怪談殺し

ダイナソー

彗星と転校生

 少女は己の無力感に打ちひしがれていた。
 生まれ育った村が滅ぶ。その最後の時を見ていた。
 そして彗星が降り立った。

 屋敷へ人形が襲撃した日から一週間が経った。
 明美と三虎は高校で朝のホームルームの前にこの一週間で調べた事について話し合っていた。
「要人について何か分かった?」
 明美の問いに対し、三虎は首を横に振る。
「いえ、一般的な要人の意味は分かったけど、明美がどうやって矢から助かったのか。その理由はまるで分からないの」
 明美も情報の収穫が無い事を三虎に報告する。
「私も要人っていうのが重要な人の事だというのは分かったけど、私の事についてはさっぱり」
 二人は溜め息をついた。
 だが三虎は気を取り直して明美に報告する。
「でも分かったというか、思い出した事があるの」
 明美は問いかける。
「何を?」
 三虎は説明する。
「明美の言っていた怪人も、一週間前に私達を襲った人形も、この町で十三怪談と呼ばれている中の怪談なの」
 それは明美が初めて耳にする言葉だった。
 明美はその言葉を呟く。
「十三怪談」
 その時、教室へ一人分の足音が近づいて来る。
「はい、皆席に着いてー」
 担任の雷が教室に入って来て、二人の会話はそこで打ち切られた。

「皆さんに転校生を紹介します」
 雷の言葉にクラス全体がどよめいた。
「先生! 男子ですか? 女子ですか?」
 クラスメイトの克典が食い気味に雷へ質問する。
「女子です」
 クラスの男子の何人かはその答えに期待を覚えた。
「では、紹介します。闇子さん入って」
 闇子と呼ばれた少女が教室の扉を開ける。
「失礼します!」
 教室の中へ入って来たのは闇子という名前からは想像できない、快活な少女だった。
「自己紹介をどうぞ」
 雷が闇子を促す。
 闇子が黒板にチョークで自分の名前を書いていく。
「如月闇子です! よろしくお願いします!」
 闇子は満面の笑みを作った。

「じゃあ如月さんは近衛さんの後ろの席に座ってね」
 雷に闇子が答える。
「分かりました!」
 闇子は明美の後ろの席へと向かう。
 闇子が明美の横を通る際、明美は闇子へ話しかけた。
「近衛明美です。よろしく」
 明美の言葉に闇子も笑顔で応える。
「うん、よろしく!」

「ねえ! お昼を一緒にさせてもらってもいいかな?」
 昼休みになって、闇子が明美に訪ねた。
「もちろん構わないよ。ね、三虎ちゃん」
 三虎も快く明美に答える。
「構わないの」
 三虎は闇子の方を向き、自己紹介をした。
「竜宮院三虎なの。よろしく」
 闇子も三虎に答える。
「三虎ちゃんね。よろしく!」

 三人は各々の昼食を食べながら世間話に興じていた。
 そんな中で、闇子はいきなりきりだした。
「私、明美ちゃんの様な子を探してたんだ。」
 明美は何の事かと闇子に聞く。
「私のような子?」
 明美には何の事か見当もつかなかった。
 闇子が声を潜めて言う。
「明美ちゃんは要人だよね。私も要人だから分かるよ。それにもうこの辺りに要人が居るって事は、怪談達の間で噂になってたからね」
 明美は吹き出しそうになった。
 三虎も驚きを隠せないようだ。
「その反応、三虎ちゃんも要人について知ってるんだね」
 二人は何も言えないまま、闇子がさらに話を続ける。
「そしてここからが本題なんだけど」
 闇子は一層声を潜める。
「私と一緒に村の敵を討ってほしいんだ」

 二人は何と答えて良いのか分からないまま昼休みが終わり、午後の授業が終わり、下校の時刻になった。
 高校からの帰り道、電気屋の前。
「そろそろ聞かせて欲しいんだ」
 闇子が立ち止まり、口を開いた。
「私の力になってくれるのかどうかを」
 明美もこれ以上黙っている事は出来ないと思い、口を開いた。
「闇子ちゃん。実は私達要人が何なのかもまだよく分かって無くて、敵討ちに協力してくれって言われても力になることは出来ないと思う。期待に応えられなくてごめんなさい」
 闇子は少し落胆した様子だった。
「そう……なんだ」
 三虎も何か言おうとしたが、電気屋に飾られていたテレビの映像に驚いて声を出せなかった。
 闇子が言った。
「そんな、早すぎる」
 テレビに映っていたのは巨大な翼竜だった。
 翼竜は言う。
「我が名はアルマゲドン。恐怖の大王也」

