怪談殺し

ダイナソー

新学期と体育教師

 九月。新学期が始まった。
 新学期の二日目。明美達は早速二つの暗いニュースを聞かされる事になった。
 一つは元担任の雷の体調がさらに悪くなり、教員を止める事になった事。
 勿論これは雷の嘘であろうと明美は考えていた。
 そしてもう一つのニュースは、体育教師の治が今朝自殺した事。
 当時受け持っていた生徒を見殺しにしてしまった事を後悔し続けていたと、彼の遺書には書かれていたらしい。
 明美は治の事は別に好きでもなかったが、また一人の人間が怪談の起こした事件の為に死んだという事実にショックを受けていた。

 夕方。その日の帰り道。明美、三虎と十金、闇子の四人はこの町の怪談について話し合っていた。
「この町の主な怪談、十三怪談はもういないの。今も和也達に見張らせてるけど、しばらくはこの町も平和だと思うの」
 三虎の言葉に明美が首を捻る。
「どうだろう? 怪談達はいつでも要人を狙って現れる可能性があるし、それにあの忍者もいつ私達を襲ってくるか分からない」
 明美に同意する様に闇子が頷き、質問を返す。
「そうだね。で、その忍者は自分の事を要人六人衆の頭目って言ってたんだよね?という事は少なくとも仲間の要人が五人は居るって事かな? 私と明美ちゃん、雷先生と蛙男を足せばちょうど十人だ」
 十金も話に加わる。
「九頭竜村の民話に出てくる要人の数と一致しますね」
 そこまで話したところで四人は交差点へ辿り着いた。
「私の家はこっちだけど、大丈夫? 何かあった時の為に私も皆についていこうか?」
 闇子が首を横に振る。
「いや、いいよ。結局家に居ても襲われる時は襲われるからね。それに毎日四六時中気を張ってたんじゃ身が持たないよ」
 明美はまだ心配そうな目で闇子達を見ている。
 闇子は明美を必要以上に心配させない様に明るい声で話す。
「本当に不味い事になりそうなら、その時には連絡するよ。だからあまり心配しないで」

 明美と三人は交差点で分かれる。
 三人はしばらく歩いていると北の公園の前に差し掛かった。
 口裂け女の事件以来、あまり人の寄り添わなくなった公園で、人影は疎らだ。
「あれ? あの子は確か治先生の」
 三虎は気付く。公園のベンチに一人で腰掛ける、その小学校低学年程の少女は治の娘だ。
 少女は三虎と目が合うと、腰を上げて三人に近づいてきた。
「こんにちは。花子ちゃん」
 三虎が軽くお辞儀をした。
「こんにちは。三虎お姉ちゃん」
 すると花子も三虎にお辞儀を返した。
「花子ちゃんは家にはまだ帰らないの?」
 花子はその視線を落とす。
「パパの居ない家なんか帰りたくない」
 三虎は咄嗟に先程の発言を謝る。
「御免なさい。でもきっとママも今頃心配してるの」
 花子は顔を上げる。
「ママも心配してるのかな?」
 三虎は頷く。
「うん、そう思うの。だから私達が花子ちゃんを家まで送るの。帰る方角も同じだしね」

 三虎達は花子を加え、花子の家の近くまでやって来ていた。
 三人は花子になるべく暗い顔をさせまいと、極力明るい話を振り続けた。
 この少女は今、深く傷ついている。だからこれ以上悲しい思いはしてほしくないし、そんな彼女を母親はとても心配しているだろうと三虎は考えていた。
「もうすぐ家なの。そしたら」
 花子が元気そうな声で三虎に言葉を被せる。
「そしたらまた会った時にお話の続きをしてね」
 三虎は花子に笑顔で返す。
「約束なの」
 その時だった。
 一人の女性の悲鳴が四人の耳にも届いた。
「十金さんは三虎ちゃんと花子ちゃんをお願いします」
 そう言って闇子は勢いよく走り出した。

 女性の悲鳴の聞こえた家の前に闇子が辿り着いた。
「大丈夫ですか!入っても大丈夫ですか!」
 だが返事は無い。
 しかし闇子はある事に気付いた。扉の鍵が掛かっていない。
「入りますよ!入りますからね!」
 そう言って闇子は家の中へ突入した。

 闇子はゴッゴッと音の鳴る方へ進む。
 そしてキッチンで闇子が見たのは、物言わぬ屍と化した女と、その上に跨り死体を殴り続ける治の姿だった。
 治はゆっくりと立ち上がるが、その姿は異様だ。
 死に装束で目は何処を見ているか定かでなく、動きもぎこちない。
「低級の怪談が取りついているのか」
 闇子は拳を構え、じりじりと後退する。
 低級の怪談が人間の死体に取りついたものとはいえ、捕まればどうなるかは想像に難しくない。
 勿論闇子はこの手の怪談を相手にするのも手馴れている。
 死体が闇子を追って跳びかかってきたところでその隙を突き、カウンターを入れて倒すというのが闇子の算段だった。
 だがその時だった。
 何かが闇子の急所を貫いた。
 闇子が振り返ると、其処には黒装束の忍者が居た。
 忍者の刀が闇子の体を貫いていた。
「怪談を呼び出せばお前達はノコノコ出て来ると思っていたが、出来損ないの方が来たか」
 言い終わると忍者は刀を抜き、闇子から距離を離した。
「お前の力などに興味は無いが、邪魔な要人と武者の怪談を殺す様に指令を受けたのでな」
 忍者は刀の血を払いながら話し続ける。
「あとは其処の怪談に殺してもらうと良い」
 忍者はそう言い残して家の入口にに火を点けるとその場を去った。

 既に家中に火が回っていた。
 闇子は自分の体を確認する余裕も無かったが、それでも自分が致命傷を負っている事はよく分かった。
 闇子は膝を突き、それを合図にするかの様に、今までにらみ合っていた死体が闇子に跳びかかる。
 だが闇子は最後の力を振り絞り、死体への見事なカウンターを決めた。
 死体は弧を描く様に吹き飛ぶと、炎の中に消えた。
 しかしそこで闇子の中の決定的な何かが切れた。
 闇子は仰向けに倒れ、息も荒い。
 体の熱は冷めていき、視界も定まらなかった。
 それでも闇子は何とかスマートフォンを取り出すと、明美へ最後の送信をした。
「はい。近衛です」
 明美が電話を取ってくれた。
「ごめん……私……先に逝くね……」
 明美は只事で無いことを察した。
「闇子ちゃん! 何があったの!?」
 闇子は震える拳を握りしめ、最後の気力を振り絞る。
「忍者に……気を付けて……奴らは……要人と武者を狙っている……」
 とうとう闇子の視界は完全に真っ暗になった。
「闇子ちゃん! これ以上喋らないで。すぐに行くから。だから死なないで」
 電話越しの明美の声は今にも泣きだしそうなものだった。
 闇子はなるべく明るい声を作ろうとしたがそれは出来なかった。代わりに闇子は顔も見えない明美へ笑顔を作ってみせた。
「私はもう死ぬよ……だから……あとは……たの……」

 何処でもない何処か。
 此処は何処だろうと、そう考えながら、闇子は自分が別の何かに変わっていくのを感じていた。
 そして闇子の意識は途絶えた。

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