさらっとしているので、煤に、動物の皮膚や骨、腱をくつくつ煮込んで冷やすとプルプルとしたものができます。それを混ぜて練って、塊を作るんです。そしてそれらを、よく擦って、筆に染み込ませると、描きます」
「……だから黒いんだね」
「水墨画と言います。これは衝立になっているんですよ」
「目を開けたら、これだとかなり怖いね」

 クスクス笑う兄に、アストリットは、

「神様ですよ。でも、こちらだと一人の神ですよね……」
「うーん。アスティは知らないかな?父上は、『Christentumクリステントゥーム』を信仰してる。でも、母上の祖先は『Nordischeノルシェ Mythologieミトルジィ』……北の方の神々を信仰していたと伺っている」
「『Christentum』……キリスト教ですね。で、『Nordische Mythologie』は北欧神話……。私たちのご先祖は、もっと北の方に住んでいたのですか?」
「そうらしいよ。母上は先祖返りしたって伺ってる。そちらの地域は、色が淡い姿の人が多いらしい」
「じゃぁ、私たちも『Christentum』を?」

その問いかけに真顔でカシミールは答える。

「『Hexenverfolgungヘクセンフェアフォルグン』……魔女狩りがあるからね。異宗教を信仰しては命に関わる」
「魔女狩り!」

 思い出す。
 詳しくはないが、勉強した。

「お、お兄様……どうしましょう!わ、私も……」
「大丈夫だよ。アスティは私や父上……皆で守る。それに、アスティを魔女だと言いそうな馬鹿は追い出したしね」

 ニヤリと笑う。
 しかし、ビクビクするアストリットを抱きしめ、

「大丈夫。父上と私やディの力を見くびらないで。それにね?珍しいBlau Dracheを懐かせるアスティに手を出す馬鹿はいないよ。私もディも見ているし、ばあやもきっと父上や母上に伝えている。アスティは人間の魔法よりも優れた魔法を使う……特に癒しの魔法を使う人間はわずか。そして、ラウもディとアスティにしか懐かないと噂に流したら、アスティに危害を加える人間はいないよ。逆な意味で害意を持つものはいるかな……」
「害意、ですか?」
「……ここから連れ去って、事実上の婚姻を結んだとかね」

ざぁぁ……

青ざめる。

「あ、の……お兄様。わ、私の世界では、15歳の人間に手を出すと犯罪です……」
「じゃぁ、何歳なら結婚できるの?」
「じゅ、16……あぁぁ!黙っておけばよかった!私、来月誕生日!」
「……ぷっ、あははは!アスティ!いつものアスティも大人しいけれど、今のアスティも表情がコロコロ変わって面白いよ。可愛い!」
「お兄様、酷いです!」

 むぅぅ……
 頬を膨らませるアストリットに、

「あはは、ごめんごめん。さぁついた。ベアタ」
「まぁ!若様、姫さまも!いかがなさったのですか!」

幼いアストリットを実の子供のように育ててきたベアタは、心配そうにする。

「あのね……」
「あぁ、ベアタ。アスティは、さき、ディーデリヒの連れてきたBlau Dracheと癒しの魔法を使ってね、食事の途中で倒れたんだ。ほら」
「まぁまぁ!せっかくのドレスがドロドロではありませんか!」
「その前にもディに聞いたら一回めまいを起こしていたのに、我慢していたみたいでね、熱が出てる」
「……本当ですわ!あぁ、姫さま、まずはお座りになって、手足だけでも綺麗に……誰か、薬師を!」

 準備を始めるベアタを尻目に、カシミールは椅子に座り、膝に妹を座らせる。

「お兄様……お食事は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。それよりも少し休みなさい」
「すみません……少し……」

 抜けるように白い頰が紅潮している。
 瞳は潤み、へにゃっと表情を崩すと目を閉じた。
 アストリットの頭を撫でながら、カシミールは、

「……幸せになれ……アスティ」

と呟いたのだった。

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