怪談殺し

ダイナソー

要人と歓迎会

 人通りの少ない公園の奥。
 明美と三虎は高台から見守っていた。
 二人の視線の先では、闇子と武者が背中を会わせて構えていた。
 その周りをぐるぐると一匹の鮫が泳いでいた。
 地面を泳ぐこの鮫は、明美達を遅いに来た新たな怪談である。
 鮫が唸る。
「さあ、このジョーズ様が喰ってやるぞ」
 武者が鮫を煽る。
「ならさっさとかかってこいよ。雑魚が」
 二人の下へ気配が迫る。
 武者が叫ぶ。
「来るぞ!」
 直後、武者達の下から大口を開けた鮫が現れた。
 大口の上に居た二人は間一髪で鮫の攻撃を回避。
 再び地面へ潜ろうとする鮫の鼻先へ、闇子はその手に握っていた石を全速力で投げつけた。
「なっ!?」
 鼻先に石を受けた鮫は一瞬、そのままの体制で昏倒した。
 その一瞬を見逃す武者では無かった。
「もらったぜ」
 武者の刀が鮫の頭を切り抜けた。

 鮫が消えていくのを見ながら、侍もまた消えようとしていた。
「今回の怪談は弱かったな」
 明美達も武者達の元へ駆け寄った。
「でも武者さんが強くなってるのも有りますよね」
 武者は答える。
「それもあるな。じゃあ闇子は歓迎会を楽しんでくれ」
 武者が闇子へ笑いかける。
 闇子も武者へ笑顔を返す。
 闇子が武者の肩を思い切り叩いた。
 武者はしばらく痛がった後。
「何すんだ! 闇子!」
 闇子に少し怒っていた。
「どうやら上手くいったみたいだね!」
 闇子が悪びれもせずそう言った。
 そして闇子以外の三人もある事に気づき、明美が口を開いた。
「武者さんが消えてない」

 闇子と武者の歓迎会は近衛家で開かれた。
 歓迎会に参加するのは闇子、明美、三虎、十金、武者の五人だった。
 十金が三虎に尋ねる。
「お嬢様、何故このメンバー、というか私も呼ばれているんでしょうか?」
 三虎は自信満々に十金へ答える。
「私達は怪談と戦った戦友だからなの」
 武者が口を挟む。
「実際、怪談についての情報交換をするなら部外者はいない方が良いだろ。それに俺も居るしな」
 明美も歓迎会の場を仕切ろうと口を挟む。
「まあ、とにかく! 闇子ちゃんと武者さんの歓迎会を始めるよ!」
 明美がコップを手に取り、それを見て四人もコップを手に取る。
 明美は乾杯の音頭をとる。
「それじゃあ皆、先ずは乾杯!」
 四人も明美に答える。
「乾杯!」

 五人は改めてそれぞれの自己紹介をし、話題はなぜ武者が此処に残っていられるのかという事に移った。
 三虎が闇子に尋ねる。
「やっぱりその肩に貼ってあるお札の効果なの?」
 闇子は三虎に答える。
「そうだよ! 怪字っていうんだけど、まあこのお札が貼ってある間は怪談をこの世界に繋ぎ止める事が出来るんだよ」
 三虎は興奮して闇子に言う。
「凄いの! 私も今までこんな文字やお札の存在は知らなかったの!」
 闇子は照れながら三虎に言う。
「私の村でもずっと秘匿されてきたからね。なかなか知ってる人はいないよ」
 武者が肩を回しながら言う。
「良いじゃないか。この札を張ってれば俺もこっちの世界を堪能出来るってもんだ」
 三虎が何かを思い出したように言う。
「あ、そうだった」
 そして三虎は十金へ指示する。
「十金。あれを用意するの」

