怪談殺し

ダイナソー

夢と騎士

 六月も半ばになり、本格的な梅雨がやって来た。
 病院を退院した三虎が学校へまた戻って来た。
 三虎は車椅子に乗っていた。
 明美と闇子は三虎に挨拶する。
「おはよう。三虎ちゃん」
 三虎も二人に挨拶する。
「おはよう。明美、闇子」
 朝のホームルームの前、三人は最近武者が何かを隠している事について話していた。
「あー、それはもう少しだけ待っててほしいの」
 明美は言う。
「やっぱり三虎ちゃんも何か隠してる。私そういうの好きじゃないなー。ね、闇子ちゃん」
 闇子は言う。
「私も知りたいなー。早く教えてほしいなー」
 そう言う三人は嬉しそうに笑っていた。
 また三人で学校に集まれた事が本当に嬉しかった。

 その日の授業は早く終わった。

 雨の降りしきる学校の駐車場で明美達三人はその車を見た。
 竜宮財団と書かれた黒塗りのトラックが其処に停まっていた。
「さあ入って」
 三虎がそう言うとトラックの荷台の扉がゆっくりと開かれた。
 そこは何やらハイテクな空間だった。
 中には十金と二人の男女、そして武者が待っていた。
「何? これ?」
 明美と闇子のが呟いた
 それを聞いた三虎と武者が言う。
「「ようこそ。怪談対策本部へ」」

 二人の男女の一人、眼鏡の男が自己紹介をする。
「初めまして、和也です」
 三虎が補足する。
「和也は凄腕のハッカーなの」
 和也は眼鏡をクイッと上げながら自慢げに言う。
「そう、俺はハッカーだ。一流のな。まあ、此処の機械については俺に任せてくれ」

 続いて残りの一人、メイド服の女が自己紹介をする。
「私も初めましてですね。私は滝といいます」
 三虎が補足する。
「滝は新人メイドなの。でも何でも物覚えがいいのよ」
 滝は恥ずかしそうに言う。
「そんな褒めないでください。私は平凡な人間なんですから」

「町中に監視カメラを搭載したドローンを放ち、それをこのパソコンで監視する。それも俺の仕事の一つだ。あと必要なら人工衛星のハッキングだってするぜ?」
 コンテナの中の機械を不思議そうに眺める明美と闇子に和也が言った。
「じゃあ、この前十金さんが私達に連絡してきたのも」
 明美は十金に尋ねた。
「和也さんからの連絡を受けて、明美様に連絡しました」
 十金の話を聞いて、明美は納得した様に頷く。
「武者さん達はこれを用意してたんだね」
 武者は言う。
「そうだぜ。驚いたか?」
 明美は再び頷く。
「うん」

 明美は滝に尋ねる。
「滝さんは此処で何をしてるんです?」
 滝は答える。
「町中の無線を傍受するのとトラックの運転が私の仕事です。まあ、此処に居る間だけですけど」
 和也が笑いながら口を挟む。
「滝ちゃんが三虎様の世話をしてる間はそれも俺の仕事だ。ほんと人付き合いの荒い雇主だぜ」
 三虎は言う。
「もう一人増員を用意してるから待ってほしいの。そしたら少しは楽になると思うから」

 明美がある物を見つけ、質問する。
「これは?」
 其処には重厚な機関銃が置いてあった。
「俺が三虎に頼んで用意してもらったんだぜ。かっこいいだろ」
そう言う武者は、まるで玩具を自慢する子供の様だった。

「それと、あなた達にもこれを」
 滝が小さな機会を持ってきた。
「小型のインカムです。連絡を取り合うのに便利になればと、先程武者様にも渡しました」
 明美と闇子がインカムを受け取る。闇子は言う。
「へえ、便利だね」
 その時和也が口を開く。
「早速怪しい奴が来なすったぜ。東の倉庫群だ」
 その場の全員が和也のパソコンにケーブルで繋がる、大型モニターの映像を見た。
 映像の中には人と蛙を掛け合わせた様な姿の男が映っていた。
「ただの仮装かもしれないが、一応行ってみるかい?」
 和也が全員に聞く。
「行くの。何かが起きてからじゃ遅いから」
 三虎が答えた。

 滝の運転するトラックが東の倉庫群に着いた。
「え? 明美ちゃん達も行くのか?」
 トラックのコンテナから出ようとする明美達に、和也が声を掛けた。
「多分、今一番強いのは明美だぜ」
 武者の言葉に和也は少し驚きながら。
「人は見かけによらないって事か。俺はドローンの映像からそっちを見てる。何かあればそのインカムに連絡するよ」

