極寒の地で拠点作り
訪問
「ここら辺で一旦、止まろうか」
「わかりました!」
「そうだね、シェーカさんに伝えたいし」
あの日はリンちゃんのレベル上げのつもりでいたので、私達は日を改めて伺うことにした。何時か、シェーカさんが遊びに来てもいいと言っていたのでそれに乗っかる形で行くつもり。
と、言ってもまだ連絡もしてないから断られるかもしれないんだけどね。それで、危ないから、とリンちゃんにお留守番を頼んだけど、
「私も行きます!」
と、強く言われて先日のこともあったので認めることにした。リンちゃんも私達の仲間だからね。
で、前に「この辺り」とシェーカさんに教えられた、とある東の山にちょっと近づいた所で連絡するために一旦止まった。その麓にギルドらしき建物が一軒建っているのが木々の隙間から辛うじて見えて、見覚えのある紋様がその屋上の旗に描かれているのがわかる。
ここまで来て言うのもなんだけど、他所のギルド同士の問題に首を突っ込むのはあまり良いこととは言えないと思う。でも、シェーカさん達にはお世話になってるし個人的に気になるってのもある。そういう問題で断られるかもしれなかったから、お邪魔出来る可能性が少しでも上がると思って、敢えて『騒乱ノ会』の目と鼻の先で連絡することにした。
「『シェーカさん。突然ですみませんが、お伺いしてもよろしいでしょうか』っと、じゃあ送るねー」
「いいよー」
「ほいっ、と」
返事が来るまでにそれなりの時間がかかると考えていたので、私達はこの連絡時間は休憩も兼ねての物だったのだけれど、意外と返ってくるまでの時間は早くて、
「あ、来たよ!」
「シェーカさんはなんて?」
「『今ちょっと忙しくて、大したおもてなしも出来ないけどそれでもいいなら来てもいいわよ』……だってさ!」
あれ、意外とすんなり……?
てっきり、今忙しいから来ないで、って言われるかと思ってた。巻き込む訳にはいかないから、って言われなかったのは、カイトさんが知らせていないからだと思う。それなら、多分こちらの目的は知られてない。
「よし、じゃあ行こっか」
「うん!」
「はい!」
そうして私達三人は騒乱ノ会へと向かった。
と言っても割とすぐそこなので五分程で着いてしまった。
「うわぁ……近くで見ると大きいですね」
「そうだねぇ……」
下手したら私達のギルドホームの二倍はある、それくらいの大きさだった。さっき木々の隙間から見えた旗は五階程度の高さの屋上に設置されていた。まあ、私達のギルドホームが例外で無ければ外見の大きさと中身の広さは釣り合わない筈なんだけど。
そうして私達は騒乱ノ会のギルドホームの前できょろきょろしてると、
「おい、そこのお前らッ! そこで何してる!」
「は、はわわ……わ、私達怪しい者じゃないですぅ……」
見張りらしき一人が声を荒らげて近寄ってくる。いや、一人じゃない。後ろからもう一人現れた。
「ここはお前らの様な子供が来る所じゃないぞ!」
「ハープ、後ろの人に気づかなかったの?」
「ユズは私を何だと思ってるの?」
まあ、それもそうだ。でも、ハープの気配察知能力ならわかると思ったんだけどなぁ。
「まあ、知ってたけど」
「知ってたんかい!」
流石ハープ、そういうスキルと言われても納得出来るくらいの気配察知能力を持ってるだけある。この前、聞いてみても、
「ああ、スキルじゃないよ! うん、そうそう。まだユズに知らせてない新しいのとかじゃなくて……うーん、なんだろ。なんかわかるんだよねー」
とかそんな感じだったし。
「何をぶつぶつ話し合っている!」
それで当然、そんな話をしていれば、より怪しまれる訳で更に警戒されてしまった。
これ以上、警戒されてもメリットは無いのでさっさと用件を話してしまおう。
「あー、すみません。シェーカさんに用があるんですけど……」
「副団長に?」
見張り役の一人は訝しげに言った。
副団長。確かに見張り役の人はそう言った。
へぇ、シェーカさんって副団長様だったのね。まあ、そうだよね。今更だけど、ギルドの長であるブラストの付き添いであれくらいの仲なんだから、そう言われても納得出来る。
見張り役の二人はこそこそと話し始めて、少し経ってからこちらに向かってくる。
