手違いダンジョンマスター~虐げられた魔物達の楽園を作りたいと思います~

ノベルバユーザー168814

招かれざる客


 死角を突くように飛び出してきた粘性の生き物が踊りかかる。

 だがそれもただ剣を振るうだけでその生き物──スライムは形をなくし周囲に飛び散り、その存在を消滅させる。

「はっ、こんなもんかよ。ダンジョンって大したこと無いのな」
「王様もバカだし、こんな程度の事であーしら勇者をわざわざ派遣するなんて」

 再びスライムが角から気配を消し暗殺を仕掛けようとしてくるが、その姿を目に捉えることもなく避けられ身動き出来ない空中で破裂させられる。

「ちっ、スライムの癖に攻撃だけは面倒だな」
「どうせ相手にならないんだし、準備運動だって思えばいんじゃね?」

 切り伏せた際に着いた粘液を剣を一振りするだけで飛ばし、鞘に納める。
 そこで男は周囲を見渡しては舌打ちを繰り返していく。

「無駄口を叩かないで、さっさと行く」

 愚痴を溢す二人に、一人の水色の髪の女性が厳しい目付きで黙らせる。

「へいへーい」
「わかったしー」

 たった3人の侵入者により、ダンジョンは悉く攻略されていく。

 3人が階段を下り、目にしたものは建造物だった。

 木で出来た、簡易的なものではあるが確りと作り込まれており、住んでいるものがいるかの様だった。

 と言うよりも、既にその住人に取り囲まれている真っ最中だったのだ。

「へぇ、ホブゴブリンにオーク……少ねぇけどゾンビまで居るな? 1つの層にこれだけ集まるたぁ、随分歓迎されてるな?」
「ま、数だけいても意味ねーし? おい、これあーしが殺っても良い?」

 恐らく100は超えるであろう魔物の群れに取り囲まれ、殺気をぶつけられようとも当の三人は柳に風とばかりに飄々としていた。

「……好きにすれば良い」

 水色の髪の女性、恐らくリーダーなのだろう、彼女から許可を得た派手な女は指をならして上機嫌に1人前に出てくると、その背中に携えた槍を引き抜き地面に突き刺す。

「さーて、何人生き残るかな? ──【ライトニングボルト】ぉぉぉ!」

 地面に刺さる槍に眩い光が放たれ、周囲が明るく照らされる。
 地面を這うようにして周りへと蛇のようにうねりながら走る閃光は魔物へと絡み付く。

「グガァァアァァ!!?」
「ゴァァァアァァァ!?」

 瞬間、魔物の群れは1匹、また1匹と倒れ伏していき、その身を黒く焦がされその身を灰にする。

 その一撃のみで魔物の群れは壊滅状態にまで追い込まれ、残った後方の魔物達も威力は殺されはしたものの、ほぼ満身創痍だった。

「グルァァァァァァァ!!」
「うるせーし!」

 最後の力を振り絞り立ち向かおうとした魔物もいたが、あっけなく槍で胸を貫かれ命を断たれる。

「雑魚が粋がんなし」

 胸に刺した槍を無造作に引き抜き、悪態を着いた派手な女は死体に唾を吐きかけ、道端の石を蹴るようにして吹き飛ばす。

「……そこまでする必要はない」
「は? あーしが殺したんだからどうしようと勝手だし!」
「……次にいく」

 派手な女の態度が気に入らなかったのか水色の髪の女が忠告するが派手な女は取り合わない。
 何を言っても無駄と悟ったのか女はさっさと立ち去るのだった。


◇◇◇


「いってぇなぁ! んだよ、マシな奴もいるのかよ!」
「あー、マジうざかったし!」
「手強かった」

 腕に傷を受けたのか、男と派手な女は苛立ちながらも治療を施していく。
 女の方も深く息を吐き呼吸を整え、今しがた自分達が倒した魔物を見る。

 どうみても子供の様な姿のアンデットと、付き人の様な二人組がおり、それに大分苦戦を強いられた。
 見た目に惑わされたパーティーメンバーが油断したこともあるが、その自力自体が恐ろしく高かったのだ。

「あん? ほら、さっさと行くぞ。テメェが遅くてどうすんだよ」
「……わかった」

 その女は見知った様な人物が敵におり、その手で殺めた事が気にかかったがメンバーの男に呼ばれ先に進んでいく。


◇◇◇


「またスライムかよ!」
「色着きとか意味わかんないし!」
「……っ、集中する!」

 先ほどあっさりと倒したスライムとは比較にはならないほど、もしかするとついさっき倒したアンデット達よりも1匹1匹が強烈な強さを持っている何故かカラフルなスライムが11匹、殺意を込めて襲いかかってくる。

