怪談殺し

ダイナソー

運命と帰還

 神社の境内で武者と杓の二人はにらみ合っていた。
 けれども杓は楽しそうに歌い続けていた。だがその間にも杓は鎖を振り回し続けて隙が無く、なかなか近寄る事が出来ない。
 その時神社の本殿から不意打ち気味に、十金の拳銃からの弾丸と、ヤミコが生成し投擲した氷柱が杓に迫る。
 杓は最小限の動きで弾丸を回避し、氷柱は鎖を振り回して弾く。さらに其処へ突進してきた武者の攻撃も回避すると、そのまま武者の腹へカウンターの蹴りを浴びせた。
 武者は吹き飛びそのまま後方へ着地すると、再び刀を構えて杓の隙を伺う。
 杓は隙を見せないながらも楽しそうに歌い続け、まるで今の時間を楽しんでいる様だ。
 少しでも杓の隙を作ろうと、武者は杓に話しかける。
「お前はもう少し静かに戦えねえのかよ? それにフロッグマンだと? ならお前は死んだ筈だ」
 杓は歌うのを止めて武者に答える。
「この歌は僕を鼓舞してくれるんでね。そして僕のポリシーなんでね。悪いけど君が死んだ後も君の為にこの鎮魂歌を歌い続けるよ』
 其処へまた弾丸と氷柱が、杓を目掛けて飛来する。杓はそれも回避し弾く。更に杓は言葉を続ける。
「そして僕はフロッグマンだ。この子に取り憑いて、今は意識は僕のものだ。いやあ参ったよ。半蔵達に疑われない様に三ヶ月近くこの子そのものを演じなくてはならなかったからね」
 それを聞いた武者はさらに意識を集中させる。
「これは……』
 武者は驚く。一つの体に二つの魂が共存する。そしてその魂の一つに武者は確かに覚えが有った。
「お前はたしかにフロッグマンの様だな。だがその子はなんだ?」
 杓は武者の問いに答える。
「言っただろう。僕はこの子に取り憑いた。だが僕はこの子と意識を融合させる事はしない。そうすれば僕という存在は希薄になるからね」
 全力で戦えば勝ったとしても、あの体の本来の持ち主を殺してしまうだろうと武者は考える。
 武者は全力で戦うべきか迷った。だが迷っていてはこの相手は倒せない。それも武者には分かっていた。
 しかしその隙を見逃す杓では無い。杓は武者の意識の隙を縫う様に接近し、武者の腹に強烈な拳を叩き込む。
「がっ!」
 再び武者は吹き飛び、なんとか着地するがそのまま体をよろめかす。
 再び杓は歌いだし、よろめいた武者へ鎖を振るう。更に超高速で武者の周りを回転移動し、鎖で武者を縛り付けた。

「まずいですね。これは」
 武者が鎖で縛られたのを見て、十金は呟いた。
 武者は鎖で縛られて身動きが取れない。杓の鎖はそのままギリギリと武者の体を締め付ける。
「ぐうぅ!」
 武者は体を締め付けられる痛みに呻く。
 十金はまた杓へ拳銃を向け、それをヤミコが制する。
「今撃てば武者さんを盾にされるかもしれない」
 十金は歯噛みする。だがこのままでは武者の体がへし折られるのも時間の問題だ。
「……分かった。私が前に出る」
 そう言い終わった時にはヤミコは氷の盾を精製し、杓への突撃を開始していた。
 ヤミコは後ろの十金へ叫ぶ。
「十金さん! 二人を任せましたよ!」
 ヤミコは盾を構えながら杓へ向かう。杓も当然ヤミコに気付く。
 杓が武者ごと鎖を振り回してヤミコに当てにくる。
 ヤミコは鎖を盾で防御する。衝撃にヤミコの足が沈む。
「僕の邪魔でもしに来たのかな?」
 そう言う杓は邪悪に口角を吊り上げた。
 杓は鎖を苛烈にヤミコへ向けて振り回す。ヤミコは盾を構えて身を守るのがやっとだった。