「副団長は今日、特にそんな予定は無い筈だが……」
と、より一層訝しげに対応してくる。
いきなりだもん、仕方無い。こちらが悪い。
でも、これで帰る訳にはいかないので、
「ハープ」
「ああ、うん、わかってる」
予定は無くとも、約束した時の会話が私達には残ってる。だから、プライバシーとかそのあたりは今回気にしてられないので、ハープとシェーカさんの先程のフレンド会話ログを彼らに見せる。
彼らはそれを見ながら、自らのウィンドウを開いて何やら確認している。多分、プレイヤーIDとかだろう。
それで、やっと確認作業が終わった様で、
「副団長の客人とも知らずに失礼した」
「いえいえ、こちらにも非がある訳ですから」
「そう言ってもらえるとありがたい……それでは客間へ案内する。この魔法陣に乗ってくれ」
彼らが指差す方向、塀で囲まれたギルドホームの庭? の一角に魔法陣が出現した。私達は言われるがままにそれに乗る。すると、目の前が真っ白になり、外側の雰囲気とはまた違った、洞窟をそのまま使った様な無骨な部屋が現れた。
「ここで待っていてくれ」
そう言って見張り役の一人は魔法陣に乗って退室した。多分、魔法陣は私達の混沌の鍵と同じ様な役割なんだろう。正面から行けば、多分トラップやら何やらの餌食になると思う。
「それにしても、独特な雰囲気の部屋ですね……」
「確かに」
洞窟の岩壁の所々に大きな骨とかが飾られてて、松明が燃えている。部屋の中央には石で出来た背もたれの無い椅子と側面が荒削りな丸いテーブルらしき岩が置いてある。
「もしかしてブラストさんの趣味?」
「あはは、そうかもね」
ブラストさんはこういうの好きそうだし、想像してみても凄く似合う。
「あ、あのぅ……」
「ん、どうしたの? リンちゃん」
なんかリンちゃんがそわそわ、おどおどしてる。
そんな様子だったからどうしたのかと思った。
「あ、あの、だ、大丈夫なんでしょうか……」
「何が?」
「ユズ。リンちゃん、シェーカさんに会うの初めてだから緊張してるんだよ。それも最初からあんな感じだから余計にね?」
「あー、そういうこと……リンちゃん、大丈夫だって。シェーカさん、凄い優しい人だし、ここの団長さんも変な人だけどとっても良い人だから」
「そ、そうなんですか?」
と、リンちゃんは私を一瞥してハープの方も見る。ハープもそれに対して、こくん、と頷く。
「そ、そうなんですか……お二人が言うなら、安心しました」
そんな風に言いつつも少し落ち着きが無い。それもシェーカさんに会えば、絶対解消されるからとりあえず今は待つだけ待とう。
暫くして、私達の背後の魔法陣が眩い光を放った。そしてその光の中からシェーカさんが出てきた。
「ようこそ、『騒乱ノ会』へ」
「シェーカさん、お邪魔してます」
「ごめんなさいね、少し遅れちゃって……貴方達がこんな早く来ると思わなくて」
「こちらこそ、いきなりすみません」
「いいのよ。それで、今日はどうしたの?」
シェーカさんは対面する形で奥の椅子に腰掛ける。
「あ、いえ、ただこの前、来てもいいってシェーカさん言ったじゃないですか。それを思い出して、行くなら今かな、とそんな感じです」
ハープは台本通りの答えを返した。
素直に、協力したいと伝えれば確実に断わられそうだからぼかすしかない。
私達はさりげなくここ最近の様子を聞き出してこっそり協力していく、そういう方向で行こうと思ってる。
「……本当の目的は違うでしょ?」
でも、それもなんか早くも躓きそうだ。
シェーカさんの目つきが鋭くなる。
「……なんのことでしょう」
ハープが答える。
見張りの人達の時もそうだったけど、こういう時の対応は殆どハープに任せっきりだ。もうギルドリーダー、ハープでいいんじゃないかって思う。
「あ、そうそう……うちのギルドの人間を助けてくれたのよね。ギルドを代表して感謝するわね」
と、にっこりしてシェーカさんは話す。
あ、これもう駄目だ。完全に気づかれてる。
恐らく、カイトさんが話したんだろう。シェーカさんは私達がどういう性格なのかはご存知の筈。
その上でこのタイミングで私達がやってきたら、その目的も尚更確信出来てしまう。
という訳で、これ以上シラを切っても仕方無いのでハープに確認を取りつつ、私は正直に話してしまうことにした。