 テレビの映像を見た闇子は勢い良く走り出した
「私の命に代えてもあの翼竜は何とかする! だから逃げて! なるべく遠くに!」
 走り去って行く闇子と映像の中の翼竜を二人は茫然と眺めていた。
 我に返った明美が三虎の肩を揺らす。
「どうしよう。私の命に代えてもって言ってた! あの子死ぬ気だ!」
 明美は急な事態に混乱している。
「落ち着くの! 私達は私達に出来ることをするの」
 明美は三虎の肩を揺らすのを止め、一瞬考えた。
「私は闇子ちゃんを引き留めて、今きっと出て来てると思う武者さんを探す。三虎ちゃんはどうする?」
 三虎はスマートフォンを取り出して言う。
「戦闘機を用意するの」

 夜空の星も見えない程に照らされた高層ビル群。
 その上空を飛び回る影と、ビルの壁を跳躍しながらその陰を追うもう一つの影があった。
「クッソ! ちょこまかとこのトカゲ!」
 武者と翼竜の戦いはすでに始まっていた。
 武者が刀で切ろうとすれば翼竜が逃げ、翼竜が体をぶつけようとすれば武者が逃げる。
 戦いは早くも千日手に似た状況に陥っていた。
「フン。彗星突撃で粉々になるが良い」
 翼竜が上昇を始める。
「させない!」
 上空にまた一つの影が飛び上がったかと思うと、その影が翼竜を下方へと蹴り飛ばした
 翼竜は地面に激突する事無く、ビルとビルの谷間を飛び回る
 翼竜が自分を蹴り飛ばした影を見た。
「誰かと思えば我から逃げ出した小娘ではないか。貴様を追って遥々来たぞ」
 翼竜の視線の先には闇子の姿があった。
「もう二度とお前から逃げない!」

 明美は闇子を引き留めようとして高層ビル群までやって来ていた。
 だが上空の戦いを眺めながら、これは自分にはどうしようもない次元の問題なのだと痛感していた。
 それでも明美は考えた。
 何か自分に出来る事は無いのだろうかと。

「怪談と怪談が戦っている?」
 闇子は下方を逃げ回る翼竜を追いながら、同じく翼竜を追う武者の姿を見る。
 武者が闇子に話しかける。
「あんたもあの翼竜を倒しに来たみたいだな」
 武者は言葉を続ける。
「戦える仲間は一人でも多い方が良い」
 闇子も武者に話しかける。
「聞いて!」
 闇子は言葉を続ける。
「絶対にあの翼竜を上昇させてはダメ!」
 武者は問いかける。
「なんでだ?」
 闇子は翼竜について知っている事を説明する。
「あの翼竜は上昇出来る所まで上昇した後一気に地上へ降ってくる。その時の破壊力は尋常じゃないし私達も終わり!」
 その時、武者は闇子より先にある事に気づいた。
 武者は闇子に告げる。
「まずいお知らせだ」
 二人の視線の先にはビル群の出口が見えていた。
「もうすぐビル群を抜ける」

 翼竜を追う二人はビルの壁を蹴りながら跳躍している。
 対して翼竜は真っすぐに飛行している。
 僅かにだが、追い付けない。
 翼竜が上昇しようとすれば二人の渾身の攻撃をぶつける事が出来る。
 だが翼竜はそんなミスは犯さない。
 ビル群を抜け、二人が空中から翼竜を追えなくなってから上昇すれば良いと考えているからだ。
 武者は独り言を言う。
「どうするべきだ?」
 闇子は焦りながらも武者の独り言に答える。
「とにかく追いかけるしかない!」
 二人は翼竜を追う。しかし追い付けない。
「追い付けない!」
 闇子の顔がどんどん曇る。
 武者はまたある事に気づき、闇子に笑って見せた。
「あとは俺達に任せな」

