怪談殺し
寝室と約束
竜宮院家の屋敷の中。
明美達は屋敷の中で武者達の帰りを待っていた。
「ねえママ、花子ちゃんも寝ちゃったしつまんないよ」
客室のソファの上で、明美はヤミコの膝枕に頭を乗せてウトウトしている。花子は既に寝室のベッドの上だ。
「明美ちゃんもそろそろ寝た方が良いよ。武者さん達がいつ戻って来るかも分からないし」
明美は体を起こし、首を横に振る。
「やだ。パパ達が帰って来るまで起きてる」
そこへニャルが携帯電話をポケットに戻しながら、明美とヤミコの元へやって来た。
「武者さんが帰ってきました。今から屋敷を降ろしますね」
竜宮院家の屋敷の前。
「何度見ても凄いな。あいつの能力は」
空高く競り上がった土の塔を見ながら、武者は一人で土の塔が降りてくるのを眺めていた。
こうも高い塔が相手では、この辺りで潜んでいる忍者も迂闊に手出しは出来なかったのだろう。
百メートル以内に敵の気配は感じないが、屋敷の降りた時を狙って敵が奇襲を掛けてくる可能性は十分にある。武者ならそうする。
土の塔はみるみる内に地面の中へと潜って行き、そして遂に土の塔の天辺の屋敷が武者の前に姿を現した。
直後、屋敷の扉が開き、中から明美が走って出て来た。
「お帰りなさい! パパ!」
嬉しそうな顔を向ける明美に対し、武者は怒りの顔を向ける。
「出てくるんじゃない! 馬鹿!」
二人を目掛けて超高速で接近する影アリ! 桃色装束の女忍者だ。
武者だけでなく、明美もその忍者に気づき、その目は忍者を追う。だが今の明美はその襲撃者に対してどの様に行動すれば良いのか分からない。ただただ恐怖が明美の体を包む。
あまりの恐怖によって、明美はその場で動けなくなってしまった。
忍者が明美と武者へそれぞれ手裏剣を投擲する。
武者は自分へ向けて飛んで来た手裏剣を避け、そのまま明美の前に飛び出ると明美へ向けて飛んで来る手裏剣を刀で弾く。
忍者は構わず、武者へ向けて突撃する。その手に持つ刀がギラリと光る。
武者は刀を高く掲げ、正面からその突撃を迎え撃つ。
刹那、武者が刀を振り下ろし、忍者がその場に崩れ落ちた。
武者は咄嗟に明美の方へ振り向く。明美は何処もケガなどしておらず、無事な様だ。
「明美……」
武者は続けて何か言おうとしたが。
明美は緊張の糸が切れたのかその場にへたり込み、失禁し、泣き出してしまった。
「明美ちゃん!」
其処へようやくヤミコとニャルが追い付き、二人は明美を泣き止まそうとするのと共に、武者へ状況の説明を求める。
「例の忍者の残りが出て来たから、俺が叩き切った。そんな事より、明美が勝手に外に出たりしないよう見張っていてくれと頼んだよな!」
語気を荒げる武者に対し、二人は何度も謝った。明美はまだ泣き続けている。
「パパ……怖い……」
明美が泣きながらそう言ったのを聞き、武者もなんとか怒りを沈め、明美を心配させない様に優しげな口調で明美に語る。
「明美……もう怖い奴は居ない。もう俺も怒ってない。だから明美も何も怖がる事は無いんだ」
その言葉を聞いても明美は怯えるのを止めず、その体が痙攣を始める。
「何かとても嫌な事を思い出しそうで……怖い、怖い、怖い、怖い、怖い!」
明美の体の痙攣は一層強まり、遂にその場に倒れ込んでしまう。
「明美! 誰か! どうすれば良い!」
武者達の慌てふためく声を聞きながら、明美の意識はゆっくりと遠のいていった。
次の日の朝。
明美は屋敷の寝室に有るベッドの上で目を覚ました。
「明美ちゃん、目が覚めたのね。もう大丈夫?」
ベッドの直ぐ側にはヤミコが居た。
「ママ、眼鏡は?」
ヤミコは明美の問いに答える。
「眼鏡はベッドの上だよ」
明美は眼鏡を掛け直し、更にヤミコへ質問する。
