極寒の地で拠点作り

無意識天人

辿り着けない


「ここみたいね」

「なんか初めて行った洞窟を思い出すねー」

「初めての、ですか?」

ケイ君が回復したらそのまますぐにウィアちゃんを背負ってもらってここまで来た。幸いなことに、ケイ君の所に戻った時点で麻痺(強)の効果時間は残り時間四分の一を切っており、少しの時間待つだけで済んだ。

口は動かせたみたいだけど、喋ろうにもあんなことの後だからそれがまた億劫で。まあ気まずかったね。リンちゃんのこととはまた別にそわそわするしか無かったよ。

それで、麻痺後に女の子一人を再び背中に背負う重労働をこなすケイ君を横目にしながら辿り着いたのがこの名前も無いただの洞窟。見た目はさっき言った通りで木々に隠される様にちょっとした崖にぽっかりと空いた感じので、最初の洞窟ぽかった。
探せばこういう洞窟なんて沢山あるだろうけど、今まで行った洞窟は荒野だったり谷底だったりで木々と言うより岩々だったからね。

そんな、どうでもいいことを長ったらしく考えた所で私達はとっとと内部に入ってしまうことにした。

「明かり点けますね」

「あっ、いいよ。私がやる……『フラッシュ』」

洞窟は下に向かっていて入り口すぐの所で外の光は届かなくなっていた。
最近は主に暗転での初遭遇で使ってくることが多いこのフラッシュ。ウィアちゃんで手が塞がってるのにそれをやらせるのは悪いので、私がやることで辺りの視界を確保する。

「一本道だと良いけど」

「それなら、リンもすぐ戻って来られてるんじゃないでしょうか」

「確かに。連絡したけど戻って来れないって言うし、リンちゃんもフラッシュ使えるから暗さは大丈夫そうだから、ほぼ確実に迷路だね」

道中、今話した様に連絡は取っておいた。入り口で落ち合おうとしたけれど、何処行っても行き止まりで戻れないとのこと。とりあえず、なるべく視界の取れる場所で待っててもらうことにした。因みに、ルミナちゃんとはまだ会っていないらしいので、更に奥ということも考えられる。

「うーん、でも見てる限り一本道じゃない?」

「まだ初めの方だから……」

今はまだ、ちょっと急な坂を入り口からの光が見えなくなるくらいまで下った所だ。全然進んだ訳じゃない。

「あー、ほら。分かれ道だよ」

そんな時に丁度見えたのが右側に直角に曲がる形の丁字路だった。覗き込んでみると中は空洞っぽくなってて傾斜は殆ど無かった。

「どうする? 曲がる?」

「いや、先に真っ直ぐ行こう。リンちゃんのアイコンもこの道の先っぽいし」

「了解しました」

という訳でそこを曲がらずに、引き続き坂を下っていく。ただ単に狭いからか、その途中でも敵モンスターにエンカウントすること無く進むことが出来たのは良かったと思う。

「あっ、あれは曲がり角……」

「じゃ、ないみたいだよ」

そんな時、相変わらず一直線で一本道の坂が長く続いた先に壁が見えた。一瞬曲がり角に見えたけれど、フラッシュの光を先に進めてみるとそれは間違いであることに気づいた。

「行き止まりね」

「ってことはあっちが正解だったんですか」

「しょうがないよ。さ、早く戻ろう」

アイコン的にはあと少しでリンちゃんの所だったので、洞窟に騙された気分だ。少しがっくし来ている二人に戻るように促して坂を上り始める。
そうして例の丁字路に戻った私達は、さっさと曲がってしまう。そこはさっき見た通り、空洞だった。

「スペースあるから敵も湧いてると思ったんだけど」

「居ないね。ほんとにただの洞窟だったっぽい?」

「油断出来ないですよ。もしかしたら上から降ってくるかも…………来ないですね」

フラグっぽくしたんですが、とケイ君は笑って言う。まあ湧かないに越したことはないので警戒しながら奥へと進む。
何かあると思えたその空洞を抜けてまた狭めの一本道に入る。そんな、今度こそリンちゃんの所へ行けると思った所で異変に気づいた。

