記憶改竄的現世界物語

さも_samo

第9話:狂気の仮面

内蔵が燃えるように痛む中、視界だけは妙にハッキリしていた。

男が狂気的に笑っている。
もはや彼の目に生気は無いように見えた。

「お前が....今まで殺って来た相手ってのは、【異能力者】....か?」

「異能力者は君達が初めてだよ。僕自身能力を持って無いからねぇ....異能力者がどんなもんかと思って来て見れば、全く拍子抜けだよ」

コイツ....無能力者なのか?
ならさっきの季子の攻撃はどうやって....?

腕に刺さった破片を引き抜く。
燃えるような激痛。

破片を男に向かって投げると、その破片は見事にキャッチされた。
これで....。

「なら異能力者を舐めた事、後悔するんだな!」

記憶を、【改竄】する。
破片に意識が入ったその一瞬。
意識は俺から破片に移る。

その一瞬さえあれば十分だ。

俺はこの能力を....【鍛えた】。もう昔の俺じゃない。

男はパッと後ろを振り返り何かを掴む動作を見せた。

しかしその手が何も掴まない【空振り】だった事に驚きの表情を見せる男。

「どうした?勘でも外れたか?」

「お前....何をした?」

簡単だ。
季子の攻撃を防ぐ直前までの記憶を消したんだ。
攻撃を防ぐ直前の記憶から再スタートするのだから、必然的に体は防御する。

男はその後も繰り返し後ろを掴んでは空振りしてを繰り返している。
10回。10回同じ記憶を【書き込んだ】。

その期間さえあれば....。

ダッシュで男に近づく。
触れる事さえできれば、コイツに悶絶レベルのトラウマを植え付けられる。

そう、全てが理想手だった。
走り出すまでのフォーム。

季子への攻撃によって生まれた【記憶】。
俺自身の【能力】。

全てが理想手だった。

この男が戦闘の【プロ】だという事を除いて....。

男に触れたその瞬間。男の左手が俺の腹に深々と入っていた。
内蔵が全部出そうになる程の痛み。

視界が歪んだ。

残り3回の防御体制を全て終えた後、男は最悪のニヤケ面でこちらを見下した。

「異能力者がどんなもんかと思って来て見れば、全く拍子抜けだよ」

「カッ...カハッ....」

喋ろうと口を動かしても声が出ない。
ヒューと言う空気音と言葉にならない【カッ】と言う音のみ。

「聞こえねぇなぁ!」

頭を蹴られた。

激痛。

悶絶。

頭から流血しているのがよく分かった。

視界が安定しない。
立ちくらみの様にブラックアウトする視界。

意識さえも薄くなっていく。

ガンッ...と言う音が聞こえ、ふと音の方向を見る。
そこには男の頭に当たった鉄棒があった。

季子が男に取り上げられた鉄棒を取り返し、再び攻撃したのだ。

後ろによろける男。

何故!?と言う疑問の表情が浮かぶ。

しかし、それは俺も同じだ。

一体どうやって?

「アンタ。地面見て判断してるでしょ?」

「私の【ハイド】は音だって消せる。なのにバレた。それはアンタが地面に付く私の足跡を見ていたからなんでしょ?完全に盲点だったわ」

「なら投げればいいじゃん、ってね」

男の表情に怒りの感情が見えた。
眉間に皺を寄らせ、ゆっくりと体制を攻撃態勢に持っていく。

「お前バカなのか?自分でその手口を明かすなんて....」

「どうかしら?」

「【ハイド】」

季子がハイドを唱えるのと同時に、地面にガッポリ穴が空いた。
しかし地面が消えたわけじゃない。

季子が地面ごと【隠した】のだ。

これでもう足跡が残ることは無い。

気付くと俺も透過されていた。

なる程、これでアイツに触れろって事か。

季子が鉄棒を取り出す。
おい待て。

ガツン...と大きな音が鳴るのと同時に、男の頭に季子の重い一撃が下った。

「うごっ」と悶絶する男と、スカッとした爽やかな表情を見せる季子。
さっきの攻撃がよほど悔しかったのだろう、もはや攻撃に慈悲を感じない。

「はぁ...はぁ。これだけは使いたく無かったんだがな」

そう言うと男は羽織っていたコートに手を入れ、仮面の様なものを取り出した。
顔が全て覆い隠さるピエロの仮面。

予言液が作り出したあの仮面と全く同じものだった。

季子がその仮面を見て一歩下がる。

瞬間、目にも止まらぬ速さで男は俺の目の前0距離まで近づいて来た。

「ホント、これだから異能力者は嫌いだよ」

男の重く素早い一撃が肩に入った。
肩が砕ける様な感覚を味わうと同時に、僕は後ろに猛スピードで倒れた。

「ッツ....ガアアアアアア」

「おうおうどうした間抜け面ァ!お前のその涙ぐんでる面がハッキリ見えるぞ」

「ア”ア”ア”ッ....」

「ん~最高だねぇ。この俺が素人相手に仮面を使うことになるなんてなぁ?」

「....ン?なんだぁ?お前等どっちも【具現化能力者】じゃねぇんだな....」

「そうか、【仲間】が居るのか。そうかそうか」

「じゃぁお前等を殺したら、さぞかしそのお仲間さんは悔しがるだろうなァ!」

男が仮面を付けた瞬間から、記憶が読めなくなった。

あの仮面は一体....?

男が俺の背中を踏み潰す。
バキッ!と言う人間から聞こえては行けない音が鳴るのと同時に、仮面がニヤリと笑った。
吐いた血反吐が綺麗な円を描く。

「サヨナラだ。赤松勝治」

男が止めと言わんばかりにナイフを取り出し、こちらに刃先を向ける。

朦朧とする意識の中、ふと自分に訪れた幸運に瀕死ながら感謝した。
瀕死の重傷。止めを刺される1秒前。

そんな状態での幸運。

あぁ....本当に。ありがとう。

「つか....まえた....ぞ」

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