記憶探偵はミルクパズルの謎を紐解くか?

巫夏希

第十四話 交渉


 次の日の放課後、俺はWWW部の部室の前に立っていた。
 隣には舞が立っている。昨日舞が言っていたアシスト、とはこのことを言うらしい。

「……そう言って、簡単に手伝ってくれるとは思えないけれどなあ」

 俺はぽつぽつと呟く。

「とは言っても、収穫無しだと明里さん怒っちゃいますよ? 取敢えず交渉はした、という実績だけでも残しておかないと」

 俺の独り言が聞こえていたのか、舞はそう答えた。
 とは言うものの、やっぱり足踏みしてしまう。交流もない部活にやってきて何の見返りもなくホームページ作成のノウハウを教えて欲しい、なんて言ったところで快く受け入れてくれるわけが無い。
 つまりは当たって砕けろ的な作戦だ。とにかく行ってみて、どうなるかという話。砕けて貰っては困るのが明里の持論だが。

「……だったらあいつ自ら行くのが筋だよなあ」
「明里さんは忙しいって言っていましたよ。何せ機械のメンテナンスが時間を要するのだとか」
「だとしても悪趣味にも程があるだろ。面倒なことをすべて吹っ飛ばして、こちらに回してきているんだぞ」
「……それはそうかもしれないですが」

 まあ、部室の前でぐだぐだと言ったところで何も変わらない。とにかく俺は部室の扉をノックして中に入った。
 部室の中は異質な光景だった。部屋の中は仄かに蒸し暑かった。その理由は、デスクトップ型パソコンが十台以上並べられていることだろう。そしてすべてのパソコンは起動されていて、各々が何かの画面を眺めている。

「あ、あの……」
「あれ。お前、どうしたの?」

 誰かが俺のことを呼んだ。
 俺は振り返る。
 そこに立っていたのは、篠田だった。

「篠田。お前こそどうしてここに?」
「馬鹿いえ。俺はWWW部の部員だぞ。まあ、今日から入部したばかりだけれど」

 WWW部なんて初めてやって来た部活だったから、知り合いが居ないのは結構面倒だと思っていたが――クラスメイトが居るのは有難い話だ。
 俺は少しだけ表情を和らげると、篠田に話を続ける。

「そうだったのか。だとすれば有難い。実は少し相談があってだな」
「記憶探偵同好会、か」

 奥から声が聞こえた。パソコンに隠れていてその表情は見えなかったが、何か様子を窺っているようなそんな感じにも思えた。

「確か、記憶にまつわる謎を解き明かす探偵の居る同好会、だったか? 何というか、謎ばかりだし、そんなことがほんとうに有り得るのかということもあるのだが。結局の所、それによって解決した人間が居るということも知っている」

 立ち上がり、俺の方にやってくる。
 メガネをかけた長身の男だった。おそらくは先輩だと思われるが、あまり先輩との関わりが無い以上、誰かは分からない。
 そう思っていた俺を篠田がサポートする。

「部長。如何したんですか? まさか、この怪しい部活に協力を?」

 お前、クラスメイトの居る部活を怪しい部活と言い放ちやがって。後で覚えていろよ。

「いや、現時点では協力するつもりは毛頭無い」
「現時点では?」
「記憶の謎を解き明かす探偵なんて非論理的だ。物理的な謎を解き明かすならばまだしも、記憶にまつわる謎などすべて非物理的な謎に過ぎない。それはすべて探偵の主観による解答に過ぎず、探偵を信頼せねばそれを理解することは出来ないだろう」
「……つまり、非論理的存在に過ぎない部活に協力することは有り得ない、と?」
「そうじゃない。今、俺も少し困っていることに直面していてね。もしそれを解決してくれるならば、俺個人の力でならば協力してやっても構わん」

 部長直々の依頼、ということか?
 もしそれでやってくれるというならば有難いし、明里が何もしていないということにもならないから非常に楽で済む。まさにウィンウィンの関係だ。

「……分かった。それなら、それで問題ありません。じゃあ、もしその依頼を無事こなせたら、記憶探偵同好会のホームページを作成していただけますか」
「ホームページの作成か。容易いご用だ。ならば話は別室でいいかな。ここでは話しづらい。君たちの部室ならば人も少ないし秘密も保護されるだろう」
「分かりました。それに従いましょう」

 そうして俺たちはWWW部の部長を従えて、部室へと戻るのだった。


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