手違いダンジョンマスター~虐げられた魔物達の楽園を作りたいと思います~
ダンジョンへ帰ってきました
オカガゼルの依頼なんて二度とやらない。
そう心に誓った俺は、今日も今日とて薬草の採取だ。
周囲からの目が若干痛い気がするがたぶん気のせいだと思う。
マルタの街から出て30分程のところにある小さい森で薬草をのんびりと採取していく。
身入りは少ないけど、俺にはコボルト退治で得た金がまだ残っているので焦る必要もない。
普通の冒険者なら既に武器などで金が尽きているだろうが、俺は冒険者としてみればかなりの軽装だ。
革鎧なんてものも着けてないし、私服オブ私服、持っているのは短剣だけだ。
それに宿代と食事代以外に金を使わないと言うことも大きい。
俺は貧乏性なのだから。
さすがに装備くらい少しは揃え様かとは思うが、寄ってくる魔物に至っては……。
「陛下には指一本触れさせん!」
と豪語しながらロクロウが渾身の体当たりを決めて魔物を追い払うので、あまり装備揃える意味がないかなって。
あと装備が合わない。なんかゴワゴワして落ち着かない。
とまあ、森なので普通にスライムであるロクロウを外に出しても問題無いわけで、ロクロウにも手伝ってもらいながら薬草をブチブチ……。
冒険しろよって? バッカだなお前、素人が危険侵したら死ぬぞ? 俺は死ぬ自信があるね。
何せ鍛えていない一般人の俺に出来る冒険なんてのは薬草を採って薬に変えてもらうと言う位のものだ。
ドラゴンの討伐とかはアスカに任せます。
コツコツと採取を繰り返していた俺は塵も積もれば山となる感じでなんとこの度Eランクへと昇格だ。
パッと見れば下から2番目だが、定期的に依頼を受けなきゃならない義務は消えた。
なお、この数日でサノーはDランク目前だとか受付嬢が自信満々に言ってた。
おかしいな、どこで差が着いたんだろう……。
「うん、これで依頼分は集まったかな……ん?」
すぐ目の前の茂みが揺れている。
ロクロウかな?
「旦那! 大変だ!」
出てきたのは家のダンジョンの影(俺自称)である、黒色のスライム、サスケだった。
◇◇◇
「……で、何が大変なんだ?」
慌てている様子のサスケを落ち着かせ、それから少しして戻ってきたロクロウと話を聞くことにした。
「じ、実はラビィ嬢とミストの奴が喧嘩をおっ始めてダンジョンの雰囲気が最悪なんだ」
「……喧嘩の原因は?」
「ミストかラビィ嬢のイチゴミルク? を勝手に飲んだ事が原因らしい」
「子供か!」
いやどっちも子供だったわ!
一人は長年生きてきた(死んでるけど)が中身がガキ、もう一人は最近生み出されたガキである。
うーむ、ラビィめ……イチゴミルクごときで喧嘩をするのは成長の兆しが見えないな。
見た目は俺と年代は変わらないのに中身は小学生位だな。ロリババアか! 違うな。
「ミストの方はやたら暴れるし、ラビィ嬢は不機嫌でマスタールームから出てこない。大将もホブゴブリン達とどうにかしようにも手がつけられない状態で、旦那を呼ぶしか方法がなくてなぁ」
「俺、もう外出られないじゃん」
保護者がいないと回らないダンジョン……うーむ、仕方ない。
当初の予定より早いけど、ダンジョンに帰るか……幸いアスカも帰ってくる気配を見せないし、依頼も粗方終わる。
それに定期的に依頼を受ける義務も無いわけだし、街から離れても不信に思われることもない。
「わかった、これから街に戻って帰る支度をする。明後日には戻れると思うから、それまで持ちこたえてくれ」
「俺らが不甲斐ないばかりで旦那に迷惑をかけちまった……」
「気にするな。元々ダンジョンマスターがいないのが悪い、俺の采配ミスだよ」
「いいえ、陛下。陛下が不在の状況で不測の事態に対応できぬ配下が悪いのです」
さも当然のごとくサスケ達ダンジョン居残り組をディスるロクロウ、そう言う言い方は感心しないぞ。
「ロクロウ、お前はあの事態の大変さが分からないから楽観的に言えるんだ」
「ほう、己の未熟さをミスト殿やラビィ殿のせいにしようと言うのか、サスケ殿」
ひとまず街に戻って、依頼を達成させて、それから宿に戻るか。
「んなこと言って無いっての、でもまぁ、話を聞いただけの奴に苦労が分かる筈もねぇよ」
「……何が言いたい?」
サノーはどうしようかな……うん、偵察頼んでも良いけど、一人にするとなんだか不安だし、連れて帰ろう。
「なにもしてねぇ奴にとやかく言われる筋合いは無いって事だけど?」
「陛下、こいつはここで潰します」
「へぇ、鈍足なロクロウが俺に触れるのかねぇ、楽しみだわ」
どうするか考えてたらいつの間に一触即発してるぞコイツら。
何があった?!
