怪談殺し
雨と蛙
海岸の手前。雨の降りしきる南の住宅区で明美と蛙男の戦いは続いていた。
お互いに拳を躱し、蹴りを躱し、超高速で動き続ける。
それはとてもコンパクトな無駄の無い動きの応酬で、一手読み違えた方が負けるであろう、切迫した戦いだった。
だが戦闘技術では明美より蛙男に分が有った。
明美は蛙男の右横腹へのフェイントに反応してしまい、防御する。
しかし防御の上に蛙男の攻撃は重ならず、反対の左横腹へ蛙男の膝蹴りが叩き込まれた。
明美は胃液を嘔吐し、その一瞬に隙を作ってしまった。
二人の動きが止まる。
明美は首を締め上げられた状態で蛙男に宙へ持ち上げられた。
「ほうら。高い高い」
そう言いながら蛙男は明美の首をぎりぎりと締め付ける。
明美の両手が蛙男の両腕を掴むが、蛙男の両腕は全く動かない。
「今度は助けてくれる武者は居ないぞ」
明美は蛙男の言葉を聞きながらも、事態を好転させるべく考えていた。
せめてこの両手から火でも出れば良いのにと明美は思った。
その時、明美は閃いた。
(やってみるしかない)
明美はその両手に精神を集中させる。
なるべく細かく。出来る以上に小さく。
明美は両手の平に分子をイメージする。
そして明美は両手の平の分子のエネルギーを弾き、超高速で振動させた。
超高速で振動する分子は摩擦熱を起こし、摩擦熱は痛みとなって蛙男の両腕を伝わっていく。
「あっ!?」
蛙男はその痛みと、その時鳴り響いた何か巨大な物が崩れ落ちる様な音に驚き、一瞬明美の首を絞める両腕の力を緩めた。
明美はその一瞬を見逃さなかった。
明美は蛙男の両腕を首から思いきり引き剥がし、そのまま蛙男の頭へ超高速の頭突きを放つ。
ふらつき後退する蛙男に対して、明美は拳の連打をを加えながら猛追する。
軽い脳震盪を起こした状態の蛙男には、その拳の連打全てを捌き切る事が出来ない。
何発もの拳を浴びながら蛙男はとうとう海岸の波打ち際まで追い込まれる。
そして明美の会心の一撃が、蛙男を沖合まで弾き飛ばした。
明美は尚も猛追を続けようとした。
しかし脳の限界を迎えたのか、明美はその場に倒れ込んだ。
沖合まで弾き飛ばされた蛙男だったがそれでも尚、致命傷にはならなかった。
蛙男は海上に着水し、海の上を高速で走り始めた。倒れた明美にとどめを刺すために。
だがそれを許さない者が蛙男を追って来ていた。
蛙男は後ろを振り返る。
其処には同じく海上を走る白銀の若武者の姿が在った。
「あの娘の元までどちらが先に着くか競争だ!」
蛙男はそう叫ぶと高速から超高速へ加速した。
武者も超高速へ加速する。だが蛙男に追い付けない。
蛙男は尚も明美へ迫る。
「明美いいいぃぃぃ!」
武者は明美の名を叫びながらその刀を投げた。
超高速の刀が蛙男へ迫る。
しかし蛙男は背中に目でも有るかの様にその刀を避ける。
刀は虚しく空を切り、明美のすぐ傍へ刺さった。
蛙男は体を捩じる様に刀を避け、そのままの体勢から武者の左側面へ回り込み、蹴りを放った。
武者が海岸の東へ弾き飛ばされる。
武者は砂浜で受身を取る。其処へ蛙男の跳び蹴りが飛来する。
武者は何とかそれを避け、立ち上がりながら拳を構える。
間髪入れず蛙男の拳が武者へ迫る。
武者はその拳を捌き、蛙男の頭に素早い一撃を叩き込んだ。
蛙男はそれを気にもせず、武者の顔へ殴り返す。
激しい殴り合いが始まった。
だが的確に打撃を捌く蛙男に対し、何度も蛙男のフェイント攻撃を受ける武者。誰の目にもどちらがこの殴り合いに勝つかは明白だった。
そして遂に武者が片膝を突いた。
蛙男は勝ち誇り、勝利の歌を歌おうとした。
その刹那。
背後から飛来した刀が蛙男の急所を刺し貫いた。
蛙男は血を吐く。
蛙男はゆっくりと両膝を突きながら背後を振り返った。
明美が立ち上がり、右手を此方へ伸ばしていた。そして明美は再び倒れた。
「なぜ僕達は負けた?」
蛙男の問いに武者が答える。
「昔から正義は勝つって決まってるのさ」
「正義……正義ねえ」
武者の言葉に蛙男はククッと笑う。
「何を恰好付けている……君も所詮はあの娘達の輝きに寄せられているだけだろう」
蛙男の言葉に武者は疑問を持つ。
「何を言っている?」
蛙男は武者に言う。
「何も知らないのか……なら九頭龍村へ行くと良い……それが勝者への……せめてもの餞別だ」
武者は蛙男に聞き返す。
「九頭龍村?」
蛙男は血を吐きながら言う。
「僕達は所詮……光へ集まる羽虫に過ぎない」
そう言い残して蛙男は雨の中に消えた。