「ってあれ? 行き、止ま、り?」

「ですね」

この道はリンちゃんに近づくどころかそっちの方向に曲がりすらしなかった。おかしいよね。

「えっ? じゃあどうやってリンちゃんは……」

「んっと、この洞窟で本当に合ってるんだよね?」

「リンがそう言ってますし、間違いないでしょう」

とすると、何処かに何か仕掛けが?
まあリンちゃんもハープが怖くて無我夢中で走ったかもしれないから何か作動させてしまって気づいたら変な所~、ってなって、途中曖昧ってこともあるんじゃないかな。無論、これ言ったら死ぬので口には出さない。

「とりあえず、戻ってみましょう。何かあるかもしれないので」

「ここには何も無さそうだからね」

「よくわかんないね、この洞窟」

ここに居ても仕方無かったので、その何かを探す為に私達は引き返す。

「リンちゃん、何処行ったんだろ」

「と、言うよりかはどうやってあそこまで行った、の方が正しいかもしれません」

「うーん。道は二つしかなくて、あるとしたら殺風景な空洞があるだけ…………もう掘ってこうか」

私がメイスを少し上げてサインするとケイ君が呆れた様に反論してきた。

「やめてくださいよ。ユズさんの『掘る』は『崩す』なんですから」

失礼な。でも否定はしない。

「でもケイ。こんな状況なんだからそういうことにならないとは限らないよ?」

「それでも落盤事故で生き埋めになって運営が対応してくれなくてアカウント作り直しなんて嫌です」

「その時はか弱い私達のこと、宜しくね」

「生憎、既にこの子でいっぱいいっぱいですよ」

背中のウィアちゃんを首を傾けて見る体勢になってケイ君はそう返す。
そうして良くも悪くも、相変わらず一本道なので迷うこと無く再び空洞へと辿り着いた…………筈だったんだけど。

「えっ?」

「あれ」

さっきから何回もあれあれ言ってると思うんだけど、本当におかしいんだよ。

「空洞、埋まっちゃった?」

「そんな訳ないでしょう。きっと道を間違えたんです」

「ケイ君しっかりして。ここ一本道だよ」

ケイ君がおかしくなってしまった原因。それがこの、ある筈の無い行き止まりだった。この先には空洞があった筈なのに突然ここで道が終わり、壁で塞がってしまっている。
いや、それは語弊があるかもしれない。その行き止まりは元からそうであったかの様に周囲の岩壁とは自然な形でくっついている。でも私達は、確かにこの先からやって来た筈なんだよ。
まあでもこうなってしまった限り確実に言えるのは、

「ええっと……これってつまり」

「閉じ込められましたね、何故か」

「そういう仕掛けだったんでしょ」

「とするとここはただの洞窟じゃない……?」

「今更気づいたんですか?」

「いや、気づいてたけどさ。改めてよ、改めて」

ケイ君の少々馬鹿にする様な言い方と視線に耐えつつ、これからどうするか、それを考える。

「で、ユズが言ったみたいにただの洞窟じゃなければダンジョンか何かかしらね」

「わかりにくいダンジョンだね。普通、こんなものなの?」

「いや、俺に聞かれてもわかりませんよ……」

それもそうだね。どっちかって言うと私とハープの方がそれについては経験者だからケイ君に聞いても確かに仕方無い。

「どちらにせよあっちから仕掛けてきた訳だし、これから何かしらのアクションは取ってくるんじゃない?」

「これがただのトラップだったら?」

「最終的に運営に頼らざるを得なくなる程度に出られなくなる様なタチの悪い物は…………うん。作って、ない、と、信じたい、よね」

と途中から所々、間を空けてハープは言った。
気持ちはわかるよ? あんなダンジョンに、しかも始めて二日目で、ほぼゲリラ的に向こうからやって来て、精神攻撃してきて、私とハープを絶交させようとしてきてさぁ! タチ悪過ぎでしょ、あれより悪いのなんて無いって言い切れるよ私。

