怪談殺し

ダイナソー

人間と怪談

 三月。雷の病室。
 明美は雷の見舞いに来ていた。
「それで、近衛さんは神になったのにまだ何もしてないの?」
 雷の質問に明美は答える。
「ええ、そうです先生。私は何もしない事を選びました」
 明美は神の座で力を継承し、世界を作り替えるだけの力を手にしながら、実際何もしない事を選んだ。
 明美は言う。
「神になった私は生物の意識に働きかけて、その意思を自由に変える事が出来ます。でもそれは出来る事ならあまり使いたくない力なんです」
 雷は問いかける。
「どうして使いたくないのか教えてくれる?」
 明美は答える。
「私はこの一年で意思は何よりも尊重されるべきものだと考える様になりました。その意思を変える事は相手を殺すのと同じ事だとも。その考えは先生と同じです」
 雷は頷き、新たな問いかけをする。
「そうだね。私もそう思う。でも竜宮院さんの魂をそのままに新たな肉体を作って蘇らせたり、この世界から怪談を追放したりそういう事も出来るのに、近衛さんはそれもしない。なぜ?」
 明美は答える。
「まず、三虎ちゃんを蘇らせる事は本人に断られました。自然の摂理に反する事だって。そしてこの世界から怪談を追放する事も、それも自然の摂理に反する事です」
 明美は言葉を続ける。
「怪談もまた人の想いから生まれて来るもの。それを否定する事は私には出来ない」
 雷は言う。
「でも多くの怪談は人を襲う。彼等は基本的に人の負の感情から生まれて来るものだから。私は構わないけど、近衛さんが何もしない為にこれからも多くの人が死ぬ事になる」
 明美は頷く。
「ええ、ですからこれは私のエゴだと思ってください」
 その時、明美の脳内に助けを求める人々の意識の声が届いた。
 明美は言う。
「失礼、もう行かないと。誰かが助けを呼んでる」
 雷は別れ際に最後の問いかけをする。
「今の近衛さんなら此処から動かずに問題を解決できるのに。どうして?」
 明美は笑顔で答える。
「私は相手の意思は尊重した上で、間違っている事は正したい。これも私のエゴですね」
 そして明美は手を振り。
「私はあの人の様にこの町を守りたい。それが私の決めた、私の在り方だから」
 明美は病室から姿を消した。

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