いつか英雄に敗北を

もふょうゅん

24話

「本当に怖いわぁ。帝国軍が戦ってくれてるけど、8年前のこともあるし…おちおち食事もできなくて」
「ご心配おかけしてすみません。ですが、今は機士がいますから安心してください」
「それもそうね…」
広場を離れ、人通りの多い道に出る。
帝国兵士が装備を整え扉の外に出て行き、扉の外から傷を負った帝国兵士が運ばれてくる。
それを目にしたご婦人方が近くの兵士に至る所で不安を吐露している。
「帝国軍って信用ないのね」
「そうだね」
「否定しないの?」
「うん。信用出来る兵士はいるけど、軍は信用出来ないよ」
「そう」
慌ただしい通りを立ち止まることなく通り抜ける。
「あ!お兄ちゃん!」
視線の先で一人の兵士と話していた少女の顔がこちらを振り返り、走り寄ってくる。
そして
「えいっ!」
「おっ…と」
容赦のないダイブ。
「えへへ〜ナイスキャッチ!」
「危ないよエルちゃん。一人?トムさんは?」
「一人だよ!お兄ちゃんを探しに来たの!」
「いくら壁の中だからって、女の子が一人で出歩くのは…危な…い…」
口を開いたアインの存在に、まるで今気がついたかのような反応を示し凝視するエルちゃん。
「えっと…何?」
そして無言で見つめ続けアインの口を無理やり閉じさせたかと思うと
「むぅ〜!どうしてまたこのお姉ちゃんと一緒にいるの!」
いつものぷっくらほっぺたをいっそう膨らませて不満をあらわにした。
「どうして…って言われても…」
「さっきまで仕事しててね、どうして俺を探してたの?」
「ガラットさんから聞いたんだけど、なんだかテノ君が大変みたい、早く屋敷に帰ろ!」
再び走っていくエルちゃんのあとを追うように歩き出す。
「あんまり真面目に受け答えしようとしないで、深い意味なんてないから」
「…そう」
「うん」
すっかりエルちゃんに翻弄されたアインはかなり控えめに返事をして歩き始めた。


屋敷の玄関をくぐると、子供たちが何やら慌てた様子で右往左往していた。
「あ!タリオ!やっと帰ってきた!」
「ほんとだ〜、おかえりタリオ〜」
俺とアインとエルちゃんが状況を掴めずに立ち尽くしていると、俺たちを視界に捉えたロロムとその声を聞いたマイネが駆け寄ってきた。
「エルが見つけたの!壁の道をこのお姉ちゃんと二人で歩いてた!」
「へぇ〜…。そうなんだぁ〜」
「まったく、こんな時に呑気にデートなんてしてないでよ」
エルちゃんは褒めて褒めてと言わんばかりに報告をし、それを聞いた二人がそれぞれ変な視線を向けてくる。
「デートなんてしてない、依頼が済んだから帰ろうとしてただけ」
「アインの言う通りだよ。冗談はいいから、テノに何があったの?」
「あぁ、そうだった。とにかく一緒に来て!」
おふざけの雰囲気は消え、再び慌ただしい様子で俺を急かしだした。


テノの部屋に入ると、部屋の主がベットにうつ伏せになって呼吸を荒くしていた。
「平気か?」
「タ…タリオ…」
どうやら体に熱がこもっていて、体温調節ができていないようだ。
「どこか痛い?それとも苦しい?」
「そうじゃないんだ…」
俺は問いかけるのと同時に額に手を当て熱を測り、他に何か異常がないか全身に目をやった。
「なんだか、胸が一杯で…落ち着かないんだ」
見た限り高熱以外に変わった様子はなく、タチの悪い病気の類ではないのかもしれない。
「そうか、なにかして欲しいことは?」
そう尋ねると、考えた後
「体を…さすってくれる?」
と少し遠慮気味に答えた。
「わかった」
短く返事をし、ベットに上がって横になっているテノのそばに座る。
あまり刺激しないように、テノの体に努めて優しく手を触れる。
頭を撫で。
うなじはくすぐったくないように。
肩や腕は細いので、包み込むように。
「あっ…そこ。そこが一番…気持ちいい」
背中を撫でている時に、テノが恥ずかしそうに言った。
「寝ちゃってもいいから、リラックスして」
「んっ…ありが…っ…とう…」
撫で続けていると次第に規則的な呼吸が聞こえ、テノはそのまま寝入ってしまった。
「とりあえず落ち着い━━━━━」
起こさないようにゆっくりとベットを降り、入口に立っている四人に向き直る。
「なんで顔が赤いの」
四人とも顔を耳まで真っ赤にして俯いていた。


「タリオ!!なんであんなっ!あんな…っ!」
「そうだよぉ!あんなの…」
テノが落ち着いたおかげで屋敷の慌ただしさも静まり、一件落着のはずだけど。
「「破廉恥だ!」だよぉ///」
何故だか俺はロロムとマイネに絶賛叱られ中だった。
「タリオに…撫でられながら…寝むる…ですって…?」
テノが落ち着いたその一部始終を聞いた他の子供達も、セルノアを筆頭に何やらブツブツ言っていたり何かに思いを馳せているようだった。
「どうして?」
「どうしてって!わからないの!?」
「うん、教えて」
「だ、だからぁ〜…あんなに息を荒くしてるのに、体を撫で回したりぃ///」
「背中撫でてた時なんて、テノは気持ちよさそうな声を必死で抑えてたじゃないか!」
「それが?」
「ほんとに分からないの!?アインのあの顔!見たでしょ?!真っ赤だったじゃないか!」
「エルちゃんも〜すっかりのぼせちゃってるしぃ…」
確かにアインの顔もまだ多少赤くはあるし、エルちゃんも俺と目を合わせようとしない。
「俺は何も悪くない」
「僕達の心臓に悪いんだ!!」
「わかった、そんなに言うなら謝るよ」
その言葉を聞いた二人は何とか納得してくれたようで、乗り出していた身を引いてくれたが
「今からテノみたいに熱がある人の看病するから、それで許して」
『わかった///…ってそうじゃない!!!!』
結局、俺はまだ解放されなかった。

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