「もう大丈夫? ってどういう事?」
ヤミコが尋ねる所によると、明美は武者の帰りを待っていた時までの事しか覚えておらず、記憶がすっぽりと抜け落ちている様だ。
「明美ちゃんは昨日倒れちゃって……それで私達、皆心配してたんだよ」
明美はその説明を聞きながら、自分の着ている服が昨日のものと変わっている事に気付いた。
「服が変わってる」
明美の言葉にヤミコは少し顔を赤らめて目をそらす。
「ああうん、昨日ちょっと服が汚れちゃったから、勝手に着替えさせてもらったよ」
明美は目をそらしたままのヤミコへ切り出す。
「私が倒れたときに何があったの?」
明美の言葉にヤミコの表情が曇る。
「……」
何も言わないヤミコに対し、明美は言葉を続ける。
「それにパパやママは私に何か隠してる。それも教えて」
明美の真剣な表情に対し、ヤミコもこれ以上黙ってはいられないだろうと考える。だが心の壊れた少女に現実をそのまま突きつけるべきでは無いだろうとも、ヤミコは考えていた。しかしそれでも、本人が望むのならば。
「駄目だ」
武者が部屋に入って来るなりそう言った。
「武者さん……でもいつかは乗り越えないといけない事なんだよ」
武者は首を横に振る。
「まだ早い、まだ明美の心は現実を受け止めきれない」
明美は言い争う武者とヤミコの二人に割って入る。
「パパ! 私は知りたいの」
武者は明美を諭す様に、優しい口調で明美に言う。
「いずれは知る時が来るだろう。でもまだ明美は心の準備が出来てないんだ。その時が来れば明美に話すと約束するから、だから分かってくれないか」
明美は納得しきれない様子だったが、渋々武者の頼みを受け入れた。
「約束だからね。パパ」
武者は明美に、明美が武者の頼みを受け入れてくれた事に礼を言いながら、明美と約束した。
明美達は屋敷の中で武者達の帰りを待っていた。
「ねえママ、花子ちゃんも寝ちゃったしつまんないよ」
客室のソファの上で、明美はヤミコの膝枕に頭を乗せてウトウトしている。花子は既に寝室のベッドの上だ。
「明美ちゃんもそろそろ寝た方が良いよ。武者さん達がいつ戻って来るかも分からないし」
明美は体を起こし、首を横に振る。
「やだ。パパ達が帰って来るまで起きてる」
そこへニャルが携帯電話をポケットに戻しながら、明美とヤミコの元へやって来た。
「武者さんが帰ってきました。今から屋敷を降ろしますね」
竜宮院家の屋敷の前。
「何度見ても凄いな。あいつの能力は」
空高く競り上がった土の塔を見ながら、武者は一人で土の塔が降りてくるのを眺めていた。
こうも高い塔が相手では、この辺りで潜んでいる忍者も迂闊に手出しは出来なかったのだろう。
百メートル以内に敵の気配は感じないが、屋敷の降りた時を狙って敵が奇襲を掛けてくる可能性は十分にある。武者ならそうする。
土の塔はみるみる内に地面の中へと潜って行き、そして遂に土の塔の天辺の屋敷が武者の前に姿を現した。
直後、屋敷の扉が開き、中から明美が走って出て来た。
「お帰りなさい! パパ!」
嬉しそうな顔を向ける明美に対し、武者は怒りの顔を向ける。
「出てくるんじゃない! 馬鹿!」
二人を目掛けて超高速で接近する影アリ! 桃色装束の女忍者だ。
武者だけでなく、明美もその忍者に気づき、その目は忍者を追う。だが今の明美はその襲撃者に対してどの様に行動すれば良いのか分からない。ただただ恐怖が明美の体を包む。
あまりの恐怖によって、明美はその場で動けなくなってしまった。
忍者が明美と武者へそれぞれ手裏剣を投擲する。
武者は自分へ向けて飛んで来た手裏剣を避け、そのまま明美の前に飛び出ると明美へ向けて飛んで来る手裏剣を刀で弾く。
