創成の転生者〜最強魔導師の転生記〜

RAKIHA

第11話 壊れた心

ロドスさんを倒した後になって気づいたことがある。僕の身体に前回と同じように、氷や霜が付着しているのだ。それも自分には全く冷たさが感じない。


「気づいていないようだけど、顔の右半分くらいも霜で覆われているわよ。もうそれは許容するしかないんじゃない?」


氷魔法を使うとどうしてもこうなってしまうようだ。身体に害はないのでこのままでもいいだろう。

「それにしても、さっきの魔法は何?また新しい魔法を考えたの?」

気にもなるだろう。相手の魔法を魔力ごと凍結させるというのは今までになかったのだろうか?僕は魔法凍結マジックフリーズについて説明すると・・


「魔力ごと凍結って・・・またとんでもない魔法を作ったのね・・・」
「そうですか?いままで誰かが考えたりとかしなかったんですかね」
「考えついても実行できるかは別よ。どれだけの魔力を使うことか・・・」
「僕は全然平気ですけどね」
「ユリは呪いがあるからよ」


僕には無限の魔力があるのだ。実質、どれだけの魔法を使ってもすぐに使えるようになる。魔導師としては規格外の能力だろう。


「うっ・・・」


ロドスさんが目を覚ましたようだ。あれからまだあまり時間は経っていないのだがもう意識を取り戻すとは。


「あれ?僕はなんで転がって・・・決闘をしていたはずなのに・・・」
「あなたの負けよ。ロドス」


どうやら記憶が飛んでいるらしい。無理もないだろう。意識凍結ロブには意識を奪われる前後の記憶が飛ぶ作用があるのだ。


「そう・・ですか。僕は負けたんですね・・」
「ええ。完膚なきまでに叩きのめされたわね」
「セレスさん。そこまでしてないと思います」


僕は言い過ぎだと言うようにセレスさんに進言するが、セレスさんは僕の言葉に首を振る。


「いいえ。間違ってないわ。SSSランクの魔導師が、5歳の男の子に手も足も出なかったのよ?完敗としか言いようがないわ」
「でも・・・」
「ユリが無力化した魔法は覚えてるわよね?」
「え?は、はい」


一番最初に凍らせたやつだろう。確か名前は・・・


「あの凍らせた魔法はね。普通なら防ぐことはできないのよ」
「え?」
「・・・・」


防げないとはどういうことだろうか。ロドスさんの方を見ると、下唇を噛んで下を向いている。そんな彼をセレスさんは一瞥した後に続ける。


「あの魔法はその子がSSSランクに上がる時に倒したモンスター、巨龍ファフニールを屠った魔法なのよ。そんな魔法をいくら強いからって5歳の子にいきなり放つなんて・・・」


セレスさんは怒っていたのだ。もしかしたら僕があのまま炎に飲み込まれてしまうかもしれないと心配していたのだろう。人に心配されるのは何故かむず痒い。


「・・・あのブラックサラマンダーを見たときに思ったんだ。僕の最高の魔法をぶつけたいと。これがこんなあっさり破られるとわね・・・」
「今回の事で、かなり頭が冷えたんじゃないかしら?5歳の子に叩きのめされて少しは自重を覚えなさい。万が一ユリが怪我したらどうするのよ」
「怪我どころか返り討ちにされましたけどね」


自嘲気味に笑いながら言葉を返すロドスさん。少し悪いことをしてしまったかな?と思うがそれよりも重要なことがあった。


「あの・・これで認めてもらえたんでしょうか?」


認めてもらえていなければ魔導師にはなれない。倒したので大丈夫だとは思うのだが・・・


「安心していいよ。僕は君を認めてるから。寧ろここまでされて認めないわけにはいかないよ」
「じゃあ!」
「おめでとう。君は5人目のSSSランカーだ」


世界中の魔導師のトップである5人の一人になったのだと喜ぼうとするが、ロドスさんから待ったがかかる。


「と言いたいところなんだけど。魔導師は15歳からしかなれなくてね。まだ登録できないんだ」
「あと10年・・・」


とても長い年月だ。それまで僕はここで修行をしておかなければならないのだろうか・・・


「だけど、10年経つまで君をこのままにしておくのは惜しい。そこでだ。魔法連盟の方で君をSSSランカーであると秘密裏に認める。名前は公表しないということだ」
「つまりは、正式な登録ではない仮登録みたいなものですか?」


元々名前などの素性は公表するつもりはないのだ。そちらの方がありがたい。名前を公表してしまうと、目的・・も果たせなくなる。


「君は本当に博識だね。本当に5歳児かい?年齢偽造でもしてないかい?」
「ロドス?私の可愛い息子を侮辱してるのかしら?」 


セレスさんが笑顔で、しかしかなりの威圧を放ちながらロドスさんに質問する。いや、これは質問というより詰問の方がしっくりくる。


「おっと。これ以上は僕の身が危険のようだ。控えるとするよ」
「ロドスさん。僕は10年間ここにいるということになるんですか?」


そこが気になるのだ。僕はここにいたままなのか。それとも他の場所に行くのか。何もわからないままでは困るのだ。


「そのことだけどね。君が12歳になったら魔導師の養成学校に行ってもらおうと思っているんだ。これは本部長との話ですでに可決されていることでね」
「ちょ、ちょっとロドス!?わかってるの!?あの学校って貴族とかもたくさんいるんでしょう!?」


