怪談殺し

ダイナソー

海と廃村

 八月の夕暮れ。山沿いの道。
 明美達、対策本部のメンバーは九頭龍村を目指してトラックを走らせる。
 蛙男は九頭龍村に向かえと武者に言った。
 しかしその村は今の地図から外された村だった。
 三虎の話によると、その村では一人の狂った男が村人を全て殺害し、そして行方をくらましたのだという。
「今、猫鳴峠を通過しました」
 トラックのコンテナの中にスピーカーから、運転席の滝の連絡が届いた。
 三虎は古い地図を見ながら言った。
「滝の連絡によるともうすぐ九頭龍村に着くはずなの」
 闇子がぐったりとした様子で三虎に尋ねる。
「もうすぐってどれくらい?」
 三虎は闇子に答える。
「1時間なの」
 闇子はため息をつく。
「闇子ちゃん酔った?」
 明美は闇子を心配する。
「もともと乗り物は得意な方じゃないけど……半日も乗り続けてると流石にね」
 その時だった。
 トラックが急に止まり、スピーカーから滝の声が届く。
「道の真ん中に巨大なカブト虫が居座ってます。怪談でしょうか?」

「俺はスターシップトゥルーパーズ。貴様らが要人と怪談殺しか。俺の名を上げる為に死んでもらう。」
 トラックから出て来た明美と武者にカブト虫が名乗った。
 間髪入れず、明美は超高速の一撃をカブト虫に叩き込む。
 だがカブト虫はビクともしない。
「その程度か」
 カブト虫はそう言うと、そのまま明美を弾き飛ばした。
 明美は武者の傍へ着地する。
「武者さん。どうする?」
 明美の問いに武者は答える。
「任せとけ」
 武者はカブト虫の魂の核を感じ取っていた。
 武者はカブト虫の背中へ飛び乗った。
 そして武者はカブト虫の背中の魂の核を一突きした。

 カブト虫が消えていくのを見ながら、明美は武者に聞いた。
「怪談っていうのは十三怪談だけじゃ無かったんだね」
 武者は明美に答える。
「ああ、俺達はあっちの世界に無数に居る」
 明美はある心配をする。
「私達が留守にしてる間、町は大丈夫かな?」
 武者は明美に言う。
「それは大丈夫だと思うぜ」
 尚も心配そうな顔をしている明美に、武者は説明を続ける。
「俺達は明美達の様な存在に引き寄せられるらしい。蛙男が言ってたよ。俺達は光に集まる羽虫だって」

 トラックは山道を抜け、海が見えてきた。
 海の傍には廃村が在った。
「村が見えました。あと十分もすれば到着すると思います」
 スピーカーから滝の声が届いた。
「あと十分……」
 そう反応する闇子は完全にグロッキーだ。
 そんな闇子を尻目に武者が三虎に質問する。
「それで、もうすぐ村に着くが今日はもう日が沈むだろ。寝床はどうするんだ? 全員でトラックに停まるのか? それとも村の建物を借りるのか?」
 三虎は首を横に振る。
「キャンプよ。テントを張るの」

 トラックが村の一際大きな建物の前に着いた時、辺りはすっかり暗くなっていた。
 フィリップは言う。
「僕がテントを張ってますので皆さんは辺りを散策するなり休憩するなりしててください」
 十金はフィリップに聞く。
「大丈夫か? 手伝おうか?」
 フィリップは十金に答える。
「いえ、任せてください。これでも昔はボーイスカウトでしたからね」
 十金はフィリップに言う。
「では任せる。私はお嬢様と一緒に闇子様の介抱をする」
 明美と武者がその会話に参加する。
 まず明美が。
「私達は手始めに其処の一際大きな建物を見てきます」
 続いて武者が。
「ああ、俺も行くぜ」
 明美は武者に言う。
「武者さんは此処で、また新しい敵が来ないか見張っててください」
 一瞬の間を置いて。
「……そうか」
 武者は少ししょんぼりした様に頷いた。

 滝は運転の疲れを取るために休憩すると言い、建物の中を探索するのは明美と和也になった。
 和也は明美を茶化す。
「眼鏡コンビだな」
 明美は和也に答える。
「いいから、行きますよ」
 和也もまた、明美に答える。
「へいへい、行きますよ」
 二人はまず入口の表札と、その近くに貼られた札に注目した。
「此処は村の役場の様だな。この札は?」
 その札には見覚えのある書体で字が書かれていた。
「これ武者さんの肩に貼ってある札と書体が似てる。後で闇子ちゃんに見てもらおう」
 そして二人は村役場の中に入った。

 和也が言う。
「こっちは資料室の様だな。俺の鼻が此処から匂うって言ってるぜ」
 明美が言う。
「じゃあ私はこっちを調べます」
 二人は村役場の中を二時間掛けて調べた。
 明美の成果は無かったが、和也が資料室から二冊の本を見つけてきた。
 それは九頭龍村の年表と、九頭龍村の民話というタイトルの本だった。

 二人が村役場の探索を止めて戻ってくると、其処には大きな二つのテントが張ってあった。
「おかえりなさい」
 フィリップが二人を出迎える。
「明美ちゃん達は此方へ」
 フィリップが右のテントへ明美を案内する。
「男衆は此方へ」
 フィリップが左のテントへ和也を案内する。
「では僕は夕食を作りますので。ごゆっくり」
 そう言ってフィリップは去った。

「闇子ちゃん。もう大丈夫?」
 明美の言葉に闇子は答える。
「うん。もう大丈夫」
 テントの中には闇子と三虎、そして滝が居た。
「思ってたよりもテントの中って広いの」
 三虎は言った。
「うん。そうだね」
 明美は相槌を打つ。そして闇子に向き直る。
「早速で悪いけど闇子ちゃん。見て欲しいものがあるんだ」

 明美は再び、闇子を連れて村役場の入り口に戻ってきた。
 そして明美は闇子にその札を見せた。
「これは確かに怪字の札だね」
 闇子は明美に説明する。
「そしてこの札は怪談避けの札だよ。低級の怪談はこれで寄り付けなくなる」
 闇子は明美に困ったような笑顔を見せた。
「明美ちゃん達が出会ってきた様なのにはあまり効果は無いけどね」
 明美は闇子に聞く。
「それって十三怪談の事?」
 闇子は明美に答える。
「そう。ああいうはっきりした姿を持った怪談にはこの札は効果が無い」
 明美は更に闇子に聞く。
「じゃあ、はっきりした姿を持たない怪談も居るって事?」
 闇子も再び明美に答える。
「うん、そういうのは動物や死体に乗り移って私達を襲いに来る」
 その時だった。
「御飯が出来ましたよー!」
 フィリップの明美達を呼ぶ声がした。

 夕食は即席麺だった。
「たまにはこういうのも悪くないね」
 明美が熱々の麺をフーフー吹きながら言う。
「私は初めての体験なの」
 明美の言葉に三虎が答え。
「私はしょっちゅうだけどね」
 三虎の言葉に闇子が答える。
 そうして対策本部のメンバーが楽しく食事を取っていた時。
「誰か来たぞ」
 トラックの上で見張っていた武者が一つの影を捉えた。

 そのキャンピングカーは明美達の前で止まった。
 キャンピングカーの中から一人の男が降りてきた。
 その男は全身黒ずくめで肌は色白く、この世のものとは思えない程の美青年だった。
 青年は明美達に尋ねる。
「あなた達は?」
 明美は青年に答え、また質問する。
「私達はこの村に探し物を探しに来ました。あなたは?」
 青年も明美の質問に答える。
「僕の名前はニャル。僕もこの村に探し物を見つけに来ました」

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