「と、取り敢えず喧嘩は無しだ。それよりもさっさと帰って準備するぞ! サスケは先に戻っててくれ」
「了解」
チラリとロクロウを見た(恐らく)サスケは最初に音を立ててやって来たときとは違い、忍者っぽい消え方をした。
あれは何度見てもかっこいいな~、俺にも出来ないかな……。
「じゃ、行くぞロクロウ」
「お見苦しい所をお見せしました」
「はは、十勇士同士で喧嘩するのは初めて見たな。喧嘩するなとは言わないけど、程々にな」
喧嘩するほど仲が良いって言うしな、さすがに本気の殺し合いなら止めるぞ。
若干神妙な空気のなか、マルタの街へと帰っていく。
◇◇◇
「これ、依頼の薬草です」
「はい、承りました。……品質も上々です、問題なく達成になります」
ギルドに戻り、依頼の報告をする。
報酬を受け取り、ギルドから去ろうとするところで思い出した。
「サノーはどこに行ってますか?」
「……サノー様は依頼の真最中ですけど、何かあるんですか」
なんかスッゴい嫌な顔されて見られている気がする。
あれだな、イケメン以外に様はねぇ、とっとと消えろ! って顔してる。
「……戻ってきたら宿屋に顔を出すように伝えてください」
「はぁ、分かりました。お伝えしますよ」
多少の愛想は持っていて欲しいなと思いつつ、荷物整理があるし今日のうちに街は出てしまいたいので、さっさと戻ることにした。
◇◇◇
「これでよし、とは言ったけど特に用意するものが無いんだなこれが」
「街に着いた時点で大抵のものは売却しましたしね」
「後はサノーを待つだけなんだけど……」
と、その時部屋にノックが響き渡り扉が開く。
「クロト様、私に用があると聞いたのですが……そう言うことですか」
「察しが早くて助かるよ」
ちらりと俺の近くに置いてある荷物を見て、サノーはダンジョンへ帰ることを察してくれた。
「私も準備する物はこれといって無いので早速戻りましょうか」
◇◇◇
俺達はその後、ギルドで街を出る事を伝えてそのまままっすぐにダンジョンへと向かっている。
ギルドでは、出ていくのを渋られたが(サノーだけ)、なんとか抜け出すことが出来た(サノーが)。
半日ほど歩き、夜になる。
そして野宿で過ごして1日かけてダンジョンのある森にたどり着き、ようやくダンジョンへと戻ることが出来た。
はぁ、元の世界の車って本当に便利だな。
DPで出せないだろうか……、ダメだな目立ってはいけない。
確実にどこからか狙われる可能性があるので止めておく。
現在、俺、ロクロウそしてサノーはダンジョンの前までやって来た。
そして中へ入っていくと……。
「主! ようこそお帰り下さいました! このユキムラ、心よりお待ちしておりました故! 昨晩から待機しており今か今かと……」
「長い長い、って昨日から?! ……そこまでするか」
俺の目の前には、赤いスライムのユキムラが出迎えてくれていた。
「主の配下ともなれば当然のこと! ただ、他のものは少し忙しく……某だけの出迎えで面目ない」
「ラビィとミストの喧嘩の仲裁だろ? 気にしないでくれ、さっさと終わらせるさ」
「お手数をかけてしまい、申し訳ございません! 愚かな某に罰を!」
スライムは比較的ドMなんだろうか。
罰は与えないけど。
「ロクロウ、主の護衛ご苦労だった」
「陛下の身を守る事は当然のこと」
「うむ、後で話を聞かせてくれ! モチも呼んでな!」
何か話しているが、まぁ良いだろう。
「ユキムラ、ロクロウ、サノーはミストの所にでも行っててくれ。マスタールームは俺とラビィしか入れないからな、ラビィはなんとかしてくるさ」