セレスさんが慌ててロドスさんに詰め寄る。僕のことを案じているのだろう。僕は貴族にいいイメージはない。寧ろあんなことを平気で行う外道だと思っている。


「そうですよ。それにあなたが言いたいことも分かっています。彼の過去のことでしょう。それもほんの数日前のことだ。どれ程のことを行われていたのかはわからないですが・・・」
「ユリ。傷を見せてあげてくれないかしら?」


ロドスさんに僕の拷問のことを軽く言われて怒ったのだろう。手が震えている。僕は言われた通りに上着を脱ぎ、そして下のシャツも脱いでいく。


「?一体なにを・・・ っ!?」


ロドスさんは僕の上半身を見たあと、驚愕の表情をとった。生々しい切り傷に、刺し傷。殴打の跡と思われる打撲痕。さらにその上から火傷の痕跡が残っている。すでに治っているものだが、僕は傷跡を消さないようにしたのだ。痛みを、恨みを忘れないように・・・


「すまなかった。まさかこれほどのことをされていたとは思わなかった。軽く発言したことをお詫びするよ」


ロドスさんが僕に頭を下げてくる。セレスさんは僕に上着をかけながら話を戻す。


「今の傷を見ても・・・まだ学校に通わせるつもりなの?」
「僕も心苦しいが、これは決定事項なんです。それに、魔導師には連携をとらなければならない時もある。そのために人に慣れておく必要があるんです。」
「・・・・」
「お願いします。この件を認めてください」


ロドスさんが深く頭を下げる。セレスさんは一瞥した後、僕を見つめた。


「ユリは・・・学校に行きたいと思うの?」


答えは決まっていた。


「はい。僕は・・・行って見たいと思っています」
「あなたにあんなことをした貴族たちもいるのよ?」
「大丈夫だと思います。まだ6年あるわけですから、それまでに克服します」


いずれは人と接触することになるのだ。そのためなら学校に行くのも怖くない。


「・・・次が一番聞きたかったことなのだけど・・・いい?」
「はい。なんでしょう」
「もし・・・あなたの家族がいたらどうするの?」

不安げな目で僕を見つめる。横を向くと、ロドスさんも僕を見ていた。だが、僕は拷問を受けていた時から答えは変わっていない。


「大丈夫です。いきなり殺すとかはしませんから」
「そう・・・よかっ」
「殺すならあの父親の前で殺しますから」


僕は笑顔でそう答える。心に決めているのだ。あの父親に、あの家の者たち全てに復讐すると。

「・・・ユリエル君・・・」
「ロドス。少しユリと話しをしたいから席を外してもらえるかしら」
「・・・わかりました。一応、学校には行っていただけるということでよろしいですか?」
「ええ。それは問題ないわ」
「では。私は本部に戻ります。学校のことに関しては、時期が決まりましたら連絡します。」


ロドスさんは本部に向かって帰ろうとしたが、歩き出す直前に僕にこんな言葉を残した。


「ユリエル君。5人目、おめでとう」






ロドスさんが帰った後、僕とセレスさんは森の家に帰ってきた。そして、セレスさんからの話が始まる。


「ユリ。考えを変えるつもりはないの?」
「さっきの考えを変える気はありません」
「それはどうしても?」
「はい。僕はそれだけのことをされましたから・・・」


あの日・・・地獄が始まった日から、僕の心は壊れてしまったのだ。もう、元には戻らないほどに。


「いい?聞いてねユリ。復讐するだけがあなたの人生じゃないの。もっと他にもなすべきことや目標が有るはずでしょう?」
「目標というか、使命なら決まっています。まだ話せませんが」
「話さなくてもいいわ。いまはまだ・・・。その使命を果たすのに復讐っていうのは本当に必要なことなの?」
「少なくとも、僕は変われません。もう、手遅れです」
「ユリエル・・・」


彼女には僕の拷問の一部しか見せていないのだ。これはいい機会だろうと思った。


「いい機会ですよセレスさん。前に僕にかけた魔法を使って、僕の記憶をみてください」
「記憶を・・・ってまさか」
「僕の地獄を見てもらいます。大丈夫です、僕の一番心にきた・・・復讐したいと思った拷問だけを見てもらいますから」
「・・・わかったわ」


セレスさんと向かい合い、額をくっつける。そして僕は思い出す。兄弟姉妹にナイフで刺された時の記憶を。痛みを。憎しみを。
セレスさんが魔法を発動させた。そして、数分後・・・


「・・・・」
「これが復讐の理由です」


彼は何も言わず、涙を流していた。僕も涙を流している。思い出すだけでも辛いのだ。僕はセレスさんに言い放つ。


「ごめんなさい。僕はもう変われないんです。あの半年で、完全に壊れてしまったんです。もう、元には戻れません」
「・・・そうね。今のを見た後では・・・何も言えないわ」


彼女にとってもかなり衝撃的な光景だったのだろう。自分が信じていた者たちに裏切られるのは、ナイフで刺されることよりもずっと痛いのだ。


「でも、でもこれだけは言わせて!」


セレスさんは僕を胸に抱き、涙声で僕に訴えかける。


「復讐だけに囚われないで!あなたにはあなたの道がある。だからもう止めないわ。でも、もっと他の生き方もしてほしい・・・あなたはもう牢屋になんかいないの。あなたは自由なんだから!!」


その言葉は、僕の中にとても響き、そして何故か・・・


とても懐かしい気がしたのだ。

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