怪談殺し

ダイナソー

鬼と金棒

 六月の第一日曜日、朝日の降り注ぐ公園の中。
 武者の見守る中、明美と闇子の二人が組み手をしていた。
「大事なのは集中する事! 自分が今、どう動くべきかを考えて!」
 闇子の足払いから両腕振り下ろしのコンビネーション。
 明美は攻撃を避け、闇子の顔へジャブを繰り出す。
 闇子もその攻撃を避け、明美の体へ膝蹴りを繰り出す。
 明美はそれもガードする。
 お互いに決定打を与える事も無く、数分が経った。
「じゃあそろそろ、新技を試させてもらうよ!」
 闇子が一瞬で拳を構えた。
 そして常人には視認出来ない程のスピードで、闇子の拳が放たれた。
 明美は直感で脳に全精神を集中させていた。
 明美の周りの時間が鈍化し、闇子の拳が目で捉えられる程度の速度になった。
 明美はその時間の中で防御行動を取ろうとしていた。
 しかし手足にエネルギーを回しても体の反応が追い付かない。
 明美の腹部に拳が迫って来ていた。

 明美の腹部に闇子の拳が当たっていた。
 明美は脳から腹部へとエネルギーを集中させる事で腹部を硬化させ、腹部で拳を受けていた。
 明美はそれでも腹にダメージを感じ、数歩よろめく。
「今のに反応したの!?」
 闇子は驚いていた。
「体は反応しきれてなかったけどね」
 明美は腹部への集中を解いた。
「それより今のパンチは一体?」
 闇子がエヘンと言う。
「凄いでしょ! 私自身にも反応出来ない程の速度だからね!」
 明美も質問を続ける。
「どうやって出すの?」
 武者が二人の会話に割り込んで来る。
「俺も聞きたいぜ」
 闇子は笑顔で答える。
「良いよ!」
 闇子は明美と武者へ説明する。
「体の中に流れるエネルギーを集中させる事で私達は力を引き出してるよね」
 明美は頷く。
「今のパンチはエネルギーを集中させるんじゃなくて、反発させ合う事で出してるんだ」
 明美は闇子に問う。
「反発?」
 闇子は説明を続ける。
「そう。体の中に二つのエネルギーの流れを作り、そのエネルギー同士をぶつける。そうして二つのエネルギーの反発する力が、体に驚異的な速度を生む」

 闇子から一頻りの説明を受けた後、明美は呟く。
「私にも出来るかな?」
 闇子は腕を組み、首を傾げる。
「どうだろーね? 私もこれが出来る様になるのに一年ぐらい掛かったし、明美ちゃんにはまだ難しいかもね」
 明美は腕に意識を集中させる。
「体の中に二つのエネルギーの流れを作り、そのエネルギー同士をぶつける」
 瞬間、明美の腕が消え、空を切った。
 それを見ていた闇子と武者は開いた口が塞がらなかった。
 闇子は興奮して言う。
「凄いよ! 明美ちゃんはやっぱり天才だよ!」
 武者も興奮して言う。
「俺にも! 俺にも出来るかな!」
 武者は腕に意識を集中させる。
「体の中に二つのエネルギーの流れを作り、そのエネルギー同士をぶつける!」
 武者の腕が空を切った。
 普通のパンチだった。

「で、最近学校の方はどうだ?」
 三人は公園のベンチで休憩しながら世間話をしていた。
 明美は答える。
「雷先生が体調不良でもうずっと休んでる。でも三虎ちゃんの方はもうすぐ退院できるって」
 武者は言う。
「雷先生が体調不良なのは俺が切られた翌日からだよな。もしかしたら仮面の女は」
 明美は顔の前で手を左右に振る。
「それは無いと思うよ」
 明美は武者の考えを否定する。
「あの、のんびりやの先生が実は凄腕の要人だなんてありえないって」
 武者は明美の目を見る。
「そうか」
 武者は暫く明美の目を見ていた。
 おもむろに武者は言う。
「じゃあ俺はそろそろ行くわ」
 明美は武者に問う。
「何処に?」
 武者がはにかんで言う。
「ちょっとした話し合いだよ」

 武者を見送った後、公園には明美と闇子だけが残された。
 明美は闇子に言う。
「ちょっとした話し合いってなんだろ?」
 闇子は肩を竦める。
「さあね」
 二人の目が合う。
「で、どうする? 特訓を続ける?」
 そう言いながら拳を構える明美に対し、闇子が首を横に振った。
「いいや、今日はデートをしよう!」

 明美達は公園の近くの店で昼食を食べた後、映画館へ行き映画を観た。
 そして今は映画館の近くのカフェで映画の感想を語り合っていた。
「いやー面白かったね。特に最後のシーンは感動しちゃったよ」
 興奮冷めやらぬ様子の明美を見ながら、闇子は微笑む。
「こういう時間は大切にしないといけないよ」
 明美が言う。
「え?」
 何の事かと明美が聞く前に、闇子は話を続ける。
「私達は怪談と戦い続けなくちゃいけない。それは私達の心を削っていく戦い。だから心休まる今の様な時間は大切にしなくちゃいけない」
 明美には闇子の話がよく分からなかった。
「よく分からないよ」
 闇子は微笑みながら言う。
「その内よく分かる様になるよ」

 明美達が会計を済ませてカフェを出ようとした時、明美のスマートフォンに着信がかかった。
 十金からの着信だ。
 明美は着信に答える。
「はい、明美です」
 十金は言う。
「明美様、怪談が現れました。場所は」

 明美達が東の倉庫群へ駆け付けた時、すでに武者と巨大な鬼が戦っていた。
「おう、闇子達も来たか! こいつ見た目に反して結構早えぞ!」
 明美は辺りを見回しながら言う。
「十金さんは?」
 武者は大きな声で明美に答える。
「三虎と病院!」
 明美の言葉に答えながら、武者は鬼との攻防を続ける。
 武者の刀と鬼の金棒がかち合う。
 武者と鬼はそのまま反動で距離を離す。
 鬼が武者を煽る。
「お前はこのプロムナイトには勝てねえ」
 武者は鬼に答える。
「いや、俺は勝つぜ」
 鬼が叫ぶ。
「踊り死ね!」
 武者も叫ぶ。
「お前がな!」
 再び突進し踊る様に戦う武者と鬼を見ながら、明美は精神統一していた。
(これは確かに難しい。でも私なら出来る)
 闇子は明美に言う。
「明美ちゃん! 何してるの!」
 明美は闇子に答える。
「四秒待って」
 明美は脳にエネルギーを集め、体感時間を鈍化させる。そして残りのエネルギーをさらに二つに分け体の中で反発させる。
 前、後、前、後、体を前後に反発させる。小刻みに瞬間移動する。
「よし」
 直後、明美は消えた。
 明美は鬼の居た場所に出現し、鬼は壁に叩きつけられた。
「後はお願いします」
 突然現れた明美に武者は驚きながらも反応する。
「お、おう!」
 武者は壁に叩きつけられた状態の鬼にとどめを刺した。

 明美はその場にへたり込んでいた。
「これは思ったより消耗が激しいみたい」

 明美の家で明美と武者の二人は夕食を食べていた。
 夕食を食べながら明美は武者に尋ねる。
「武者さんは今日何処に言ってたの? それにどうして十金さんが電話をかけて来たんだろう?」
 武者は意地悪そうに笑っている。そして言う。
「もうすぐ分かるぜ。楽しみに待ってな」

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