怪談殺し

ダイナソー

少女と武者

「ねえ、知ってる? この町では怪談話が現実に起きるんだって」
 高校からの帰り道、二人の少女の一人、茶髪の少女が不意に語りだした。
「丁度今くらいの時間、夕方頃に彼らは現れるの」
 二人の少女のもう一人、眼鏡の少女は固唾を飲んで話を聞く。
「彼らは人々の語る怪談の通りに人々を襲う。そして人々がその恐怖を語るほど彼らは力を蓄えていくの」
 茶髪の少女は話を続ける。
「今も彼らは影から私達を狙ってる。いや、実際に誰かは襲われてる。最近この町で行方不明になる人が多いのはそういう理由なの」
 眼鏡の少女は身を強張らせる。
「ほら、彼らはあなたの後ろにも」
 その声を遮るように眼鏡の少女は恐怖で叫んだ。

「相変わらず明美は声が大きいの。近所の人たちが何事かって出てきたじゃない」
 眼鏡の少女、明美は何度も近所の人たちに誤っていた。
「三虎ちゃんにもごめんなさい。私ちょっと声が大きいから」
 茶髪の少女、三虎は続けて謝ろうとする明美の口を手で塞いだ。
「すぐに何度も謝るのは明美の悪い癖なの。でも私も御免なさい。ちょっと怖がらせちゃったね」
 三虎が明美の口を塞いでいた手を離す。
「お詫びに語らせてもらうとこの町には怪物を追い払う英雄のお話もあるの」
 丁度二人は交差点に着いた。
「と、私はこっちだから、この話はまた明日ね」
 三虎は明美に手を振る。
「うん、また明日」
 そして二人は陸橋の前で別れた。

 陸橋の上。
 明美とその前を歩くサラリーマン。何の変哲も無いいつもの光景。
 それは陸橋の先からやって来た。
 頭の先からつま先まで全身を派手に着飾ったピエロの様な男。その手には金のゴルフクラブが握られている。
(何だろう? テレビに出る人かな?)
 その派手男はゆっくりと明美の方へ向かってきて、前に居たサラリーマンを吹っ飛ばした。
 文字通りそのゴルフクラブのスイングでサラリーマンを吹っ飛ばした。
 サラリーマンは高く高く空を飛び、星になった。
 そして派手男は明美に語る。
「私の名前はファニーゲーム。さあ、楽しいゲームをしよう」

 明美は混乱していた目の前で起きた出来事に頭の整理が追い付けずにいた。
「さあさあ、楽しいゲームをしよう。君は無事に私から逃げ切ることができるのか」
 だがここから逃げなくてはいけないことだけはわかった。
「10数えたらゲーム開始だ。さあ、10」
 明美は逃げ出した。しかしその足はすぐに止まってしまった。
「9,8,7,6」
 明美の逃げ出したその先の、陸橋を上ってくるその男を見たからだ。
「5,4,3,2」
 鎧兜を着込んだ白銀の若武者は明美とその先の怪人を見た。
「1」
 そしてその声が聞こえるか聞こえないかの内に明美のすぐ横を駆け抜けた。
 明美には一瞬のことで分からなかった。
 明美が見たとき、怪人のゴルフクラブと武者の刀が鍔ぜりあっていた。
 武者は言った。
「俺の名は怪談殺し。怪談どもを殺すもの。そして今はとりあえず君を助けよう」
 明美には怪人と武者の鍔迫り合いが永く永く続いているように思えた。
 不意に武者が弾き飛ばされ、明美の前に着地した。
「分が悪いか」
 明美は今、夢でも見ているのではないかと思った。
「そうですねぇ、あなたは私より弱い」
 武者は明美を守るように、明美の前で刀を構える。
「さて、どうするか」
 明美はこの場でどうするべきか、まだ混乱していた。
 怪人がゴルフクラブを構えてジリジリと明美達へ近づく。
「さあ、どうします?」
 その時、陸橋の下へ一台のトラックが近づいてきた。
「おい! 跳ぶぞ!」
 その声に明美はすっとんきょうな声で答える。
「え? はぃぃ!?」
 明美が答えきる前に、武者とその手に掴まれた少女は宙を跳んでいた。

「これでひとまず安心出来るか?」
 トラックの荷台に着地した二人は陸橋へと目を向けた。
 怪人は陸橋から道路へと飛び降り、そのままの姿勢から二人を乗せたトラックへと走り出した。
 その脚が速い、トラックと同じぐらいか少し遅い程度だ。
「まだ安心はできないみたいだな。嬢ちゃん」
 明美は目の前の武者を信用してもいいのかと考えていた。
「嬢ちゃんじゃないです。明美です」
 明美は混乱したままの頭をなんとか復活させようとし、また現状を理解しようと努めることにした。
「あなたやあの怪人は一体何なんです?」
 明美の質問に武者は答える。
「俺や奴は人々の想像が生み出した生きる怪談だ。怪人や怪物と呼んでも良い」
 明美は三虎から聞いた話を思い出し、そして頭の中で出来る限り現状を整理する。
「じゃああの怪人は最近の行方不明事件の犯人で、あなたはそれをなんとか出来る存在、そしてどちらも人間では無い?」
 武者は肩を竦めて言う。
「ああ、そういうことだ。だが残念なことに今回の奴は俺よりも強い」
 武者はトラックの走る方向を見ながら話を続ける。
「なぜかといえば俺たちの強さは認知の度合いによって決まる。奴はそこそこ古い怪談のようだが、俺はまだ新しい怪談だからな」
 明美の混乱は少しづつ解けてきた。
「じゃあ、あなたの怪談をもっと広められれば、あの怪人にも勝てる?」
 武者はトラックの向かう先を眺めながら明美の問いに答える
「そうなるな。と、残念なお知らせだ」
 武者が明美に残念そうな顔を向ける。
「え?」
 二人を乗せたトラックの速度が落ちていく。
「渋滞だ」