こうしてこの町から十三怪談は全て消滅した。
お互いに拳を躱し、蹴りを躱し、超高速で動き続ける。
それはとてもコンパクトな無駄の無い動きの応酬で、一手読み違えた方が負けるであろう、切迫した戦いだった。
だが戦闘技術では明美より蛙男に分が有った。
明美は蛙男の右横腹へのフェイントに反応してしまい、防御する。
しかし防御の上に蛙男の攻撃は重ならず、反対の左横腹へ蛙男の膝蹴りが叩き込まれた。
明美は胃液を嘔吐し、その一瞬に隙を作ってしまった。
二人の動きが止まる。
明美は首を締め上げられた状態で蛙男に宙へ持ち上げられた。
「ほうら。高い高い」
そう言いながら蛙男は明美の首をぎりぎりと締め付ける。
明美の両手が蛙男の両腕を掴むが、蛙男の両腕は全く動かない。
「今度は助けてくれる武者は居ないぞ」
明美は蛙男の言葉を聞きながらも、事態を好転させるべく考えていた。
せめてこの両手から火でも出れば良いのにと明美は思った。
その時、明美は閃いた。
(やってみるしかない)
明美はその両手に精神を集中させる。
なるべく細かく。出来る以上に小さく。
明美は両手の平に分子をイメージする。
そして明美は両手の平の分子のエネルギーを弾き、超高速で振動させた。
超高速で振動する分子は摩擦熱を起こし、摩擦熱は痛みとなって蛙男の両腕を伝わっていく。
「あっ!?」
蛙男はその痛みと、その時鳴り響いた何か巨大な物が崩れ落ちる様な音に驚き、一瞬明美の首を絞める両腕の力を緩めた。
明美はその一瞬を見逃さなかった。
明美は蛙男の両腕を首から思いきり引き剥がし、そのまま蛙男の頭へ超高速の頭突きを放つ。
ふらつき後退する蛙男に対して、明美は拳の連打をを加えながら猛追する。
軽い脳震盪を起こした状態の蛙男には、その拳の連打全てを捌き切る事が出来ない。
何発もの拳を浴びながら蛙男はとうとう海岸の波打ち際まで追い込まれる。
そして明美の会心の一撃が、蛙男を沖合まで弾き飛ばした。
明美は尚も猛追を続けようとした。
しかし脳の限界を迎えたのか、明美はその場に倒れ込んだ。
沖合まで弾き飛ばされた蛙男だったがそれでも尚、致命傷にはならなかった。
蛙男は海上に着水し、海の上を高速で走り始めた。倒れた明美にとどめを刺すために。
だがそれを許さない者が蛙男を追って来ていた。
蛙男は後ろを振り返る。
其処には同じく海上を走る白銀の若武者の姿が在った。
「あの娘の元までどちらが先に着くか競争だ!」
蛙男はそう叫ぶと高速から超高速へ加速した。
武者も超高速へ加速する。だが蛙男に追い付けない。
蛙男は尚も明美へ迫る。
「明美いいいぃぃぃ!」
武者は明美の名を叫びながらその刀を投げた。
超高速の刀が蛙男へ迫る。
しかし蛙男は背中に目でも有るかの様にその刀を避ける。
刀は虚しく空を切り、明美のすぐ傍へ刺さった。
蛙男は体を捩じる様に刀を避け、そのままの体勢から武者の左側面へ回り込み、蹴りを放った。
武者が海岸の東へ弾き飛ばされる。
武者は砂浜で受身を取る。其処へ蛙男の跳び蹴りが飛来する。
武者は何とかそれを避け、立ち上がりながら拳を構える。
間髪入れず蛙男の拳が武者へ迫る。
武者はその拳を捌き、蛙男の頭に素早い一撃を叩き込んだ。
蛙男はそれを気にもせず、武者の顔へ殴り返す。
激しい殴り合いが始まった。
だが的確に打撃を捌く蛙男に対し、何度も蛙男のフェイント攻撃を受ける武者。誰の目にもどちらがこの殴り合いに勝つかは明白だった。
そして遂に武者が片膝を突いた。
蛙男は勝ち誇り、勝利の歌を歌おうとした。
その刹那。
背後から飛来した刀が蛙男の急所を刺し貫いた。
蛙男は血を吐く。
蛙男はゆっくりと両膝を突きながら背後を振り返った。
明美が立ち上がり、右手を此方へ伸ばしていた。そして明美は再び倒れた。
「なぜ僕達は負けた?」
蛙男の問いに武者が答える。
「昔から正義は勝つって決まってるのさ」
「正義……正義ねえ」
武者の言葉に蛙男はククッと笑う。
「何を恰好付けている……君も所詮はあの娘達の輝きに寄せられているだけだろう」
蛙男の言葉に武者は疑問を持つ。
「何を言っている?」
蛙男は武者に言う。
「何も知らないのか……なら九頭龍村へ行くと良い……それが勝者への……せめてもの餞別だ」
武者は蛙男に聞き返す。
「九頭龍村?」
蛙男は血を吐きながら言う。
「僕達は所詮……光へ集まる羽虫に過ぎない」
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