「……すみません、隠してて。でも普段お世話になっているのでどうしてもお役に立ちたくて」
シェーカさんも隠していた理由は把握していると思うから、それを前提に飛ばして話す。
「いいのよ、別に。でもこれは私達、騒乱ノ会の問題よ。だから、あまり他のギルドが介入して欲しくないの。特に貴方達は戦力としては優秀だけど、私個人として迷惑をかけたくないから……でもありがとう。気持ちだけ受け取っておくわ」
「シェーカさん……」
「ふふっ……まあ、折角来たのだからゆっくりしていきなさいな」
私達の目的はシェーカさんに気づかれる形であっさりと頓挫したが、折角なのでお言葉に甘えてゆっくりしていくことにした……のだけれど、
「副団長ッ! 敵襲です!」
「なんでこのタイミングで……敵の数は?」
「ざっと五十はいます! 装備、階級から見るに精鋭です!」
「五十? 最近はちょっかい程度で、来ても数人の雑兵だったのに…………あの人の不在を知っての行動ね。予定はギルド内で全員に話したわよね?」
「はい、しっかりと」
「それで、あの人のその予定は急な物の筈なのよね」
と、シェーカさんが悩む様な顔をしながらそう言うと、慌てて飛び込んできた団員がはっ、とした表情でシェーカさんを見た。
不在。この世界ではチャットが使える。それなら敵襲を知らせて転移の石で戻ってきてもらえばいい。でも、相手側がそういった行動を取るということはギルドに不在なだけでなく、そもそもブラストさんは今、このゲームにログインしていないということだ。
多分、『急な予定』とか、団員の何かに気づいた様な顔を見る限り、何処かから漏れたのだろう。それも、団員の誰かから。
「あの、私達は……」
「貴方達はここで待ってて。さっきも言った通り、これは私達のギルドの問題だから」
「わかりました」
「ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です……それよりも、早く行ってあげてください」
「わかったわ……それじゃあ、少し待っててね」
そう言って、シェーカさんと団員の人は魔法陣に乗っていった。直後、魔法陣は発光を止めた。恐らく、戸締まりのつもりなんだろう。
少し経ってから、ギルド内にシェーカさんの声が鳴り響く。
「……副団長より伝達。各自、持ち場につき、防衛態勢を取れ」
へぇ、どういう仕組みかは知らないけど便利な物だ。私達のギルドホームも面積的にもギルド自体の規模的にも、大きくなったらこういうギルドホーム内放送を考えてもいいかもしれない。まあ、面積はいいとして、人数は騒乱ノ会みたいにそんな何十人も入れるつもりは無いけど。
そしてシェーカさんの声が鳴り響くと、何やら廊下が騒がしくなった。私達のギルドホームには無いけど、多分トラップの準備やそれに対して退避でも行ってるんだろう。他のギルドホームはそうやって拠点を守るみたいだし。
暫くすると、その音も止んだ。全員、配置とやらについたのだろう。
「静かになったね」
「そうだねぇ……何して待ってる?」
「もし何かあってからじゃ遅いから、ステータス関連は無しね。リンちゃんは何したい?」
「え、ええ? 私ですか? そう言われましても……」
ハープから話を振られたリンちゃんは頭を抱えて話題を考える。そこで私はついさっき、ふと思ったことを言ってみることにした。
「あのさ。こうやってギルド同士の領地争いやら何やらやってるけどさ……実際に占領された時って、その占領されたギルドは取られちゃうのかな?」
「どうだろう。流石に取るなんて出来ないんじゃない? どちらにせよ傘下に入れて税とか取るだけだし、脅すだけじゃないかな……リンちゃんはどう思う?」
「え、わ、私ですか!? うーん……そういえば前のギルドのリーダーがその辺りの話をしていた様な……」
「えっ? どんなどんな?」
「あ、はい。確か……『占領して征服してやった時の奴らの悔しそうな表情、マジでたまらないな』とか『ギルド乗っ取ってやった時の快感と来たら……くははっ!』とかそんな感じでした」
ギルドを乗っ取って、と言った。