「これは何だ?」
 武者はその手の上に置かれた物を見た。
「スマートフォンだよ! しかも最新型の!」
 明美が羨ましそうな目で武者の手の中のスマートフォンを見る。
「スマートフォン? そんなに良い物なのか?」
 明美は先程の三虎の様に興奮して武者に答える。
「色々出来る凄い機械だよ! 私のはもう三年以上前のだから」
 続けて武者が明美に尋ねる。
「具体的には何が出来るんだ?」
 続けて明美も武者に答える。
「遠くの人と話をしたり」
 武者は思い出す。
「要は電話か。それは知ってる」
 明美は説明する。
「他にも世界中の情報を調べたりとか」
 武者はまた思い出す
「ネットってやつだろ? あれのお蔭で俺みたいな新しい怪談でも強くなれて助かってるよ」
 武者は他にもいくつかの機能を明美から聞き、そして三虎に向き直って礼を言う。
「とにかく、これは良い物って事だな? ありがとう三虎」
 三虎は武者に言う。
「これぐらいかまわないの」

 三虎は闇子に顔を向ける。
「闇子ちゃんにもプレゼント、というか闇子ちゃんに頼まれていた物を用意したの。十金」
 十金が闇子の前に出て来る。
「はい。ここに」
 十金は一枚のディスクを取り出した。
 三虎はディスクの内容を説明する。
「この町のあらゆる怪談の情報を纏めてあるの」
 闇子は喜びの感情をあらわにする。
「早いね! もう出来たんだ!」
 三虎は闇子に言う。
「十金が一晩でやってくれたの」
 闇子は十金の顔を見た。
 闇子が見る限り、十金の顔には心なしか目に隈が出来ているようにも見えた。
 闇子は三虎と十金に礼を言う。
「ありがとうございます十金さん! ありがとう三虎ちゃん!」
 三虎は十金に目を向けながら答える。
「これぐらいかまわないの。ね、十金」
 十金は疲れを隠しきれない様に笑ってみせた。
「はい。お嬢様」

 歓迎会の料理も食べ終わった頃、明美がきりだす。
「これから今日の本題に入ろうと思う」
 明美は武者と闇子を見る。
「武者さん達が何処から来ているのか? それと要人とは何なのか?」
 明美の疑問に先ず武者が答える。
「尤もな疑問だ。だが生憎、俺には納得の出来る答えは返せないと思う」
 武者は語る。
「俺達怪談は人の意識の集まる何処かで生まれ、そこに住んでいる。それは分かる」
 武者は首を横に振る。
「だがそれが何処なのかまでは分からないんだ」
 明美が武者に質問する。
「人の意識の集まるってのはどういう事?」
 武者は答える。
「少なくとも俺はそこにいる間、膨大な量の感情を感じる。喜びとか、殺気とか、気配と言っても良いかもしれない」
 武者は明美に頭を下げる。
「俺が知ってるのはそれぐらいだ。あまり力になれずすまない」

 武者に続いて今度は闇子が明美の疑問に答える。
「要人について、私の知っている事を話すね」
 闇子は説明する。
「要人っていうのは人間でありながら怪談と同質の力を持つ存在なんだ」
 闇子はゆっくりと説明する。
「そして要人は数百年前から存在したと言われてる」
 明美は闇子に質問する。
「そもそもどうして私や闇子ちゃんはこんな力を持っているの?」
 闇子は答える。
「それは分からない。でも要人の力は代々受け継がれるものなんだ。そしてその力は訓練次第で引き出し、コントロール出来る様になる」
 闇子は明美に笑顔を向ける。
「だから私が明美ちゃんを鍛えてあげるよ!」

 その後も幾らかの情報を交換し合い、歓迎会はお開きになった。
 玄関で闇子達を見送る際、闇子が明美に言う。
「今日はありがとうね! それと言い忘れてたんだけど」
 明美は何の事かと思った。
「明美ちゃんの中に眠っている力は私の力よりもっと強力だと思う。明美ちゃんは鍛えればきっと私よりずっと強くなれる」
 明美にはそれはとても信じられなかった。
 闇子は明美に向けて手を振る。
「うん、それだけ! じゃあお休みなさい」
 明美も闇子に向けて手を振る。
「闇子ちゃんもお休みなさい」
 そして玄関のドアがゆっくりと閉まった。

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