怪談殺し

ダイナソー

再開と転生

「これで良し」 
 気絶した杓への応急処置を終わらせ、武者は明美に向き直る。
「おかえり。明美」
 明美は照れくさそうに右手で頭を掻き、武者に答える。
「ただいま。武者さん」
 そう言った後、すぐに明美はヤミコに向き直る。
「ただいま。えっと、ヤミコ……さんと呼べば良いのかな?」
 ヤミコは笑顔で明美に答える。
「そんなに改まらなくても、ヤミコちゃんと呼んで」
 其処へ小道から十金が戻って来た。
「雷先生を車に乗せてきました。後はその子を車に乗せて、私は病院へ向かいます」
 武者は短く頷く。
「ああ、その後で俺達の迎えに来てくれ」
 十金は真剣な顔を武者に向けて言う。
「先生が言っていました。ニャル様を追わなければ全ての生物が死ぬと」
 更に十金は黄金の球体を取り出す。
「そしてこの地図を持って行ってくれと言っていました。あとは頼むとも」

 小道の前の車へ杓を抱えた十金が戻って来た。
 十金は後部座席に気絶したままの杓を横たわらせた。
 その後、十金は運転席へ座り、助手席に座る雷に話しかける。
「お待たせしました。もう少しだけ我慢して下さい」 
 雷は前を向いたまま、十金へ話しかける。
「あの三人はドリームランドに向かった?」
 十金は車を発進させながら、雷に答える。
「ええ、向かいました」
 雷はその言葉を聞いて安心した様だ。
「私が出来る事は全部終わった……あとはあの三人次第だね」
 雷は意識を保つために喋り続ける。
「出来れば私が神の玉座に行きたかったが……この体ではどうしようもない」
 雷は己の折れた手足を眺める。
「私が神になりたかったのはね……友達の為……私の友達になってくれた怪談達の為なんだ」
 雷の目に涙が浮かぶ。
「私は他の要人と違って何故か怪談達に好かれたんだ……私に神の魂の核が宿っているせいかな……怪談達は私を神の魂を受け継ぐのに相応しい人間として認めてくれた……逆に周りの人間達は私の事を人として認めてくれなかった」
 十金は眉一つ動かさず、ただ雷の言葉を聞く。
「だから私は彼らの王になり……また彼らの為にこの世界を彼らの世界で塗り潰そうとした……でも失敗した」
 雷は再び下を向いていた。
「私の夢は潰えた……私の夢を支えてくれたものはもう誰も居ない……そして私を理解してくれるものももう何処にも居ない……私にとってこの世界はもうどうでも良い……でも死ぬのは怖いから」
 雷が前を向く。
「だからあの三人に託したんだ」

 本殿の中央に置かれた扉の前に三人は立っていた。
 扉は開け放たれ、中には暗闇が広がっている。その反対側には何も無い。
 明美が口を開く。
「これがドリームランドへの入り口なんだね」
 武者が頷く。
「ああ、その筈だ」
 ヤミコが扉の中へ手をかざす。ヤミコの手が暗闇の中へ消える。
「手の感覚は特に変化無し。私から中に入るよ」
 ヤミコを先頭に、三人は扉の暗闇の中へ入って行った。

 其処は日が届かない場所でありながら、目映い光に包まれていた。
 数えきれない程の幾つもの光が三人を出迎える。
 その光の一つ一つが別々の形をしており、またそれぞれが新たな形に変わり、何処かへ去って行く。
「此処は一体?」
 明美はこの光景に見惚れながら、つい思った事が口から漏れる。
「此処はドリームランドの端、何処でもない何処か、なの」
 明美の声に答える者が居た。その声に反応し、三人は声のした方向に顔を向ける。
 其処には三人にとって、もう合う事の無いと思っていた顔が有った。
「三虎ちゃん? 三虎ちゃんなんだね?」
 明美は三虎へ近づき触れようとする。しかしその体に明美の手が触れる事は無かった。
 三虎は言う。
「今の私は魂だけの存在、転生を待つだけの存在だから、触れる事は出来ないの」
 明美はそれでも嬉しかった。もう合えないと思っていた友達の顔をまた見る事が出来たのだから。
「ありがとう。私を正気に戻してくれたのは三虎ちゃんなんだよね?」
 三虎は頷く。
「ええ、でも私は言葉を届けただけなの。明美を正気に戻したのは明美自身と」
 三虎は武者とヤミコを見る。
「きっと二人と過ごした時間があったからこそなの」

 三人は三虎の案内でこの光の空間を進んで行った。
 四人は進みながら、他愛も無い話を続けた。
 そしてとうとう四人は光の空間とドリームランドの中央世界の境界にたどり着いた。
 三虎は三人を先へ促す。
「私は此処から先へは進めないの。後は三人で進むの」
 三人は三虎へ体を向け、それぞれお礼を言った。
 三虎との別れ際に明美は言う。
「私達また合えるよね?」
 三虎は首を傾げながら答える。
「どうだろうね? でも私がまだ転生していなければ帰り道も案内するから。だから私は此処で待ってるの」
 明美は頷く。
「うん。帰りも道案内してもらうからね。約束だよ」
 三虎も頷く。
「うん。約束なの」
 そんな明美と三虎に武者が声をかける。
「悪いが明美。先を急ぐぞ。此処から先はこの地図を頼りに進む」
 武者のその手には、ドリームランドの地図を空中に映し出す球体が握られていた。
 ヤミコも準備運動をしながら明美に声をかける。
「私も高速までなら付いて行ける。早くニャルさんに追い付かなくては」
 明美は名残惜しそうに三虎を見る。
「じゃあ、私達行って来るね」
 三虎は笑顔で手を振る。
「気を付けて行ってくるの」
 明美も短く手を振り、そして三虎を残して三人はその場を去った。

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