「ご武運を!」
「死地に行く訳じゃ無いんだがなぁ」
俺はマスタールームへ転移した。
◇◇◇
マスタールームに広がっていたのはゴミ屋敷だった。
ところかしこにお菓子やイチゴミルクの残骸があり、その中央にはゴミ屋敷の女王が座っていた。
「おい、ゴミ屋敷陛下。これはどういうことだ」
「ん、あ、クロト! お帰り! 早かったね!」
「うん、ただいま……違うわ! どういうことだこれは!」
「えーと、お菓子? 食べる?」
「よし、ふざけてるようだし、お仕置きが必要かな」
「く、クロト……怒ってる?」
漸く気がついたのか、ラビィはおどおどし始める。
「別に? そろそろダンジョンに戻ろうと思ってた矢先にお前とミストの喧嘩が始まって戻ってきたら部屋が散らかっているし? 悪びれている訳でもないラビィに怒ってるとかそんな器の小さいことしないし?」
「あ、これ、怒ってる……」
しかしまぁ、よくもこんなにお菓子ばっか食べたもんだな。
あれ? お菓子ってDPなきゃ取り出せない筈だけど……どのくらい使ったんだ?
権限はある程度渡しているけど、まさかな……。
ここ数日で上手く行けばそこそこ貯まっていると思うんだけど……。
確か出る前が3万とちょっとだったから、5万位には……なってない。
え、なんで、どうなってんの?
「ラビィ、どれだけDP使った?」
「えーと、お菓子とか皆に分けてー。あ、ミストにもいっぱい渡したよ!」
「よし、お話ししようか」
ラビィを捕まえ、俺はミストの元へと向かう。
◇◇◇
結論から言うと、ラビィは大量のお菓子をDPと交換しミストにも配りまくっていた。
喧嘩をしてやけ食いしたそうで、ミストの家もゴミ屋敷になっており、サノーは絶句していた。
なお、喧嘩しながらもお菓子を配りあったらしくホントに喧嘩してたのかと言いたい。
「ウノー! なぜ掃除をしなかったのですか! ミスト様の面倒を見るように言ったはずなんですが?!」
「……面倒」
「め、面倒!? よし、ウノーこちらへ来なさい。お話ししましょうか」
「……ダルい」
サノーは額に青筋を浮かべていた。
気苦労が絶えなさそうだな。
「あの、クロト……足が痺れるのさ」
「うぅ~、びりびりする~!」
さて、今はお馬鹿さん達を正座させ、重りを膝の上に乗せている状態である。
「け、喧嘩したのは謝るからさ! 正座は終わらないかい?」
「うんうん、私達も仲良くするからさ! もう喧嘩しないから!」
おっと、予期せずに仲直りを始めた様だ。
だが、違うんだよお二人さん、俺はもう喧嘩の事はどうでも良いんだ。
「喧嘩の理由はくだらなさ過ぎるから別に良いんだ。お前達を正座させているのは別の理由だ」
「別の?」
「そう、お前達……DP幾ら使ってると思ってんだ」
「……あれ!? なんでこんなに減ってるの?」
「ラビィ、君が使いすぎなのさ」
「絶対ミストのせいだよ」
「僕のせいにするってのか?!」
「私のせいでもないよ!」
お前ら二人のせいです。
「はぁ、取り敢えず罰としてラビィは権限を剥奪んで、ミストと一緒に2週間ホブゴブリン達の畑を手伝え。以上、解散、俺は疲れた」
「え、ちょ!? 畑!?」
「く、クロト~、お願い許してぇ~」
二人はめちゃくちゃ泣きそうな顔をしていた。
「あ、おやつも無しな」
その顔は驚くほど絶望していた。
まぁ、何より。
俺はダンジョンに帰ってきた。
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