 トラックがゆっくりと止まる。
 二人がトラックから降りる。
「明美とは此処でお別れだ。俺が此処で奴をなんとかするから、その間に逃げろ」
 武者は明美を心配させまいと笑顔を作って見せた。
「一緒に逃げましょうよ。それに、今のままじゃ勝てないんでしょ」
 今、この状況で明美に頼れる存在はこの武者しか居ない。
 だが明美の頼みに武者は首を横に振る。
「それは出来ない。俺が此処で逃げたら奴は渋滞の後ろから順に殺していくだろう」
 武者が周りの車を見ながら言った。
「でも」
 明美は本当に此処で武者と別れるべきか悩む。
「行け!」
 しかし武者に急かされ、明美は悩んだ頭に答えを出せないまま武者と別れる選択をした。
「ごめんなさい! 行きます! ありがとう」

 少女が駆け出してすぐ、怪人は武者の元へと追い付いた。
「あらあら、此処は俺に任せて先に行けってやつですか? 感動的ですね」
 怪人が涙を拭う様な仕草を見せる。
「うるせえ!」
 武者の鋭い踏み込みからの一突き。だが怪人は悠々とそれを躱す。
「でも残念かな、あなたでは私に勝てない」
 武者の続けての攻撃も怪人は躱し続ける。
 そして怪人のゴルフクラブが武者の腹を打ち付ける。
「がっ!」
 武者がよろめく。
「フルスイングをぶつける程の隙は無いようですが、いたぶり殺す程度の隙はあるようですねぇ」
 怪人は口角を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべた。

 もうどれほど走ったろうかと明美は思った。
 夕日は沈み、月が出ていた。
 気づくと明美は渋滞の先まで来ていた。
 明美は車のドアを叩いて、中の運転手に助けを求めようとした。
 明美はそこで考える。
(このまま逃げても怪人はどこまで追ってくるか分からない。それに私に出来ることは逃げることしか無いの?)
 明美は深く考える。
(いや、ある。私も彼の助けになれる)
 そして明美は来た道を戻り始めた。

 もう、しばらくの間武者と怪人の戦いは続いていた。
 車に乗っていた運転手達は何事かと車を降り小さな人だかりが出来ていた。
 二人の戦う様子はSNSへ、動画投稿サイトへと投稿される。
 それに伴って武者も怪人もより速くより力強くなり、戦いのボルテージはヒートアップしていく。
 しかしまだ怪人の方が強い。
 武者の攻撃も怪人の攻撃も決定打とはならないが、それでも武者のダメージの方が大きい。
 武者と怪人の戦いはまだしばらく続き、このままでは武者が負けるかと思われたその時。
 不意に武者の刀がさらに速度を上げ、怪人の腹を切り裂いた。
「は?」
 怪人には腹を切り裂かれた事が想定外のようだった。
「嘘だ。この私にそんな事はあり得ないぃ!」
 その時武者と怪人にもその大きな声がはっきりと聞こえて来た。

 明美は語る。その大きな声で、何度でも語る。
「聞いてください! 聞いてください!」
 明美は語りながら戦いの元へ、人だかりへと向かっていく。
「今、彼は戦っています! 鎧武者の彼は私たちを守るために戦っています!」
 明美のその手にはスマートフォンが握られ、そのカメラは武者達の戦いを世界中に映していた。
「敵は強い! 確かに強い! でも、鎧武者の彼はもっと強い!」
 その言葉に合わせるかの様に武者の体に力が漲る。
「鎧武者の彼の脚は何よりも速く、その刀は全てを断ち切る!」
 その声はその場の人々へ、SNSへ、動画投稿サイトへ、世界中へと伝わっていく。
「だから彼は負けない!」
 武者はもう、目の前の怪人に負ける気がしなかった。

 武者と怪人の戦いは、完全に武者の有利に進んでいた。
「嘘だ! この私が負けるはずが無いぃ!」
 武者の刀が更に怪人を切り裂く。
「時代が悪かったな。派手男」
 武者には、今では怪人を煽るほどの余裕が出来ていた。
「こんな事はあり得ないぃ! 貴様! 小娘ぇ!」
 なおも語り続ける明美を黙らせるため、怪人は明美へと真っ直ぐに飛び出した。
 それが怪人の決定的な悪手だった。
「馬鹿が! 今の俺は何よりも速いんだぜ!」
 武者は空中の怪人へと一直線に翔び、怪人の体を真っ二つに切り裂いた。

 怪人は真っ二つになり、塵となって宙に消えていく。
「逃げろって言っただろ! まさか戻ってくるとはな!」
 口ではそう言う武者だったが、その顔は怒っていなかった。
「言うこと聞かないでごめんなさい!」
 明美は咄嗟に頭を下げて謝った。
「でもまあ、明美のお陰で助かったよ」
 武者が肩を竦めて言う。
「こちらこそありがとうございました……えっ!?」
 明美が顔を上げると武者の体もまた塵となって宙に消え始めていた。
「俺の役目もひとまず終わったからな。ここで本当のお別れだ」
 消え行く武者に明美は何と声をかけていいか分からなかったが、とにかく思い付いた言葉を投げかけた。
「あの! また会えますか?」
 明美の問いに武者が答える。
「また会えるとしたら君に奴等の危険が迫った時だぜ。でもまあその時はまた君を守ろう」
 最後に武者は明美に笑顔を見せた。そしてそのまま宙に消えた。

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