極寒の地で拠点作り

無意識天人

イベント当日


「いよいよ、だね?」

「うん……」

遂に今日は待ちに待った日曜日、イベント当日だ。初の公式大会でプレイヤー間の対戦であるため、街の専用広場は大賑わいでがやがやしている。一方、私達はというと、

「あー、緊張する……」

「ね、上位三分の一行けたらいい方かなぁ」

「どうだろう、レベルもまだまだだし半分より少し上くらいじゃない?」

と、緊張してる上に自信が無いといった調子である。実際、これがどのプレイヤーにも初の催しであるため、どれだけ敵を倒し且つ倒されなけばどのくらい行けるかと言うのが全く検討もつかない。
でも私達は緊張すると同時に期待もしていた。私達が一体どれほどの力を持っているのか、それを示せる場だと、そう感じたから。

集合時間は八時四十五分で戦闘開始は九時丁度らしく、もうすぐでその集合時間になる、といった所で、

「あっ、『騒乱ノ会』だ!」

と、人がごった返す広場のある一角からそう声が聞こえてきた。騒乱ノ会って確か、ブラストがリーダーやってる所だったっけ、そうなればあそこにシェーカさんも居る筈だ。
そんなことを考えていると、その一角の道が開けたのが辛うじて見えた。

「あっ、ブラストさーん! こっち向いてー!」

「キャー、ブラストさーん!」

それとともに黄色い声が聞こえてくるけどそれは無視して、

「えっ、騒乱ノ会ってそんな有名なギルドなの?」

「いや、私に聞かれても分からないよ……まあでも、あの様子からすれば、そうみたいね」

「あのブラストさんがねぇ……ハープ、もっと見えないの?」

「うーん、見えないね」

「えー、ハープ、身長私より5センチ高い筈でしょ? なら私に頂戴!」

「そう言われてもたった5センチだし、ユズもすぐ伸びるよ!」

「どうかなぁ? ここ二日間のハープの『すぐ~』は信用出来ないからねぇ」

因みに私の身長は150センチでハープは155センチで、二人共平均身長には届いていないから周りから見たらどちらも小柄なんだけどね。

「うぐ……あ、ユズ、そろそろ始まるよ!」

苦しい声を出したハープだったが、時間に救われた様だ。広場の中心にある噴水の上に浮かぶ大きなウィンドウには

『第一回イベント開催!』

と、当たり障りの無い文が書かれていた筈だったが集合時間になった今は、皆様を専用ルームにお連れします的な趣旨の文章に変わっていた。
するとその直後、私の目の前は光で包まれた。
いつも使ってる技のせいかは知らないけど、思い切り目を瞑ってしまった。
光が収まったかな、と思い目を開けると私が四畳半程の部屋にいることに気づいた。恐らく個室になっていてプレイヤー達が個々に送られたんだろう。異常なことと言えば扉が無いことくらいか。
暫くしていると突然、ウィンドウが開いた。

「うわっ!」

『本イベント参加者631名全員の転送が終了致しました。これより、各プレイヤー間で最終確認を行って下さい』

「631人か……大丈夫かなぁ」

私は心配しながらも装備確認をする。
無論、闇の魔道士シリーズに闇ノ戦棍、それからアメジストのブレスレット一択だ。私はあの時から少し対策を行っただけなので、レベル上げはしておらずステータスは変わらずである。

先程からルール説明の文章がウィンドウに流れていくが、新しく知ったことと言えば、上位プレイヤーやその他興味深いプレイヤー達を映すスクリーンがあの広場に設置され、そこから参加してないプレイヤーが見られる様になっている、というくらいだ。
あとは当然ながら仲間との協力が難しい様に出来ていて、フレンドにせよギルドメンバーにせよ場所が分からない様になっておりチャットも出来ない。逆に言えば、個人戦がちゃんと出来る、かな。

そうやってルール説明など色々見ながら、暇を潰しているとようやくフィールド転送時間になった様で、私は再びぎゅっと目を瞑る。
次に目を開けると、そこには見覚えのある風景が広がっていた……というか、さっきまで居た所だ。

「え、街?」

開いたウィンドウの右上に『another(最初の街)』と小さく書かれているのでそういうことなんだろう。
その文字の下に一ずつ減っていく数字が多分イベント終了までの時間で、それによるとイベント時間は三時間らしい。それが長いか短いかは分からないけど、この時間内で相手を倒しまくればいいんだ。
とは言っても私のAGI値はとても低い、真っ向から向かっていったのでは返り討ちに遭うか逃げられるかのどっちかだろう。それなら私がやることは唯一つ、