つまり、私の考えが当たった。取られちゃうのかぁ……でも、具体的にどうしたら『占領』で『乗っ取り』になるんだろう。ギルドリーダーを倒したら? いや、でもそれならブラストさん不在を知った上で乗り込んできた彼らの意図が知れない。
考えても仕方無い。今度神様に聞いてみよう。あの人、何故か何でも知ってるからなぁ。
それにしてもリンちゃんが凄い。さっきの
、聞いてて明らかに性格の悪そうなリーダーを真似した時の声とか抑揚が完全に役者のソレだ。因みに意外とノリノリだったりする。良い声だし、普段のギャップもあってか可愛い。何処か何度も聞いていたい様な物だった。
そんなリンちゃんがハープには受けたらしく、
「ね、リンちゃん! もう一回! もう一回、『くははっ!』って言って!」
「? は、はぁ……別にいいですけど、では、『くははっ!』」
「あはは! リンちゃん、もう一回!」
「えぇ……?『くははっ!』……これでいいですか?」
「もう一回!」
「ふぇぇ……」
因みにリンちゃんは自然にやってるっぽくて、ノリノリに見えるのも無意識みたい。私は何度もせがませるリンちゃんが段々可哀想に見えてきたので、
「ほらほら、ハープ。リンちゃん、困ってるでしょ?」
「ユズさぁぁん……」
そう言って私の後ろに隠れる。
「もう、大丈夫だよ」
「むぅ……ユズだってリンちゃんの声、良いと思ったでしょ?」
「ま、まあ……」
「……実は何度も聞いていたいなぁ、なんて思ってるんじゃない?」
「…………」
ちらっ
「……っ!?」
私が無言のまま、後ろに隠れてるリンちゃんを見るとびくっ、と体を振るわせた。可愛い。
バレてしまっては仕方無い。私はリンちゃんに向かって、悪魔の言葉を口にする。
「リンちゃん」
「っ! な、なんでしょう……」
「『もう一回』……ね?」
「ひッ……」
そんな感じでリンちゃんは私達によって、声真似の餌食となったのであった。
「あはは! やっぱりリンちゃん良いねぇ」
「ね!……あれ? そういえば何か外が騒がしくない?」
暫くしてから、私達のいる客間のドアの向こうから大きな音が聞こえる。ズドーン、とかドタドタ、とか。
「トラップじゃない?」
「ってことは、すぐそこまで来てるってこと?」
「そうかもしれない……ユズ、リンちゃん、念の為に武器ちゃんと持っといて」
「わ、わかりました!」
「りょーかい!」
内部にまで入られてるということは、シェーカさん達戦闘役は大分苦戦を強いられてる様だ。
そうしてる間にもどんどん音は近くなっている。すると、バタンバタン、扉が開けられていく音がした。多分、隠れてる団員がいないか片っ端から調べていっているんだ。こうなればもう、戦闘は避けられない。
「ユズ、リンちゃん……ちょっと」
「どうしたの?」
ハープが手招きしたので近寄って話を聞く。
どうやら作戦があるみたいで、私もリンちゃんもその案で行くことにした。
「じゃ、そういう形で」 
そして私達は配置につく。
ハープと私は扉の陰に、リンちゃんは入り口に対面する形で椅子に座ってもらう。
あとは待つのみだ。
「おい、やっぱり誰もいねぇじゃねぇか」
「そう言うな。まだ隠れてるかもしれんだろう」
そんな二人の男の声が隣の部屋からした。
私はハープとリンちゃんの顔を見る。
次の瞬間、扉が勢いよく開いた。
「どうせ、ここも……ん? おい! ガキが一人いるぞ!」
「あ? なんだって?」
その時、こっそりとリンちゃんは私達に合図をする。それは『騒乱ノ会の団員ではない』という意味の合図、騒乱ノ会の団員ならあの紋様を身につけている筈なのでその判断は容易だ。
そうと決まれば、私達の行動は早い。
「なんか知らんが、ガキがひと……ぐあっ!」
ハープはいつも通り、弱点を突く。
HPバーがゴリゴリ削れて赤になる。赤になったということはHPが20%以下になったということだ。ハープは右手の闇ノ短剣をミセリコルデに持ち替えて、すかさず二撃目を繰り出す。すると、その一人の男は前のめりに倒れながら消えた。
この間、僅か三秒程。
「流石だね、ハープ」
「ありがとう。さっ、次も片付けよう?」
「どうした!?……ッ!」
続いて乗り込んで来たもう一人にもハープの凶刃が襲いかかる。ハープは同じ様にミセリコルデでとどめを刺した。
「一丁上がりっ!」
「さっすがー、いえーい!」