「……そうだね、信じたいねぇ」

「ね。はぁ……」

「二人共、何があったか存じ上げませんがそんなどよーんとした空気作り出さないでくださいよ。希望はあります。諦めないでください」

無理矢理重くなった空気を取り払おうとするケイ君と、そんな感じの悪行を運営は再びやってくるんじゃないかって不信感を募らせる私とハープでマッチして、微妙な空気になってしまった。

「もうさ、アレだよ。どーんとやっちゃおう」

「どーん、って?」

「そりゃ文字通り音通りのどーん、よ。この中でそんなのが出来るのはユズくらいだから宜しくね」

「あっ、駄目ですよ! そんなことしたら余計出られなくなります!」

「りょーかい」

「ユズさんもお願いですから乗らないで!」

生き埋めになりたくないんです、とケイ君は嘆願してくるけれど、脱出手段が無い。行って戻ってきた訳だから奥は勿論見てきてる。だから解除装置なんて無いことはわかってた。相変わらず性格の悪いことで。
まあ、ここはダンジョンかもしれないからそういう仕掛けって感じで、塞がれてるのを確認した後にまた奥に行ったら新しい道が出来てた~とか解除装置が現れてた~とかあってもおかしくないので、可哀想なケイ君に免じて一旦見てこようって話になった。

「……それで」

「やっぱ運営は運営だった」

結果、変化無し。
結論、私達は密閉空間に閉じ込められました。
めでたしめでたし、なんて許されない。

「で、その運営に今から助けを求めるんだよ。いつ返事来るか知らないけど」

「っ、あー! もう、ユズ!」

「ん?」

「やっちゃって!」

「えっ? ……あー、わかった。任せて!」

一瞬何のことか理解出来なかったけれどすぐに思い出した。

「やるんですか?」

「仕方無いでしょ、こんな所で何千年も待つよりは」

「何千年は言い過ぎですが…………わかりました。ユズさん、お願いします!」

私はケイ君の言葉を受けて杖を構える。
場所はさっきまで空洞のあった場所、行き止まりの壁でやる。

「じゃあ行くよー」

「おっけー」

「覚悟は出来てます!」

と、いう訳でケイ君の覚悟の重みは知らないけど、軽ーくサクッとフルスイングしちゃう。

「やあっ!」

そうして私の渾身の一撃は壁に命中した。

「……ユズさん、やっちゃってください!」

「……あれ?」

命中した。確かに命中した。なんか今日振りが良かったとも思ったもん。でも手応えは無く、柔らかい何かに当たった様な感触。そして岩壁には何の変化も与えられてない。

「そんな……」

勿論、これに一番焦ったのは私だった。何度も何度も思いっきりぶつける。だけど、相変わらず柔らかい物に打ち付ける感覚が伝わってくるのみ。他の所も色々やった。でも、無駄だった。

「ユズ。もういいよ」

「…………」

「破壊不可能オブジェクト……? どうしてこんな所に…………」

正直、申し訳ない。私だって出来ると思った。でも破壊出来ないなんて知らなかった。
しかし、落ち込んでどうしようもなくなった時にそれは起こった。

「仕方無いよ。だからもう後は運営に……わ」

「ハープ?」

ハープの話が何故か止まった。振り向いて、どうしたのか聞こうとしたけれどそこにハープは居なかった。

「ケイ君、ハープ知らな……えっ?」

そして突然居なくなったハープについてケイ君に聞こうとしたらケイ君も居なくなっていた。

「み、皆?」

気づいたら一人。そんな状況に若干パニックになりかけた私に突然浮遊感が襲った。

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