忍者は構わず、武者へ向けて突撃する。その手に持つ刀がギラリと光る。
武者は刀を高く掲げ、正面からその突撃を迎え撃つ。
刹那、武者が刀を振り下ろし、忍者がその場に崩れ落ちた。
武者は咄嗟に明美の方へ振り向く。明美は何処もケガなどしておらず、無事な様だ。
「明美……」
武者は続けて何か言おうとしたが。
明美は緊張の糸が切れたのかその場にへたり込み、失禁し、泣き出してしまった。
「明美ちゃん!」
其処へようやくヤミコとニャルが追い付き、二人は明美を泣き止まそうとするのと共に、武者へ状況の説明を求める。
「例の忍者の残りが出て来たから、俺が叩き切った。そんな事より、明美が勝手に外に出たりしないよう見張っていてくれと頼んだよな!」
語気を荒げる武者に対し、二人は何度も謝った。明美はまだ泣き続けている。
「パパ……怖い……」
明美が泣きながらそう言ったのを聞き、武者もなんとか怒りを沈め、明美を心配させない様に優しげな口調で明美に語る。
「明美……もう怖い奴は居ない。もう俺も怒ってない。だから明美も何も怖がる事は無いんだ」
その言葉を聞いても明美は怯えるのを止めず、その体が痙攣を始める。
「何かとても嫌な事を思い出しそうで……怖い、怖い、怖い、怖い、怖い!」
明美の体の痙攣は一層強まり、遂にその場に倒れ込んでしまう。
「明美! 誰か! どうすれば良い!」
武者達の慌てふためく声を聞きながら、明美の意識はゆっくりと遠のいていった。
次の日の朝。
明美は屋敷の寝室に有るベッドの上で目を覚ました。
「明美ちゃん、目が覚めたのね。もう大丈夫?」
ベッドの直ぐ側にはヤミコが居た。
「ママ、眼鏡は?」
ヤミコは明美の問いに答える。
「眼鏡はベッドの上だよ」
明美は眼鏡を掛け直し、更にヤミコへ質問する。
「もう大丈夫? ってどういう事?」
ヤミコが尋ねる所によると、明美は武者の帰りを待っていた時までの事しか覚えておらず、記憶がすっぽりと抜け落ちている様だ。
「明美ちゃんは昨日倒れちゃって……それで私達、皆心配してたんだよ」
明美はその説明を聞きながら、自分の着ている服が昨日のものと変わっている事に気付いた。
「服が変わってる」
明美の言葉にヤミコは少し顔を赤らめて目をそらす。
「ああうん、昨日ちょっと服が汚れちゃったから、勝手に着替えさせてもらったよ」
明美は目をそらしたままのヤミコへ切り出す。
「私が倒れたときに何があったの?」
明美の言葉にヤミコの表情が曇る。
「……」
何も言わないヤミコに対し、明美は言葉を続ける。
「それにパパやママは私に何か隠してる。それも教えて」
明美の真剣な表情に対し、ヤミコもこれ以上黙ってはいられないだろうと考える。だが心の壊れた少女に現実をそのまま突きつけるべきでは無いだろうとも、ヤミコは考えていた。しかしそれでも、本人が望むのならば。
「駄目だ」
武者が部屋に入って来るなりそう言った。
「武者さん……でもいつかは乗り越えないといけない事なんだよ」
武者は首を横に振る。
「まだ早い、まだ明美の心は現実を受け止めきれない」
明美は言い争う武者とヤミコの二人に割って入る。
「パパ! 私は知りたいの」
武者は明美を諭す様に、優しい口調で明美に言う。
「いずれは知る時が来るだろう。でもまだ明美は心の準備が出来てないんだ。その時が来れば明美に話すと約束するから、だから分かってくれないか」
明美は納得しきれない様子だったが、渋々武者の頼みを受け入れた。
「約束だからね。パパ」
武者は明美に、明美が武者の頼みを受け入れてくれた事に礼を言いながら、明美と約束した。
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