怪談殺し

ダイナソー

部屋と記憶

 武者が明美達の元へ駆け付けたのは、全てが終わった後だった。
「明美! 大丈夫か! そいつは?」
 明美の抱き着くその白い少女は、どこか闇子に似ていた。
「闇子? いや、そんなわけないか」
 明美も武者に気付いた。
「武者さん! 私と闇子ちゃんで、もう終わらせちゃったよ」
 武者はもう一度、闇子と呼ばれた少女を見る。
 だがやはりその少女は闇子とは似ているようで別人だった。

 対策本部に明美達が戻って来た。
「明美。その娘は誰なの?」
 対策本部の仲間達が一斉にその少女の方を見た。
「ワタシハヤミコ」
 その名前を聞いて、三虎は嫌悪感を露わにする。
「私も許せるジョークと許せないジョークがあるの。何処の誰だか知らないけど闇子を名乗らないで欲しいの」
 明美がヤミコを庇う様に、三虎に異議を唱える。
「ジョークなんかじゃないよ! それにどこからどう見ても闇子ちゃんじゃない。そんな事言ったら闇子ちゃんが可哀そうだよ」
 明美は本気で三虎に怒っていた。その様子を見て三虎は、明美が本気でこの少女を闇子として認識しているのだと察した。
「明美。私が悪かったの。ヤミコは闇子なの」

「さっき駆け付けた所にこんなバッチが落ちてたんだが」
 武者が三虎達に小さな金色のバッチを見せる。
「これは……何のバッチだろう? 後で私達の方で調べておくの」
 三虎は武者からバッチを受け取る。
 明美が武者達を急かす。
「武者さん! 闇子ちゃんが家に帰りたいって言ってる。それと私達にも来て欲しいって」
 武者の手を掴む明美の姿が、三虎にはどこか前より幼く見えた。

 夕日も沈んだ頃。闇子の住むアパート。
 明美とヤミコ、武者の三人で此処に来ていた。
「ドウヤッテハイロウ?」
 闇子の部屋のドアの前でヤミコは困っていた。
「もしかして鍵が無いのかな?」
 明美が困った様子のヤミコの顔を見る。
「駄目じゃない、鍵を無くしたら。でも良かったね。私が合い鍵を貰ってるから部屋に入れるよ」

 闇子の部屋の中。
 まだ闇子の部屋の中の荷物は取り払われてはおらず、しかしそれでもあまり物の無い質素な部屋だった。
「ニッキヲイッショニサガシテホシイ」
 ヤミコが、そう明美と武者に頼み込む。
「日記か。困ったな」
 明美は頭を搔く。
 明美も何度も闇子の部屋には入っているが、闇子の日記が何処に有るかは知らない。
 だが闇子の日記はすぐに机の傍の棚の中から見つかった。
「アッタ!」
 武者の見つけたその日記を受け取ると、ヤミコは跳んで喜んだ。
「アリガトウ」
 ヤミコは武者に頭を下げてお礼を言うと、黙々と日記を読み始めた。

「ソウカ……ワタシハ……私ワ……私は……」
 二時間程掛けてヤミコは日記を読み終わり、納得したように何度も頷いた。
「明美ちゃん今日はありがとう。家まで送るよ」
 明美は首を横に振る。
「大丈夫だよ。武者さんが居るし、此処は闇子ちゃんの家なんだから、私を家まで送って帰ったら面倒でしょ?」
 それでも明美を送っていきたいとヤミコは言い、そこまで言ってくれるならと、明美はそれを了承した。

 明美の家の前まで三人はやって来た。
「明美ちゃんは先に家に戻っててほしいんだ。私は武者さんと二人で話があるから」
 ヤミコの言葉に明美は頷く。
「分かったよ。じゃあ、バイバイ闇子ちゃん」
 明美は笑顔でヤミコに手を振る。
「うん。バイバイ明美ちゃん」
 ヤミコも笑顔で明美に手を振る。
 そして二人を家の前に残して、明美はドアをゆっくりと閉めた。

 明美がドアを閉めて少しの間を置いて、ヤミコは武者に語りだした。
「私は死んだんだね。いや、厳密には私じゃないのかもしれないけれど」
 武者もヤミコの言葉に同意する。
「ああ、闇子って人間は死んだ」
 ヤミコは己の手の平を見る。
「そして闇子の記憶を持った私が生まれた」
 ヤミコの手の平の上で雪が舞う。
「雪女? の怪談としてね」
 武者はヤミコに質問する。
「お前はどの程度まで闇子の記憶を持っているんだ?」
 ヤミコは武者に困った様に笑う。
「実は最初は私自身の少しの記憶と、明美ちゃんと三虎ちゃんの記憶しか無かった。明美ちゃんより先に武者さんに会ってたら、私は武者さんに襲い掛かっていたかもね」
 武者は肩を竦める。
「お前と戦うなんて簡便してくれ」
 ヤミコもそれに同意する。
「そうだね。じゃあ話を戻そう。私の記憶は酷く曖昧なものだったけど、闇子が残してくれた詳細な日記のお蔭で私は闇子としての大体の記憶を取り戻した。でも日記の中に明美ちゃんがあんなになってるとは書いてなかった。きっと闇子が死んだ事が原因で、明美ちゃんはああなってしまったんだね?」
 武者はヤミコの言葉に頷き、また新たな質問をする。
「ああ、明美がおかしくなったのは闇子が死んだ事が原因だ。それと、また質問させてくれ。お前は闇子の生まれ変わりという事で良いのか?」
 ヤミコはまた武者に困った様に笑う。
「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。でもどちらにしろ私は私であって闇子じゃない。全くの別人なんだろう……でも私は明美ちゃんの前では明美ちゃんの望む私でありたい。明美ちゃんがまた元に戻るまで」
 武者は三度ヤミコに質問する。
「また明美がいつか元に戻ると思うか?」
 ヤミコが確信した様に頷く。
「戻るよ。あの娘は強い子だからね」

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