 さながら暴風の様に止まない攻撃、そして全く自分達の攻撃は当たらないことに苛立ち始める。

「あぁ! 糞が、雑魚の癖に調子乗ってんじゃねぇよ!」
「任せろし! 【ライトニングボルト】ぉぉぉ!」

 怒り任せに暴発させた地を這う閃光がスライム達にもその驚異を知らしめる。
 だが何匹かは避けることに成功し、攻撃を繰り返していく。

「ちっ、もうめんどくせぇ……ダンジョンごとぶっ壊してやるよ」
「っ!? それはダメ!」
「もう遅ぇ! 【ガイアスラム】!」

 我慢の限界がきた男が叫ぶ。
 それを止めに入る水色の髪の女だったが、止めることが出来ず、男は全てを粉砕する一撃を敵味方関係なしに放つ。

 放たれた斬撃は一直線に疾り、動けなくなっていたスライムを飲み込みまだなお進む。
 それはやがてダンジョンの壁にまで到達し、莫大な音と衝撃波をもたらし壁を破壊していく。

 亀裂の入った壁は天井へ、そして床へと延びていき地面は割れ天井から瓦礫が落ちてくる。

 そしてダンジョンの崩壊が始まり、数分と経たない内に周りのご(・)と(・)地面へと沈んで行った。

「ぶはっ! 死ぬかと思ったぜ!」
「あはは、あーしら良く生きてたし!」

 瓦礫を押し退けて土まみれになりながらも3人のパーティーがよじ登ってくる。
 そして笑い合う2人を横目に水色の髪の女は男に詰め寄る。

「……なんで壊す必要があった」
「は? ムカついたからに決まってんだろ。俺様は苦戦しちゃ駄目なんだよ」
「危うく私達も死ぬ所だった」
「死んでねぇんだから良いだろ? 面倒なんだよ、お前」

 1歩でも間違えれば己はおろか、仲間ごと死に追いやる事をしでかしておきながら反省の色も見せない男に、心底呆れる。

 周りを見渡せば森であった場所は殆ど荒野に近い状態になっており、元の生い茂った森の見る影も無くなっていた。

「さーて、俺は疲れたし後は任せるわ。おい、向こうで仕事終わりのお楽しみと行こうぜ」
「うわぁ、外でとかマジ? あーしは全然オッケー!」

 男は派手な女の腰に手を回し、歩いて去っていく。
 少し離れた場所にある岩陰に消え、打ち付ける音と艶めかしい声だけが聞こえてくる。

「……猿」

 二人が去っていった方向をみて吐き捨てると、崩れたダンジョンの調査を開始する。
 殆ど瓦礫に埋まってしまい、調べる事など無いのだがこれも仕事の内だった。

「……っ、これは」

 瓦礫との間に人のような姿を確認した女は、まさか他の冒険者がおり、ダンジョンの崩壊に巻き込んでしまったかと慌てて瓦礫を退かす。

「……うそ」
 
 そこには黒髪の少年が胸元に顔を埋めるように赤髪の少女を抱いて事切れていた。
 ダンジョンの崩壊から守ろうと身を呈したのかもしれない。
 だがその奮闘も虚しく、少女の方も息はなく、二人の間にはクリスタルの様な結晶が半分に割れていた。

 片方は女の知っている、もう一度あって話したいとさえ思っていた男だった。
 再会は果たすことができた……だが最悪の形での再会だった。

 こうしてダンジョンは崩壊し歴史から消えるのだった。


◇◇◇


「うぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 俺は一体何処から出してるのかという程、恐らく今までで1番叫んだであろう声量を放ちながら飛び起きた。

「はっ、夢か……」

 ビビらせやがって……。
 深呼吸を数回繰り返し辺りを見渡す。
 恐らくまだ真夜中だ、寝てからそう時間は経っていなさそうだな。

 嫌な夢を見てしまった。
 まさかダンジョンがぶっ壊される夢とはな……スッゴいわ、汗びっしょりなんだけど。

「……夢で良かった」

 あんなのが現実なら洒落にならない。
 なんかぼんやりとしか思い出せなくなってきたけど、あの3人強すぎるだろ。
 1人は見覚えがあった気がするけど……思い出せないな。

 兎に角なんか夢であっさりと攻略されて一撃で滅ぶとかないわー。
 現実にそんな強さの奴がいるのかは知らないけど、これは正夢になったら恐ろしいな。

「よし決めた。ダンジョンを難攻不落の物にしてやる……!」

 仲間を増やし、階層を増やし罠も増やして安全に過ごせるダンジョンを作っていこう。

 例え夢だったとしても仲間の魔物達が死んでいくのを見たくは無いよな……。

「んぅ、クロトどうしたの?」

 俺の叫び声で隣で寝ているラビィを起こしてしまった様だ。
 ……おい、なんで隣で寝てるんだこいつ。

「起こしたか、悪い。嫌な夢を見た」
「少し震えてるよ? 本当に大丈夫?」

 気がついてなかったが体が震えていたみたいだ、よっぽどキているらしいな。

「大丈夫だ、お前は安心して寝てろ」
「んぁ~、手なら握ってて良いよ?」

 そう言うとラビィは再び眠りについてしまった。

「この年で手握って寝るわけ無いだろ」

 ……ま、1日くらいは良いか。

 お言葉に甘えて、俺はラビィと手を繋ぎ眠りに着く。

 こいつ、明日は自分の部屋で寝てもらう。

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