記憶探偵はミルクパズルの謎を紐解くか?

巫夏希

第二十四話 虚数課①

「……それにしても、どうして僕の部屋に? 感じからして、それだけではなさそうだけれど」
「それだけ、って?」

 明里の質問に首を横に振る博人。

「記憶探偵の良きパートナーの自己紹介をさせるためだけに、僕の部屋に呼ぶのならその大きな鞄をわざわざ持ってくる必要は無いし、そもそも放課後じゃなくて良いだろ、という話さ。とどのつまり、彼らにも話す必要のある話題であるし、さらにそれが急を要する話題であるということ。そうでないと、だろ?」
「流石ね。……ほんと、隠し事なんて出来やしないんだから」

 にやりと笑みを浮かべると、鞄から装置を取り出す。
 それに併せて博人はワークステーションから伸び出しているケーブルの一本を明里に差し出した。
 明里はそれを受け取り、装置へ接続する。装置の電源を入れると、どうやらモニタはワークステーションに出力するように設定されているようで、博人の目の前にある巨大スクリーンに映し出される。

「……これを見て、どう思う?」
「……箱? だよね? ただの箱だ」
「違う。そうじゃない。この箱、どこにあったと思う? この明らかに人工物に見える、これが」
「……まさか」

 博人の顔がみるみるうちに青ざめていくのが分かる。

「そう。これ、夢の中にあったのよ。しかも、本人が分からないうちにね。誰が入れたか分からない。……これをどう見る?」
「テロ、だね」

 一言だけ、呟いた。
 それを言った明里は――その単語が出るとは思わなかったのか、首を傾げる。

「テロ?」
「ああ、これは紛れもなくテロだろ。他人の記憶を改竄したなんて、そんなことが可能なのかどうかはさておき、それが今実際に出来ていることを僕たちが目の当たりにしている。その意味が為すところは……もうここまで来たら言わなくても分かるだろ?」
「人間の記憶を改竄したことで、性格をも変えることが出来る。いや、それどころじゃない。行動だって操作することが出来る……」
「僕の知り合いに、警察官がいる。あいつに……いや、彼に相談してみようと思うが、どうだ?」

 博人の発言に、明里は睨み付けるように目線を送る。
 多分きっと、そんなことをしたら自分のやることが無くなるとか、そんなことを考えているのだろうか。

「安心しろ。……と言っても多分君の考えは違う考えだね。恐らく、自分のやることが無くなるから出来れば国家権力には頼りたくない、とみた。だが、そういう問題じゃない。これは全人類が享有すべき課題だ。いや、少なくともこの技術が発明された時にはその話題が少なからず出ていたのだろうけれど……」
「でも。警察は、詳しいとは思えないけれど?」
「事情のことかい? それとも、」
「BMIについてよ」

 明里は即答する。

「うーん、どうだろうね。BMIに詳しい警察の人間もいるんじゃないかな。少なくとも、僕の知っている人間はそういう人間だよ」
「BMIの?」
「捜査零課、通称虚数課。脳内の記憶に関する犯罪を取り締まる部署さ。今年出来たばかりだけれど、人間はエキスパートばかり……。彼らを訊ねてみると良いと思うよ」


 ◇◇◇


 そういうわけで。

「いや、どういうわけだよ」
「? ワトソンくん、何か言ったかしら?」
「いいや、何も言っていないよ。強いて言えば、セルフツッコミだ」
「?」

 俺たちは警視庁のある霞ヶ関へとやってきていた。
 一応警察の人間に挨拶するのだから――ということで正装で来ることにした。とはいえ、学生身分の俺たちにはスーツを持っている人間が全員というわけではない。結局、全員が学生服でそのまま霞ヶ関にいた、というわけだ。

「……それにしても、その封筒を渡せば良いんだよな? 確か後は何とかしてくれるって」
「ええ。これを窓口の人に渡せば、後は何とかしてくれる……。そう言っていたけれど、まさか警察にもツテがあるなんてね。ま、それくらいあって当然か」

 親族の情報すら知らないって、イメージ通り明里はあまりコミュニケーションをとらないらしい。まあ、そんなことはどうだっていいか。問題は、ここから。この封筒は本当に俺たちを虚数課へと導いてくれるのか、ということ。怪しまれて補導でもされたらどうしようか、とびくびくしているのはどうやら俺だけのようで、明里と舞は毅然とした態度で臨んでいる。女は強し、とは良くいったものだ。

「さあ、向かうわよ。ワトソンくん、舞。これの解析を進めてもらわないと」

 張り切っているなあ、明里。
 ま、明里ぐらいが普段の気持ちで居てもらわないと困るけれど。
 これから警察と話をする際、明里にリードしてもらわないといけないわけだし。
 そんな軽い気持ちで、俺たちは警察庁へと入っていくのだった。

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