 翼竜も前方から飛来するあるものに気づいていた。
 それは三虎の呼び出した、十金の操縦する戦闘機だった。
 翼竜がビル群を抜け、急上昇を開始する。
 戦闘機も翼竜を追うため急上昇しようとする。
 その戦闘機へ、武者はビル群の端から大跳躍した。
 急上昇する戦闘機への飛び乗りに成功した武者は、操縦席の青年へ声をかけた。
「今回もよろしく頼むぜ!青年!」

 逃げる翼竜と追う戦闘機。
 戦闘機は既に翼竜をロックオンしていた。
 十金はミサイル発射ボタンに指をかける。
「発射!」
 戦闘機から翼竜目掛けてミサイルが放たれる。
 翼竜が爆炎に包まれた。
 戦闘機が爆炎を横切る。
 十金は言葉を漏らす。
「やったか?」
 武者は爆炎の中へと目を凝らす。
「いや、まだだ!」
 爆炎の中から翼竜が躍り出る。
「ただの人間の玩具で我を倒せると思うな」
 翼竜が戦闘機へ突撃する。
 十金は焦る。
「くっ!」
 戦闘機は寸前で翼竜の突撃を回避した。
 翼竜が独り言を言う。
「仕留めそこなったか」
 直後、翼竜は首の上に重みを感じた。
「いいや、仕留められるのはお前だぜ」
 更に翼竜の首の上から声がした。
 翼竜は驚く。
「な! いつの間に!?」
 翼竜の、戦闘機への突撃の際に武者が翼竜へと飛び移っていたのだ。
 武者が翼竜の首に刀を突き刺す。
 しかし翼竜はより一層速度を上げ、更に更に上昇する。
 武者は何とか翼竜の首にしがみ付くが、翼竜はさらに高度を上げ、遂には成層圏に到達した。
 そして翼竜はそのまま落下を開始した。
「離すかよおおお!」
 翼竜が落下していく中、武者は必死でしがみ付いていた。
 翼竜はさらに回転を加え、遂に武者は翼竜の体から弾き飛ばされてしまった。

 地上へと翼竜は迫っていた。
 闇子は拳を構え意識を集中させていた。
 闇子は落下して来る翼竜に、己の渾身の一撃で迎え撃つつもりでいた。
「恐らく私は死ぬだろう。でも相打ちに持ち込むことなら」
 闇子は覚悟を決めた。
 その時。
「駄目だよ!」
 闇子の元へとタクシーが向かって来ていた。
 そのタクシーには明美が乗っていた。
 明美がタクシーから降り、闇子の元へ駆けつける。
「どうしてここに!?」
 闇子は明美へ信じられないという様な表情を向けた。
 明美は闇子に言う。
「闇子ちゃん。死んだら駄目だよ」
 闇子は叫ぶ。
「じゃあ他にどうしろって言うの!?」
 闇子の叫びに、明美は覚悟を持って答えた。
「一瞬だけなら力を貸せるかもしれない」

 上空に翼竜の姿が見えた。
 その姿は真柄、彗星の様だった。
 明美は意識を集中させていた。
「あの彗星も矢と同じだ。こっちに真っすぐ向かって来るだけ」
 明美は一週間前、人形に殺されそうになった時の事を思い出していた。
 明美はあの時の不思議な力をもう一度出そうとしていた。
 そして彗星が迫る。
「今だけでも良い。私に力を!」
 明美は彗星へと力の限りに叫んだ。

 明美の叫びは音の壁となり、翼竜とぶつかり合う。
 翼竜の落下エネルギーは音の壁に相殺され、その体は空中へ押し戻された。
「馬鹿な!?」
 驚愕する翼竜。
 翼竜は驚きのあまり、上空から迫る存在に反応出来なかった。
「俺の存在を忘れてるぜ」
 武者はそのまま翼竜の背中を蹴りつけた。

 武者の蹴りを受けた翼竜は、地面へと叩きつけられようとしていた。
 翼竜の落下する先では、闇子が拳を構えていた。
「皆ありがとう」
 闇子の拳が輝く。
「これで敵を討てる!」
 そして闇子は渾身の一撃を翼竜に繰り出した。

 闇子の渾身の一撃を受けた翼竜は高く高く飛ばされ、空の塵となった。
 武者はその様子を見ながら闇夜に消えた。

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