「明美様、私の側を離れないでください」
 十金が前に出ようとする明美を静止する。だが明美は絶体絶命の二人をなんとか助けたい気持ちで一杯だった。
 しかし明美は結局、恐怖で動けないでいた。明美はどうすれば良いのか、誰かに答えを求めたかった。
 目の前の二人が殺される前に、明美は答えを求めていた。
「私はどうすれば良い? 此処で皆殺される? 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!」
 明美の恐怖がまた一時的に明美の記憶を引き出そうとしている。明美の記憶はさらなる恐怖を引き出し、明美にさらなる記憶を引き出す。明美の心は恐怖と記憶を忘れようと、今のこの現実から逃避しようと、
パニックの中で今にも意識を手放そうとしていた。
 その時だった。
「落ち着いて。今、皆を守れるのは貴方だけなの」
 明美が忘れていた筈の、懐かしい声が明美の耳に届く。
 その声を聞いて、不思議と明美は落ち着きを取り戻した。
 明美は辺りを見回す。どうやらこの声は十金と雷には聞こえていない様で、この声は本殿のさらに奥から聞こえて来ている。
「貴方は守れなかった人達の事を背負い込みすぎている。更に、また守れないのではないかと恐怖しているの」
 謎の声は続ける。
「誰かを救えれば、誰かを救えない時も有る。万事を尽くしても、それは運命なの」
 明美は一人呟く
「運命……」
 謎の声は更に言葉を続ける。
「嬉しかった事も、辛かった事も、起こった事は変える事が出来ないし受け入れるしか無い。でも未来の事は分からない。それは行動を起こさない事には、どんな結果になるかは分からないの」
 謎の声は更に更に言葉を続ける。
「貴方の過去を否定しないで。そして貴方の未来に立ち向かって。貴方には出来るの。だから皆を守る為に戻る時なの。明美!」
 いつのまにか、明美の頬を涙が伝っていた。だがその涙は恐怖の涙ではない。
「うん……分かった。分かったよ。三虎ちゃん」
 明美は全てを思い出し、そして明美は覚悟を決めた。

 杓は歌いながら武者ごと鎖を振るい続け、ヤミコの盾も限界を迎えようとしていた。杓が勝利を予感したその時だった。
 杓は自分の体が滑っているのを感じる。実際に杓は体勢を崩していた。
 ヤミコは身を守っている間にも杓の足下を凍らせ、杓の隙を作る事に成功した。
 ヤミコは杓の隙を突き、限界間近の盾を杓へ向けて投げつけ、盾を追う様に突進する。
「フン、この程度」
 杓は崩したままの体勢で、鎖を持つ手の力を緩める事無く、更に飛来する盾をヤミコへ向けて蹴り飛ばし、そして盾を蹴り飛ばす勢いで接近するヤミコから飛び離れた。
 ヤミコはなんとかしゃがみ込んで飛来する盾を避けるも、其処へ杓の振るう鎖が迫って来る。
 このままではヤミコに鎖が直撃する。ヤミコは咄嗟に防御姿勢をとる。だがヤミコに鎖が直撃する事は無かった。
 ヤミコに鎖が直撃する直前に明美が鎖に縛られた武者を受け止め、そして鎖を引き千切ったのだ。
 ヤミコは驚きの表情を浮かべながらも明美に話しかける。
「明美ちゃん! 本当に!?」
 武者は鎖から解放され、膝をついて肩で息をしながらも嬉しそうに明美に話しかける。
「助かったぜ。戻って来たんだな!? 明美!」

 杓は驚きながらも拍手をし、明美を賞賛する。
「そういえば君が居る事を忘れてたよ。やっぱり君は凄いね。あの夜に半蔵が君を殺し損ねた事が惜しいよ」
 明美は眉を動かす。
「なんでお前がその事を知っている?」
 そう言う明美に杓は笑顔で答える。
「なに、昔に君の両親が僕の事を嗅ぎ回っていたからね。面倒だから彼らの居場所を半蔵にリークした。後は君の知る通りかな?」
 明美は静かな怒りをその目に讃えながら、杓に短く問いかける。
「少しでもその事を悔やんだ事は?」
 杓は笑顔を崩さずに答える。
「無いよ」
 それを聞いて明美は静かに拳を構える。
 杓も拳を構え歌を歌う。
 武者が明美に話しかける。
「奴は子共の体に取り付いてる。止めは刺さずに動きを止める事は出来るか?」
 明美は杓から目を離さずに短く頷く。
「やってみる」
 その言葉を皮切りに杓が仕掛けた。
 超高速の突撃に残像の分身を交えたフェイント攻撃。初見でこれを破るのは至難の業だ。
 明美の右に杓が現れる。明美はその分身を一瞬で看破し、左から現れた本命の杓に全神経を集中させた超高速のカウンターを叩き込んだ。
 杓は後ろへ吹き飛び、小さく呻き、よろめいた。その隙を武者は見逃さなかった。
 杓が気付いたときには、武者の刀が杓の体を、杓の体の中のフロッグマンの魂を貫いていた。
 フロッグマンの魂は消滅し、杓の体も意識を手放し気を失った。

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