「奇襲攻撃、だね!」

そう決めた私は早速行動を開始することにした。



最初に見かけたのは、片手剣と盾の二人組で既に戦い始めてる様子だった。私はこの黒いローブでは目立つっていうのもあって、建物の陰からそれを見ていた。

「はぁ、はぁ……お前、強いな」

「お前もな……せいっ!」

「なんのっ!」

と、何か友情が芽生えそうな男二人だけど、私にはどうでもいいことなので、そこに水を差してやることにした。

「さて、そろそろかな……『暗転』!」

私が小声でそう呟くと、いつも通り私の周りが闇に包まれた。

「なっ! お前、どういうつもりだ!」

「俺じゃねぇよ!」

突然、辺りが暗くなったものだから困惑を隠せずにいる彼らはお互いを疑い始めた。
私はその隙を見逃さず、彼らの背後へ忍び寄り、

「……っ! 誰かいる……ぐあっ!」

杖で殴ってやった。
私のステータス唯一の取り柄である高いSTR値はしっかりと響いた様で、一撃で仕留めることが出来た。

「どうした!? 大丈夫か!?」

もう一人はきょろきょろと周りを見回し、つい先程まで戦っていた相手の身を案じて叫んでいる。
私はそちらも殴って倒した。勿論、一撃で。

「『解除』っと」

暗転が解け、辺りに光が戻る。
もしこれがあのスクリーンに映し出されていたら
闇が呑み込んだ様に見えるかもしれない。
何はともあれ、二ポイントゲットだ。暗転の消費MPは2だけど、アメジストのブレスレットのお陰で元が取れる。良い感じのサイクルだ。
この調子でガンガン行こう!

次に見かけたのは、杖二人と両手剣一人だった。
臨時パーティかな、と思いながら私は一回目と同じ様にちょっと近づいて暗転する。

「な、なんだ!? おい、魔道士共、何とかしろ!」

「わ、わかりましたっ! 『フラッシュ』!」

当然の様に狼狽える彼らの内一人は光魔法を唱えるが、

「え? 効かない?」

「何やってんだ! 早くしろ!」

残念ながらそんなひ弱な光ではこの深淵なる闇は晴らせないよ。私は、もう一度フラッシュを使おうとしてる人の後ろにさっきと同じ様に……

「叩く!」

「がッ!」

ふう、やっぱり気持ちいい、一撃で倒せるっていいよね。杖っていうのもあって低身長な私でも頭まで届くから、思い切り頭に振り下ろせる。

「どうした!? おい、おい!」

「うるさいよ、っと」

「グガッ!」

辺りに向かって吠えている両手剣一人を背後から殴って、

「え? ……ッ!」

残った杖一人を素早く倒して戦闘終了、まあ戦闘になってないし、奇襲なのでするつもりもない。
とりあえずこれで合計五ポイントだ。今の所何の問題も無い。

そして私は例によって、暗転殴り殴り殴り……と調子良くポイントを稼いでいた。
そんな感じで稼いでいると、イベント終了まで一時間半となった所で突然頭上から、

「えー、イベント時間の半分が過ぎました。ここで一旦順位を中間発表させて頂きます!」

「中間発表かぁ……ハープ、大丈夫かな?」

まあ、あれくらい対策してたんだから問題無いとは思うんだけどね。速いから真っ向から行っても奇襲しても難なく行けてると思うから多分私より稼いでると思う。

「それでは、第五位から……第五位は、フランさんです!」

それでも壁は高い筈、ハープを悪く言う訳じゃ無いけどこんなに上位にはいないと思う。それは勿論、私にも言えること……せいぜい私は行けても200位くらいだ。

「続いて第四位……第四位は」

そんなことを考えていたから、私はその次の言葉に耳を疑った。

「ハープさんです!」

「ええっ!?」

そして私は慌てて口を抑える。幸い、周りに人は居なかった様で誰にも気づかれなかった。

「ハープ……凄いじゃん!」

さっきまであんな予想をしていた所でこういうのもなんだけど、流石だと思う。多分私なんてもっと下だと思うから、本当に賞賛したい所だ。
そして第三位も勿論私でない人が呼ばれ、絶対に無いな、と思いつつ次の標的を探そうとしていたその時、