パンっ、と私達はハイタッチする。私は見てただけだけど。
もし少人数だったらハープ、大人数だったら私、と決めていたので分担ではあるからセーフ。何がセーフかはわからないけど、とりあえずセーフなのだ。
「それにしても珍しいね。いつもなら持ち替えなんてしないのに」
そう、今日はハープはミセリコルデを使用して相手を倒した。普段ならその、スキルと言われても納得出来るレベルの正確な弱点突きで、STRの値を関係無いかの様に一撃、または二撃で倒せるので、HP20%以下で即死のミセリコルデをわざわざ使用する意味なんて無い筈なんだよね。
「あー、それね。いや、なんか手に入れたはいいけどさ、使ったことないじゃん? だからたまには使ってあげないと可哀想かな、って。純粋に試してみたいって気待ちもあったんだけどね」
成程、そういうことね。
確かに折角手に入れた武器、使ってあげないと武器にも悪い。
「じゃ、いつ来てもいい様に同じ形で待ってよう」
「うん!」
「わかりました」
そうして、私達はさっきと同じ配置になった。
幸い、シェーカさんが戦闘終了の放送が流れるまで敵が来ることは無かった。
「ごめんなさい、私が取り逃したばかりに……」
「大丈夫ですって! ほら、無傷ですから!」
ギルドホーム内に入ってきた他ギルドの精鋭団員は他にもいたらしく、私達が倒したのはその内二人だということだ。シェーカさんは私達に謝っているけれど、特に何も無かったので無傷アピールをして励ますことにした。
「そういうことじゃないのよ……」
「え?」
どうやら、ダメージとかその辺りの話では無いらしい。一旦、シェーカさんが側にいる団員と話をして、再びこちらに向き直った。
「こうなってしまった以上、貴方達にも話しておく必要があるわね」
「なんでしょうか」
「今回襲ってきたのはね、ここからすこし南に行った所にあるギルドの人間なの」
そう言ってシェーカさんは話し始めた。
そこのギルドとはサービス開始辺りから既にいざこざがあって最初はちょっとした小競り合いのみだったこと。
そのギルドが徐々に周りのギルドを傘下に引き入れて更に勢力を大きくしてしまい、最近は小競り合いから本格的な戦闘状態に陥ることがよくあること。
それで、今回の襲撃で私達が見られ、且つ攻撃を加えたことで目をつけられたかもしれないこと。
そんな感じだった。
「それで、ブラストさんはどう解決しようと?」
「ええ、あの人はあくまで話し合いで解決しようとしてるわね。あの人らしいと言えばあの人らしいのだけれど、こちらから攻めずに防戦だけでっていうのも何時まで続くか……」
「大変、なんですね……」
私達のは、場所が場所なのでそんなギルド同士の関係なんて気にしてなかった。というより、気にする場面が無かった。
「何よりも申し訳無いのは貴方達を巻き込んでしまったことよ」
シェーカさんがそう言ってる所悪いけど、これは好機なんじゃないだろうか。ここで、私達は協力してもらわざるを得ない状況になってしまった。つまり、自分達のギルドの問題に巻き込んでしまったということで、それがシェーカさんの自責の念の原因となっている。
だけどそれによって、言わば、和みの館は騒乱ノ会と臨時の同盟関係、といった形になるかもしれない。つまり、私達の当初の目的である、『シェーカさん達のお手伝いをしたい』を遂行出来る様になるということだ。
「シェーカさん、大丈夫ですよ!」
「えっ?」
「私達、元々お手伝いするつもりでここに来たんですから、ね? ユズ、リンちゃん」
「うん!」
「はい!」
「本当に大丈夫なの?」
私達は一様に頷く。
「そう……そう言ってもらえると嬉しいわ」
シェーカさんの暗かった表情が元に戻り、私達の答えに笑って返してくれた。
お手伝い出来る、と決まったはいいものの今回のはちょっと、というかかなり大変な問題になりそうだった。
「よし、じゃあ決まったことだし、シェーカさん達の手伝い、頑張っていこう!」
「おー!」
「お、おー!」
大変なことになるとわかっていながら、覚悟してそう決めた私達の心はより一層纏まった様な気がした。
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