いつか英雄に敗北を

もふょうゅん

11話

「じゃあアインはいつもは帝国の外にいるんだね〜」
「そうよ」
「珍しいですね」
屋敷を出発した後、アインとマイネ、ロン、イストの四人は互いに自己紹介を終え、そのままアインへの質問タイムになった。
「ふ〜ん?タリオは知ってた?」
「いや、俺も今知ったよ」
「なんで聞かなかったのよ」
「…興味なかったし」
「うわぁ…」
イストからの軽蔑の視線が容赦なく降りかかる。
「普通最初に聞くべきじゃない?」
「そうね」
「私もそう思うわ」
「思う〜」
イストの声に他の女子三人も同調する。
「まあそこはタリオだし」
「それもそうね」
さっきまであんなに対立していたロロムとセルノアが互いに納得し合い、それに他の子供たちもだまって頷く。
「おいおい」
「満場一致なの?」
「そりゃそうだろ」
アインとトーザはすっかり意気投合したようで、二人して俺をいじってくるようになった。
「酷いな」
そしてまたアインに質問する。
そんな感じで商店街までの道を歩いていると、唐突に
「坊っちゃま!!」
と背後から声をかけられ
「お久しぶりでございます!また大きくなられたようで!日に日に成長している坊っちゃまは、まさに旦那様と奥様の生き写しのようで!そのお姿を見るたびに爺は感激で胸が締め付けられてしまいます!ああ!お召し物にホコリが!おや!髪が乱れておりますぞ!やや!腰周りの肉付きが悪い、ちゃんと食事を取っていないのですか?!ならばこの爺めが腕によりをかけて!…」
一気にまくし立てながら体のあちこちをくまなくチェックしていく。
「あ〜執事のおじちゃんだ〜」
「俺はもう坊っちゃまじゃないよ、グラヴェルさん」
「はうあっ!!そ、そのように他人行儀になられてはっ!!この爺!切なさで涙が溢れてしまいまする!」
「大げさな…俺にこだわらなくても、今のあなたに坊っちゃまはいるでしょう?」
「いいえ!爺にとっての坊っちゃまは坊っちゃまだけでございます!」
「だから…今の俺とあなたは他人なんですから、ちゃんと名前で呼んでもらわないと困ります」
「たっ…他…人…っ!」
両手と両膝をお構い無しに地面に付けたことで、やっと静かになり、一息つく。
「はぁ、いい加減慣れてくださいよグラヴェルさん」
「うぅっ!」
「おじちゃん泣かないで〜」
グラヴェルさんのこの勢いにテノを含めたほかの子供たちみんなが距離を取っているというのに、マイネだけは臆すること無く近づいて背中をさすって慰めの言葉をかけている。豪胆だ。
「マイネ様…!」
「タリオも照れてるだけだよ〜きっと〜」
「違うよ」
「そっそうでしょうかっ!」
「違うって」
「多分ね〜」
「マイネ?」
「ありがとうございます!マイネ様!」
「どういたしまして〜」
「…はぁ」
一体何度目になるだろうか。グラヴェルの意識改革は、またしてもマイネによって阻止されてしまった。

「おや?そちらのお嬢様は初めてお会いしますな」
「ひっ!?」
誠に遺憾であるが、息を吹き返してしまったグラヴェルが目をつけたのはアインだった。その彼女の口からは短い悲鳴が漏れた。
「やや!これは失敬。わたくしグラヴィエールと申します。どうぞグラヴェルとお呼びください」
「は、初めましてグラヴェルさん。私はアインです」
「ではアイン様とお呼びいたしましょう。アイン様は新しく屋敷に住まわれるのでございましょうか?」
「あ、いえ…その…」
「彼女は俺の次の依頼主だよ。一緒に行動してるのは今夜屋敷に泊めるからなんだ」
完全に警戒して萎縮してしまったアインの代わりに俺が簡単に答える。
「そうでしたか。それでは今は夕食の買い出しの最中ということですかな?」
「その通り」
「では、私もご一緒に。まずはどこに向かいましょうか?」
「肉屋を覗いてみようと思ってる」
そう答えると彼は満足そうな笑顔で頷き
「承知いたしました」
と返事をして先頭を歩き始めた。
それにまずマイネが続き、ロン、イスト、セルノア、そしてトーザがテノを引きずってどんどん後を追っていく。
「さっきはありがとう」
気持ちを落ち着けたらしいアインが礼を言い、もう大丈夫と子供たちの後ろを歩き始めた。俺もそれに続いて歩き出す。
「どういたしまして」
「それで…えっと彼が?」
「そう、屋敷で雇ってた執事長」
「こんな事言うのは失礼なんだけど…大丈夫なの?」
まあ、さっきの奇行を見れば不安にもなるだろう。
「ああ見えて目利きは超一流だし、商店街での顔も広いから。それに、あんな性格でも優秀なのは確かだよ」
さっきの質問。まずどこに向かうのか?というのは俺が今日の肉の流通に関する情報を知っているかの確認だった。
知っていれば問題なし。
だが、知らない場合は俺に恥をかかせたり不快にさせたりしないで注意して先導してくれたはずだ。
「なら安心ね」
アインは俺の彼に対する信頼を説明するまでもなく感じ取ったらしく、その顔から不安は消えていた。


マイネのおかげでみんなの雰囲気はどんどん和んでいき、普段通りに会話できるようになった。
全員元々人当たりはいいし、初対面でもないのだから当然といえば当然だが。
そして肉屋にたどり着いたとき
「ん?おい!そこの青髪!」
肉屋の前で店主と話していた軍服を着た三人組の男の中の一人が俺に声を掛けてきた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品