いつか英雄に敗北を

もふょうゅん

27話

玄関から外に出ると、小さい子たちが庭にある道具や置物をはなれの倉庫に運び込んでいる最中だった。
「タリオ」
「アル、待たせてごめん」
「かまわないよ、早速始めようか」
子供を数人連れたアルが屋敷の壁沿いに歩いてくる。
アルの後ろに付いてきている子供達は仕事をできる年齢に達している者達なので、体つきのたくましい子が多い。
「わかった。屋敷の壁に何か不備はあった?」
「一通り見たけど問題は無かった」
「修理はいらないね、それじゃあアル達には補強を頼むよ」
「それが良さそうだな」
「セルノアは?」
「まだ屋敷の荷物を整理してるよ、子供達には指示を出してたから問題ないけど…懐かしいものを見つける度に手が止まるのは勘弁して欲しい」
「なんでやめさせなかったの?」
「もちろん言ったさ、でも…まずは子供達だけでやらせたいらしい」
「そうなんだ」
「…」
ちょうど会話が切れた時、いつもセルノアと魔法の練習をしている子達がこちらにかけて来た。
「それじゃあ、あの子達と柵を作ってくるね」
「…ああ」


「魔獣の侵入を防ぐために庭の土で壁を作る。高さは1mぐらいでいい、屋敷の玄関までに6枚は作ろう」
「え〜!!もっと高く作ろうよ!」
「そうだよ!その方が絶対に安全だよ!」
そうだそうだと騒ぎ出す子供たち。
普段から訓練を行っているこの子達、自分達の魔法に自信があるのはわかる。
実際同年代の子供と比べれば、その実力はなかなかのものだろう。
「それじゃあどのくらいの高さにする?」
「屋敷が隠れるくらい!!」
全力ならそれも可能だろうけど、それで力を使い切られると困る。
「それが破られたら?」
「破られないよ!!」
「乗り越えられたら?」
「え?う〜ん…」
「例えば壁に返しを付けたり、トゲを生やしたり、油を塗ったり…そうすれば登れなくなるね」
「そ、そうそう!」
「外の様子はどうやって観察する?魔法を使ってわざわざ壁に穴を開けるの?」
「そのぐらいならみんな出来るよ!」
「その穴から魔獣が入ってきたらどうする?」
「え…」
「穴を通れる魔獣なんてかなり小さいだろうけど、魔獣は魔獣だよ?戦うの?」
「…」
「そんなに大きな壁を作って、細工を施して…魔力に余裕があるの?」
「そ、それは…」
「ちゃんと生き残れるの?」
「…」
すっかり黙ってしまった…言いすぎたかな。
「まあ、このぐらいは考えて対策をしないとね。当然、俺の想像出来ないようなことだって起こるんだから」
「はい…」


「タリオ〜!壁、全部作り終わったよ!」
結局、小さな堀を作ってその土を壁に利用した。
堀と壁は隣接していて壁の高さは堀の底から測って2m、返しと油を付けることになった。
もちろん、強度も保証できる。
「うん、これなら簡単には壊されないし登れないね。お疲れ様」
「うん!そう言えば、トゲは付けなくていいの?」
「今回は壁より堀の底にトゲがあると有効だから、そっちに生やそうか」
「わかった!」
他の子供たちにもそれを伝えれば嬉嬉として作業に取り掛かっていった。
「容赦ないわね」
後ろにいるアインが、俺に声をかける。
「まあね」
「ここまでやれば安心して魔獣狩りに行けるってわけ」
「まさか。安心出来るまでには、まだまだやることがあるよ」
「…そう」
「タリオ!!次は?!」
「う〜ん…できるだけ安全に、しかも直接攻撃で魔獣を倒す仕掛けが欲しいかな」
「安全に?」
「うん」
「それなら頭だけ通れるような隙間を作るといいぞ!!そしてその頭を切り落とす!!」
「おいおいガラット…そりゃ過激だな」
声の方を振り向くと、装備を整えたガラットとトーザがこちらに歩いてきていた。
「なるほど…でもここに辿り着く魔獣のサイズはバラバラだ。開けた隙間から体ごと入ってきた奴はどうする?」
「アル!心配するな!隙間を通れる小さい魔獣を逃がさないために、その隙間を囲むようにさらに壁を作るんだ!」
「でもそうすると頭か小さな魔獣か、狙いを定めるのが難しいんじゃねぇの?」
「頭だけ突き出していたら剣で切り落とす。壁の中の魔獣を一網打尽にするにはハンマーや魔法を使うといいね」
ガラットはよくヤトイに訪れていて、そこでこのような罠の仕掛けを学んで帰ってくる。
「その通り!!さすがタリオだな!トーザも見習ったらどうだ?」
「で、でもよ!魔獣同士が踏み台にしあって壁を超えたらどうするんだ?!」
「街中でそんなことはありえないだろうけど、そうならないために壁を6枚も作ったんだよ」
「というと?」
「壁には返しがついてて、さらに油を塗ってあるからよじ登るのはまず無理だ。登るのに失敗して堀の底のトゲに串刺しにされる、これで数はだいぶ減るよ」
「…な、なるほどな」
自分で聞いてきたくせになぜ顔を引き攣らせるのか。
「壁を飛び越えた魔獣は子供達が屋敷の窓から魔法や弓矢で仕留めればいい。安全に技術を磨けるいい機会だ」
「そこまで考えてたのかよ」
「上手くいくかは分からないけど、ちゃんと子供達に余力は残させたから。俺達も思う存分食材を調達できるよ」
「わかった!それじゃあ俺達も魔獣狩りに繰り出そう!!」

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