極寒の地で拠点作り
北の荒野で素材集め その三
「それじゃあ、今日も頑張っていこー!」
「おー!」
「うむ」
「って神様何もやらないじゃん……」
ポイズンリザードの鱗を集めきった後に、一応ギルドホームに戻ってログアウトしていた私達はギルドホーム兼神様のお城で今日の素材集めに向けて気合を入れていた。
「む、そんなことは無いぞ?留守中に侵入者が来たらお主らに伝えてやる……のだが生憎、立地がな……」
ハープのツッコミに消極的に返す神様。
神様にそう言われて気づいたけど、ギルドホームって襲われることもあるんだよね。神様の言う通り、『体感気温10℃以下、強風付きで寒さ増し増し』な所……あ、追加で『何も無い』な辺境の地にわざわざ人なんて来ないから忘れてた。
巷では、かなり強い敵が居る、なんて噂もあるけどそれは多分素材集めの所より更に北の話だと思うし。
神様は続けて、
「だが昨日、お主らのHP、それからMPを全回復してやったばかりだろう。だから一応私でも役割は持っているつもりなのだが」
「ありがとうございます、神様」
そこの所は感謝しておく。
まあ他の通常ギルドホームでもLv.1の時点で全回復するシステムは持ってるんだけどね。でもそんなこと言ったら神様がいじけそうだし罰が当たりそうなんだけど、ハープが言いそうだなぁ。
そんな矢先、
「えっ?でもそれって神様じゃなくても――「あっ、そうそう!最後の素材だけどデザートタイガーってどんな感じなの、神様?」……ってユズ?」
ハープが案の定、口を滑らせて地雷を踏みそうになった所ですかさず私がフォローに入る。
何気に私がハープをこういう形でフォローするのは少ないかもしれない。とりあえず、後でハープにはちゃんと言っておかなきゃ。
そして私の問に神様は、
「む、どうした急に?……まあ良いが、デザートタイガーは基本単独行動だな。この辺りであれば昼は茂みに身を隠している様だ」
とりあえず最初に言ってた通り、地上にいるのは確からしい。
「じゃあ予定通り、私がやっていいかな?」
ハープが確認してくる。
前もハープが言ってたけどVITが初期値だからね、私達。それなら遅い私よりハープの方が適してると思うから賛成の方向で行く。
「うん、お願い」
「よーし、私がパパッとやっちゃうからね!」
そうして私達はデザートタイガーの生息地へと向かった。
地図で示された所にいざ着いてみたけど、デザートタイガーの姿が見えない。
今回の素材の中で一番必要収集数が少ないけど、個体数が少ないからなのかな?勿論、強いからってのもあるだろうけど。
「どうする?何処か歩き回って探す?」
「そうだね、手分けして探そうか」
効率がいいからね。
そうして私達は、見つけたら報告って形で二手に分かれてデザートタイガー探しに入ることにした。
私はハープに手を振って、西へと向かった。
同じ様な景色が続く荒野の上で風に煽られて靡く植物の陰に隠れていないか探すけど、全くいない。
もしかしてこの強風だから何処か洞穴とかに隠れてるのかな?でも普段からこんな風ならそんなことは無いか……とりあえずその線含めて探してみる。
暫く探して見つけたのはちょっとした洞穴っぽい感じの穴。私はそこに入ってみる。
「あっ!」
見つけた。
それは入り口から直接見えない所に隠れて、眠っていた。
幸い、今の声で起きること無くぐっすりだった。
私はハープに、
『デザートタイガー、一体見つけたよー』
と送った。
因みに、ギルドメンバーだったりパーティメンバーだったりすれば現在地は分かるから場所は教える必要が無い。
するとすぐに、
『ちょっと待って、今、こっそり近寄ろうとしてる』
と送られてきた。通知音が洞穴に響くけど、相変わらず眠り続けていたから良かった。
ハープも丁度見つけた所の様で、私に伝えようとした所、送られてきたそう。
それで、あっちは洞穴じゃなくて茂みの陰に隠れていたらしい。
『待ってるよー』
『うん、倒し次第行くからー』
「了解、っと……さてハープにも送ったことだし」