 蛙男は歌っていた。
 この場で死んだ鬼の為に。
 明美と闇子、そして武者が蛙男の姿を捉えた。
 気配で分かる。あれは怪談だ。
 武者が唸る。
「いたぜ。怪談」
 闇子が二人を鼓舞する。
「行くよ! 武者さん! 明美ちゃん!」
 三人が蛙男へ迫る。
「まずはこいつを喰らいな!」
 突撃する武者が左手の重機関銃を掃射する。
 蛙男の歌が止んだ。
 瞬間、蛙男は武者の背後へ回り込んでいた。
 明美以外の誰もがそれに反応出来なかった。
 そのまま武者は蛙男に蹴り飛ばされ、倉庫の壁に叩きつけられた。
 蛙男は武者を蹴った反動で明美達から跳び離れる。
 それも闇子には見えていなかった。
 蛙男は明美に語りかける。
「今、僕を見ていたね」
 蛙男は言葉を続ける。
「時間認識者が一人か。厄介だな」
 明美は蛙男に尋ねる。
「時間認識者?」
 蛙男は明美の問いに答えず。 
「だけど久しぶりに戦いを楽しめそうだ」
 蛙男が消えた。
 瞬間、蛙男は闇子に襲い掛かる。
 闇子はまったく反応出来なかった。
 だが、蛙男の拳は闇子までは届かない。
「させない!」
 明美もまたこの瞬間に闇子の前へ移動し、蛙男の拳を受け止めていた。

 直後、闇子の前で常人には認識できない程の、超高速の戦闘が始まった。
 消えたかと思えば現れ、現れたかと思えば消える。
 闇子にはこの戦闘に介入する余地が無かった。

「起きろ。さあ、起きろ」
 誰かが武者を呼び起こそうとしていた。
 武者が目を覚ますと、其処は何もない小さな部屋だった。
 その部屋の中には武者と、武者に呼びかける黄金の騎士が居るだけだった。
「誰だ? お前」
 武者は目の前の騎士に尋ねる。
「起きたな。そして私の名を名乗ろう。私の名はアマデウス。神に愛された者だ」
 武者の問いに答える騎士の声は重く鋭いものだった。

「今は多くを語る事は止そう」
 騎士は武者に語る。
「お前は今、気を失っている」
 武者は騎士に問う。
「じゃあ俺は今、夢の中って事か?」
 そう言う武者に騎士はそうだと言った。
「此処はドリームランド。今はお前の魂だけが此方へ来ている。そしてお前の体は今、大きな脅威に晒されている」
 その言葉を聞いて武者は慌てる。
「そうだ! 俺は気絶なんかしてる様な場合じゃないんだった!」
 騎士は武者を嗜める。
「聞け。今のままお前が出ていっても勝負にならない」
 武者は憤る。
「じゃあどうすれば良いって言うんだ!?」
 騎士は武者に言う。
「聞けと言っているだろう。そうだ。だが私に身体を委ねろ。そうすればお前を勝たせてやる」

 超高速戦闘の中、明美は徐々に自分の体がついていかなくなるのを感じていた。
 刹那、明美の首を蛙男が掴み、そのまま倉庫の壁に叩きつけられた。
「今までよく戦ったが、長くはもたなかったね。動き続けるのも三分が限界と見たよ」
 明美は足掻くが事態は好転しなかった。
 蛙男の手が明美の首をぎりぎりと締め付ける。
「明美ちゃんから手を離せ!」
 闇子が蛙男に跳びかかる。
 蛙男は闇子の首を絞めながらその脚から超高速の蹴りを繰り出し、闇子を蹴り飛ばした。
「僕達、時間認識者と君達とでは見える世界が違う。勝負にもならないよ」
 地面にうずくまる闇子に対し、蛙男は無慈悲に言い放った。
 明美は薄れる意識の中で涙を流した。

「言ってるだろう。君達とでは勝負にならない」
 立ち上がる武者へ向けて蛙男が言った。その手は明美の首を絞めたままだ。
 蛙男は油断していた。
 その一瞬に、蛙男は判断を誤った。
 武者は超高速で蛙男との間合いを詰め、明美の首を絞めるその手を切り落としにかかる。
 蛙男は超高速で迫る一撃に驚き、咄嗟にその手を明美から離した。

「うーん、その娘をそのまま盾にした方が賢かったかな」
 蛙男は突然別人の様に変貌した武者に対して警戒し、これからの対応を図りかねていた。
 武者は明美を守る様にその場で刀を構えている。
「君はその娘を守りたい。僕はこの場を今日は離れたい。OK?」
 武者は蛙男の問いに答えず、蛙男もその場を離れた。

 明美が目を覚ました時、其処は病院のベッドの上だった。
 三虎は言う。
「良かった。目を覚ましたの」
 闇子が明美に話しかける。
「大丈夫? 記憶とかはっきりしてる?」
 明美は近くに置かれていた眼鏡を探し、かけ直しながら言う。
「大丈夫。皆に心配させちゃったみたいだね」
 怪談対策本部のメンバーも明美を心配そうに眺めていた。
 明美は武者の姿を探した。
「あれ? 武者さんは何処?」
 三虎は答える。
「夜風に当たって来るって言ってたの。すぐ戻ってくると思うよ」

 病院の屋上、雨は止み曇天が広がっていた。
「結局お前は何なんだよ」
 屋上からの町の夜景を眺めながら、武者は独り言を言った。
 屋上の空の下、武者の独り言に答える者は居なかった。
「アマデウス。神に愛された者ねえ」
 武者は一人そう言うと、病院の屋内へと戻った。

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