怪談殺し

ダイナソー

影と短刀

 辺りはすっかり暗くなり、人通りも少ない。
 少女は学校からの帰り道を急いでいた。
 少女はその時も後ろからの何者かの視線を感じていた。
 少女が恐る恐る振り返る。
 しかし後ろには誰もいない。
 だが何者かは確かにそこに存在していた。
 その時、少女の周りをあざける様な嘲笑が取り巻いた。
 恐怖の限界を迎えた少女は、少しでも早くその場を離れようと駆け出した。
 駆け出した途端、少女は転んでしまう。
 膝裏に熱を感じる。
 少女は気づかなかったが、その膝裏にはナイフが刺さっていた。
 熱は次第に痛みへ変わり、あまりの恐怖に泣く事も出来ず、少女は再び後ろの道を振り返った。
 影が少女を見ていた。

「ククク……弱者を甚振り殺すのは愉快、愉快」
 物言わぬ少女へ向けて、影は愉快そうに笑っていた。
 そこへ一人の人間が近づいて来る。
 影もその人間に気付く。
「ククク……あんたか」
 その人間は明美達の担任、雷だった。
 雷は口を開く。
「お久しぶりです。ダークマン」
 影は雷に答える。
「久しぶりだな。この町での生活、楽しんでいるか?」
 雷も影に答える。
「お陰様で。あの馬鹿トカゲのせいで町ごと崩壊しかけましたけどね」
 馬鹿トカゲとは翼竜、アルマゲドンの事だ。
 影はまた笑いながら言う。
「あいつは力の加減が出来なかったからな」
 影は一頻り笑い、そして雷に問う。
「で? 何の用だ?」

 歓迎会から一週間が過ぎ、五月になった。
 明美が武者と出会ってから二週間。
 教室で授業を受けながら、思えば色んな事があったものだと明美は振り返っていた。
 何故彼等は人を襲うのか?要人である自分には何が出来るのか?明美には考えても分からない事がまだまだ沢山あった。
 明美は今考えてもしょうがない事は考えるのを止め、当座の心配に思いを馳せる事にした。
「武者さん大丈夫かな?」

 武者は明美の家に居た。
 この世界に居つく事になった武者は、明美の家に居候する事になった。
「飛び道具とか欲しいよなー。俺もなー」
 武者はスマートフォンを片手にネットサーフィンをしている。
「お! 手榴弾か。三虎に頼めば買って貰えるかな?」
 武者は現代文明に驚くべき速度で馴染んでいた。
「機関銃も良いな。出来れば大型の奴」
 武者がふと、スマートフォンから時計へ視線を移す。
 時計は午後四時を指している。
「もうこんな時間か。洗濯物を取り込まないとな」
 武者は立ち上がり、同時に奇妙な存在に気付いた。
「何だ? この気配は?」

(俺が気配を感じ取れるのは半径百メートル。こいつは丁度百メートルの距離から一秒づつ、二、三メートルの感覚で飛び飛びに気配が迫って来ている)
 明美の家の軒先で、武者は気配の主を待っていた。 
「普通の移動方じゃ無いな」
 その間も尚も、気配は武者へと迫って来る。
(十メートル、七メートル、四メートル)
 武者は目を瞑り意識を集中させている。
(一メートル!)
 武者が刀を振り抜いた。

 刀は虚しく空を切った。
「ククク……危ない、危ない」
 武者の後方四メートル。
 揺らめく影が其処にはあった。
 武者は影に問う。
「何者だ? お前」
 影は武者に答える。
「あんたを殺すように頼まれてね……ただのしがない暗殺者だよ」
 武者は影の言葉に疑問を覚える。
「頼まれて? 誰にだ?」
 影は言う。
「それをばらす程の馬鹿では無いよ」
 武者と影が構えた。

 付かず離れず。
 武者と影の戦いを形容するなら、その言葉が一番しっくりくる。
 影は武者の周りを瞬間移動し続け、武者が隙を見せたと思えばその手のナイフを投擲する。
 ナイフは影から精製され、武者が何本ナイフを弾こうともきりが無い。
 逆に武者が攻撃に転じようとしても、瞬間移動し続ける影に攻撃を当てる事は至難であった。
 こうして獲物の周りからナイフの投擲を続け、弱り切った所で接近してとどめを刺す。
 それが影の、常勝無敗の戦術だった。

 何分もの間不毛な戦いを続けていた武者だったが、ある事に気づく。
 この影は日の当たらない所にしか移動しない。
(いや、日の当たらない所にしか移動出来ないんだ。ならこいつは光に弱いんじゃないか?)
 武者はその場から駆け出した。
 なるべく広く、平坦な場所を求めて。

 ホテルの一室。
 十金のスマートフォンへ着信がかかる。
「はい、十金です」
 電話越しに武者は言う。
「俺だ。怪談殺しだ」
 十金は答える。
「武者様ですね。どんな御用でしょう?」
 武者は急いで説明する。
「西の広場で落ち合いたい。それと、あれを用意してくれ。大至急だ」

 武者は西の広場へ急ぐ。
 その間も影の攻撃は執拗に続く。
 武者は防御に徹しながらも、余計な被害を出さない為に人通りの無い道を探し、そして走り続ける。
 影は笑う。
「ククク……何処へ逃げようとも結果は変わらんよ」
 この影は武者を敵とは見ておらず、狩られるだけの獲物としてしか見ていない。
 だからこそ、武者には勝機が有った。

 武者が西の広場へ着いた時、夕日は既に沈みかけていた。
 武者の体には捌き切れなかったのか、何本ものナイフが刺さっていた。
 武者は広場の中央に陣取る。
 周りには何もなく、近くでヘリコプターの音だけが鳴っていた。
 影の姿は近くに見えない。
(奴を撒けたなんて思っていない。むしろ奴は日が沈み切ると同時に、俺にとどめを刺しに来るだろう。その時が勝負だ)
 既に作戦は実行している。あとはそれが成功するかしないかだ。と武者は思った。

 夕日が沈み暗闇が訪れた。
 武者は再び目を閉じ、意識を集中させていた。
 武者は再び影が近寄ってくるのを感じる。
(十九メートル、十六メートル、十三メートル、十メートル)
「今だ」
 武者が片手に持つスマートフォンへ合図を送る。
 三秒後、影の熾烈な攻撃が始まった。 
 右と思えば左、左と思えば後ろ、後ろと思えば前。
 影は武者の周囲を瞬間移動しながら攻撃し続け、武者を四方八方から削り殺しに来た。
 武者は目を瞑ったまま意識を集中させ、影の攻撃を凌ぎ続ける。
 しかし、それも長くは持たないと武者は思っていた。
 ヘリコプターが武者達の頭上を通過した。
「ククククククククク!!」
 影が今までに無く笑っていた。
 だが武者も同じ様に笑っていた。
「お前の負けだ。影野郎」
 瞬間、広場全体が爆音と閃光に包まれた。

 上空のヘリコプターから地上の様子を見ていた十金は呟く。
「武者様も無茶を言う」
 直後、地上に強烈な光が走る。
「広場へありったけの閃光手榴弾を投下しろだなんて」

 広場全体が閃光に包まれ影はその最大の武器を完全に封じられた。
 何処にも瞬間移動する事が出来ない。
 その一瞬を見逃す武者では無かった。
 武者の一閃が影の体を走る。
 武者は目を閉じたまま、ゆっくりと影の気配が消えていくのを感じていた。
 そして辺りは闇に包まれた。

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