待ちますか……
そうして私は気長に待つことにしたんだけど、思いのほか早めにハープから連絡が来た。
『倒したからそっち行くね!』
「早っ!」
流石ハープ、倒すの早いね……何で流石かは分からないけど一応そう言っとく。地図を見るとハープを示す点が凄い速さでこちらに向かってくるのが分かる。やっぱり、【AGI:368】は違う。
と、地図に気を取られていると
「ガウ!」
……洞穴の外、つまり背後から来るもう一体の仲間に気づかなかった。何処の小学生探偵の第一話だよ、なんて考えてるけど割とヤバい、というかかなりヤバい。
すると、眠っていたデザートタイガーも起きた。絶体絶命、暗転も間に合わない。
「ごめんね、ハープ」
襲いかかってくるであろうデザートタイガーを前にしてギュッと目を瞑って、ハープに謝る。
殺される……ゲームの中ではあるけど、そういうれっきとした恐怖が沸き上がってくる。
あー、痛みは抑えられてるとはいえ、爪で切り裂かれたり牙で噛みちぎられたらどれくらい痛いんだろ……
私は諦めてそんなことを考えていると、
「『闇との同化』」
誰かの声が聞こえたと同時に、
「グルアッ!?」
一体のデザートタイガーがやられたであろう声を出した。
瞼を開くとそこには、
「ごめん、待った?」
ストレートのセミロングで、茶色っぽい髪の少女が、座り込んでいる私のことを見下ろして微笑んでいた……何故か、黒いオーラを纏いながら。
「ハープ!」
「そ、ハープ参上ってね」
間に合ってくれたおかげで助かった。
ハープが来なかったら今頃、どうなっていたことか。
「ありがとう、ハープ!」
「いいっていいって、とりあえずユズの後ろの奴倒すからね」
私の背後、眠っていた方のデザートタイガーはこちらを見て警戒している様で、唸っている。
ハープは私とデザートタイガーの間に立って、
「さあ、行くよっ!」
「グガァッ!」
ハープより先にデザートタイガーが襲いかかった。しかし、それをハープは難無く躱す。
いつにも増してとんでもない速さだ。
「遅いよ!」
「グァァッ!」
「じゃあ今度はこっちが行くよ!」
そう言われたデザートタイガーはハープに向き直ってもう一度飛びかかろうとするが、
「グガッ!?」
再び攻撃を躱したハープがデザートタイガーの側面にダガーを刺す。すると無作為な混沌で興奮状態になるが、すかさず刺した方で腹を引き裂き、
「これで、終わりっ!」
もう一撃食らわす。
「グァァッ!」
デザートタイガーは青いエフェクトを散らして消えた。
「ふう……あ、大丈夫、ユズ?」
そう言って手を差し伸べてきた。
「あ、うん。大丈夫だよ、ありがとう」
「どういたしまして、いやぁ、危なかったー」
「本当にありがとうね?助けてくれて」
「何言ってるのよ、私が助けなかったからユズのこと誰が助けるの?ユズは私の大事な親友で幼馴染なんだから!」
「ハープ……」
ハープの優しさにじんわり来た所で、私はふと思った。
「そういえば、ハープがここに着いた時に使った『闇との同化』って?」
「ああ、あれはね……『戦闘時のみ使用可能。戦闘終了まで自身のSTR、AGIを二倍にする』って効果の暗殺術Lv.3の技だよ」
ハープの武器固有スキル、暗殺術のLv.3はステータスアップ系かぁ……そうなると、あの速さも納得出来る。なんてったって使用中はAGIが600越え……本当にとんでもない。
何も知らない人が、これでレベル20代なんですよって聞かされたら絶対信じないと思う。まあ私も人のこと言えないけど。
「へぇー」
「消費MPも5だし、何より一回の戦闘で一回使うだけでいいから凄い良い技だよ」
「うんうん、あ、そういえばさっきのデザートタイガー、一つ落としてたよ」
あの二体のデザートタイガーの内、どちらかがデザートタイガーのヒゲを一つ落としていた。これは幸先良い。
「お、じゃあこれで二つ目だね」
「二つ目?」
インベントリを見てみると、確かに×2と表示されていた。
「私があっちで倒した一体が落としたの」