「そして第二位……第二位は、ユズさんです!」

「はっ?……ええっ、えっ!?」

私の名前が呼ばれた。周りに聞こえるのもお構い無しに大きな声を出してしまった。

「えっ、ちょっ、そんな筈……」

私がハープを差し置いて2位?
絶対無い、私なんて奇襲してはちまちまやってるだけだしそんな高い所に居る筈がない。それなら多分別人だ、ユズなんて名前なら多分ありふれているでしょ、うん、そう思っとこう。

「そして、現在の暫定首位は……ブラストさんです!」

「おおっ!」

やっぱりブラストさんは凄かった。あんな性格しといて、実力が伴っているんだから凄い。伊達に有名ギルドのリーダーやってないんだね。

「そして最後に、この暫定上位5名の位置はマップに表示されます! 更に更に、残り時間三十分になると、彼らを倒した方はポイントの二割を奪取することが出来ます! それでは残り時間半分、皆様の検討を祈っています!」

そう言って、アナウンスは終了した。
二割が多いのかは分からないけど、私には関係の無いことだ。さて、ハープも含めて上位の方々の場所を……

「ん?」

その上位5名はマップ上で青いアイコンで示されるみたいなんだけど、それが何故か私のアイコンの上に重なって表示されている。私は辺りを慌てて見回すのだけれど、誰も居ない。
うん、駄目だ、これはもう否定できない。

「ええっ!? 私……2位?」

それが紛れもない事実だった。
有り得ない、と思ったけれど、このアイコンが全てを示してる。

そうと分かれば、私は早急に行動を再開した。
ただし、再開と言っても奇襲では無い。マップで場所がバレてしまうというのもあるし、既に何十人と倒してしまっているのだから、周りから見られていたり倒され方も知られているかもしれなかったから。
そうなった今、私がやることはまたしても一つ、

「今度は待ち伏せ、だね」

そう決めた私は、直線で一本道、且つ挟み撃ち対策に行き止まりの路地に入り込んで待つことにした。5人居るとはいえ、625人が分散して来る。それなら退屈しないだろう。

「いたぞ! あいつだ!」

まず最初にやってきたのは、杖の集団で恐らく数十人は居るだろう。いきなり大勢を相手することとなったけど、これはこれで『一網打尽のとっておき』が使える。
私は彼らがそれぞれの魔法を唱える前に暗転を使用した。

「くっ、お前ら! 後退だ!」

よく分かっていらっしゃる、確かに暗転は闇である範囲を抜ければ問題は無い。だけど私はそんなことお見通し、しっかり一網打尽してやる。

「『奈落の穴』!」

【ユズは奈落の穴を唱えた! MP46/54】

闇のドームを抜けた先にぽっかりと地面に穴が開き、抜けてきた杖の人達を吸い込んでいく。
この奈落の穴は闇魔法Lv.4の技で、生気の強奪からこんなに早く習得出来たのも、眷属さんとハープの対策のお陰だ。因みに私の今のレベルは30だ。

それで一網打尽に出来るのは良いんだけど、これで倒しても敵モンスターから素材が落ちなかったり、今回みたいに対人戦だと道が分かれてたら複数個出せない上、範囲が狭いので仕留めきれないのが欠点なんだよね。
まあ、倒したって判定は出るみたいだからポイントも増えるらしいし、アメジストのブレスレットのMP回復の効果にも入るみたいだからこういう所ならかなり良いみたいなんだけど。
そして何よりも感心すべきは効率の良さだった。

「えっ、これで一気に二十ポイント?」

さっき来ていたのは二十人の様で、奈落の穴と暗転のセットで元を取るには五人倒せばいいのでサイクルにしても全く問題無かった。
あちらは私を倒すために集中してくるので大人数になる、そして私がその大人数を倒し、次への糧にする。これはもしかしてもしかしなくても、中間発表前よりもやりやすくなったかもしれない。
そう思うと、変な笑いが出てくる。

「ふふ、ふふふ……おっと、いけないいけない。油断しちゃ駄目だ」

それでも、収まらないのは行けると思ってなかった上位の、暫定ではあるけれどそれも更に上位に届いてしまっているからだろうか。

「ふふ……ま、まあ、とりあえず今まで通りやっていこうか」

私はそう決めて、笑いを抑えながら次の相手を待つのであった。

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