怪談殺し

ダイナソー

老婆と鎖

 明美と武者が神殿の最奥部に到着した。
 部屋の入り口からすぐ近くには老婆とニャル。中央には雷と、今まさに消えようとする九頭龍の姿が在った。
「近衛……近衛明美」
 九頭龍が明美の名を呼ぶ。
 明美は名を呼ばれたその者を見た。
「頼む……お前が神になってくれ」
 明美には神という事が何の事なのか分からなかった。
「そしてお前の……望む世界を……」
 それだけ言い残すと九頭龍は跡形もなく消え去った。
 それまで九頭龍の方を向いていた雷が、不意に明美達の方へ向き直った。
「アラクニアを倒したみたいだね」
 その顔を見た明美は驚きで言葉が出なかった。
 雷は明美の担任であり、明美は仮面の女の正体が雷である事が頭の中で結びつかなかった。
「ターボ! 私は地図を探します。その間の足止めを頼みます」
 老婆はニヤリと笑う。
 直後、老婆はニャルの鳩尾を殴り、ニャルを気絶させた。
「じゃあ私と遊ぼうか。私も時間認識者だからね。前の二人の様にはいかないよ」
 そう言いながら、老婆は鎖を武器として構える。
「奴等が相手なら手を貸すぞ」
 武者の頭の中で重く鋭い声が響いた。

 雷が部屋の奥へ行き、三人が超高速の戦闘を始める。
 その隙を縫って闇子は気配を消したまま、部屋の中へ入り込む。
 そして闇子は部屋の中の、柱の影へ入り込む。
 闇子は影に潜んだまま、自分の必要となる時が来るのを待った。

 雷は部屋の奥で小さな球体を見つける。
 雷はその球体を手に取る。
 すると球体から、どこか地球のものでない風景が空中に映し出される。
 「これか! これが地図か!」
 雷の体が感激に震えた。

 三人の戦闘は続いていた。
 明美は先程から戦いが続き、あと一分が超高速行動の限界。武者も三分が限界というところだ。
 明美は早期決着を狙いたいが老婆の振り回す鎖に阻まれ、なかなか近寄る事が出来ない。それは武者も同様だ。
 明美が打って出る。明美は超高速で腕を回して旋風を発生させ、老婆の鎖を吹き飛ばしにかかる。
 だが明美は驚愕した。鎖は旋風に吹き飛ばされるどころか、変則的な軌道で明美に迫ってくる。
 そして明美が驚いている隙に、鎖が明美の全身に絡みついた。
 明美は何とか鎖を引きちぎろうとするが、硬い。鎖はただの金属とは思えない程硬く、明美が全力で引きちぎろうとしてもそれは無駄な努力だった。
 武者は老婆が明美へと注意を向けた一瞬の隙をつき、老婆に切りかかる。
 しかし老婆は武者の攻撃を読んでいたかのように避け、武者を蹴り飛ばす。
 着地した武者に老婆は鎖に絡みつかれた明美ごと鎖を武者に叩きつける。
 武者は明美を守るために刀で受ける事も避ける事もせず、鎖ごと明美を受け止めた。
 武者と老婆の動きが止まる。お互いに鎖を掴みその場で踏ん張る。
 だが武者は冷静ながらも、その鎖の動きに驚いた。
 鎖がまるで意思を持っているかの様に左手に絡みついてくる。
 老婆は得意げに武者に説明する。
「こいつはただの鎖と違ってね。怪談が憑依し、意思を持っている」
 鎖はもう武者の左肩まで絡みついていた。
 老婆は勝利を確信し、確実に勝利するために意識を目の前の二人に集中させた。
 その時だった。
 闇子が老婆の背後の柱から飛び出し、老婆の後頭部へ殴りかかった。
 老婆は目の前の二人に意識を集中させていたために反応が一瞬遅れ、間一髪で闇子の攻撃を右手で防御する。
 だが老婆は焦り、その防御した右手から鎖を離してしまった。
 武者はその一瞬を見逃さなかった。
 武者はその両腕で力の限り鎖を引っ張る。
 老婆は片手で鎖を引っ張り続けることが出来ず、遂に鎖を手放してしまった。
 そして武者は引っ張った鎖の魂の核を感じ取っていた。
 鎖が武者を縛り上げようと、武者へ迫る。
 武者は迫る鎖の一点を刀で突いた。

 老婆は防御した闇子の拳をそのまま掴み、闇子を投げ飛ばした。
 そして老婆は明美達に向き直る。
 老婆の視線の先には塵になって消えていく鎖と、鎖から解放された明美達の姿があった。
「もう鎖は使えねえぜ」
 武者の言葉を聞き、老婆は素直に次の手を考える。
「さて、次はどうするか」
 老婆は拳を構える。
 直後、部屋の奥から爆音が鳴り響いた。

 明美達が爆音のした方向を見ると、部屋の奥の壁が吹き飛んでいた。
 雷が爆弾で神殿の壁に穴を空けたのだ。
「ターボ! 最低限の目的は達成しました。今日はおいとましましょう」
 雷の言葉に老婆は頷く。
 老婆が頷いたのを確認すると雷は超高速で逃げ出した。
「そう言う事だ。今日は失礼させてもらうよ」
 そう言うと老婆は閃光手榴弾の栓を抜き、それをその場に残して超高速で逃げ出した。
 そして辺りに閃光と爆音が駆け巡った。

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