「つまり、あと三個集めればいいってこと?」
「そう、だね」
もうこれは幸先が良いと言わずして何と言うか。
これからもこの調子で行けたら尚良い。
「で、もうこれは本格的にハープに任せちゃうことになるけど、いいかな?」
「うん、問題無いよ!サクサクサクッとさっきみたいにやっちゃうからね!」
私が介入したら足でまといになりそうなので、私は今回一切攻撃しないことにする。ハープは最初と同じく、快諾してくれた。
そして私達は再び、デザートタイガー探しに出向いたのだが今回は一緒に行動することにした。
その後はもうお察しの通り、エンカウントしてもペースをデザートタイガーに譲らず、ハープの独壇場だった。
闇との同化で引き上げられたハープのステータスは、本来かなり強いであろうデザートタイガーを凌駕して、一撃二撃三撃と攻撃を加えればエフェクトを散らして倒れる。一方のハープは攻撃は全て躱し、無傷である。本当、とんでもない強さだ。何より動きがかっこいい。
それに比べて私と来たら……回り込む、叩く、終了。うん。
そんなことを考えながらぼんやりとハープのキレッキレな戦闘を見る。
そして四個目が集まり、五個目もそろそろかなぁ……なんて考えていると再び洞穴を見つけた。
この洞穴は分岐はしないけど、奥が長くて隠れるにはもってこいの場所だった。
案の定隠れていて、ハープのダガーの餌食になる。そして、数体倒し続けると遂に、
「よし!五個目、素材集め終わり!」
「やったね、ハープ!」
いえーい、と私達はハイタッチする……あ、これいいかも、今度からやろう。
それにしても意外とあっさり行った。
下手したら今回の中で一番簡単だったかもしれない……一応、強さ的には一番強かったんだろうけど。
「じゃあ、早速神様の所に……」
「あれ?ちょっと待って、ユズ」
「え?」
ハープに止められる。一体何があったのか。
「ちょっとあれ見て!」
「んー?」
ハープが指差す先、洞穴の更に奥。
そこには絶対にその先に重大な何かがありそうな雰囲気の、重そうな扉があった。
「扉?」
「みたいだね……行ってみる?」
ハープにそう誘われる。
でもなぁ、闇の迷宮みたいな感じだったら困るし。
「危ないだろうから、ちょっと覗くだけにしようよ」
とりあえず今はちょっと中身をこっそり見るだけ、その後神様の所へ戻る。
そして、ハープも闇の迷宮のことを考えながら言ったのか、
「そうだね。何かあってからじゃ遅いし……扉を少し開けるだけでいいかな?」
そう納得してくれた。
そして私達は扉の前に向かう。いざ近づいてみると、扉には豪華な装飾が成されており、この扉を隔てた先の物に対して何か重大さを感じざるを得なかった。
「じゃ、ほんの少しだけ、開けるよ?」
「うん」
その扉は引き戸になっていて、二人がかりで引っ張ることにした。
「いっせーの、せっ!」
すると扉は思いのほか軽く、拍子抜けするほどだった。あ、やばい全開になる。まあでも片方だけだし、入らなければ問題無いよね?……多分。
私は扉を杖で抑えて、中を確認する。
「えっと、木?」
「うん、木だね」
部屋の中はかなり広い円形の広場の様で、その一室しか無い部屋の中央には立ち枯れた巨木が根を張っていた。
部屋の中に大きな木があるのも違和感あるけど、私はその木に他の違和感を感じていた。
私はとりあえず、帰る準備や必要素材を確認するためウィンドウを開くと突然、
「ひッ!」
ハープの引き攣った声が聞こえた。
私はどうしたのかハープの方を見てみると、部屋の中に向けて指を差している様だった。
私はその指の先を辿って、部屋の中、巨木を見る。すると、
「……っ!」
巨木と目が合った。うん、文字通り、目。
オールドトレントの親玉みたいなソイツは威圧する様にこちらを思いっきり睨んでいた。
当の私達はと言うと、部屋の外だと言うのに、睨まれて、数分間は動くことすら出来なかった。
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